大物殺しの監督と三国志の乙女達   作:パトラッシュS

10 / 27
ゲーゲンプレス

 

 

時は来た、それだけだ。

 

かの有名な破壊王は憧れの人物と戦う前、そう言った。

 

 

この戦に限っては馬騰達にとって、時が来たと言っても過言ではないだろう。

 

長く続いた籠城戦、今の今まで敵に進入を許さず十分に耐えた。次は反撃の狼煙を上げる時だ。

 

早朝、昨日の熱気を持った兵士達は高い士気を保ったまま、馬超達は兵士を引き連れ敵兵に気付かれぬ様に城門から出た。

 

敵兵は未だ寝静まる時間帯。

 

彼女達は達海が敷いた戦術通り、兵士を引き連れてその時を待つ。

 

そして、そんな光景を達海もまた馬騰の隣で眺めていた。

 

 

「さぁ、待ちに待った試合開始前だ」

 

「あぁ」

 

 

達海の言葉に短い返事を返す馬騰。

 

その眼差しは突撃する丘の出口、戦力集中地点に向けられていた。

 

馬騰は馬超の突撃。敵将打ち取りと共に全軍を懸けて速攻を仕掛ける。

 

伏兵は趙雲、馬休。そして、馬騰の隣に兵を置くのは馬鉄。

 

布陣は引いた。あとはこれがしっかりと機能するかだけだ。

 

出陣前、達海は全員を呼び最終的な確認を行った。

 

戦術を頭に叩き込むこと、ポジショニング。すぐに切り替えた後の『ゲーゲンプレス』に入る動き。

 

これらは各自の将としての腕にかかっている。

 

 

『俺は後ろから戦況次第で指示出すけど。基本はあんたらだけだ。戦術はしっかり理解できてっか?』

 

『もっちろーん♪ たつみん!』

 

『ええ、大丈夫ですよ。しっかりやれます』

 

『馬鉄、お前が一番心配だよ…本当か?』

 

『失敬な! やる時はやるんだよ! 任せなさい!』

 

『あっそ。期待半分で見てるわ』

 

『酷〜い!』

 

 

頼りになる馬休とは裏腹に心配の種である自信ありげに応える馬鉄を適当にあしらう達海。

 

しかしながら、口ではそう出しつつも達海は彼女達を基本的には信頼はしてる。彼女達は武人だ。ならば、戦うプロフェッショナル。

 

プロならば、軍師が敷いた戦略や策を要求したものに応えるのは当たり前だ。

 

それが信用を作り、連携を強固なものにする。

 

 

『私らも大丈夫だよ、タッツミー』

 

『あぁ、しっかり覚えた』

 

『流石は趙雲と馬超ってところかね? んじゃ、楽しみに見てるかな』

 

 

そう言って、フッと笑みを浮かべる達海。

 

もちろん、この戦には達海も参陣する。それは、達海が城内に残ったままでは指示が通らないからだ。

 

監督はピッチで指示を飛ばす。ならば、達海が安全地帯である城内にいても万が一の時に立て直しが効かなくなる。

 

トップは馬超。トップ下は趙雲。サイドは馬鉄、馬休。

 

そして、ミッドフィールダーのポジショニングには達海と馬騰だ。

 

今回だけの『ゲーゲンプレス』のための布陣。監督である達海は戦線参加はしないが、敢えて、今回だけこの場所に入った。

 

次からは違う人間が入るだろうポジショニング。

 

兵数が少ない中、考えた末の決断だった。

 

文官にやらせようかと思ったが、戦がからっきし素人な彼らにこの戦術が勤まるとは思えない。

 

よって達海が自らやった方がまだいいといった具合である。

 

達海自身は後方指揮故、大多数の兵士は『ゲーゲンプレス』の切り替えの瞬間に馬騰の軍と合流し、そのまま突撃する手筈となっている。

 

馬騰は隣にいる達海へと視線をやる。

 

ゲーゲンプレスに入る瞬間が勝負。兵を率いた自分は馬超が武将を打ち取った瞬間に一気に駆けるだけだ。

 

 

