はれかぜ艦内は艦橋を始め、敵接近を知った乗員達は既に緊張の糸が張り巡らされていた。
特にCICルームは重圧な空気がより一層漂っていた。
志摩「・・・」
芽依「ああ、早く敵来ないかなー、早く撃ちたいなー・・・」
聡子「物騒な事言うの辞めるゾナ!」
慧「今のところ敵影無し、レーダーに映ってるのはみらいとながとだけですね。」
にも関わらず西崎の呑気な発言に航海士の勝田聡子中尉と電測士の宇田慧中尉がそれぞれ突っ込みを入れる。
慧「しっかし、ながともデカいねー・・・」
鶫「基準排水量:95000t、全長:312mはあるから、やまとやむさし程ではないけど大きいよね。」
通信士の八木鶫中尉はながとの特徴について述べる。
彼女達のこの様な発言は現在艦内に漂う重い空気を緩和させようという計らいであった。
楓「艦橋、CIC、水中は今のところ大丈夫、敵潜の機関音やスクリュー音などは聞こえませんわ・・・」
ましろ「CIC、艦橋、了解した。」
鈴「艦長、間もなく目的地です。」
明乃「了解、両舷最微速!」
鈴「最微速!」
きーーーーーーン、ザザーーーー
明乃「こちらはれかぜ艦長・岬明乃です。
目的地到着しましたので、これより警戒任務に当たります。」
梅津「こちらみらい艦長・梅津三郎、了解しました。
こちらも目的地に到着したので任務を開始します。」
猛「岬艦長、梅津艦長、これより我が艦より航空機を出すので、間違えて撃ち落さないでくれよ。」
午後21時、港を出港した3隻の艦艇はそれぞれの担当位置に着き、警戒任務を開始した。
ぐおおおーーーーん!、ぐおおおーーーーん!、きーーーーん!、きーーーーん!
まゆみ「F3!、偵察機じゃなくてなんで戦闘機を・・・」
幸子「敵機は攻撃が効かないとはいえ速力は精々500Km/h程度ですから、マッハ2以上出せるF3の方が発見されたとき逃げるのに有利、ということでは?」
鈴「三十六計逃げるに如かず!、よく分かっていらっしゃいます!」
明乃「・・・」
ましろ「艦長、私は何だか嫌な予感がします・・・」
明乃「奇遇だね、私もだよ・・・」
普段から不幸体質な宗谷の嫌な予感はよく当たってしまう。
そして今回は宗谷とは真反対の幸運体質である岬でさえそう感じていた。
鶫「CIC、艦橋、F3ながと1番機より通信!、敵艦隊見ゆ!、距離20km!」
慧「CIC、艦橋、マリアナ諸島方面より我が方に接近する物あり!、距離60000m!」
その悪い予感は数分後に艦内に流れた報告によって的中してしまった事を知る。
ましろ「待て!、20㎞も離れていれば我が艦のレーダーでは捉えられないが6㎞とはどういう事だ!、なぜながとの艦載機は気づけなかった!」
鶫「ながと通信士より、艦隊の規模が小さいため見逃していた、との事です!」
ましろ「見逃していただと!」
ながとからの報告に宗谷は激怒した。
明乃「敵艦隊の正確な規模、それから艦種はわかる?」
慧「はい!、重巡3に駆逐9、それから・・・、!!」
明乃「どうしたの?」
慧「空母ヲ級です!」
明乃「!!、空母ヲ級!」
ましろ「駆逐や潜水艦ならともかく、立派な航空艦隊ではないか!、どうやったら見逃せると言うのだ!」
明乃「おかしい・・・」
先行していた敵艦隊は空母ヲ級を含む航空艦隊であった。
しかし、それほど規模の大きい艦隊を何故ながとの艦載機は見逃してしまったのか、真っ先に疑問を抱いたのは岬であった。
ましろ「全くです!、パイロットの訓練不足にも程があります!」
明乃「そこじゃない・・・」
ましろ「艦長、これは明らかにパイロットの訓練不足では・・・」
明乃「船務長、ながとから発艦したF3のパイロットのデータはある?」
幸子「はい、こちらに。」
明乃「・・・、この4人、いずれも飛行経験が10年以上のベテラン、そんな人達が見逃すとはとても思えない!」
ましろ「!!、まさか・・・、艦長、現状を整理して見ましょう。」
明乃「そうだね・・・、まず第一に、こちらが捕捉した2つの敵艦隊、これはどちらもながとのF3の哨戒範囲に含まれているはず・・・、なのに片方、それも近い方を見逃している・・・」
幸子「近い、というよりも一直線上ですね・・・」
明乃「第二に、どちらかがハワイやアリューシャン列島方面から来たならともかく、同じマリアナ方面から来た敵艦隊を普通見逃すと思う?
