とある六位の無限重力<ブラックホール>   作:Lark

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遅くなってすいませんが、二話目です。
どうか最後までご覧ください。


遭遇

 

 

 

 

(…………あのやろう、)

 

 藪から棒な入学勧誘の翌日、御坂美影は変わらぬ冷涼の外気の中を、腰まであるグレーのコートと黒のマフラーを盾に歩いていた。

 両手をコートのポケットに入れ、左腕と胴で昨日と同じ封筒を挟みながら。

 紛れも無く中には一方通行の入学申込書が入れられている。

 向かう先は郵便局。目的は郵送。

 なぜ彼がこのような仕事を行っているかというと、一方通行は書類の記入欄は(おそらく)埋めたのだが、その後の作業は移動を伴うため、面倒臭がり、美影に押し付けたというわけだ。

 ここで断り入学そのものを断念されては元も子もないと、嫌な顔を彼に見せ付けつつも引き受けてしまった。

 

(……それにしても)

 

 と、白い息を吐きながら空に視線を漂わせ、

 

(よく引き受けたな、アイツ)

 

 一方通行の入学の了承を今になって不思議に思う。

 あの手この手で誘惑だの強制するだのと作戦めいた考えは用意していたのだが、意外なほど早く話が進んだのだ。それはそれでこの上なく嬉しいことではあるのだが、長い付き合いを持つ美影にとっては一方通行の人格を考慮した場合、不気味にも思えてしまう。

 

(……まあ、いいか)

 

 かと言って、ここで疑いにかかるのもどうであろうか。

 彼には学生生活に対して憧れと羨望を抱いたのだということで納得し終えよう、と強引に片を付けた美影は、前向きに考え、前へと進む。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「はい、今日の巡回はここでおしまい。何か気になったことや質問とかある?」

 

 携帯端末に情報を打ち込みながら、風紀委員(ジャッジメント)の一員である固法美偉(このりみい)は後ろにいる風紀委員の後輩である白井黒子(しらいくろこ)に尋ねる。

 手を後ろで組み、歯がゆい思いをしながら白井は本音をぶつけてみる。

 

「では、少しお聞きしたいのですが、」

 

 予想道理といわんばかりに固法は微笑みながら振り向く。

 

「なぁに?」

 

「風紀委員にもなって一年にもなりますのに、何でわたくしに任されるのは、裏方や雑用、先輩同伴のパトロールばかりですの?」

 

 次第に声に力をこめて言い切る。

 実力があるのに年で扱い方を決められているかのようで不公平であるという日ごろの不満を。

 

「成績優秀な自分が、半人前扱いされるのが不満?」

 

 どこかからかうように固法は聞き返す。

 

「いぇ、……そういうわけでは、ありませんが。……やはり、わたくしがまだ小学生だからかと」

 

 的を射た指摘に白井は少しうつむきながら呟くように反論する。

 そんな彼女の頭を固法は撫でながら、

 

「年齢だけじゃないわ。あなたの場合、なまじポテンシャルが高い分、全てを一人で解決しようとするきらいがあるからね。もう少し、周りの人間を頼るようにならないと危なっかしいのよ」

 

 いつもよく見ているからこその的確なアドバイスを伝えるが、子供である分そう易々と受け入れるものではない。それどころか、それが欠点であるのかさえ、今の白井にははっきりと分からなかった。

 不満を窄んだ口で表す白井の頭を少し強く撫でた固法は、

 

「ほらっ、そんな顔しないの! たくさん頑張ったご褒美に、何か甘いもの奢ってあげる。お金下ろしてくるから、ちょっと待っててっ!」

 

 やはり年相応の扱いを優先してしまうのか、

 

(やっぱり子供扱いされてますの……)

 

 白井の不満を取り除くことは出来なかった。

 

 

 

 ◆

 

 

「あっ! 白井さ~ん!」

 

 寒い中、外で待つ選択肢を取るわけも無く、ATMのある郵便局内でお金の引き出しを待つことにした白井に、甘ったるい声色で声をかける少女がいた。

 

初春(ういはる)、何であなたが第七学区に?」

 

