とある六位の無限重力<ブラックホール>   作:Lark

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チカラ

 

 

 

 

『――――――さん、四校対抗障害物リレーで見事一位を獲得!! これにより、霧ヶ丘女学院の順位が上がりますッ!』

 

 

(…………ぉー……、)

 

 御坂美影はとある大型パーキングエリアで、最寄りの大型ビジョンを通して大覇星祭のあるべき姿をのんびりと観戦していた。

 先ほどの情報収集で優秀なメイドから馬場の潜伏先として考えられる地点を知ることが出来たのだが、あまりにも優秀すぎたことにより調査すべき個所がぶらり散歩気分で数珠つなぎ出来るほどの数ではなかったので、一方通行と二手に別れて巡ることになったのだ。

 そして美影は七つ目のポイントにたどり着き、重力を感知することで駐車されているトレーラーの中身も直接手を出さずに調査しつくしたが、人っ子一人いないという切ない連鎖が続行中なのだ。

 次はどうしたものか、と悩んでいるとポケットの携帯電話のバイブ機能が働き始めたため、美影はそれを取り出してボタンをプッシュして耳に当てる。

 

『ココもハズレだったぞ』

 

 相手は一方通行だ。

 一か所を調査するごとにこうして報告することを頼んでおいたのだ。

 

「そっか、分かった」

 

 どこか味気ない声で美影は返事をした。

 

『……なァ美影、まさかとは思うが』

 

「んー……、多分お前が考えていることは正しいよ」

 

 大型ビジョンを隔てて表彰台に立つトップスリーの選手をぼんやりと見上げたまま、美影は賛同する。

 それは調査を開始する前から彼は予め想定していたことだった。

 

向こうにこっちの行動が把握されてンな(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「おそらく、街中に設置されているカメラか衛星でずーっと監視されているな。もしトレーラーに乗っているなら俺らの行動に合わせて移動すれば永遠に見つかんないだろうね」

 

『ならどォする? カメラがハッキングされてンなら逆探でもすンのか?』

 

「んー……」腰に手を当てて沿うようにストレッチをし、「一方通行ってこの後競技とかあるか?」

 

『あン? まァ、大玉転がしがあるみてェだが』

 

「ならそっちに行ってくれ。下手に辞退したら不審に思われるからさ」

 

『美影はどうすンだ?』

 

「もうちょい調査するわ。ちょっと思いついたことがあるから」

 

『……、そォか』

 

 一方通行は何も異議を唱えず美影の指示に従うことにしたのか、そこで通話を切った。

 美影は小さく息を吐いて、携帯をズボンの左ポケットに突っ込む。そして、両手をパーカのポケットに突っこんでゆっくりと歩きながら思考を始めた。

 

 一方通行には何かしらの手立てを暗示したが、実のところ今すぐできる策など無かった。

 

 大覇星祭前に仕込んだ罠に引っかかれば一気に挽回できるが、条件が揃わなければ無駄な努力で終わってしまう。

 通常とは違い、人の目が多いこの大覇星祭期間中、美影の行動はかなり制限されている。無論、相手側(・・・)も例外ではないのだが、競技中に薬物を撃ち込んだりするほどの度胸と兵器を兼ね備えられているだけ分が悪いのが現状だ。

 いずれにぜよ、美影の能力を必要としているなら今後も何らかの接触があることは自明である。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「どういうことなの……?」

 

 美琴は御坂妹の病室にいる。

 そして彼女が来たのとほぼ同時に、御坂妹が目を覚ました。そのため、美琴は情勢の説明を被害者という形の当事者である彼女に荒々しい心持で求めるが、まだ身体が万全ではない御坂妹の朦朧としつつある意識の中では上手く語彙が引き出せないでいる。

 

「ミサカは、……競技が終わってお姉様からいただいた食券を使おうと……、歩き出したら……カラダが動かなくなってしまって、……気づいたらお兄様に抱えられていて……と、ミサカは、思い出します……」

 

「で、美影は今どこにいるのよ!?」

 

 入れ違いであったらしく、病室には彼女しか残っておらず、美影や一方通行、そして打ち止めの姿はなかった。

 御坂妹にしては、美影がいた時は意識がなかったため、目が覚めた直後にミサカネットワークから打ち止めの信号を受け取ったことで顛末の一部を知らされているだけで、ハッキリ言って今の彼女は大人しくすることが先決であり、それが美影の意志であるとしか理解し切れていない。

