とある六位の無限重力<ブラックホール>   作:Lark

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最近、タイトルにする言葉の選別が適当になりつつありますが、お気になさらずお読みください。


神色自若

 

 

 

 

 

 10時45分

 

(ええと、何がなかったかなぁ……)

 

 只今、御坂美影はスーパーマーケットで絶賛買い出し中だ。

 なぜ、このような所にいるかというろ、本日、朝からセールを開催するというわけで足を運ばせたというわけだ。

 セールといいこともあり、普段、金銭面で悩まされる学生も多く見られる。

 本来、美影は金には困っていない。毎月、他の学生の何倍もの奨学金を支給されている。

 だが、夏休みになって一方通行や土御門の家電製品の購入や能力者狩りの情報収集に大金を叩はたいてしまったため、他事に極力金を使いたくないという強迫観念に襲われた、というのは全くの嘘で、本当は休みということもあるので街中で交わされる挨拶が「こんにちは」になる時間まで睡眠を続けるつもりであったのだがなぜか9時ぐらいに目が覚め、二度寝も実行できないほど目と頭が冴えてしまったため、適当に朝食でもとろうとしたが冷蔵庫の中にはほとんど食材が蓄えられていなかったために例に従って朝食を摂らずに朝から食材調達に出かけたというわけだ。

 

 自炊を基本とする美影にとって空の冷蔵庫は今後にも差し支える。

 外食は一方通行等に誘われない限り選択肢にはない。

 夏ということもあり直射日光がオーブントースター内の食パンの気持ちになりかける昼に出かけるのは地獄だ。

 そして偶然近くの食品販売店で割引セールが行われていた。

 故に朝に買い物に行かないわけにはいかない。

 

 買い物かごに入れられたものの品目は豊富だ。

 彼は一度に大量に買い込むため調達の周期は長い。だからこそ最後に調達した日にちを忘れ、本日のように気づいたら冷蔵庫の中は空になっている、なんて事態になってしまう。

 

 

(あと……卵か、)

 

 美影が求める食材は卵のみ。

 この店は偶に来るため卵売り場の位置は頭に入っているから迷わず歩む。

 

(あったあった、)

 

 卵が見えてくると残っているのはあと二パック。

 セールで卵は半額以下になっていたため開店してから早期購入した者が多いのだろう。

 残り少ないと何となく運がいいと感じながら二つのうち、片方に手を伸ばすと、もう片方にちょうど同時に手をつける者がいた。

 それぞれ入手できたため、口論にはならないが何となく隣に来た者を見ると、その人物は美影も良く知る人物だった。

 

「お、上条じゃん」

 

「……エ?」

 

 ツンツン頭の同い年、世界一と言っても過言ではないほどの不幸少年、上条当麻が買い物かご片手に立っていた。

 しかし、

 

「え、え~と…………どちら様でしょうか……?」

 

「………………は?」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 10時30分

 

 常盤台中学には寮が二つある。

 第七学区南西端に存在する、5つのお嬢様学校が作る共用地帯、学舎(まなびや)(その)の内と外に一つずつ存在している。

 同然ながらどちらも女子寮だ。

 その外にある女子寮に超能力者、序列第三位、超電磁砲が異名の中学二年生、御坂美琴は入寮している。

 

 お嬢様学校ということもあり、気品にあふれた行動に慎むよう教育されているが、現在はとある事情により、寮内は少々慌しくなっている。

 どちらにせよ、通常の中学校とは違う、特異の雰囲気をかもし出しているのだが。

 

 

「お姉様、折り入って相談がありますの」

 

 御坂美琴は良く知る後輩に声をかけられた。

 

「どうしたのよ、黒子」

 

 突然の白井の申し出に美琴は首を傾げる。

 彼女はなるべく控えめにいた手に出ながら、

 

「お兄様の住所を教えて欲しいですの」

 

「美影の? 何で?」

 

「実は、お兄様から風紀委員の腕章を返却してもらっていないので、固法先輩から返してもらうように言われましたの」

 

