とある六位の無限重力<ブラックホール>   作:Lark

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志操堅固

 

 

 

 

 

 八月三十一日。

 夕方。

 陽も沈みだして空が藍色に染まっていくこの時刻。

 夏休み終了まで十時間を切り、新学期スタートまでは半日ほどしかなくなってしまったため、一か月以上程遊び呆けて、仕事を疎かにしつづけた学生たちの目は血走っていることであろう。

 同志と集い、集団戦に持ち込む策士もいるだろうが、その仲間選びを誤れば武器の少ない似たような兵だけの学力がスカスカなチームだけが出来上がり、やがては言い訳製作会議が設けられるであろう。

 

 そういう失敗例を考慮してみると、現在夏休みの宿題に挑んでいる不幸少年こと上条当麻は、その肩書に歯向かい勝ち組の枠に収まっているのかもしれない。

 なぜなら、

 

「……なあ、上条。夏休みの宿題を全然やっていないやつなんて学園都市にはごまんといるかもしれないけどさぁ、それはあくまで『全然』であって、最終日まで本当にただの一つも手を付けない奴なんて俺初めて見たぞ」

 

「それを言わないでくれ御坂さんよ。上条さんは夏休み中命がけで奮闘したんだぜ?」

 

「そういうけど、とうまにはこれをやる時間は十分あったとわたしは思うよ」

 

 ファミレスでワンテーブルを占拠して紙々にペンを走らせているのは上条、彼の部屋に居候しているインデックス。そして御坂美影。

 なぜ美影がこうして宿題を手伝っているのかというと。呼称についてしつこく要求してくるニセ海原を不快に思いながら追い払って街を歩いていると、このファミレス付近で上条とインデックスに遭遇し、彼に頼み込まれたからだ。

 その頼み方ときたら、プライドのプの字も残っていない、完璧なフォームにより日本での要求において最上級の力を有する土下座を街の中で堂々とされたからである。

 後ろでインデックスが憐れな目で見ていたが、された美影は少ないものの無くは無い通行人の視線が痛く刺さり、力を貸すことにしたのだ。

 

 上条の記憶喪失によって起こるであろう心配事には成るべく協力するとは言ったものの、まさか宿題相手の共闘を申し込まれるとは思ってもみなかったため、最終的に自分のお人好しな性格はちょっとでも直したほうが良いのでは、という疑問にたどり着いた。

 

「しっかし御坂はすげえな。見る見るうちに宿題が消化されていく」

 

「感心よりも感謝してくれ。お前は今何やってんの?」

 

「読書感想文だ」

 

「へぇ、本は見当たらないが頭に入っているのか?」

 

「ああ、『桃太郎』がな!」

 

 恥じることなく言い切った上条に対し、

 

「……ぇ~……」「ぅぁー……」

 

 美影とインデックスは力のこもっていない口から起状のない音を漏らす。

 読書感想文は夏休みにあるあらゆる宿題においても嫌われ者トップスリーに入るであろう天敵だが、最も生徒の個性が表れると言ってもいい。

 この場で原稿用紙数枚に集約されていく上条の個性とはいったい。

 

「とうま、私の記憶では桃太郎の対象年齢は五歳前後だったんだよ」

 

「インデックス。人間の社会的評価は実年齢よりも精神年齢に基づいている傾向が高いんだぞ。ピッタリじゃないか」

 

「なるほど。みかげってやっぱり頭がいいんだね」

 

「なるほどじゃねえよ!? ひでえな御坂! 俺は一応精神年齢も高校一年生ほどだ!!」

 

「ああ、だからか弱い年下のインデックスを部屋に閉じ込めてイロイロ―――」

 

「してねえよ!! お前俺を何だと思ってんだ!?」

 

「そうだよみかげ。とうまは私がベッドで寝ている姿を見ても何も感じないただの五歳児なんだよ!」

 

「ああ、やっぱり」

 

「もおおお!! 御坂は俺に構ってねえで宿題やってくれ!! インデックスも頼むから邪魔すんな!」

 

 手伝ってくれている身だがここまでの弄られっぷりは男子高校生以前に人として許しがたいものがあり、先ほどまで使っていたシャープペンを握りしめ、激怒する。

 

「おなか減った」

 