 

「お兄様は……分かりません。他のミサカも知らないそうです……と、ミサカは報告します」

 

「……ッ!!」

 

 おそらく、美影は一人で見据えていない相手に立ち向かおうとしている、と美琴は自分に助力を求めずに突っ走り出した兄を苦々しく思いながら妹に背を向けた。

 

「どうなさるつもりですか? とミサカは尋ねます」

 

 美琴に聴く耳がある間に差し止めようと、慌てた口調で御坂妹は姉を足止めする。美琴は背を向けたまま、当たり前のことのように宣言する。

 

「美影に手を貸しに行くに決まっているじゃない」

 

「お兄様は、お姉様の身も案じています。もしお姉様が人質になったらお兄様に迷惑がかかります」

 

「私はッ!!」美琴は強く拳を握り、「……美影と同じ、レベル5よ。そう簡単に捕まることも、美影の邪魔になることもない」

 

 妹として大切に扱ってくれることを、彼女は少なくともありがたいとは思っている。しかし、同じ強度(レベル)に辿りついても、序列が上回ったとしても、実力を認めてもらえていないという侮辱のように被りつづけてしまう。

 この歯痒さは、今までにもあった。

 例えば、彼が中学校を途中で止めてしまい、籍だけを置くという形になってしまった時。その時、美琴はどう考えたのか。何らかの事情があることは確信しても、その詳細はどれほど考えても妄想の枠組みから抜け出せない。

 

 何故なら、彼は何も教えてくれないからだ。

 

 だが兄は無意味なことを大げさな形で実現するはずがない、と美琴は確信している。ならば何かの負荷が彼にかかっているのかもしれない。そして今回の妹の負傷が、どんな形であれ彼の人生に関わっているとしたら、と考えると美琴に落ち着きなど芽立つはずなどない。

 

「ですが、お兄様はお姉様に手を貸していただくことを望んではおりません、とミサカは断言します」

 

 美琴は御坂妹へ振り向いた。

 目は血走る寸前まで開かれており、そこには矛先が定まっていない怒りが備わっていた。

 

「なんで、そんなことがアナタに分かるのよ……!?」

 

「お兄様は、そういう方だからです(・・・・・・・・・・)、とミサカはお姉様の目を真っ直ぐ見つめます」

 

「――――――!」

 

 美琴の心の波が僅かに静まった。

 御坂妹の感情の表現が疎かな表情に、美琴ですらわかる揺らぎが感じ取れた。

 この少女も、兄が全てを乗り越えられると信じ切っているのではないのだ。彼に迫りつつある危機に対して憤怒を抱かないはずもない。

 

 何故なら、彼女も御坂美影の妹なのだから。

 

 加えて、彼女は人質になりかけて彼の手を煩わせてしまったのだ。胸懐では、おそらく美琴以上に憂惧の念が高まっているだろう。

 

 

「…………、わかったわ……」

 

 

 美琴の拳が緩んだ。

 それとは正反対に、自制心は少し、固まった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 美影は次のポイントに進んでいた。 

 今彼がたどり着いたのは何かの倉庫のようで、シャッターが閉まった建物が彼の左右で並べられている。そして周囲は高層ビルに囲まれているせいか、昼間なのに陰に覆われている。

 ここに来るのに、美影は今までの移動よりも時間をかけた。ハイペースな調査はただ体力を奪われてしまうだけだと悟り、また美影には潜考するのに時間が必要であったからだ。

 妹を狙ったのはおそらく馬場芳郎で間違いはない。それは『タイム』で得た情報が物語っている。馬場のここ最近の行動は顕著で、運搬機器の使用も多く、だからこそ今美影が足を運ばなくてはならない箇所が学園都市中に散りばめられているのだ。

 

「…………、」

 

 美影は倉庫を二つの目で見渡す。

 倉庫のシャッターの数だけ監視カメラが設置されており、シャッター内部に保管されている物品の盗難など起こることはないだろう。

 大覇星祭という行事に街中が巻き込まれているが、この場に届く、競技で響き渡る騒音は目算でもキロ単位の遠距離から来るものだ。

 

 さらに、美影はシャッターで視認できない倉庫の内部を働く重力を感知して隈なく視渡す。

 人間らしき生命体は確認できない。これまでと同じで、正直彼は期待をしていなかった。

 

 しかし、彼の目つきが変わった。

 

 

(…………、当たりか(・・・・)?)