 本来は風紀委員実習の最終日に返す予定であったのだが、美影が六日目で中止するよう指示したため、予定通りにいかなかったのだ。

 白井は事情を知らないが、なぜか最終日は行われなかったからこそ都合よく『ビッグスパイダー』の件に身を置くことができたのだが。

 彼らに限ってはないだろうが腕章を乱用されては一大事だ。

 早期回収が望ましい。

 

「かといってお兄様の手を煩わせるわけにもいきませんので、このように、」

 

 本当は別の目的で美影の家に興味があるのだがそれは目の前にいる者には決して教えられない。

 そのためこうして律儀に事を運ぼうとしている。

 

「いいわよ。わたしの仕事は終わったし、久しぶりに美影の家にも行ってみたいからね」

 

 美琴は暇つぶしができたので、快く承知した。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 10時55分

 

 

「記憶喪失、ね……」

 

「ああ。詳しくは言えないがさっき言ったとおりに夏休み中にちょっとした事件に巻き込まれたせいで記憶を一部失っちまったんだよ。だから本当に失礼だが、御坂のことは覚えていないんだよ……」

 

 こころから申し訳なさそうに言う上条。

 先ほど、違和感を感じた美影が色々と鎌をかけたところ、上条はしどろもどろに当たり障りのないような返事しかできなかったため、見事に見破られてしまったため、彼はこうして事情を話しているのだ。

 

「いや、いいよそんなに気を遣わなくても。聞いたところ上条は被害者みたいなもんなんだろ? むしろ、俺に力になれることがあれば何でも言ってくれよ」

 

「……お前、いいやつなんだな」

 

 半ば感動して男泣きしそうな上条を何とかフォローし、二人は連絡先を交換して別れることになった。

 スーパーのビニール袋片手に美影は、

 

(……七月二十八日、)

 

 顔の一部に力を入れたりしない何食わぬ顔で帰路につきながら、

 

(――――樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)が破壊された日……)

 

 一般には得られないであろう情報を脳内で引き出していた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 10時40分

 

 

 美琴と白井が寮を出発し、歩くこと数分、前方に見慣れた二人がいた。

 

「あ! 御坂さん、白井さんも」

 

 セミロングの黒髪に白梅の花を模した髪飾りをつけている少女、佐天涙子が美琴と白井に気づき、声をかける。隣には頭に花をかたどった髪飾りを大量にしている少女、初春飾利もいる。

 

「佐天さん、初春さん、どうしたの? 朝から」

 

 美琴は朝から出かけている二人に尋ねる。

 

「今から佐天さんとセブンスミストに買い物に行くんですよ。二人はこれからどこへ?」

 

 初春が予定を述べた後に二人に同様に尋ねる。

 

「これから美影の家に行くのよ」

 

「え!? 美影さんの?」

 

 予想以上に喰らい付いたのは佐天だ。

 超能力者の家という触れ合う機会に希少価値を見出せそうなモノに大いに興味があるらしい。

 常盤台中学女子寮の美琴と白井の部屋に訪れたときにも目を輝かせていたがそれと同等の様子だ。

 

「もしかして腕章のことですか?」

 

「そうですの。それでお姉様に案内を」

 

 数日美影と風紀委員活動を共にしていた初春には心当たりがあったため、理由はすぐに分かった。

 

「初春! 私たちも行かない?」

 

「えー? 迷惑じゃありませんか?」

 

 興味深深の佐天に対し、初春は大勢での訪問は失礼だと感じる。

 だが、彼女も美影の部屋に行きたいという希望は少なからずあるので、

 

「大丈夫よ、美影の家なんてそんなに気にしないで軽い気持ちで入ればいいのよ」

 

 美琴という彼の妹が同行していても、男子高校生の家に女子だけで訪れることに対して一般的な思考から外れた考えを持っているのは、彼が彼女たちにとって一人の男というよりも彼女たち四人の兄的存在として確立しているからかもしれない。

 美琴の軽い了承で二人も同行することになった。

 この時、本人が出かけていることも知らず。

 

 

 

 ◆

 

 

 11時05分

 

(……ん?)