 首をかしげて白井は風紀委員の同僚に返事をする。

 初春飾利(かざり)大きな花を用いた髪飾りが特徴的な、かわいらしいという言葉が似合う女の子だ。

 

「もうすぐ中学生だし、学校や寮の下見に来たんです」

 

「中学生? どなたがですの?」

 

 傾いた首を直すことなく白井は再度質問する。

 その言葉に初春は逆に呆気に取られ、数秒口を開けたままにするが、

 

「私にきまっているじゃないですかー。やだなーもう。」

 

 冗談でからかっていると捉えたのだろうか、初春は笑みを浮かべる。

 

「へっ、ヘエーー」

 

 大して白井は平常心を保とうとしたのだが、声は裏返ってしまっている。

 

(お、同い年でしたの……。二つ三つ年下とばかり……)

 

 頭に大きな花の髪飾りを付けるだの、言葉遣いだのとあらゆる要因で年上気分でいたのだが、まさかの事実に動揺を隠せていない。年齢で扱い方を決める以前にその基準において間違いを犯してしまっているのだ。

 

 その後、二人は来年から中学生であるという共通点から話を広げ、白井はここにいる旨を伝え、固法が戻ってくるのを待ち受けているのだが、

 

「どうしました?」

 

 固法へと振り向いた白井の顔色の変化を察知した初春が不審に思い、尋ねる。

 

「ちょっと失礼」

 

「?」

 

 詳しく話すことなく、白井は固法の元へと動く。

 

「どうなさいました?」

 

 声を低く、小さくし、周りに聞き取れないよう心がける。

 固法の真剣な顔つきから只ならぬ事態を読みとった結果だ。

 

「……あの男、」

 

 小さく、目立たぬよう一人の人物を指さして白井につたえる。

 

「局員の場所や視線ばかりを気にしている」

 

「えっ?」

 

 男は体を大きく動かすことは無いため通常なら気付かないかもしれないのだが、こうも的確に指摘されれば怪訝に思わざるを得ない。

 白井が何か言う前に固法は行動へと移す。

 

「……人の所有物を、無断で透視するのは気が引けるけど、」

 

 透視能力(クレアボイランス)

 内部が隠れて見えないものを解析したり、遠隔地を見たりできる能力。

 気づかれることなく対象を調査することに関しては利便性はかなり高く、風紀委員活動でも大いに役立つものだ。

 

 男が所持するバッグの中身、ポケットに入れられた携帯電話。

 次々と検分していく中、一つの不祥事へとたどり着いた。

 

「右ポケットに拳銃」

 

 驚きを露わにしないよう、あくまで冷静に、白井に報告した。

 

「強盗ですの!?」

 

 ATMが備え付けられた郵便局へ拳銃の持ち込み。他に考えられることが皆無であるわけでもないが、いずれにせよ大問題である。 

 

「局員に伝えてくるわ。あなたは万が一の場合に備えて、利用客の誘導の準備を」

 

「逮捕しませんの!?」

 

 先輩の人任せとも捕えられる発言に白井は驚く。

 相手は一人。拳銃を所持していてもやりようはいくらでもあるかもしれない。

 

「バカなこと考えちゃだめよ。犯人確保は警護員(アンチスキル)に任せなさい」

 

 白井の発言に取り合うことなく固法は局員の元へと動く。

 

(そんな消極的な……)

 

 ここでも自分はろくに任せてもらえない。

 空間移動(テレポート)強能力者(レベル3)であってもやはり子供扱いされているかのように思えてならなかった。

 

 

 

「――そうです、大至急警護員に」

 

 固法は最短時間で緊急事態を局員の一人につたえる。

 出来れば男に悟られることなく隠密にこの場へと警護員を呼び寄せることが理想であったのだが。

 

 一発の銃声が局内に響いた。

 

 天井に風穴があき、直後に局内は静寂に包まれる。直ぐには誰も反応することが出来ず、悲鳴も上がらない。

 

「可笑しな真似するなよ」

 

 銃口を天井から客へと向け、すごむ。

 

「おおお客も、あんまり騒がないでくれよな」

 

 しかし当人も強張る。自分の行動を理解しての様相だろう。

 それでも後には引けない。

 

(くそっ、先に動かれた!)