 しかしインデックスは上条の叫びよりも腹の音のほうが一大事であるため、純粋に食べ物を要求した。

 入店時は夕食を迎えるにはまだ早かったため、三人は未だドリンクバーのみを貫いていたのだ。

 

「ああ、じゃあインデックスも手伝う代わりに何か注文していいぞ。流石に英語ぐらいならできるだろ?」

 

 打って変わり、気前よく餌を与えることにした上条の宿題は美影の手を借りても終わるかどうかは定かではない。

 上条は芯が折れたらしく、このままでは執筆活動続行不能なシャープペンシルをカチカチとノックする。

 しかし、

 

「あれ……? 出ねえぞ」

 

「芯が切れたんじゃないのか?」

 

「いや、まだ三本ほど入ってはいるのだが、」

 

 クリアなシャープペンシルを振ったところ、細く黒い芯が動いているのはよく見えた。

 しかしそれらのどの一本も口から顔を出さないのは他でもない、

 

「こ、壊れた……」

 

「怒って強く握るからなんだよ!」

 

 宿題の冊子よりもファミレスのメニューに目が釘づけなインデックスはペンよりも箸を手にした方が似合いそうだ。

 

「お前らのせいだ! はぁ、不幸だ……。……ってあれ、予備のペンがあと一本しかない」

 

 美影に一本、故障中が一本。

 このままではインデックスに宿題相手の装備ができない。

 

「言っておくが、俺は文房具は一切ないぞ」

 

 元々ここに来る予定すらなかった美影の持ち物は携帯電話、財布、ポケットティッシュのみであり、休日を普通に過ごすには不足はない。

 

「あ、ここにファミレスのアンケートの記入用のペンがあるんだよ!」

 

 上条の向かい側、美影の隣で通路と逆の窓ガラス側に座っているインデックスは、どの席にも常にある店の備品を発見した。

 それを手にした上条は、使用できるか確かめた。

 

「……これ、ボールペンだ」

 

 消しゴムで消えるわけもなく、店にあるのが摩擦熱で透明になるインクを使用した便利グッズであるわけもない。

 上条は筆箱の中身を確かめたが、修正液またはテープがないことを知る。

 

「まあ、あれだな。それで読書感想文をやるなら原稿用紙一枚の四百字を一文字も間違えず書ききる集中力が求められるな」

 

「うう、……不幸だ」

 

「そもそも、この三人でやったら筆跡が三つある不自然な宿題が出来上がるんじゃないのかな?」

 

 インデックスは上条の担任の洞察眼を甘く見ることなく、否定と回避が不可な事実を口にした。

 

「いやいや、担任としては宿題をやり残されるよりも出来上がった宿題を見てその生徒には手伝ってくれる友達がいると分かるほうが安心できるだろ」

 

「それもそうだね」

 

「まあ、ベストは一人でやりきることだろうがな」

 

「うぅ……、ごめんなさい」

 

 反論の余地もない美影の正論に対し、上条は手伝って頂けることに心から感謝した。

 インデックスはというと、日替わり定食を注文したところで上条のシャープペンシルを手に取り、英語のプリントを見る。

 しかし空腹は彼女の思考を阻害し、食欲は彼女に箸に持ち替えろと命令してやまない。

 美影は理科の問題にある化学式を書きながら上条の仕事ぶりを見る。

 

「なあ、上条知ってるか」

 

「何だ?」

 

「一般的に普及した桃太郎のストーリーって実は作り変えられたものらしくてな」

 

「ちょっとまて。俺はノーマルでシンプルな桃太郎で感想文を書き上げようとしているんだ。頼むからペンが止まりそうなトンでも情報を吹き込まないでくれ!」

 

「桃太郎はそもそも桃から生まれるんじゃなくって桃を食べて若返ったおじいさんとおばあさんがその晩―――」

 

「やめてえ! それ以上この無垢な童話の対象年齢を上げないでくれ!」

 

「そうだな五歳児上条君」

 

「違ぇよ!!」

 

 飽きることなく上条を弄り続ける美影は、ふと完全に陽が沈み切って夜になった外を眺めようと窓へ顔を向ける。

 街路は光源が少ないため、左ひじを付いた美影は左右反転した世界では右ひじを付いているように見える。

 が、その横。

 上条のやつれた姿が映し出されているはずの位置に、黒いスーツを着込んだ大男が、窓に張り付く勢いでこちら側を見つめていた。

 否、その男は目を閉じていたため見つめる、というよりはただこちらに全身を向けて突っ立っているようだった。

 そして、

 