 

 

 目を細くし、透視などできないが彼はシャッターの奥にピントを合わせる。

 その先に、『裏』の匂いがあったからだ。

 

 

「…………!」

 

 

 彼の視点が下がる。

 ズボンの右ポケットに入れられたスマートフォンが振動しだしたのだ。取り出し、画面を見るとそこには非通知という三文字が表示されていた。

 美影は画面上で押し間違えることなく、通話を受け入れた。

 

「もしもし」

 

 唇を意識的に動かし、事務的な声色で挨拶をする。

 

『やあ、御坂美影くん。久しぶり、が正しいのかな?』

 

 その声は相手を見下すように問いかけていた。

 美影はスマートフォンを持っていない手をズボンの左ポケットに突っ込む。

 

「やあ、馬場芳郎クン。高みの見物は楽しいのかい?」

 

『ああ楽しいね。少なくとも、自分の安全を保障せずに妹を守ろうと学園都市中を動き回ることよりは楽しいよ』

 

「……、やっぱりオマエか(・・・・・・・・)

 

 少し、美影の声のトーンが下がった。

 その変化を合図にしたかのように、彼を挟むように二直線状に建てられている長い倉庫のシャッターが全て同時に開きだした。ガラガラ、と音を立ててゆっくりと。

 全てが開ききったとき、ビルに囲まれたこの薄明るい空間では辛うじてそれらのシルエットが目視できた。美影は目を細め、重力を感知して捉えた形状を改めて目で確認する。

 

取引だ(・・・)、御坂美影』

 

 倉庫の中から、多数のロボットが歩き出してきた。

 それらは、動物の身体的特徴を模しており、中には複数の動物を合成したデザインをしたものもあった。

 

「……どういうつもりだ?」

 

 冷めた目で兵器を見渡し、白けた声色で馬場の真意を問う。

 

『クライアントが君を欲しがっていてね。もし、君がこの電話で降伏するなら君の妹達にはもう手を出さない。君を取り囲んでいる僕のロボットたちも君を攻撃しない。無傷で運ぶことを約束するよ』

 

 おそらく馬場はロボットの遠隔操作を正確に行うためにこの場にある監視カメラを全て制御しているだろう。ならば今、鋼鉄の動物公園に無防備で放置されたような美影を鼻で嗤っているのだろう。

 

「俺が首を横に振ったとき、この程度の兵器で俺を捕まえられるとでも?」

 

『ははっ! 僕は何も戦争を始めようとしているわけじゃあないさ。だから言っているだろ、『取引』だと。そこにそれらを置いてきたのはあくまで保険だよ』

 

「…………、」

 

『おっと言い忘れたが、今、君の周囲には君の妹の偽物にお薬を撃ち込んだ超小型のロボットが大量に飛び交っている。もし、君が僕に歯向かう気だったらまずそれらが君を襲う』

 

「…………、」

 

『さあ、選べ。妹と道連れか、もしくは――――――』

 

「バーカ死ね」

 

『………………』「………………」

 

 語彙もへったくれもない生理的な拒絶が電気信号となって送信され、馬場の耳に明瞭な短い暴言が届いた。

 その簡便な一言が、一瞬馬場の思考を停止させ、数秒後に反動となって傲慢と憤怒が倍増する。

 

『ッ……!! どういうつもりか分かっているんだろうね? 僕を怒らせるってことがッ!!』

 

「ちょっとは体を動かせよ豚が。体脂肪率とプライドだけをご立派に育ててんじゃねーぞコラ」

 

 美影は発言に必要でない顔の筋肉の力が抜けている。

 片足重心で立ち、臨戦態勢とは程遠い。

 しかし彼の心は、真っ黒に染まり切った。

 

――――――馬場が口よりも手が先に出る性質だったら、ここまで美影に『怒り』が溜まらない。

 

――――――馬場が初めから美影に流血を強制してたら、美影もまだ穏やかに反撃していた。

 

 だが、コイツはやってはならない禁忌をした上に、言ってはならない妄言を吐いた。

 

 

(――――――だァれが、偽物(・・)だって……?)

