とある六位の無限重力<ブラックホール>   作:Lark

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表裏

 六月。

 灰色の雲により輝く日差しが朧になり、いつ雨が降り出してもおかしくない風景だが、学園都市の住人はにわか雨への警戒心はまったく育てていない。

 それはこの街が誇る世界最高のスーパーコンピュータ、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の完璧な未来予知によるものだ。

 秒単位で予報ならぬ予知が行われることで一月前から気象は『決定』されているのだ。

 このスパコンを利用する研究者の中には実験を行わない者もいるらしい。

 

 

 ◆

 

 

「私と、付き合ってください!」

 

 曇天に釣られて気持ちまで暗くなることなく長点上機学園の屋上で熱い告白を決行する少女。

 緊張からか両手は握られていて表情はかたい。それを含めても容姿は秀麗で異性を吹き付けるには十分であろう。

 必死な彼女の目の前にいるのはほかでもなく御坂美影。

 こちらは肩に力がはいることはなく、なるべく朗らかな声色を作り出そうとする。

 

「……えっと、申し訳ないんですけど、」

 

「ええ!?」

 

 罪悪感の演技を試みた美影は少女の大声に正直わずかな安堵を感じた。

 ここで涙を見せつけられてはかける言葉も見つからない。

 

「やっぱり、……私の強度(レベル)が、低いから……?」

 

「え? いや、先輩については何も知らないんですけどね、正直」

 

 能力の強弱を尺度にするこの学園ではあるのだが美影はそんなことは気にも止めていない。

 因みに彼の言葉通り彼女は美影の先輩にあたり、二年生。呼び出しの紙が美影の下足箱に入れられており、このような状況が完成したのだ。

 

「じゃあ、何で?」

 

「上手く言えないんですけど、先輩には気を使ってしまう感じがして、ちゃんと付き合える気がしないんですよね……」

 

「……むぅ~~」

 

 気遣いまくりな美影に歯痒く思った彼女はなるべく可愛らしく口を窄める。

 それに美影は魅了されることなく再度困惑を表情で主張する。脈なし、と察したのか彼女は諦めたらしく、謝罪と別れを告げ、校舎内へとはいって行った。

 美影は少しも後悔も反省もしていない。

 このような場は入学以来何度も経験していた。いちいち気持ちを立ち止めていては真面な日常すら遅れない。

 これは美影だけに当てはまるわけではなく、ほかの三人の超能力者(レベル5)にも当てはまる。

 彼らは各々の手で修羅場をいくつも潜り抜けて来ているだろう。

 

 美影が女子との交際を始めないのには幾つか理由があるのだが、その内最も重視すべき要因は彼しか知らない。

 そして最もくだらない理由はというと、

 

「いつまでそこにいるつもりだ、垣根」

 

「――やっぱりバレてたのかよ」

 

 同じ穴の狢に決定的な場面を目撃されるということが何より気に食わないということだ。

 屋上に設置された太陽光パネルの裏に隠れていた垣根は軽い足取りで美影に近づく。

 そして足に負けないほど軽い口調で感想を述べた。

 

「ま、あの先輩は断るのが正解だな。(ツラ)とカラダはマシなほうだが中身がダメだ」

 

「何か知っているのか?」

 

「あの女、付き合った男を財布同然に扱ってトコトン搾り取るらしい。俺も昨日告られたのがその証拠だ」

 

 奨学金がけた違いな超能力者(レベル5)に片っ端から誘惑するところを見ると本当らしい。二番目であることに若干の不満、三番目の人物に若干の愉楽を美影は感じた。

 

「随分詳しいんだな」

 

「この前遊んだ女子の先輩に聞いた」

 

「…………」

 

「そんな牛乳を吹いた雑巾を見るような目で見るなよ」

 

「興奮するのか?」

 

「しねえよバーカ」

 

 くだらない言葉を交わす彼らはこの二か月ほどでクラスメイトほどの交友関係を築いてはいる。しかしどちらも学園都市の『裏』の住人であるため隠された顔には何が浮かんでいるのか探り合っているのかもしれない。表で際立った行動をしてしまうことがないほどの常識はどちらも身に着けているのだが。

 二人で校舎に入りながら他愛無い話をつづけながら垣根は思う。

 

(コイツ、顔は十分マシなんだがなぁ)

 