「   」

 

 口を動かし、右拳を前に出して右腕を伸ばしながら何かを呟いてきた。

 それは窓ガラスを隔てた美影には聞こえなかった。

 だが、その男が向けてきた右腕に、在ってはならない凶器が備え付けられている。

 それは弓矢のようなものであった。

 しかし、弦はピンと張られているが矢はなく攻撃力と呼べる脅威は視認できなかった。

 疑問を浮かべるのもつかの間。

 

 その弦が解き放たれた瞬間、男の正面にある巨大なウィンドウが何かに切り裂かれ、風の刃と思わしき見えない殺傷能力は容赦なく美影等三人に叩き込まれた。

 

「―――――上条!」

 

 テーブルにつけていた肘を下に押し出してテーブルに身を乗り出し、そして左肘が離れた瞬間に代わるようにテーブルを右手で押して加速をつけ、空いた左手で上条の右腕を掴み、そのまま無数の空気の刃の発生地帯へ投げ出した。

 

「―――――へっ?」

 

 ガラスの砕ける甲高い音、それを合図に向けられた美影の声、それらが耳に届いたときには状況の整理が開始すらしていない上条は、美影のなすがままに強引に立ち上がるよう仕向けられ、何らかの力を打ち消したところで身の危険を始めて感じた。

 

「なッ!?」

 

「この結果は少々予想外だが、無益な殺生が減るなら喜ぼう」

 

 今度はこの黒スーツの大男の声は三人にも聞こえた。

 

「君は私に投降するんだ。そうすれば君には手を出さない。目的のものを手に入れたなら速やかに離れることを誓――――」

 

「ああああ!! 何やってんだテメエ! 俺の読書感想文が紙吹雪になってんじゃねーか!?」

 

 男の静かな交渉なんて馬の耳に念仏。

 晩の呼ばれざるテロリストなんて、現役高校生に長期間の戦闘を正面から挑んでくる紙束に比べれば些細な思い出であり優先順位は下の下にしかない。

 

「そこのお前! これをどう責任取ってくれんだ!!」

 

「知ったことか」

 

 上条が睨み引き攣らせた頬を見せつけている相手である大男は、突如虚空に消えていた。

 

「なっ!?」

 

 見失うはずがないほどデカい図体は、インデックスの真後ろに立っていた。

 そして一秒とかからない間にインデックスは電撃でも浴びたように体を硬直させ、無抵抗のまま大男に抱きかかえられた。

 

「へぇー……、アンタ魔術師か」

 

 考察を述べたのは美影だった。

 年齢からも使用する武器からも科学の範疇にある超能力からは逸脱していた。

 

「え? 御坂、魔術とか知ってんの!?」

 

 記憶を失う前も今も御坂美影というのは単なる超能力者のひとりであるエリートとしか考えていなかった上条は、まさかの意見に耳を疑った。

 そういえばインデックスの正体も言っていなかったのによくシスター姿の彼女を受け入れていたな、と今気づいた。

 

「おう、土御門もその方面で知り合いだ。ああ、俺は単なる超能力者にすぎないが」

 

 単なるでは片づけられない力を持つ彼のことは後でいい、と上条は大男を視界に留め続けたのだが、

 

「透魔の弦」

 

 小さく、大男の言葉だけが響き渡った後、インデックスと彼女を抱える大男の姿が完全に見えなくなった。

 空間移動の派生だろうか、と上条が大男がいたはずの空間に右手を突き出したが、なんの抵抗もなく突き抜ける。

 無念と思った上条の不意を衝くかのように、すぐ近くの虚空から大男の弦を装着した右腕だけが現れ、

 

「断魔の弦」

 

 その呟きが聞こえた瞬間、上条は反射的に伸ばした右腕を引きもどした。その位置には風の刃が振り落とされ、ビスケットのように床が切り刻まれた。

 上条の力は右手首から上のみであり、刃が右腕に触れたら消し去ることはできない。

 心臓が飛び出るほどの緊張が湧き出し、冷や汗をかいた時、散った窓ガラスの方からパリッ、と甲高い音が聞こえた。

 