 

 先ほど利用したスーパーと自宅のちょうど中間地点ほどで、美影の前に黒い影が立ちはだかった。

 それは目つきが鋭く手には人に傷を残すには十分な武器が備わっている。

 それに美影は躊躇なく迫り、目線を合わせるべく、アスファルトの上でしゃがみこんだ。

 

「よーしよしよし」

 

 首輪もない野良らしい黒猫は美影の手さばきに快感を覚え、目を細くしながらもじもじとカラダをよじる。

 頭なり首元なりを無抵抗に触られたのち、美影の撫でていないほうの手にあるビニール袋に顔を向けた。

 

「ん? よし、ちょっと待ってろ」

 

 ガサガサと購入したものの中から、ある細長いものを取り出した。

 それは軽食や間食ように購入した魚肉ソーセージだった。それを美影は丁寧に包装に使われているビニールから取り出し、手に乗せて黒猫に食べさせた。

 黒猫はそれをおいしそうにかじりついていて、食べ残しそうにない。

 

 余談だが、美影のマンションは、ペット禁制である。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 10時50分

 

「ここが美影の住んでいるマンションよ」

 

「ここって、第七学区でも有名な高級マンションじゃないですか!」

 

 四人になり、歩くこと約五分、たどり着いたのは第7学区のとある高級マンション。

 高く聳り立ち、何階建てなのかを数えていると数を間違えそうであり、首も疲れてきそうである。

 エントランスはパスワードを入力しないと中に入れないようになっている。セキュリティは万全だ。

 家賃も通常とは桁が違うだろう。

 本来学生が住居とすることなどできないのだが美影は学園都市が誇る超能力者、問題はない。

 あるとすれば一人暮らしにしては広すぎるということだろう。

 驚愕と納得から佐天は声をあげる。白井と初春もいざ見せつけられると口をポカンと開けてしまっている。

 

「さ、入るわよ」

 

 美琴は入るためのパスワードをあらかじめ美影から聞いていたため、簡単に最初の扉を開けることができる。

 中の掃除が行き届き絨毯を敷かれた廊下を歩き、エレベーターに乗る。

 押すボタンは十四階。

 学園都市製の音も振動もない、十五人は入れるエレベーターに乗ることわずか八秒程。チン、という音と共に扉が開き、一回とは違う色の絨毯が敷かれた廊下を進む。

 美琴が立ち止まったのは『1407号室』という札があるが、彼の苗字を示す表札はない。

 防犯のため、と思われるが、実際は面倒くさいという果てしなくどうでもいい理由によるものだ。

 

 美琴はインターフォンを押す。

 しっかり押せたか分かるようにインターフォンのそばについている極小のライトが緑色に光った。

 待つこと十五秒。応答はない。

 

「留守ですか?」

 

「いや、寝てるかもしれないわね」

 

 初春の推測に美琴は違う推測を出す。

 兄には休みの日には昼間で寝るという習慣があることを妹である美琴はよく知っている。

 それほど深い眠りについているわけではないとしてもインターフォンぐらいでは起きないかもしれない。

 かといって、ここで声を出してもこのマンションは完全防音。近所迷惑にもならず廊下に空しく響くだけだ。

 そこで美琴が選んだのは、

 

「鍵、開けちゃいましょ」

 

 白昼堂々と不法侵入。

 美琴は超能力者。電子錠を開けることなど造作もない。

 住人が兄ということもあり、まったく気にしない。他に携帯電話にかけるという案もあるにはあるが、気にしない。電子錠に焦げ跡がついてしまっても彼女は一切気にしない。

 いきなりの行動に三人は制止の声をかける間もなく扉は開いた。

 

「ここがお兄様のお部屋ですか」

 

「広いですね~」

 

「なんか面白いものないかなぁ~」

 

 

 中に入った3人はそれぞれ言葉を漏らす。玄関だけでも広いと分かる。このマンションでは狭いほうである3LDKだが、学生の一人暮らしには十分すぎる。

 最初に見えたのは靴箱。

 暗色を基調としたものが多く、きれいに並べられている。

 進んで開けた扉の先にあったのはリビング。

 いかにも高そうなソファがあり、中央にはテーブル。テーブルを挟んで大型のテレビがある。窓際にはあまり場所を取らない程度の大きさの観葉植物が置いてある。

 ホコリが溜まっていることも、脱ぎ捨てられた靴下も、カップ麺の容器が置いてあることもない。まして焼きそばパンなんてものも当然ない。

 男臭さもまったくない。

 人の気配がないと四人は感じたが、代わりに街でよく見かける自動清掃ロボを家庭用に作り変えられた円盤型の清掃ロボが床をゆっくりと駆け巡っていた。

 