 

 

 たった一言で、美影に残っていた人間としてのほんの僅かな厚意は消滅し、あらゆる仕事での殺害対象(ターゲット)に向けた冷徹で冷血な『化け物』が彼の心を支配する。

 

 モニターには映りえない鬱憤のことなど露知らず、馬場は最後の判決を下す。

 

『もういいや。最悪、脳以外がボロボロでもクライアントは構わないらしいから、薬漬けにして後で君を取りに行くことにするよ』

 

 直後、裸眼では見えない蚊型のロボット百機が彼に襲い掛かり、逃げ場がないほどの角度から同時に、地球上の動物は持ちえない暴力を銀灰色の猛獣が振りかざした。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 馬場は美影がたどり付いた倉庫から数キロ離れた大型駐車場にトレーラーを停車して、その中から彼の姿を確認しながら通信していた。

 あまりにも無作法な彼の態度に逆上したため、『メンバー』のリーダーである博士から譲り受けた兵器全てを同時に消費してしまった。

 そのせいで倉庫の地面は一気に抉れ、アスファルトの下に広がる大地の土砂が舞い上がったことにより美影の姿が見えなくなってしまった。オマケにロボも隠れてしまったため、操作もままならない。

 だが、依頼者が送信してきたデータの中にあった、彼の能力の十八番であるブラックホールでの抵抗や、ワームホールでの逃走が無かったことは断言できる。

 ブラックホールを用いたのなら土砂がこれほど舞い上がるはずもない。ワームホールを用いたのなら砂煙がどこかに流れているような光景があるはずだ。

 

「こーれーは、やりすぎたのかな?」

 

 画面が黄土色に埋め尽くされたことで被検体の提供者としての小さな責任感により焦りが出てきた。

 カメラから送り届けられ続けている轟音が止んた瞬間から次第に砂は重力によって地へと沈んでいった。まず初めにロボの金属光沢特有の反射光が見えた。

 そして、美影の姿が頭から足まで余すとこなく確認できた。

 

――――――無傷で立ち続けている、彼の五体満足の姿が。

 

「――――――なッ!?」

 

 馬場は画面に食らいついた。

 美影が動いた形跡はないのに、ロボの拳が振り切ったことは確かなのだ。その証拠に、彼の足の下にもクレーターが出来ている。

 ロボが彼の姿をセンサーで感知し続けたのだから、上方に跳んだこともあり得ない。そしてロボに故障もないことから彼の力が牙をむき、その余波としてクレーターが出来たという線もない。

 ならなぜ、彼は何事もなかったかのように足を動かさずにいられるのか。

 

『――――――満足か?』

 

 馬場は、通信が途絶えていなかったことに今気づいた。

 彼のスマートフォンは今も彼の右耳に添えられている。一つ、彼の姿勢に変化があるとすれば、ポケットに突っ込まれていた彼の左手が外に出ており、また何かが握られているということだ。

 

――――――彼の低い質問から長くしない時、馬場のロボが音を引き連れずに一瞬で消え去った。

 

「!?」

 

 ブラックホールではない。 

 それならば黒い流動体が作り出されるはずなのだが、そんな現象は起こらなかった。

 

 そして、美影の姿も煙のように忽然と消えた(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「な!? ど、どこに行った!!」

 

 

 トレーラーに設置されたすべてのモニターを嗅ぐように顔を寄せて一つ一つ目を凝らす。

 だが、美影はおろかロボの破片すら発見できない。

 倉庫は禍害の足跡のみを残し、もぬけの殻となったのだ。

 

 馬場の頬を汗がつたう。暑さで滲み出るものとは質が違い、彼の不快さへと助長し、逆に瞬きを忘れた目は乾きを招く。

 

 

「――――――!?」

 

 

 居場所の解らぬ化け物に恐怖を抱いた彼の背後に、得体のしれぬ気配を唐突に感じた。悍ましく凍り付いたような背を隠すように素早く振り向く。

 その意識は隠滅が比較的困難な音による訴えでは無かった。まして匂いでも、光でもない。

 触覚、彼の肌がわずかな違和感を吸収したのだ。

 トレーラーの中には誰もいないはずなのだが、不意に空気の揺らぎがあった。

 恐る恐るトレーラーの後部へと動こうとしたが、その必要はなかった。

 床が、傾いたのだ。

 

「な!?」

 

 トレーラーの中央から後ろ半分が(・・・・・・・・・・・・・・・)持ち上げられたのだ(・・・・・・・・・)