「こっちか!」

 

 空間移動ではなく、光学的処置。

 透明人間でも実体はあり続けるため、逃走中に破片を踏み潰したのだ、と上条は後を追うように砕き開けられた窓から外へ抜け出したが、そこから右へ行ったのか左へ行ったのかは見当がつかなかった。

 

「くそぉ!!」

 

 完全に逃がした、と拳を握った上条のすぐ横から一つの影が現れた。

 

「逃がさねーよ」

 

 美影はそのまま走り続け、何も見えない空中を両手で二か所掴む。

 左腕でインデックスを奪い返し、右腕は大男をしっかりと掴んで能力で補助しながら地面のアスファルトへと叩きつけた。

 

「なッ―――がああああッ!?」

 

 そして映写機で映し出されたように突如として現れた大男は地に伏せ、肺の空気を絞り出されていた。

 例え魔術的措置によって姿を眩ませたとしても実体はその空間から消えることはない。それすなわち、大男には重力が働き続けているのだ。

 それをグラム単位では誤差なく感知できる美影にはコンマ一秒の隙間を与えることなく把握され続けていたのだ。

 意識を逃亡へと移行させていた大男にとって、美影の存在は不慮だったのだろう、受け身も真面にとれていなかった。

 

「おいおい、英語担当を奪っていくなんてどういう了見だよ」

 

 インデックスを腰に抱え、地に伸びている大男の背の上に直立している美影は困ったように言う。

 この程度の襲撃、美影は夏休み中に既に体験済みなのだ。それも威力は遥かに高い火薬装備の武器を。

 

「――――……ん、…………?」

 

 インデックスに使われていた大男の魔法が解けたらしく彼女は目を覚ました。

 美影は大男に強い重力をかけつつ彼の背から降り、抱えていたインデックスを立たせた。

 

「み、御坂……サンキューな」

 

 あっという間に一掃した彼の実力を見せられて押され気味に上条は感謝した。

 大男は、通常よりも重量が勝る体でありながらも歯を食いしばりながらもがき続け、溢れる気持ちが零れ具現化するように言葉が口から流れてきた。

 

「くっ……! やはり助からないというのか!? 罪もない、彼女は……!!」

 

「んあ?」

 

 唐突に言い出した男の言葉が聞き取りにくい、と美影は目線を合わせようとしゃがみ込む。

 どうやらこの男は自己満足や憐れな野望のためにインデックスを利用しようとしたわけではないようで、人助けのような気配が垣間見れる。

 

「どういうことだ? その彼女とかって」

 

「ああ、……お前らには関係のないことだが、彼女には医学では解明できない『呪い』がかかっていて、それでそこにいる禁書目録から治療法を得ようとしただけだ……」

 

 倒されたのだから全てを打ち明けえる、といった具合に大男は私情を吐き出し、彼の閉ざされた目には涙が浮かんでいた。

 

「……そうか、『呪い』だってさ、上条」

 

 美影は立ち上がり、大男にかけている重力の増加を消し飛ばした。

 

「ああ、解決したな」

 

 迷いのない瞳で上条はハッキリと言い切った。

 

「何だと……?」

 

 体の重みが元に戻った大男は膝と手をつき腹を地面から離し、耳を疑った。

 

「俺のこの右手。幻想殺し(イマジンブレイカー)っていうんだがな、対象が『異能の力』なら超能力でも魔術でも完全に消し去っちまう力があるんだ」

 

「…………」

 

 上条は右手首を左手で握りながら説明するが、大男は意味が解らないといったように眉間に皺を寄せた。

 

「だぁからあ! 助けてやるっつってんだよ!」

 

「あ? …………」

 

 大男の表情が止まり、口は半開きになった。

 

「そうと決まればさっさとその人の元へと案内しろ! あ、……でも宿題が、……間に、合わねえ、……か……?」

 

 美影をチラチラと見ながら口を横長にして瞬きが倍増する上条。

 ため息をした美影にはこの先この大男に出助けできることは何もない。ワームホールで移動させようにも上条の右腕だけが『こちら』に残るというグロテスクな助長が生まれるだけだ。

 