「うわぁ、これフッカフカだよ、初春!」

 

 思わずソファで跳ね上がるようにすわり、感想を述べる佐天。

 男の部屋ということもあるのだが、遠慮はなく満喫している。やはり彼女たちには男の一人暮らしの部屋に来ているということに抵抗感が無いらしい。

 

「本当に出かけているみたいね、」

 

 寝室に行った美琴は蛻もぬけの殻であったことを確かめてリビングに戻ってきた。

 白井はなにやらあちこち動き回っている。

 

「さて、」

 

 佐天が立ち上がり、何か意気込もうとする。

 

「美影さんといえど男! エロ本の一つや二つ、でてこないかなぁ?」

 

「うわっ、さ、佐天さん何を!?」

 

 いやらしい笑みを浮かべ、家宅捜索を始めた。

 初春も戸惑いながらあちこち見る。

 リビングから見えたのはキッチン。

 同色にまとめられた家電製品が並んでいる。どれか一つ、安売りの関係で違う色をし、目立っているものもない。

 きれいに使われているようで、汚れもカビも見られない。

 

 とりあえず佐天が入ったのは寝室。そういう系統のものに関しては一番確率が高いといえよう。

 ベッドの下、押し入れ、キャビネット、挙句の果てにはマットレスを退かしてまで捜索に力を入れるが希望の品は見付からない。

 

「う~ん、見当たらないなぁ~」

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 11時15分

 

 美影は買い出しを終え、自宅に帰ろうとしていた。

 食材が入った袋を片手にいつも通りマンションに入り、廊下を歩き、エレベーターに入り、待つこと八秒、部屋を借りている十四階に辿りついた。

 ポケットから鍵を取り出しながら再び廊下を歩き、自分の部屋の前に着いた。

 

(………?)

 

 鍵を開けようとしたとき、ふと異変に気づいた。

 学園都市のほとんどのマンション、アパートには電子式の鍵が採用されている。どれも『外』で使用されているものより遥かに高性能だ。オートロックなので鍵はドアを閉めると同時にかけられる。

 異変というのは開けられた形跡があることだ。ただ、金属バットやハンマーで強引に暴力で開けたような跡ではない。明らかに『焦げ』が付いている、ということだ。

 高性能のため、水が入っても漏電等でこうはならない。というより水なんて入る場所ではない。

 つまり、誰かが電子的に手を加えたということになる。

 しかも美影には見覚えがあった。一度それをやられたことがある。そのときはもう少し『焦げ』が大きかった。そんなことをするのは一人しか考えられない。その気になれば形跡一つ残さず出来るのだろうがどうも美影のものとなると、とりあえず警報がならない程度であればいいのだろう。

 

 美影は自身の部屋の中に働いている重力を視る。

 

(……)

 

 一秒とかからず内部を確認した後、美影は別の演算を開始した。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

「う~ん、見当たらないなぁ~」

 

 美影のベッドに座りながら一人萎えていた。

 いくら寝室を探しても、美影の衣料品はたくさん見つかったが佐天の好奇心を向上させるような品は見付からない。

 しかし彼女は、『ない』という結論には至らず、『巧妙に隠している』という思考にしか至らないため、美影の気持ちになって考え、どこに隠すだろうと一人頭の中で論究している。

 だが、彼女にも美影の考えは読めない。

 普段から性欲を思わせるような発言をしない人物であったため、彼が女性のどこに惹かれるのかも見当がつかず、また

 

「よし!、違うところを探そう!」

 

 とにかく、部屋中を隈なく探せば何か出てくるだろう、そう意気込んだ時、

 

「何を探すの?」

 

「それは勿論、美影さんの秘蔵――――」

 

 佐天は発言を止めた。

 今、自分は誰と話した? というより、この部屋に自分以外の誰かいたっけ?