 内部に光が差し込み、四輪により保障されていた安定が崩れ、馬場がいるトレーラーの前方半分が何かによって切り裂かれた後方へと傾く。急斜面となったことで床に尻もちをつき、両手でこらえるも滲んだ汗で滑ってしまった。

 

「くっ!!」

 

 全身に力を込めて強引に摩擦を増大させて、トレーラーから飛び出る寸前で止まり切った馬場が見たのは、トレーラーの半分を右手一本で持ち上げる、重力を掌握した超能力者だった。

 馬場は、まるで空き缶を捨てるかのようにトレーラーを投げた美影に歴然たる畏怖を抱いた。

 

「ど、どうしてここがわかった!?」

 

 馬場は先ほどの倉庫の位置など地図を見るまでもなく知り尽くしていたが、美影は馬場が待機していた場所など知らないはずだ。

 それでも確かに、馬場を睨み殺さんとしているのは目の前の御坂美影に他ならない。

 

「これだよ」

 

 美影はズボンの右ポケットからスマートフォン、左ポケットから携帯電話を取り出した。

 その右手にあるのは馬場がコンタクトをとったものだ。

 

「俺は携帯とスマートフォンを一台ずつもっているから、もしも俺に接近してくるならどちらかにかけてくるとだろうからな。そうなったら逆探するよう警備員の一人に頼んでおいたんだよ」

 

 美影は大覇星祭が始まる前、『タイム』に属する警備員にもし美影に不審な通知があったらすぐに発信源をハッキングで探知するよう手配しておいた。

 それに成功したら、不審人物から通信されていない方に発信源の位置を送信することになっており、馬場の兵器が一斉に美影に襲い掛かった瞬間に彼の携帯電話に馬場の居場所が送信されたのだ。

 

「序でにこれを返しておくよ」

 

 手に持つ二機をポケットに入れた美影の背後に、石ころサイズの真っ黒な渦が一つ発生した。そこから、渦よりも遥かに大きな馬場のロボット全てが捻れる様に飛び出してきた。否、捻れを修復するように飛び出したそれらは正常な形状を取り戻して美影の背後に散らばり落ちた。

 だが、それらは所々に故障が見られる。あるところは割れ、千切れ、砕け、抉れ、機能停止には十分すぎる損害をそれらは背負っていた。

 これは、実質空間移動に部類するのかもしれないが、ワームホールとは明らかに異なるチカラだ。こんなものは知らされていない、と馬場は未知の能力に更に脂汗をかく。

 

「く、そッ!! お前、自分がやったことの意味を分かっているのか!?」

 

 正面の化け物に見下されていても、馬場は意識を崩さない。

 まだ、やりようはいくらでもあると疑わぬその表情は、美影にとっては滑稽でしかなかった。

 

「僕に手を出してみろ!! 僕の仲間がお前の妹を襲うぞ!!」

 

 その脅しには彼は太刀打ちできない、と馬場は確信し続けていた。

 

「お前の妹は世界中に蟻みたいに大量にいる! そ、その内一人を捕まえることなんて造作もないんだ!!」

 

 美影の足が前へと動き出した。

 一歩一歩近づくごとに馬場の震えは激しくなり、坂道となったトレーラーの床を手と足と尻で上るようにして美影と距離をとることを試みる。

 トレーラーの断面から一メートルの距離で立ち止まった美影は、ゆっくりと口を開く。

 

「馬場、」

 

「お、お前が僕に手を出せるはずがない!! そうすればお前の大事な大事な妹達が傷物になるんだからなぁ!!」

 

 体では拒否反応を露わにしても、馬場の驕りは美影への敗北を許さなかった。

 そんな憐れで醜い雑魚に、美影はため息を吐く。

 

 

「――――――頼むからさぁ、」

 

 

 美影の怒りは頂点に達していた。

 妹への襲撃直後や病院では妹達第一号や打ち止めに怖がらせてしまうという理由で、強制的に押し殺していたその煮えたぎった重々しい怒りを抑え込められるものなど今は存在しない。

 

 

 

 

「――――――無意味な言葉を吐いてくんない(・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 

 

 

 馬場の足掻きは等閑できない騒音だった。

 単語一つが癇に障り、文節一つが苛立ちを生み、口述一つで殺意へと昇華する。連続されたその屈辱は、美影から遅疑を奪い去る。

 