それも空母ヲ級を含む艦隊を・・・」
ましろ「奇妙すぎます・・・」
慧「CIC、艦橋、敵艦隊より高速移動中の物体接近!、敵航空隊です!、本艦を無視して小笠原諸島へ向かっています!」
明乃「!!」
ましろ「しまった!、先手を取られた!」
幸子「現在奴らに対抗できる兵器を搭載しているのは本艦のみ!、僚艦がやられます!」
明乃「艦橋、CIC、小笠原諸島へ至急通信!、敵機来襲に備えよ!」
鶫「了解!」
敵空母の艦載機は小笠原南端に進出したはれかぜなどを無視していきなり小笠原諸島の中部太平洋艦隊へ攻撃を仕掛けて来た。
慧「!!、敵航空艦隊進行を停止しました!」
ましろ「まあ航空艦隊は敵陣への突撃には適さない、本体の到着を待つつもりか・・・」
敵の行動、そして味方の情報ミスによって浮足立っていたはれかぜ乗員、そのはれかぜ乗員に予想出来るはずが無い、とんでもない想定外の悲劇が襲う。
慧「!!、艦長!、レーダーに機影4!、接近中!」
明乃「機種は!」
慧「速力およそマッハ1.5・・・、ながとのF3です!」
明乃「F3!、なんで!」
慧「わかりません!、後3分で本艦上空に!」
ぐおおおーーーーん!、ぐおおおーーーーん!、ぐおおおーーーーん!
まゆみ「ううっ!、本艦上空を通過!」
ましろ「どういうつもりだ!」
まゆみ「F3反転!、再度、高度を下げながら接近してきます!」
ぐおおおーーーーん!、ぐおおおーーーーん!、ぐおおおーーーーん!
秀子「え!、うそ!、F3!、格納庫を開きミサイルをこちらに向けています!」
はれかぜ乗員「「「「「「!!」」」」」」
明乃「どういう・・・、つもり・・・」
はれかぜ上空を飛び回るF31機がはれかぜ目掛け突入して来た。
そして格納庫を開きミサイル発射体制に入った。
ばしゅーーーん、しゅるるるるるルルルルルーーーーー
秀子「ミサイルが発射されました!」
明乃「撃って来た・・・」
ましろ「いかん!、CIWSで迎撃を!」
志摩「だめ!、間に合わない!」
明乃「レーダー照準ロックオンは!」
慧「ありません!」
明乃「これは当たらない!」
しゅるるるるるルルルルルーーーーー、ばっしゃーーーん!
岬の言う通り、レーダー照準によるロックオンが無かったミサイルははれかぜ左舷ギリギリをすり抜け海面に突っ込んだ。
しかしそれははれかぜのみでは無かった。
鶫「艦長!、みらいの梅津艦長より通信!、みらいも同様の事態に遭遇!、との事です!」
明乃「はれかぜのみならずみらいまで・・・、通信士!、ながとに回線を繋いで!」
鶫「はい!、ながと通信機器に直接繋げました!」
ましろ「(おいおい、半分ハッキングではないか・・・、まあこの場合仕方がない・・・)」
ながと搭載のF3により攻撃の意図を聞き出すため岬はながとに通信を半ば無理やり繋げる様指示を出した。
明乃「はれかぜ艦長・岬明乃です!、先ほどの貴艦の艦載機による我が艦およびみらいへの攻撃はどういう事ですか!、応答願います!」
猛「やあ明乃、私が答えよう。」
明乃「叔父さん・・・、いや、岬司令官!、どういう事ですか!」
猛「おかしいと思わないか?、距離60000mを切っている敵航空艦隊を見逃すとは。」
明乃「海域の広範囲における偵察はあなた方の任務でしたね・・・、なぜ見逃したのそれも同時に聞きましょう・・・」
猛「明乃、弱者が古来より生きるためには、弱者が強者に従い生きる道しかない。
そして今我らはその様な状況に直面している。」
明乃「話の腰を折るのはやめて頂きたい!、こちらの質問に答えてください!」
猛「答えるとも、もう、後2.3分したらね。」
岬少将のこの不可解な発言はもはや意味不明であったが、その答えは最悪の形で帰って来た。
明乃「一体何を・・・」
ドカドカドカーーーン!、ドカドカドカーーーン!、ドカドカドカーーーン!、ドカドカドカーーーン!、ドカドカドカーーーン!、ドカドカドカーーーン!