 美琴はリビングで初春と勝手に紅茶を入れて寛くつろいでいる。白井は別の場所で何か探している。

 自分は一人で面白いもの(エロ本)を探している。

 寝室にいるのは自分一人のはずだ。今聞こえた声には聞き覚えがあった。

 そして、ギギギ、と長年押入れの奥に入れられた人形のように首をぎこちなく回し、そこにいたのは、

 

「人の家で楽しそうだね、佐天さん」

 

 先ほど自分が座っていたベッドに足を組み、目以外が爽やかに清々しく笑っているの美影が座っていた。

 

「き、」

 

「『き』?」

 

「キャぁぁぁあああアアアア!!」

 

 幽霊のように音も立てずに現れた美影に、佐天は腹の奥から派手に悲鳴を上げた。

 

「「「佐天さん!?」」」

 

 その大声を聞き、美琴、初春、白井は急いで駆け付ける。

 

「お兄様!?」「美影さん!?」「アンタいたの!?」

 

 散々好き放題やっていた三人も部屋の住人の存在に気付いた。

 美影はワームホールを作り、とりあえず佐天の後方に音もなく現れたのだが、五人にとっては怨霊にしか見えなかった。

 

 

「ウチの大家さん、怖いんだからもう少し丁寧に鍵を開けてくれ」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 11時30分

 

「はい、腕章。 一方通行のもあるから」

 

 美影は一週間使っていた風紀委員の腕章を初春に渡した。昨日一方通行に返すように自分のを渡されたので二つある。

 

「確かに。すいません、勝手に家に入ってしまって」

 

 初春は律儀に謝罪する。

 本来なら警備員にでも通報するほどのことであるのだが面倒なことと特に問題はないだろうという美影の考えにより却下された。本当は一般の警備員に自分の家を知られたくないという理由なのだが、いいよいいよ別に、と適当に受け流された。

 なぜ、初春に渡すのかというと白井は佐天と今だ何か詮索している。厚かましいと思うが美影は本当に見られたくないものはどうやっても見つからないようにするため問題はない。ちなみに佐天が望むものは本当にない。

 

「あと白井、アルバムはないよ」

 

 白井の性格から察するにそこにたどり着いた。

 

「お、お兄様!? どど、どうしてですの!?」

 

 本棚を重点的に漁っていた白井は痛恨の叫びを上げた。

 

「黒子、やっぱりそれが目的だったのね」

 

 美琴は白井を取り押さえようとしたが美影がないと言ったので自制した。

 

「…………と思いきやいつの間にか俺の手元にコンナモノガー」

 

 だが、美琴の期待を裏切り、白井の期待に答えるかの様に美影の手にはいつの間にか一冊の本が納まっていた。

 茶色の表紙に大きく、分厚い、まさしくアルバムといったもの。学園都市には珍しい、電子式ではない型だ。少し表紙がボロボロになっているて一部剥がれている。

 

「流石、お兄様ぁ!」

 

 白井は空間移動を二回した。

 一回目で美影の下に現れ、二回目で美影が手に持つアルバムと自身を空間移動させ、リビングのテーブルの上に置いて開いた。

 

「美影! 何てモノ出してんのよ!」

 

「これが昔の美影さんですかぁ、」

 

「うわぁ御坂さん、……美影さんにベッタリだね」

 

 美琴は美影の行動に難色を示すが佐天と初春もアルバムに夢中だ。もう止められない。

 見ると、美琴が美影にくっつきながら笑顔で写っているものが多く、仲良し兄妹としか見えない。

 当時はそのように兄と接していたが今となっては恥ずかしい過去だ。

 出来れば知られたくなかったため、美琴は顔を真っ赤にしている。

 

「お兄様、これらをどうか、黒子に分けてほしいですのぉッ!」

 

 自分が知らない美琴の姿に白井は興奮で涎を垂らして悶絶しそうな勢いで交渉する。

 なんとしてもコレクションに加えたいのだろう。

 

「やだ」

 

 だが、美影にとっても大切なものであるため一部でも引渡すわけにはいかない。

 たった二文字で拒否された白井はショックを受けるが諦めきれない。

 そこで彼女が提案したのは、

 

「で、では、コピーするというのはいかがでしょう?」

 

「それなら良いけど」

 

「良くなぁあああああああああああああい!!」

 