 

 固法は歯を食いしばる。

 不審な男に気づいたこと事に関して、決して後れを取っていたわけではない。それでも先手を取られてしまえば気づかなかった場合と何も変わらない。

 しかし、自責の念に追いやられるよりも前に、我が目を疑う事態を目の端が捕えた。

 

(……訓練道理にやれば、)

 

 白井が、犯人捕獲へと乗り出したのだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

(…………なぜに?)

 

 寒い中歩き続けた美影は郵便局へと無事たどり着いたのだが、仕事を無事に果たせる状況ではなかった。

 郵便局には重厚なシャッターがおろされ、局内を伺えない。

 今日が局の定休日ではない事を思い返し、投げかける相手のいない疑問を持ち続ける。

 

(どうしたものか……)

 

 自宅から最寄りの郵便局を不明の理由で利用不可能であることは腑に落ちない。

 かといってこのままシャッターとにらめっこし続けるのも辛い。

 

(……ん?)

 

 その時、突如ひとりの少女が美影の横に現れた。

 頭には大きな花の髪飾り。見た目からして小学生であろう。

 不意の超常現象に美影は驚くことは無い。学園都市に50人ほどしかいない空間移動能力者の内、数人と知り合いである美影はすぐに空間移動の能力だと理解する。

 もしかしたら美影と同じで郵便局に用があったのだが、寒さに耐えられなくて空間移動でここまで来たのかもしれない。

 

「えっ……っ、……外……?」

 

 しかし美影は直ぐに考えを改めた。

 その発言から、少女は空間移動能力者ではなく、また局の中から誰かにとばされたと。

 

「し、白井さん! 中にいるんですか!? どうして私だけ!?」

 

 取り乱しながら初春はすぐにシャッターを叩く。

 空しくもシャッターが音を上げるだけ。

 中で何か事件が起きたのだと美影は確信し、シャッターに目をやる。

 

「あ、あの!!」

 

 急にコートを掴まれた美影は少女に振り向く。

 涙と鼻水を顔につけながら、幼い初春は必死に訴えかけていた。

 

「し、白井さんが! まだ中にいて、……強盗が! 白井さんを!!」

 

 動揺から呂律が回らなく、要点がまとまらないまま声を上げる。

 一秒でも早く白井を助けたいという気持ちだけが前に出る。

 しかし、

 

「よし、わかった」

 

「え……?」

 

 美影は初春の気持ちを確かに受け取った。

 手を初春の頭に置き、慰めようとする。

 

「俺が何とかしてやるから、もう泣かないで」

 

「え、……あの……」

 

 頭をなでられ、少し落ち着いた初春は自分の行動を顧みる。

 如何に緊急事態と言えど、強盗の撃退を一般人に依頼することは無謀である。まして承諾するのも別条。

 しかし、目の前の少年は動揺も緊迫も無い。

 初春の頭に手を置きながら、美影はシャッターの方へと顔を向ける。

 

(……さて、)

 

 美影は能力を発動させた。

 無限重力(ブラックホール)

 あらゆる物体にかかる重力を操作、掌握する能力。シンプルな使い方には重量の操作があるが、工夫すれば多々ある。

 今、使ったのは重力の感知。

 物体にかかる重力の強弱、座標から、物体の大きさ、質量、形状、密度などを観察する力。

 

 それにより、美影は局内を五感に頼るよりも正確に視渡す。

 

 内部の構造。

 破損した警備ロボットが一台。

 職員の人数。位置。

 客の人数。位置。二名は頭部を負傷し気絶。そのうち一名は出血。他方は拳銃を所持。

 倒れこんでいる少女が一人。左手と左足を負傷。意識はある。

 立っている男が一人。ポケットに入れられた左手にはナイフ。ポケットに入れられた右手には鉄球。

 

(……!)