 同性の彼から見ても美影は顔が整っている。自分と同等というのが垣根の美影に対する評価だ。

 それでも自分のように振る舞い生かすような活動に参加することがほとんどない美影を勿体なくも思っている。

 

「そうだ」

 

「何がだ?」

 

 突然の思いつきの発言に美影は首をかしげる。

 

「美影、お前明日ヒマか?」

 

 今日は金曜日。明日は土曜、休日だ。

 脳内の予定帳を検索したが特にヒットする項目はない。

 

「ヒマだけど、何で?」

 

「明日、第7学区のJoseph'sに11時集合な」

 

「……何で?」

 

 Joseph'sとはファミレスの名だがそこに呼び出されてやることが思いつかない。

 そもそも他の生徒にも声をかけるのだろうか。

 

「要件は明日言うから絶対来いよ。来なかったら殺す」

 

「殺されるのか俺は」

 

 あきれながら美影は教室へとはいって行った。

 同じクラスの垣根も勿論共に。

 

 

 ◆

 

 

 翌日、美影は時間通りに待ち合わせ場所に到着していた。周囲を見渡したが、呼び出した垣根の姿は見えない。約五分後、問題なく現れたのだが。

 

「んで、何が目的なの?」

 

 ため息交じりに美影は釈然としないと言いたげな視線を向ける。

 しかし垣根は馴れ馴れしく肩を組む。

 

「まあまあまあ、そんな顔すんなって。とりあえず店ん中入るぞ」

 

 まさか二人で昼食をとることが目的ではないだろうか、などとは露程思わない美影は、垣根のテンションから数通りの察しをつける。

 どれも碌でもない予想ではあるのだが、それなりの自信はある。

 ドリンクバーを二人分だけ注文した垣根は取り合えずお好みの飲み物を用意させ、席に向かい合ってつく。

 特に思い切ることなくさらっと目的を告げた。

 

「ナンパするぞ」

 

「……頑張れよ」

 

 予想通りだったことに優越感を感じることなく成功を祈った。

 

「違えだろ。お前もやるんだよ」

 

「何で俺まで。垣根一人でやれよそんなこと」

 

 乗り気じゃない美影に垣根はわざとらしいため息を誇示する。

 やれやれと言わんばかりに両手を広げた。

 

「いいか、美影。俺たちは超能力者(レベル5)だ。この街に7人しかいねえ。そんなアピールポイントをここで使わなくてどうする?」

 

 垣根は言葉をつづけるが美影は視線を向けるだけで耳はほとんど働かせていない。

 

「しかもお前は顔がいい。俺と組めば最強だ」

 

「……それなら一方通行や削板も誘えよ」

 

「あいつらはダメだ。一方通行はモヤシでコミュ障。軍覇は根性バカ。足手まといになるに決まってる」

 

 削板はともかく、一方通行に今の言葉を報告すれば戦争が起こるだろう、などど学園都市の危機を穏やかに考える。

 

「んで、今日の活動場所なんだが―――」

 

 垣根はスマートフォンを取り出し、地図のアプリケーションを起動させた。

 覗いてみると幾つかチェックが打たれている。

 色は三色。青、黄、赤であり、それぞれ意味がある。

 聞いてみると、青から赤へと三段階でお勧め度が下がり、、第7学区の評価が一番高いことが伺える。長点上機学園がある第18学区は霧が丘女学院近辺以外は赤信号だ。

 

「…………」

 

 美影が口を出さないでいると垣根は口を閉じることなく、学園では見られないほど真剣だ。

 耳を傾け続けていると、ふと声が聞こえなくなった。

 

(……?)

 

 視線をスマートフォンから彼へと転換すると垣根は美影の後方を見ていた。

 振り向いてみると、そこにはファミレスで指定されているウエイトレスがお盆を手にして立っている。

 

「あれが今回のターゲットか?」

 

「違えよ。あれはちょっと肉が付きすぎだ」

 

 目の前に男しかいない状況ではシビアな評価をするのが垣根の癖なのだろうか。

 

「じゃあ何?」

 

「いや、何か困ったような顔しているからさ」

 

 美影にとってほぼ真後ろだったせいで見難かったからなのか、先ほどはそこまでは視界に入らなかった。今度は腰から振り向いてみると確かに困惑の表情がはっきりとわかる。

 彼女の視線の先は、窓側の美影と垣根とは反対に位置する壁際。席の仕切りによって二人は座ったままではその原因が視認できない。

 そこで二人は軽く立ち上がってみた。仕切りは対して高さがあるわけでもなく、高身長寄りの二人が見渡すことは容易であった。

 原因はすぐ分かった。

 周りの客の注意をひかせながらも視線をそらさせている少女が4人。テーブル席に着いていた。

 