明乃「!!、何!」
鶫「艦長!、むさし艦長より緊急の通信です!」
明乃「すぐ繋いで!」
もえか「岬艦長!」
明乃「何があったの!」
もえか「ながと搭載の物と思われるF3が敵艦載機と共に小笠原諸島陸地および中部太平洋艦隊へ攻撃を仕掛けて来た!、小笠原諸島全域が炎上中!、艦隊も半数が大破炎上または爆沈!、推定される死傷者は1万人以上!」
明乃「なんで・・・」
知名からの通信を聞いた岬は放心状態となった。
もえか「本艦も敵機の爆撃を受け航空隊の発着不能!、やまとは攻撃される前に航空隊を出していたためながとの機と交戦中!」
猛「これが答えだ。」
明乃「深海棲艦と内通していた、と言う事・・・」
猛「そうだ。」
明乃「なぜ!、どうして!、海の仲間は家族!、その家族をなんで!」
深海棲艦と内通、軍人民間人関係なく行った無差別攻撃、岬は表にこそ出さないが激怒していた。
猛「もはや人類に勝ち目は無い、だから1月ほど前、敵に寝返りを申し出た。
そのとき寝返りの条件として提示して来た物が中部太平洋艦隊所属の空母4隻と深海棲艦に対抗し得る兵器を搭載したはれかぜの撃沈だ。
まあ、民間人も巻き込んでしまったがな。」
もえか「岬司令官!、あなたはそのために多くの人を!、更には身内まで手に掛けるつもりですか!」
次いで知名がしたこの発言に対し、岬司令官の返答はあまりにも残酷な物であった。
猛「私は明乃を身内と思った事など一度もない、むしろあの海難事故で両親共々死んでくれた方がましだったな。」
ましろ「なっ!、なにを言って!」
猛「しかし昔から幸運体質の明乃はあの状況下でさえ生き残った、全く運の良い奴だ。
知名も例外では無いか、両親はさぞかし恨んでいるだろうな。」
もえか「あなたは!、自分の言っている事の意味を分かっているんですか!」
ましろ「明乃も死んでくれた方がましだったとはどういう事ですか!」
経緯はどうあれ、岬を愛し奪い合った知名と宗谷は、岬少将の発言にもはや歯止めが効かないほど激怒していた。
明乃「・・・」
猛「あの時の明乃はまだ5歳だったから、遺産の相続人にはなれなかった。
我ら親戚が預かるという形で手を回しそれらを全て親戚で分け合い、家も売り払った。
あんな家、5歳の子供が1人で住むには大きすぎるからな。」
明乃「・・・」
猛「臨時の孤児院での知名との2人での貧しい生活は楽しかったか?、知名が里親に引き取られてからは1人であったな。
1人はさぞ寂しかったろう、死んだ方がましだとは考えなかったのか?」
明乃「・・・」
猛「海軍士官大学で知名や宗谷と肩を並べ、楽しそうにしているお前の姿を見た時は正直驚いたよ、とっくに自殺したものだと思っていたからね。
更には宗谷と結婚し、子供までできていたとは。」
鈴「酷い・・・、酷すぎます!」
幸子「私利私欲のために、なんて事を!」
猛「海の仲間は家族か、知名や宗谷の母親がよく口にしていたが、所詮は綺麗事だな、深海棲艦も家族と言いたいのか?、だとしたら変わり者どころかただのおかしくなった人だな。」
ましろ・もえか「「!!」」
明乃「叔父さん、そこまでお金が欲しかったの?、そこまで私が邪魔だったの?」
猛「そう言う事になるね。」
明乃「そう、それなら、それならどうし私を直接狙わないの!、あなたにとって邪魔なのは私なんでしょ!、だったらなんで直接私を殺しに来ないの!、貴艦の戦闘機やミサイルでもいい!、この船の艦橋を撃ち抜けば私は死ぬ!、なのにどうして関係ない人まで!」
猛「初めはそのつもりだったが、そうもいかなくなったからね。
すまないが、皆殺しにさせてもらうぞ。
明乃は勿論、結婚相手の宗谷も、そして2人の子供も、皆殺しだ。」
明乃「考えを改める気はないんだね・・・」
猛「ああ。」
明乃「だったら私は、今の家族を手に掛けようという貴方を!、それに加担したながとの乗員を討つ!」
はれかぜ乗員「「「「「「!!」」」」」」
ましろ「艦長、確かにふざけた奴だけど、本当にやるのか!」
明乃「うん!、今私が動かなきゃ、後何人死ぬ事になるかわからない!、海の仲間は家族だから!、その海の家族を守るために!」
もえか「ミケちゃん・・・」
明乃「シロちゃん!、また、私を支えてくれないかな!」
ましろ「ふふっ、何を今更、当たり前じゃないか!」
明乃「モカちゃん!、今そっちには行けないけど、みんなを守って!」
もえか「勿論だよ!、任せて!」
梅津「航空機のいくらかはこちらにも来るでしょうから、航空機は我々が引き受けます。
はれかぜはながと攻撃に全力を注いでください。」
明乃「梅津艦長、協力を感謝します!」
岬ははれかぜ、みらい乗員および知名等に、自分は大丈夫、覚悟はできていると伝えるが如く声を挙げ、宗谷や知名を始めその声を聴いた人々は岬に快く応えた。
明乃「はれかぜ総員!、対空および対艦戦闘用意!」
今、この瞬間を持って後に戦史にその名を刻む事になる小笠原諸島沖海戦が始まった。
次回は本格的な海戦にしたいと思っていますが、以前要望があったミケちゃんやシロちゃん達の過去を織り交ぜながら進めていきたいと思います。