 

 一秒にも満たない間にそれらの情報を得た美影は、その内、鉄球に眼をつける。

 仲間と思われる倒れ込んだ男は拳銃まで所持しているのにその男は比較的装備がゆるいなか、それを大事そうに手の中に入れている。

 それ即ち、能力に関係していると容易に考えられる。

 

(……高速で飛ばすか、あるいは……)

 

 数通りのパターンを想定するが、いずれも回避は可能と判断した美影は行動へと移す。

 

「それじゃ、君はここでちょっと待っててね」

 

「?」

 

 初春の頭から離した手を、シャッターへと向ける。

 初春が首を傾げた直後、目に見える変化が起きた。

 

 空間が、螺子曲がったのだ。

 

「え!?」

 

 初春が声を上げる横で、美影は続ける。

 ワームホール。

 強力な重力で空間を捻じ曲げ、二つの空間をつなげる力。これを用いることで重厚なシャッターに触れることなく局内に侵入しようという算段だ。

 完成した半径一ヤードほどの円の穴へと、美影は躊躇なく進んだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 外からの日光が完全に遮られ、僅かな照明しか光源のない局内で、手足を負傷した白井は心の奥底から自分の軽率さを呪った。

 固法が負傷し、初春が人質として捕えらえ恐怖を与えてしまった。

 初春は振り絞った力で外へと空間移動できたのは幸いだった。彼女の安全は保障された。

 

(……それに、)

 

 圧倒的に不利と思われた状況であろうとも、時間だけが流れれば好転する。

 今はただ、下手に手を打つことなく忍ぶことが最良。

 

「お前が何考えているのか当ててやろうか」

 

「え?」

 

 男は勝ち誇った視線で見下しながら言いだした。

 

「警報が鳴って大分経つ。そろそろ警護員も来る。人質を取られないよう、コイツを足止め出来ればこちらの勝ち。……図星だろ?」

 

「くッ……」

 

 手の内を完璧に読まれ、白井はたじろぐ。

 それでも自分は何もできない。

 

「だがなぁ、ここから出れないと決まったわけじゃないんだぜ?」

 

 ポケットの中から鉄球を握った手を取り出し、シャッターへと水平投射(・・・・)する。

 不思議と重力に逆らい、軌道は直線。減速もしない。

 

「俺が持つ能力は絶対等速(イコールスピード)。俺が投げたモノは、それが壊れるか能力を解除するまで、前に何があっても進み続ける。こんな壁ぐらい―――」

 

 鉄の壁を砕く前にガラスの自動ドアを砕かんと進み続ける鉄球を眺め続けると、想定外の出来事が起こった。

 鉄球が、消えたのだ。

 

「あぁ!?」

 

 男が驚嘆の声を上げる。

 この現象は能力の範疇を超えている。

 顔をしかめ、鉄球が消失した個所を睨むと、薄暗い局内に、黒い塊(・・・)が見えた。

 しかし、視界に捕えた瞬間にそれも消滅した。

 

(……いったいどういうことですの?)

 

 対して白井は男以上に訝る。

 能力を説明されたがそれを事実とする確証も無い。

 しかし、鉄球の消失が狙いから外れていることは明らか。

 

 二人とも腑に落ちない点がある中、

 

「鉄球なら消したよ」

 

 一人の少年の声が聞こえた。

 二人の視線が一気に同方向へと向く。そこにはコートを着て、マフラーを巻き、封筒を持つ少年の姿があった。

 顔を見るなり疑問に感じた。何時から居たのか? と。

 お互い、客の顔全てを記憶していたわけではないが、美影の顔に見覚えが無いことは確かで、言動からして今現在介入したように思える。

 

「誰だお前は!? 何しやがった!?」

 

 強盗の男は吠える。

 警備ロボを一撃で破壊した能力がいとも簡単に防がれたのだから。

 

「誰だって言われてもねぇ……、まあ単なる受験生ですけど」

 

 面倒臭そうに美影は返答する。

 

「何をしたかって言うと、さっき言ったとおり鉄球を消したんだよ」

 

「何だと!?」

 

 マイペースな美影に男は取り乱し、手に汗をかく。

 順調に進んだはずなのに、ここにきて計画が崩されるかもしれないのだから。

 

(……いったいだれですの?)