 

 ◆

 

 

「あれ? 今日のシャケ弁と昨日のシャケ弁はなんか違う気がするけど。あれー?」

 

 店内なのに明るい色の半袖コートを着込んだこの女は外で買ってきたコンビニ弁当を正々堂々と食べながらこんなことを呟いていた。

 彼女の名は麦野沈利。超能力者(レベル5)序列第四位に君臨している。

 彼女だけでなく、同じテーブルについている少女たちはどいつもこいつも変人ばかりだ。

 

「結局さ、サバの缶詰がキてる訳よ。カレーがね、カレーが最高」

 

 麦野の隣にいるフレンダという金髪碧眼の女子高生はそんな事を言って缶詰に向かい合っている。缶切りがうまく使えないのか、本来ドアをこじ開けるために用いるツールを乱用して爆薬で缶を焼き切った。

 一方、フレンダの向かいに座っている、12歳ぐらいのおとなしそうな少女、絹旗最愛はそうした変人たちの奇行には目を向けず、映画のパンフレットにだけ意識を向け、

 

「香港赤龍電影カンパニーが送るC級ウルトラ問題作……様々な意味で手に汗握りそうで逆に超気になります要チェック、と。滝壺さんはどう思いますか?」

 

 話を振られたのは、絹旗の隣にいる滝壺理后という脱力系の少女。彼女はだらっと手足を投げ出したまま、

 

「……南南西から二つ信号がきてる……」

 

―――彼女達は『アイテム』。

 

 学園都市の非公式組織で、主な業務は統括理事会を含む『上層部』暴走の阻止。

 『裏』に潜む彼女たちだが、こうして『表』の一員として普段は過ごしている。

 

 

 ◆

 

 

「…………」

 

 日頃、奇行を行う少女は妹で慣れているという自覚は美影にはあった。はずだった。

 『アイテム』の存在やその構成員の情報も手に入れていた。はずだった。

 目の前の非日常的光景はそれらの思惑を正面から裏切り、新たな概念が誕生の時を迎えようとしていた。

 一方垣根は、そんな美影の常識的感想(?)を知る由もなく、彼女たちを見るなり声をかける。

 

「お、麦野じゃねえか」

 

「あん? なんで『スクール』のリーダーがこんなところにいるのよ」

 

 声に反応した麦野は不快オーラを発しし始めた。

 彼女は『裏』で死線を彷徨わされた相手に会うことを快く感じるようなM体質ではない。

 かと言って、『表』では顔見知り程度に接し、アドレスも交換しているというやはり非常識は関係を築いてはいるのだが。

 

「訳あってコイツとここにいるんだよ」美影を指さしながら説明し、「そっちに移動してもいいか?」

 

「来たら殺す」

 

「そうか、なら行くわ」

 

 ドリンクを手に持ち垣根は移動を始めた。

 動かず一人残る訳にもいかない美影もついていくことにする。

 運よく、彼女たちのテーブルの横には二人掛け用のテーブルがあった。

 この時麦野は、見慣れた垣根よりも美影のほうへと注意を向けていた。

 今現在は『表』にいるため際立った行動はしない(つもりでいるがしている)彼女たちだが、ここにいるのは『裏』の組織の括りに入る少女たち。

 そこへ垣根が連れていく彼はいったい何者なのだろうか。

 

「アンタ、誰?」

 

 容赦なく麦野は問いただす。パッと見では美影は特徴のない二枚目であり、不審人物ではない。

 対して麦野の正体を知っている美影は彼女が最も解りやすい回答を見つけた。

 

「単なる第6位だよ」

 

 刹那、『アイテム』四人の意識が一気に美影へと向いた。

 今年度、長点上機学園に超能力者(レベル5)が4人も入学したのは彼女たちの耳にも勿論入っていた。年齢を考えると第3位、第5位以外とは考えが至っていた麦野だが、第6位の正体は今まで全くと言っていいほどつかめていなかったのだ。そこでいきなり目の前に本人が出てきたとなれば驚かざるを得ない。

 少女四人に睨まれて特に照れることもなくミルクティに口をつける。

 