 美影の許可を美琴が全力で阻止する。

 白井とは違う興奮で美琴の前髪からバチバチと電撃が走りかけた。

 ここで美琴が必要以上に能力を使うと美影の部屋の中にある電子機器が一気に粗大ごみへと生まれ変わってしまうためなんとか止める。

 

「そういえば、お兄様、」

 

 虚脱感によりソファに寝そべってしまった白井がとあることを思い出す。

 

「固法先輩がお兄様に『ありがとう』とお伝えするようおっしゃっていましたの」

 

 おそらく、というより確実に黒妻のことだろう。

 別に感謝されたくてした事ではないため、適当に聞き流した。

 白井はその言葉の意味を十分に把握していないようだ。

 

「……じゃあ、俺からも伝言、」

 

「何なりとどうぞですの」

 

 美影も白井を通して彼女に伝えたいことがあるようなので白井は耳を澄ます。

 

 

 

 

 

 

「『アンタの後輩二人に不法侵入されたからどうにかしてくれ』って」

 

 

「申し訳ありませんでしたの」

 

 白井は一瞬でソファの上で土下座した。

 万が一知られたら固法先輩の怒りの鉄槌どころか風紀委員の権限を剥奪されてしまう可能性すらある。

 初春も他人事ではないため、何も言い返すことが出来ない。

 

 

「そういえば、」

 

 全力で頭を下げている白井の横で佐天が何かに気づいた。

 

「もうお昼ご飯の時間ですね」

 

 リビングの壁に掛けられた時計を見ると長針と短針が重なっていた。

 おなかも空く頃である。

 

「そうねぇ。 美影、アンタなんか作りなさいよ」

 

 美琴が兄に食事を要求した。

 本来なら女子である美琴がやるべきなのではないか、と思われるが美影も気にしない。

 

「いいよー」

 

「え?悪いですよ」

 

 軽い返事に初春は戸惑う。

 味に不安があるわけではない。突然押しかけたのに加え、食事を作ってもらうことに申し訳なさがあるからだ。

 だが、美影にとっては五人分の料理を作るのは手間はかかるが断るほどでもないのだ。

 

「いいのよ、美影にやらせておけば」

 

 それを言うのはお前の役割じゃないだろ、と美影はツッコミたくなったがどうせ自分でも言おうとしたため何も言わず清潔なキッチンへと入った。

 食材は先ほど大量に手に入れたため大抵のものは作れる。

 だが時間をかけるのは望ましくない。長時間待たせるわけにはいかないし、長時間調理することに詫び言を言われるのも避けたい。

 とりあえず買い物袋の中身を冷蔵庫に入れながら見る。

 目に入ったのは上条と同時に手に入れた卵だ。

 

 

「オムライスでいいかー?」

 

 まだアルバムを見ながらなにやらガールズトークを繰り広げている四人に少し大きな声で呼びかける。

 

「いいわよー」

 

 帰ってきた声は美琴のもの。他の三人は口出しすべきでないと感じたのだろう。

 だが、美影の料理ぶりには興味があったのか、キッチンを覗きに来た。

 

「さてと、」

 

 彼は料理が好きではあるがエプロンはつけない。

 万が一、何か飛んできたとしたら能力で弾くからだ。

 取り出したのは、卵、御飯、鶏肉、玉葱、ピーマン、人参、ケチャップ、バター、エトセトラ。

 奇をてらった捻くれたモノを作る気も食べさせる気もない。というか、自分も食べたくない。

 とにかく、普通のオムライスの調理を開始した。 

 

 隣のコンロで市販のデミグラスソースを温めながら、フライパンにバターを引き、温めている間に包丁で野菜や鶏肉を均等な大きさに切り分ける。フライパンが温まったとこで切った玉ねぎ、人参、鶏肉、ピーマンを入れたあとに御飯を加え、素早く炒める。そこにケチャップをいれ、御飯を潰さないよう、やさしく且、丁寧に、フライ返しを織り交ぜつつ炒め、一粒一粒を紅くコーティングしていき、チキンライスが完成したら5つの皿に均等に分ける。

