ついに美影の秘密がわかる、かもしれない。
今までにない美琴が見れる、かもしれない。
やっと食蜂は美影にくっつく、かもしれない。
上条さんがそろそろ活躍する、かもしれない。
原作のストーリーなんて完全無視、かもしれない。
前話の予告が実現されるなんて、絶対にない!!
第肆章、大覇星祭編スタート!!
サクセン
◇
数年ほど時系列を遡ってたどり着く、とある過去の地点。
赤い夕焼けが街を覆い、清く流れる川が煌めく紅色を反射する時刻。
大きな鉄橋がかかった河の岸。雑草が生い茂る河川敷に一人の少年と、一人の少女がいた。
「お兄ちゃん、勝負よ勝負!!」
「いーやーだ。何で俺が」
「私がレベル5になる前はやってくれたじゃないの!」
「レベル5になったから尚更だ。お前も分かってるだろ? レベル5の能力者がぶつかり合ったら周りへの被害もデカくなるってことぐらい」
「そ、そうだけど……」
「それに、お前はもう序列では俺よりも上なんだから、もういいだろ?」
「良くない!! 私はお兄ちゃんに一度も勝っていないんだから!」
「ならお前の不戦勝でいいから、時間も時間だからもう帰れよ」
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!!」
「さいなら~~」
美影は片手を振りながら妹に背を向けて己の帰路につき始める。
いつの間にか、自分に対して真摯に向き合ってくれなくなった兄の背を睨む美琴は不貞腐れたような表情になった。
◆
(……、何であんな昔のこと……)
常盤台中学女子寮の一室で、御坂美琴は目を覚ました。そして直ぐに体重をかけていた『きるぐまー』を力強く抱きしめた。
数年前の記憶を夢の中で引き出して顧みたことを幻怪に思いながら窓の方向に目を向けると、既に明るくなっており、起床するにはうってつけの機会であると思い至ったため、体を起こそうと腹に力を入れるが何故か体が動かない。
「……ん?」
背後に人の気配を感じたが、振り向くまでもなくその犯人を特定した美琴は微弱だが麻痺効果がある程度の電撃をその人物に流し込んだ。
「あああああああんんっ!!」
学園都市最高峰の電撃姫の背で、学園都市の治安を守る風紀委員の一人である白井黒子は目尻が垂れ下がり頬を朱に染めた笑顔で悶絶していた。
胴体を固定していた両腕を一応引きはがした美琴はベッドから抜け出し、諭すことを諦めかけた後輩に呆れる様に言う。
「まったく何でアンタはそうなのよ」
「ちょっとしたスキンシップですのに……」
痺れが切れた白井は布団を丁寧に退かして体を起こし、美琴のベッドの上に座る。
愛想笑いで誤魔化すように照れ隠しをする白井は、美琴の顔を見た途端、血相を変えるかのように表情が固まってしまった。
そして覚束ない情調で尋ねる。
「…………お姉さま、どうして涙をお流しになられていますの……?」
「え……?」
無意識下での身体活動を指摘された美琴は指で下瞼付近を抑える。そこには確かに、湿った感触を作り出す一筋の線が存在していた。
◆
学園都市の全学校が合同で行う超大規模な体育祭、大覇星祭が開催されるまであと数日。
前年度優勝した長点上機学園では、新たに戦力として取り込んだ超能力者四人の力を借りて行った訓練を終えて準備は万全と呼んでも差支えない段階まで迎えていた。
「あー、腹減った」
腹部に手を添えて欲求を訴えたのは垣根。
「根性がないからそんなことを言うんだぞ」
言った途端、腹の中に棲む虫が大声を上げたのは削板。
「一方通行、何食べる?」
大抵、日替わり定食を注文する美影は隣で歩く一方通行に尋ねた。
「あー……、肉」
そしてつい先ほどまで机に突っ伏して熟睡していた一方通行は、語彙が足りない獣のように呟いた。