「……アンタが第6位……」

 

「そういうそっちは第4位だっけ」

 

「名前は?」

 

 美影に対する情報に一気に欲が出てしまった麦野はまたしても容赦なく尋ねた。

 

「御坂美影。まあヨロシク」

 

「『御坂』!? アンタ……もしかして……!?」

 

 やはり彼女も苗字に明らかな反応を示した。それに慣れた美影は長点上機学園でもこう返している。

 

「多分、今考えているので間違いないよ」

 

 そんな五人を見て垣根は興味深い笑みを浮かべ、麦野へ質問を投げかけた。

 

「そういえば、お前ら『アイテム』はここで何しているんだよ?」

 

 ハッと意識を戻す。しかし美影への警戒心は解かない。

 

「この後『仕事』があるからその打ち合わせをしていたのよ」

 

 麦野はこの時、『仕事』という単語に対する美影の反応に注意を向けていた。

 そして特に疑問を浮かべない彼を見て確信する。

―――彼も、『裏』の住人であると。

 そもそも、超能力者(レベル5)でありながら情報を完全に遮断することなど通常は不可能である。それを可能にする最低条件は光を浴びない闇に隠れること。そしてわずかながら麦野は納得を得る。

 そんな彼女の思考を見抜いている垣根は話を続けた。

 

「殺しか?」

 

 さらりとそんなことを聞けるのは彼らの同類ぐらいだ。

 

「違うわよ。無駄に兵器を手に入れた奴への警告と戦力の破壊」

 

 そこで麦野はあることを思いついた。

 

「そうだ、アンタたちもこの際付き合いなさい」

 

 

 ◆

 

 

「何で真昼間からこんなことを……」

 

 そんなことを呟きながら美影は歩みを続ける。真面な昼食をとる時間を与えられることなく垣根と一緒に『アイテム』の仕事に強制参加されたのでは不満の一つも出てしまうだろう。

 呟いた彼の前に出て、後ろ歩きをする絹旗はうきうきモードだ。

 

「いやー、まさか第6位と仕事できるなんて超うれしい限りですよ」

 

 美影の左隣にいるフレンダは、この世の真理にたどり着いたかのような口ぶりで、

 

「結局、麦野の思い付きには逆らえないって訳よ」

 

 右隣の滝壺は、脱力をトコトン貫いて彼を励まそうと試みる。

 

「大丈夫だよ、みさか。私はそんなみさかを応援してる」

 

 彼らがいるのは第19学区のとある裏路地。

 ただでさえ廃れた学区であるが、廃ビルに囲まれたこの場所には昼間というのに日光が殆どあたることなく薄暗い。4人しかいないのは、二手に分かれての行動であるため。

 目標地点が二か所あるため、麦野と垣根はもう一方へと向かっている。

 

 実は、垣根と美影を巻き込んだ理由は美影の情報を少しでも手に入れるためであった。

 麦野が美影とともに行動しない理由は、無駄に警戒されないため、また麦野の情報を渡さないためでもある。

 そういわれた三人は、手ぶらで帰れば麦野に何されるかわからないと内心おびえてもいるのだ。

 とりあえず、美影のメールアドレスと電話番号を見事ゲットという点はもしかしたら戦果のひとつとなりうるかもしれない。もしかしたらだが。

 

 四人はとある建物に入っていく。

 外観は廃ビルに他ならないのだが、それはカモフラージュで単なる看板であり、本体は地下にある。

 『アイテム』の三人は情報を頼りに廃ビルの中を進む。

 壊れた扉。砕けた窓。カビの生えた壁。どの部屋も現在は使われていないように見えるが、ある一点に美影は違和感を感じた。

 それは床。

 窓はほとんど割れているのだが、破片が床に散らばっていない。そのうえ埃もほとんどたまっていない。

 ここにある部屋で何かしているわけではないが、『通路』として使われていると美影は考えた。

 

「麦野が得た情報によると、地下への入り口はここですね」

 

 そういって彼女たちはとある壁の前に立つ。

 傷やはがれた塗装が明らかだが何か特定の所作により通路が開くのだろう。

 しかし、

 

「超面倒くさいので、楽な方法をとります」

 

 絹旗は、能力を発動させる。

 大能力者(レベル4)窒素装甲(オフェンスアーマー)という能力を有する彼女は空気中の窒素を自在に操ることが可能であり、圧縮した窒素を制御することにより怪力の持ち主のように行動できる。