 美影がゆっくりと、まるで焚火にかざすように手の平を馬場に向けた。

 直後、馬場の左脹脛の一部が捻じ切れて穿つ(・・・・・・・)。ドリルで抉るように、馬場の足に空洞が作られた。

 

「がああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 手で力強く抑えても破裂した水道管のように勢いは止まらず、血が流れ続ける。

 

「あの子についた傷は、確かそのあたりだったな」

 

 氷のように冷たい声だった。

 悲鳴と涙と鼻水が馬場の歪んだ顔面から流れ出るが美影の感情に変化はない。

 

 

「死ぬ前に教えろ。お前の依頼人は誰だ?」

 

「し、知らない!! 本当だ嘘じゃない!!」

 

 生命の危機に追い込まれた馬場に、言葉を偽るほどの余裕はなかった。依頼人の声は通信で聞いたが、顔や名前などの個人情報は教えられていない。

 それは『裏』では珍しくない依頼方法で、美影も経験があることだった。

 

 

「だったら、」

 

 

 美影は止めない。

 妹を巻き込んだ今回の事件の黒幕を突き止めることを。

 

 

 

俺を配送するはずだった場所(・・・・・・・・・・・・)を教えろ」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 第七学区のとある地下。

 薄暗い部屋に置かれたソファにとある男が仰向けに寝そべり、ソファの肘置きに頭を乗せて腹の上にノートパソコンを乗せていた。見た目からして高校生ぐらいの年齢だろうか。

 

「あーぁ。馬場芳郎のやつヤられてやーんの」

 

 画面にはとある監視カメラの映像が映り込んでいた。

 男は両腕の頭の上で伸ばしながら大きく欠伸をして、少々満足したような顔をして画面の先の少年を見つめる。

 

「でも、それはアナタの予想通りなんでしょ?」

 

 この部屋にはソファともう一つ、システムデスクが置かれている。

 そこに座っているのはとある少女。小学生か中学生か見分けにくい容姿で、彼女は足が床に届かない高さに固定されたオフィスチェアに座りながら、ハサミで何かが印刷された紙を切っていた。

 

「さーね、あそこで大人しく捕まってたらそれはそれで面白展開なんだが」

 

 カメラのハッキングは止め、ノートパソコンの画面から映像が消える。

 次に保存されていたとあるデータを表示させた。そのデータは『メンバー』の情報の隣に置かれたフォルダに収まっており、それをダブルクリックすると画面には四人の少女の顔写真が出てきた。

 

 

 

「――――――次の試練だ(・・・・・)久しぶりに(・・・・・)俺を楽しませてくれよ、美影くん」

 

 

 

 男は加虐的で意地悪な笑みを浮かべ、一人の少年の未来を期待する。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 とあるファミレスに、四人の少女がテーブル席を陣取っていた。

 注文したドリンクバーと各々が外で入手した食料で三時のおやつを堪能している。

 

「仕事が入ったわ。内容は研究所への襲撃者の撃退、もしくは排除よ」

 

 四人の中で年長者と思われる少女が携帯電話の画面に表示された文章を読みながら話題を提起した。

 

「えぇ~~~!? 街中がお祭り騒ぎなのに私たちはどうして労働を強いられるって訳なのぉ?」

 

「いいじゃないですか。そろそろ子供向けの競技にも超飽きてきたところですし」

 

「まだ一日目なのに飽きちゃったの? というかそもそも、きぬはたはまだ子供」

 

 パイナップルの缶詰にフォークを突き刺す少女、大覇星祭期間中限定で放映されるB級映画のパンフレットを見ていた少女、足を投げ出して空中に視線を泳がせていた少女は勝手に話を変える。

 

「はいはい文句は言わないの。結構ギャラもいいからさっさと終わらせて大覇星祭中にパーッと使いましょう」

 

 彼女たち『アイテム』のリーダーである麦野は手を叩いて注目させる。

 

「で、そのインベーダーに関して何か超分かってはいないんですか?」

 

 絹旗は尤もな疑問をぶつける。

 依頼を受けるのは良いとして、撃退の対象者が特定できないのなら動こうにも動けない。

 

 

「細かい情報は手に入らなかったけど、依頼者が言うには――――――」

 

 

 超能力者、序列第四位の彼女は云う。

 

 

 

「――――――相手は私と同じレベル5の誰か、らしいわよ」

 

 

 

 

 

 





 馬場の次は、『アイテム』!


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