 続いては卵。ボールに片手に一つずつ、一度に二つ割り、牛乳を少々加え、菜箸でかき混ぜる。五人いるため一パック全部を使った。温めたフライパンに再びバターを入れ、溶かした後、卵を一人分流しこむ。そして素早く菜箸でかき混ぜ、フライパンを少し傾けつつ、小刻みにフライ返しをすることで半熟卵をつつんだオムライスの出来上がり。それをチキンライスの上にそっと置き、包丁で切れ込みを入れると、卵の重みで両側に広がり、とろとろ卵がライスを包んだ。その肯定を五回繰り返した後、温めたデミグラスソースをかけて完成。

 

「出来たぞー」

 

 オムライスを五つ、多いので二往復してリビングのテーブルへと運んだ。ダイニングテーブルは五人座れるほどの大きさではないからだ。

 

「「「…………、」」」

 

 白井、初春、佐天はそのオムライスを見て固まった。

 彼の手際の良さに女子としてどこか敗北感を感じつつ、また料理の工程や出来栄えを見たところ明らかにおいしそうで店ででるものにも匹敵しそうであった。

 

「どうした? 冷めるぞ」

 

「「「は、はい、いただきます!」」」

 

 美影としては大したことがないようだ。ますます彼がすごくいい意味で変な人に見えてくる。

 三人は悪い意味ではないがおそるおそるスプーンを口に運んだ。

 

「「「お、おいしいです」」」

 

 お世辞でもなく、心の底からの感想だった。

 

「それはよかった」

 

 安心した美影も、自分の分に手をつけ始めた。

 因みに美琴は遠慮なく食べている。これが彼女にとって普通なのだろうか。言葉には出さないが、少なくとも彼女の口にはあっている。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 12時10分

 

 

 とある高校生の自宅の昼ご飯。

 

「ちょ、インデックス!! 俺のオムライスまで食べるなって!」

 

「これだけじゃわたしには全然足りないんだもん!!」

 

「ふ、不幸だあああ!」 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 12時30分

 

 

「「「「ごちそうさまでした」」」」

 

「お粗末さまでした」

 

 数分後、五人は食事を終えた。四人ともきれいに食べたようで御飯粒ひとつ残っていない。

 美影は5人分の皿を運び、流し台へと入れる。流石に申し訳なく感じたららしく、初春と佐天が率先して洗い物を担当することにした。

 

「そういえばお兄様。お渡ししたいものがありましたの」

 

「ん、何?」

 

 渡されたのは白い長方形の紙。

 そこにはこう書かれていた。

 

「『常盤台中学女子寮 盛夏祭 招待状』?」

 

「はい、明後日わたくしたちの寮で行われる催しですので是非、お兄様にも」

 

「私たちも先ほどいただきました」

 

 そういって初春は美影が受け取ったものと同じものを取り出す。

 

「んじゃ一緒に行くか?」

 

「え? 一方通行さんとは行かないんですか?」

 

 普通ならこのようなイベントは同級生と行くものだ。彼女、ということも考えられるが美影に彼女がいるという形跡が先ほどの家宅捜査では見つからなかった。

 彼女たちはとある超能力者の少女が先日から美影に熱烈アタックをしていることは知らない。

 

「あいつはこういうのは誘っても来ないよ」

 

 一方通行の性格は風紀委員活動の一週間で大体分かったのでその言葉で納得した。

 

「でしたら他のレベル5の方は?」

 

 かといってこのように人に優しく接する彼の友達が一方通行だけなはずがない。

 

「俺はいいけど、ナンパ好きの女タラシと暑苦しい根性バカだよ?」

 

「……一緒に行きましょう、美影さん」

 

 美影が真顔でそう言うところを見ると事実であるようだ。

 女子中学校の催しにいろいろと害を与えてしまいそうだ。

 美影のことは棚上げしておいて、長点上機の超能力者に普通の人はいないのではないかと思わされた。

 

 美影はその招待状を見てふと思う。

 

 

 

 

「美琴は何かやったりするのか?」

 

 

「え!? いや、その……えっと……」

 

「?」

 

 なぜかその問いに美琴はスムーズに答えることが出来なかった。

 

 

 

 






最近後書きに書くようなことがなくなりつつあるということをこうやって書いてみたけど次話からどうしましょうかね。



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