 それにより繰り出される拳は、コンクリートの壁をモノともしない。

 轟音を響かせ、土ぼこりを巻き上げ、壁を一気に粉砕する。

 

「―――ゴホッ! ゴホッ!」

 

 どこからか咳が聞こえたが視界は曇っている。

 

「……超やりすぎたようですね、ですが手ごたえありです」

 

 反省の色がない絹旗の声が聞こえた。

 そして視界が次第に良好になった時、壁の向こう側を4人は目撃する。

 

―――――――――――――――同じように荒廃した部屋があったのだ。

 

「……」

「…………」

「………………」

「……………………」

 

 し~ん。

 絶句をする四人。

 絹旗は麦野から送信されたデータを見直した。

 

「あっ、こっちでした」

 

 クイッと右へ90度回転。

 トテトテと5メートル直進。

 ドカン。バコン。ガラガラ。

 今度は力加減が確りと調整されたため、視界が塵で埋まることなく地下へと続く階段が出てきた。

 

「じゃ、行くって訳よ!」

 

「おー」

 

(……大丈夫かこいつら)

 

 目のつぶり方が適当でマイペースが過ぎる三人を客観的にとらえると心配の二文字が美影に浮かんだ。

 気兼ねすることなく階段を降りる三人に仕方なくついていく。

 階段からその先は埃がなく綺麗で人の手が加え続けられていることは明白だ。足元を照らす程度の明かりが付いているため、暗さのせいで壁に激突することはない。

 そして10メートルごとに天井と壁の境目に監視カメラが設置されていた。

 

「潜入が超バレバレですね」

 

「向こうから来たほうが都合がいいって訳よ」

 

「おー…」

 

「もう何か来たぞ」

 

「「え!?」」

 

 美影は階段に入ってから周囲の重力の感知を始めていた。

 そのため、薄暗い通路の先にあるモノも視えている。

 三人は目を凝らして前方をよく見る。

 捉えたのは武装服に身を包み拳銃で威嚇する兵隊が十数人。

 

「何者だ、貴様ら」

 

 前に立つ武装兵の声がヘルメット越しに聞こえた。

 警戒心むき出しでいつ撃ち出してもおかしくない状況で、4人は態度を改めない。

 

「名乗るほどではないって訳よ」

 

「ちょっとそこまで超破壊工作しにきました」

 

「………おー」

 

 適当すぎる返答に兵隊は怒りが増した。

 銃を握り直し、狙いを前方の4人に合わせ、指をかける。

 

「ふふふ、ここは私ひとりで超十分ですね」

 

 窒素装甲により脚力を飛躍的にあげた絹旗は前方にミサイルのように跳躍する。

 それを合図に兵隊達は指を曲げ、銃弾を連続で放射。

 鉛玉と銃声が雨のように絹旗を襲う。

 しかし、高圧窒素に包まれた絹旗の肌や服には傷一つつかない。硝煙が限りなく抑制された学園都市製の銃により、その想定外な光景は兵達にも見えた。

 驚きを顔にだし、声を上げる前に絹旗の拳が彼らを襲う。

 触れられた装備から粉砕され、意識が刈り取られ、床にたたきつけられた兵は指ひとつ動かない。

 1分にも満たないその戦闘後、絹旗は気づいてしまった。

 

(…………あ、超ミスです)

 

 今回の目的任務遂行だけでなく第6位の情報収集であったのに、自分だけが片づけては5割しか達成できない。

 このままでは麦野のオシオキが待っているため、少し自制心を作ることにした。

 

 

 ◆

 

 

「こんなことして情報収集か?」

 

 麦野と二人きりになった垣根は隣の麦野に尋ねた。

 

「だったら何? 別に第6位が『スクール』の構成員って訳でもないでしょ?」

 

「まあ、そうだが。勧誘する気がないわけじゃあねえがな。あと言っておくが、アイツのことは2か月以上学園生活を一緒に送っている俺でもほとんど把握していねえぞ」

 

「それはアンタの顔に節穴が二つあるだけでしょうが。一緒にしないでくれる?」

 

「おーおーエグイこと言ってくれるねえ。お礼にもう一つ言っておくが、」

 