 

 床に膝をつく白井も驚きが顔に出てしまっている。

 風紀委員の証である腕章をつけていないのだから増援ではない。ではなぜ、何らかの方法で外から入って来たであろうこの男は手を出してきたのか。

 なんにせよ、市民のためには手を借りなければならないのかもしれない。

 

「く、クソォ!!」

 

 完全に憤然とした男は、鉄球をポケットから取り出す。

 一球ではない。

 水平に飛ぶ鉄球は動く『壁』となり、逃げいる隙間を美影に与えない。

 

(……あはは)

 

 美影は声に出さずに笑う。

 諦念ではなく、感興を素に。

 脅威でもない敵の相手は、戦いよりもアトラクションに近い。

 

 尻込みすることなく封筒を支えていない右手を前方にかざし、能力を発動させる。

 現れたのは光を一切反射しない、漆黒の物体。

 これこそ、美影の能力名の由来である、ブラックホール。

 包み込んだ鉄球から分子レベルで分解、吸収し、音も作らず塵すら残さない。

 

「なッ!!」

 

 圧倒的な力の差に男は全身を強張らせる。

 その隙に、美影は男にかかる重力を完全に手中に収めた。

 男にかかる重力を90度回転させ、壁へと落下させる(・・・・・・・・)

 

「ぐあァ!!」

 

 男と壁の距離は約2,5メートル。通常ならさほど大した距離でもないのだが、落下となれば話は別。

 彼には壁に吸い込まれたように感じ、どちらが上でどちらが下なのか迷いが生じた。その未曾有の感覚に瞬時に対応できず体勢を立て直せない。

 頭部を激突させてしまったのか、指先すら動かなくなってしまった。

 

(……やりすぎたか?)

 

 多少なりとも後悔しつつ、美影は男にかかる重力を通常のものへと戻し、壁に激突した男は床へパタリと倒れこんだ。

 

(まぁ、大丈夫か)

 

 男の体内にかかる重力を視て、心臓が問題なく活動していることや骨折した箇所が無いことを確認した美影は、そっと心の中で胸をなでおろした。

 

 その光景を全て見ていた白井は、おそるおそる口を開く。

 

「あ、あの……」

 

「ん?」

 

 美影は優しい笑みを浮かべながら振り向いた。

 

「あなたはいったい……、どうして助けてくれましたの?」

 

 目線の高さを合わせるために、美影はポケットに手を入れたまましゃがみこんだ。

 

「君が白井さん、かな?」

 

 突然名前を呼ばれて白井は質問を変える。 

 

「え? は、はい、そうですの。どうしてわたくしの名前を?」

 

「外にいる子が君の事を心配していたよ。必死に助けを求めていた」

 

「初春が……?」

 

 見えはしないが外の方へと目を向ける。おそらく今でも涙目でこちらを見続けているに違いない。

 反省する点が多い自分を嫌気が差すほど憎む。

 固法の助言に従っていれば。下手にでしゃばらなければ。

 しかし今は目の前の人物に感謝の言葉を伝えることが何よりも先決だ。

 

「こ、この度は本当に感謝していますの。わたくしの失態のせいで、あなたの力をお借りすることになってしまいましたの」

 

「……ふーん、それで?」

 

「え?」

 

 どこか他人事のように尋ねた美影に白井は思わず声を漏らす。

 

「失敗することぐらい誰にでもある。大切なのはその後だろ?」

 

「!」

 

「失敗には自分に足りないことが現れている。それを見逃さないことが本当の進歩っていれるんじゃないかな」

 

「……そ、そうですの」

 

 手と足の痛みを忘れるほど考えさせられる言葉であった。涙が出そうになるほど深く訴えられた言葉であった。

 諭すように伝えられた美影の言葉は、しっかりと白井の心の中へと染み込んでいく。

 

「それにさ、」

 

 美影は視点を白井からずらさずに立ち上がる。

 

「人を頼ることは、全然悪いことじゃあないよ」

 

「!」

 

 似たようなことを固法が言っていたことを白井は思い出した。

 何でも自分ひとりで解決しようとした結果がこれ。

 年齢で差別されていると勘違いした結果がこれ。

 露骨なほど迂闊に動いて、周りを傷つけてしまっている。自分は呆れるほど哀れだと白井は思った。

 