腹が減っては戦はできぬ。長期間に及ぶ大規模の戦闘を控えていても午前の授業が終われば空腹になるのが学生の定めであり、四人は仲良くとはいかないかもしれないが共に食堂へと向かっていた。授業が終わって特に雑談してはいなかったのだが、諸事情により授業が早く終わったクラスの生徒、教室の配置の関係で食堂にすぐにたどり着いた生徒が既にいるため四人が座れる席を探すのは一苦労かもしれない。
「……、」
美影も四人分の席を探す。
すると、見慣れてはいるが、長点上機学園では見覚えが一度もない白衣を着た男が女子生徒数人と一つのテーブルを囲んでいたためちょっと絶句してしまった。
「おい御坂、席みつけたぞ」
「悪いけど先に食べていて」
「?」
削板に一言告げて三人から離れた美影はその男の席に向かう。
「…………、」
その男は、いつもは髭が所々にポツポツと伸びていて、天然パーマが無造作に爆発しているが、今は髭には剃り残しがなく、髪も見苦しさも不自然さもない程度に整えられていた。そしていつもは白衣を脱げばそのままパジャマと称されても疑われない服装をしているのだが、今は皺一つない純白の白衣の下には洗い立てのように汚れ一つないスーツが着用されている。
「お、御坂」
第23学区に建てられた、御坂美影の『無限重力』の専用の研究施設の責任者である、学園都市でも有数な凄腕研究者の男が、優雅に大人の男の色気を撒きながらそこに座っていた。
「…………、何しているんですかこんなところで」
「ん、ちょっと重要なことがあってね。時間もないから直接来たんだよ」
艶のあるテノールボイスで研究者の男は言った。
「じゃ、御坂君も見つけたから俺は席を外すよ」
研究者の男は美影を一瞥し、ここから移動するよう指示する。美影の担当研究者はダンディな紳士であるという印象を植え付けられた女子生徒たちは二人の背中が見えなくなるまで頬を少し染めながら見つめ続けていた。
◆
美影は研究者の男の指示に従って校舎から出て、人の気配が全くない校舎の影に移動させられた。おそらくこれから交わす会話を監視カメラに記録されることが不都合であるからだろう、と予想した美影は文句の一つも言わない。
しばらく歩いて、研究者の男は立ち止まって美影の方へと振り向いた。その時男の顔にはいつも通り朗らかで飄々とした表情があった。
「……、どういうつもりですか。滅多に人前に出ないアナタがあんな人にあふれるところに来るなんて」
「いや~、さっきも言ったとおりちょっとした用事があってね~。っていうかちょっと人に酔って気持ち悪い」
「目の前で吐いたらそれが血に変わるまで腹を殴りますよ」
物騒極まりないことを美影が言うのは、この研究者の男が人前に出ることに常に
「ひど~い。そんな感じで一体何人の女の子を泣かせてきたの~?」
「冗談言ってないで、」美影は単刀直入に「アナタがここまでして俺に言いたいことって何ですか?」
研究者の男は小さく笑い、呼吸と気持ちを整えてハッキリと要件を言った。
「御坂くん、大覇星祭の選手宣誓やらない?」
「やだ」
半瞬の思考も要さずに美影は回申の全てをたった二文字に集約させることを成し遂げた。
研究者の男は左手を腰にあて右手で顔面を覆い、悲壮を全力で表現した。
「ひど~い。そんな感じで一体何人の女の子を泣かせてきたの~?」
「二度も言わないでください」
「慣れないスーツに着替えたのに~。おれ甘党なのにカッコつけて無糖のコーヒーを女の子たちの前で飲んだのに~」
女の子ではないが、泣きそうである研究者の男は右手も腰に当て、前かがみになりながら大きくため息を吐いた。
子供のように駄々をこねるが本気で愕然としているように見えなくもない。しかし、そんなどれが演技なのかわからない男の行動を見ることを通して、美影には気がかりなことがあった。
「
「おっ、分かっちゃう?」
大覇星祭の宣誓という大役を頼み込むにも、研究所に美影を呼ぶなり携帯に電話に掛けるなりすればいいのだが、この男は慣れないことをいくつもしてまでわざわざ美影の目の前に来た。
それは学園都市にとっての重要事項ではなく、他に関係ない御坂美影単品に対して重みのある要件があるのではないかと思えてならなかった。