 その時、前方に美影たちと同じように武装兵が現れた。しかし数が違い、こちらは50人ほども。

 どうやらこちらが本部だったらしい。

 しかし、どんな兵器を有していようがこの二人は片膝すら地に着かないだろう。

 快楽殺人者のような笑みを垣根は浮かべる。

 

「―――アイツはおそらく、()()()()()()()()だ」

 

 約30秒後、彼ら二人以外の人間の息の根は、完全に途絶えていた。

 

 

 ◆

 

 

「おー、結構広いところに出たって訳よ」

 

 四人はドーム型の空間に入った。

 一辺10メートルほどのシャッターのような壁に囲まれ、その上には監視カメラが設置されている。地下とは思えないほど広大な空間だ。

 ここも照明は不安定でドームの頂上は裸眼では見えない。

 ぐるりと見渡すが誰もいない。

 

『ようこそ、「アイテム」の諸君』

 

 どこからかスピーカーを通した初老の男性の声が聞こえ、ドームに響いた。彼女たちを見て『アイテム』という名を言えるところからするとこの研究所のトップか幹部であろう、と予想をつける。

 直後、シャッターの一つが開き、照明が整い、視界が良好になった。

 シャッターの向こうにあったのは駆動鎧(パワードスーツ)。服のように着込むことで、人間の身体能力や動作を外側から強化する機械の総称だ。

 美影らの30メートル前に現れたのは、キャタピラーを足としているが上半身は人間の形に似ていて両腕がある。

 

「あの大きさは私の管轄外って訳よ」

 

 弱音のようにフレンダは呟く。

 彼女の言う通り、この駆動鎧は高さは5メートルをゆうに越えており、生身で対応するのは無理に近い。

 

『自己紹介と君たちの目的を聞くのは省略するよ。それに―――』

 

 その口調は声色から推察される年齢相応のもので、穏やかだ。

 

『―――君たちには悪いが、この新作の実験台とさせてもらうよ』

 

 駆動鎧のドラム缶より遥かに太い腕が上がり、美影らへと翳された。

 そして4本指の手の平の中心に、直径30センチメートルほどの穴が開く。この穴と同規模の弾であれば被害は甚大に違いない。

 

「……絹旗、あれ防げる?」

 

 先ほど先陣を切った彼女に顔を向ける。

 

「おそらく超無理ですね。ここは第6位にお任せします」

 

 実際はやってみないとわからないのだがここで出しゃばると目的を果たせず麦野のオシオキを出迎える羽目にあってしまう。

 三人の少女は数歩下がってしまった。

 

「おいおい……」

 

 若干あきれながら後退を見送って前へと注意を向ける。

 すると駆動鎧の手の穴から光が漏れだしていた。この僅かな間に発射準備を進めていたらしく、そして完了を済ませる。

 爆音に近い発射音が空間を震わせるのと同時に、一発でビルを数棟破壊しかねない弾が放射された。その音はあまりにも強大で、『アイテム』の三人は耳をふさぐ。

 正直、この瞬間三人は後悔した。

 実力も能力も全く理解していない少年に任せるには敵の力は巨大で。

 麦野であればこの場を征してくれると信じることができた。

 しかし、この瞬間に滅ぼされるなら考えを改めるほどの時間はなかった。

 

―――――滅ぼされるなら、だ。

 

 美影によって作り出されたブラックホールはその兵器を受けとめることも弾き返すこともせず、抵抗なく吸収する。

 対象への衝突が起こっていればその衝撃でこの研究所ごと破壊され、重厚な駆動鎧を着込んだ研究者以外は吹き飛ぶか押しつぶされていただろう。

 しかし、完全に吸収されたその威力により、被害はゼロに近い結果へと導かれた。

 

「「「おーー!」」」

 

『なんだと!!?』

 

 アイテムの三人からは思わず賞賛の声が漏れ、研究者からは驚嘆と恐怖に染められた声があがる。

 そして5秒と間をあけることなく、美影は次の一手へと進んだ。

 壁となったブラックホールは三日月形へと形態変化して駆動鎧へと飛来し、矛となって左腕の付け根を音もなく断ち切る。

 そしてさながらブーメランのように駆動鎧の後方で地面と平行な平面上で放物線を描きながら引き換えし、今度は右腕の付け根を同じく無音で切り落とした。

 

『くっ……そおおおお!!』

 

 研究者は吠えるが、駆動鎧は操作不能になり、切断面からバチバチと火花を散らして後方に倒れてしまう。

 何とか生に食らいつこうとする研究者は駆動鎧から身一つで這い出る。

 