 警護員の到着を知らせるサイレンが聞こえてきた。

 後片付けも彼らがやってくれる。

 これで完全に解決したのだ。

 

「ん、警護員も来たようだから、俺は行くね」

 

 美影は後ろに振り向いたとき、白井は一気に自分の立場と今やるべきことが頭に喚起した。

 

「ま、まって欲しいですの!!」

 

「え? ちょ!」

 

 白井は怪我のない右足を踏ん張り体を起こし、怪我のない右手で美影のコートを掴む。

 いきなりブレーキがかかった美影は後ろへと倒れそうになるが何とか堪えた。

 

「あなたは重要参考人! ここで帰らせるわけにはいきませんの!」

 

「お前、離せ!」

 

 至極全うな意見を主張した白井は頑として手を離さない。

 前へと進もうとすれば白井は全身で食い止めようとする。

 実は今美影が着ているグレーのコート。中々高価で美影のお気に入りでもあるため、下手に皺を作りたくはないのだ。破れるなんて以ての外。

 そのため最終手段を使うことにした。

 

「えっ?」

 

 急に白井の三半規管が異常を来たし、平衡感覚を失った。

 美影が白井にかかる重力の絶対値、方向などを滅茶苦茶に弄ったのだ。

 回転やうねりの激しいジェットコースターに似た感覚を覚えた白井は、思わず手を離してしまった。

 

「じゃ、そういうことでお大事に!」

 

 手が離れた途端、白井にかけた能力を解除し、陽気な声を残し駆け足で前へと進んだ。

 

「ちょっと待って欲しいですの!!」

 

 走りながら美影は薄暗い局内の壁際にワームホールをつくり、停止することなく脱出を成功させた。

 まともに立つことすら間々ならない白井は叫ぶことしか出来ない。

 警護員が郵便局を取り囲んでいたシャッターを上げ、光が差し込む。

 外の眩しさに目を細めた白井の視界には、涙の後が頬に残った初春の笑顔が入り込んだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 警護員の事情徴収を受けた後、白井は初春に足を手当てしてもらっていた。

 近くには同じく同僚に手当てしてもらっている固法の姿がある。

 

「まさか、本当に助けてもらえるなんて思いませんでした」

 

 包帯を巻きながら初春は美影のことを思い出す。

 

「本当に、何者だったのでしょうか」

 

 おそらく教えてくれなかったのだろうが、名前を聞き忘れてしまったことを今更になって思い出す。

 書庫(バンク)で検索すれば身元ははっきりするのだが、検索するキーワードが圧倒的に欠けている。なぜか監視カメラの映像が残っていなかったのだから。それどころか、知らない間にカメラは故障していた。

 実は、美影が局内に入る前に視渡したときに、監視カメラの位置を把握、破壊したのだ。

 これにより、唯一の手がかりとなることは、彼は現在中学三年生であること。彼は受験生と言っていて、見た目からしてその年齢が当てはまる。

 しかし、学園都市内ではそれには数十万人が当てはまってしまうため、事態は何も変わらない。

 偶然町で出くわすことを祈るしかないのかもしれない。

 

「事件を解決したらすぐにいなくなってしまうなんて、まるでヒーローのようでしたね」

 

「ええ。でも、捕まえられなかったのが残念でしたの」

 

「白井さんったら、正直じゃないんですから」

 

 初春から笑みがこぼれた。

 これは、彼が創った笑み。

 自分ではない。

 自分の力では出来なかった。

 あと一歩どころではなく、どれだけ足りないのかも測れないほど自分には欠けている。

 でも。

 失敗したのだから。

 欠けた部分が少しでも現れたのだから。

 たった一歩だけでも、進めたのかもしれない。

 

(どこのどなたかは存じ上げませんが、絶対に見つけてやりますの)

 

 白井黒子はこの日を、一生忘れることはないだろう。

 

 




というわけでにじファン時代と同じ展開ですね。
今後とも宜しくお願いします。
早くにじファン時代に書いた話の続きが書きたくて仕方がありません。


……話は変わり、アンケートのことなんですけど。
全然集まっていないので、どうか投稿お願いします!!
詳細は第一話の後書きをご覧ください。
どうか、どうかお願いします!! 
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