「……分かったよ。宿題はこっちで終わらせてインデックスに渡しておくから、さっさと行って来い」

 

「サンキュー御坂。んじゃ、さっさと行くぞ」

 

 上条は中腰になって大男に手を伸ばす。

 大男は開いていない両目でその手を見つめ、最後に問う。

 

「……いいのか……?」

 

「だーかーら! 助けてやるんだからさっさと行くぞ! 御坂が宿題終わらせても俺が戻っていねえと意味がねえんだからな!」

 

 その手を掴み、立ち上がった大男は、深々と頭を下げて小さい声に大きな気持ちを込めて、

 

 

「―――――感謝、する……!」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ファミレスのガラスというのは一般的家庭のものとは規模が違い、お値段も相当お高いのだと容易に予想できる。

 それはつまり、弁償まで持ち込まれては一般の学生のお財布なんて皮切れに過ぎず、銀行口座をこじ開けても足りない場合も多々あるに違いない。

 超能力者の懐具合ならば対処も可能なのだが、その責任を押し付けられれば手錠を常備した怖いお姉さんやお兄さんも出てきかねない。

 

 なので。

 

「インデックス、お前足に自信はあるか?」

 

「私は知能派だから肉体労働は向いていないんだよ!」

 

 つまり。

 

「んじゃ、ちょっと舌を噛まないように歯を食いしばっておけよ」

 

「え?」

 

 ファミレスに散らばった上条のプリント類をこの夏休み三回目である重力操作の応用、時間を操作しての超高速移動をすることにより回収し、時間の速度を戻した瞬間にインデックスを抱え込んで一気に跳躍した。

 ファミレスの筋肉の凹凸が制服の上からもわかる店長さんも美影を食い止めることなどできず、さっさと逃走を完了させ、また他のファミレスへと入って行った。

 

「おなか減った」

 

 この時間のファミレスというのは必ずと行って良いほど食欲を駆り立てる匂いに充満しているため、インデックスの腹の音をおびき出すことは難しくもなかった。

 二人は席に着き、

 

「好きなもの頼んでもいから、英語の宿題ぐらいは絶対にやりきれよ?」

 

「!!」

 

 目の前の天使の囁きにより一気に覚醒したインデックスは、メニューを手に取るよりも先に呼び出しボタンを押し、ウエイトレスがやってくるのと同時にメニュー表を開き、次々指さしながら注文していった。

 店員が立ち去ったのち、

 

「返事は?」

 

「うん! 絶対に食べきるから!」

 

「そうじゃないだろ」

 

 右手にシャーペンを。

 左手にフォークを。

 目に輝きを。

 口にヨダレを。

 

 完全装備を終えた彼女に、もはや敵など存在しない。

 

 

 ◆

 

 

「っ~~~あー……」

 

 眉間を指でもみ、それから美影は大きく伸びをした。

 上条が通う、世間でいう普通の学校の宿題というのは美影にとってはなんら問題はなく、あえて言えばやり応えのないことが問題であり、作業と化した宿題の消化は精神的に苦労しながらもついに終えることが出来た。

 インデックスの方を見ると、いつの間にかされていた追加注文によりもしかしたら全種コンプリートしたのではないかというほどの皿の積み重ね具合だった。

 彼女が担当した英語の宿題は美影に比べればスピードが劣るものの、カラフルなソースをプリントのあちこちにつけながらも見事終えたようだ。

 

「ひさしぶりにおなか一杯になったかも」

 

 美影とは異なるベクトルのブラックホールを腹に宿す彼女の頭の中はアルファベットよりも五味五色で埋め尽くされているらしく、達成感の矛先は紙ではなく皿に向けられている。

 

 何にせよ、美影の仕事はこれで終わったのだ。ファミレスメニューをコンプリートされても彼の財布の潤いは乾かない。

 上条のほうはどうなのだろうか、と首を左右に曲げてストレッチをしたとき、

 

 

 

 

 

 

――――――美影の携帯電話が着信を合図に、バイブ機能によりポケットの中で振動しだした。

 

 

 

 

 

 

 





大学生活が再開してしまう!

後期は前期よりも授業が少ないので時間はあるのかな……?

なんにせよ、なるべく活動頑張ります。

手厳しい言葉は別として、感想等は大歓迎ですので。

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