「はぁ、はぁ……はぁ、」

 

 息を切らし、脱出に成功した研究者だが、破壊された駆動鎧によって引き起こされた爆発により、体が吹き飛んだ。

 

「がぁぁぁあああ!!」

 

 運が良かったのか悪かったのか、吹き飛ばされた方向は美影たちがいる場所であった。

 さすがに一人の人間が飛来する威力は生身で受けとめるには強すぎる。

 そこで美影は研究者の体重を軽くして、足で受けとめ、床へとはじいた。

 

「ぐっ……!!」

 

 衝突の衝撃は本来のものより小さかったものの、爆発により作られた傷は行動を蝕むには十分すぎた。

 

「そういえば、」

 

 美影は思い出したように研究者に告げる。

 

「俺、『アイテム』の一員じゃないから」

 

 

 ◆

 

 

 仕事は負傷者なしで完遂することに成功した。

 しかし、なかなかの功績を打ち立てた美影には報酬が山分けされることもなく、気持ちのこもっていない感謝の言葉で別れを告げられた。

 垣根はというと、なぜかその後も麦野に連れられてしまったため彼曰く「ナンパはまた今度」とのこと。

 

 美影は一人、街中を歩いていた。

 時刻は既に夕暮れで、小腹も空いてきたためコンビニによってコロッケを一個購入して歩きながら齧っている。

 半分を食べ終えたとき、彼の携帯のバイブ機能が作動した。

 彼は普段、携帯電話をマナーモードに設定することはないが、着信音の音量をゼロに設定しているため着信を耳に頼ることはない。

 

 コロッケを左手に持ち替えて右手でポケットに入っている携帯を取り出す。

 画面を見ると非通知の文字が映し出されていた。

 しかし不審に思うことなく美影は電話に出る。

 

『コロッケはもう一個向こうのコンビニがおすすめだぞー』

 

 聞こえた声は若い男性のもので、口調は悪友につかうものと同等でとても軽い。

 行動を見透かした言葉をいきなり伝えられるが美影にとって今更驚くような現象ではない。

 

「それは残念ですね。これもまあまあ旨いと思いますけど」

 

 そしてまた一口齧る。

 正直脂っぽいところに眉を寄せてしまいようにはなっている。

 

「で、何の用ですか?」

 

『分かってんだろ? 俺が電話かけているんだからさ』

 

 当然のことのように男は言い切る。

 そして、

 

『「仕事」だ。今日中に片づけろ』

 

 突如、声色が変わる。

 暗く、低く、冷たい、まぎれもなく、『裏』の色。

 彼は、『暗部』の組織の直属の上司である、『電話相手』。

 『暗部』の仕事は、必ずこの『電話相手』から与えられる。

 それは、麦野の『アイテム』も、垣根の『スクール』も、一方通行の『グループ』も例外ではない。

 勿論美影も。

 

―――学園都市、超能力者(レベル5)序列第六位、御坂美影が持つ暗部組織の名は、『スペース』

 

―――構成員は御坂美影ただ一人。

 

―――主な活動内容は、上層部の危険因子の暗殺。もしくはその人物が所有する兵器、研究所の破壊。

 

「……了解、詳細を送ってください」

 

 限りなく感情を抑え込み、美影は了承する。

 『表』では隔てなく優しく振る舞う彼をは別人のように。

 ただの兵器として活動する彼は、容赦という言葉を忘れ、一体の『化け物』となり。

 

 どんな手を使ってでも、任務を遂行させる。

 

 




 

 ついに登場していないレベル5はあと一人。
 その人の登場はもう少し先ですね。はい。


 ◆

 大学に入学して、履修を登録しては見たものの、授業がまだ始まっていないためどんな感じかまだ分かりませんね。
 ………正直、かなり不安です。はい。
 まあ、不安でいてもどうかなるわけではないので仕方ないのですが(泣)
 大学生活、頑張ります。


 ◆


 オリキャラの名前はまだ募集中ですのでドシドシ投稿してください。何度でも歓迎ですので。
 オリキャラの次の登場も少し先になりますけどね。

 あと一つ悩んでいることといえば、
 垣根×麦野を決行しようかどうか、ということですかね。
 美影の最終的なヒロインは決めていますが(多分)。

 てなわけで、次回もよろしくお願いします。
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