「
「――――――実はな、」
研究者の男の声色はどちらかと言えば女子生徒といた時のものに似ていた。低く、暗い、学園都市の『闇』に適合した、陰湿な性質を持つ声。
言外に美影に何らかの『覚悟』を要求するような立ち振る舞いを、研究者の男はしていた。
「――――――
「はぁ!?」
柄にもなく美影は驚嘆を露わにした。
すぐさま辺りを能力で視渡し、この会話が誰かに聞かれていないかを確認する。
「な、何であれが!?」
「分からない。分からないが、二か所に漏洩したのは確かだ」
「二か所も……、一体誰に?」
男は両手を白衣のポケットにいれる。そして困ったように若干俯いた。
「一つは『スクール』。こっちはおそらく問題ない。動きがあるならもう学校でお前に何らかの形で手を出しているはずだが、そんなことはないだろ?」
「垣根が……」
美影はここ数日の彼の言動を思い返すが、あの『実験』に関する単語は一つも出てこなかったはずだ。害がないならそれでいいのだが、その『実験』が如何に異質な重要性を持つかは垣根なら瞬時に把握するであろう。
「もう一か所は、……悪いがまだ分かっていない。だからお前に選手宣誓をやってもらいたいんだ」
「何故、選手宣誓を?」
美影は片眉を曲げる。
「ああ。お前がどういう形であれ、目立ったことをすればおそらく向こうから関与されるだろうからな」
つまり、この研究者の男が言いたいことというのは、
美影が可能な限り他の人々を危険に晒したくないという思想を抱いていることを重々承知している研究者の男が考慮しての結論なのだろう。
美影は腕を組んで、視点を空中に朧に止めて黙考する。
(だが、……あの実験は……)
「お前が言いたいことは分かっている」
研究者の男は美影の思考を読み取る。
「確かに、あの実験はまだ
「なら、なんで……?」
「それだけ、あの実験は『魅力的』なんだ。机上の空論になりつつあるが、あれから生まれる結果はそれだけ偉大というわけだ」
同時に危険が隣り合わせであるが、と研究者の男は付け加える。
被験者である美影だからこそ分かる危険も存在する。万が一、それがどんな形であれ何者かに利用された場合は大勢の人間を巻き込む可能性がかなりある。
そのためにも、そうならないためにも、
「――――――解りました。それなら選手宣誓は引き受けます」
相手の矛先が自分に集中するなら、これほど望ましいことはない。
無関係な人物を危険に晒さないためには、美影は自分の血が流れることなどまったく厭わないのだ。
「そうか。よかった」
研究者の男は安堵の息を漏らした。
「なら、」
そして彼は続けて言う。
「俺の予想じゃ恐らく常盤台の食蜂操祈とやることになるだろう」
「は?」
さらりと付け加えられた重大事項を聞き間違いであってほしいと心の底から願った美影は顎を前に出して瞬きを数回した。
「ま~、まだ決まっちゃ~いないけど、もうすぐあっちにも勧誘がくるだろうから。あ、お前が引き受けたことが向こうに伝わるよう手配しておくからね~」
気づけば研究者の男は聞き手には不愉快な飄々とした口調に返り咲いていた。
「え? ちょ、き―――木原さん!?」
「それじゃぁねえ~~」
研究者の男は美影に背を向け手を振りながら白衣を風になびかせて立ち去って行った。競歩並の速度を誇る男の逃走はあっという間に完了し、人の気配がない校舎裏に美影は一人残されてしまった。
誰にも聞こえない呟きで、美影は現実逃避の幕開けに挑戦する。
「何てこったい」
◆
学舎の園。
一般の街の風景とは質の違うこの空間にある、とあるカフェ。
「絶対絶対ぜーったいやりますぅ!!」
一人の少女の士気と元気に満ち満ちた欲望の叫びが響いたらしい。
前書き通り、一話前の後書きで書いたカミングしない嘘予告は冗談に過ぎない与太話です。
万が一、あれを実現するならにじファン時代におまけでやっていた妄想三次小説をするしかないですね(解る人には解るでしょう)。