「どうやら、来たみたいだな」

 

 

達海がそう呟くと馬騰は前へと視線を移した。

 

丘から連なる様に降ってくる黄色い旗。

 

達海はそんな旗を眺めながらも静かにそれを見据えていた。タイミングは一瞬。

 

 

 

 

丘の出口で兵を控えている馬超にも槍に力が籠る。

 

言ってみれば、馬超は切り込み隊長だ。敵の将を討ち取らなければ戦術に響く。

 

だが、彼女は達海にその役目を任された。

 

信頼をしてくれた。馬超もまたそんな自分自身を信頼してくれた達海の戦術を達海自身を信頼している。

 

自分がはたして成功できるかどうかのプレッシャーもある。だが、逆に達海が言っていた楽しみというものがその中にはあった。

 

自分の兵と自分自身がこの戦の要。

 

 

「へへへ…。よし、決めた。決めたぞ!」

 

 

馬超は笑みを浮かべながら自分にそう言い聞かせる。

 

それは、斬りこむ勇気か、戦術を完成させる為の決意か。もしくは両方か。

 

黄色い旗が目の前を通過していく、その中にいる敵の将の姿を馬超の眼は捉えた。斬りこむタイミング。それは今しかないと彼女は一瞬の内に判断した。

 

そして、馬超は笑みを浮かべたまま、こう声高々に全員に告げた。

 

 

「皆の者!この錦馬超に続けぇ!」

 

「オォ!!」

 

 

その瞬間。

 

突如、横から現れた騎馬兵が黄色い旗を切り裂く様に突き抜けた。

 

電光石火の如く、降って来た敵の兵士達の横腹から突き抜ける様な稲妻。

 

突然の出来事に唖然とする賊達。

 

何が起きているのか、彼らは理解できない。まさかこんなところに敵兵がいるなんて思いもしないからだ。

 

何故? 一体どうして? 昨日まで籠城して必死こいて城を守っていた奴らがこんなところにいるのか?

 

凄まじい速さのそれに巻き込まれる様は一瞬の出来事だった。

 

そして、次の瞬間には…。

 

 

「…………ッ!!」

 

「敵将! 討ち取ったりィ!!」

 

 

彼らの将の姿は無かった。

 

絶命する際、彼は言葉すら発せない。

 

それだけ一瞬の出来事だった。だが、これだけでは終わらない。むしろこれが、始まりの合図だった。

 

この時、『ゲーゲンプレス』のスイッチが切り替わる。

 

馬超の叫びは辺りに響き渡り、当然、後方にいた達海の耳にも届く。

 

これは、試合開始のホイッスル。

 

達海は馬超のその高々とした叫びに不敵な笑みを浮かべると、辺りに響き渡る程の大声でこう叫んだ。

 

 

「カウンタァァーーー!! 行けぇぇ!!」

 

 

その達海の叫びと共に一気に戦況が動いた。

 

馬騰は兵士を率いて一気に馬超のいる場所に向かい駆ける。

 

そして、そんな馬騰が動き出す前に趙雲、馬休、馬鉄の3人は一気に敵兵へプレッシングを掛けに前線へ兵を率いて凄まじい速さで駆けていた。

 

将を失った敵兵の軍団は蹂躙されるように次々と圧倒的な機動性に撹乱され、纏まらないまま霧散する様に吹き飛ぶ。

 

槍に突き刺され、はたまた馬に轢かれる。次々と黄色い旗を掲げた者たちに襲いかかるその連携はまさに電撃のようだった。

 

そして、それが波状の様に襲いかかってくる。

 

しかも、馬騰軍の士気は高くその勢いはとどまることを知らない。

 

 

「趙子龍っ! ここにあり!!」

 

 

趙雲の槍が敵を突き刺し西涼の騎馬兵が敵の兵士を追い詰めて。

 

 

「この馬休の道を阻む者は容赦しない!」

 

 

馬休の率いる騎馬兵が敵兵を包囲し。轢き殺し。

 

 

「さぁ、死にたい奴は出てらっしゃい!」

 

 

馬鉄の馬戦車兵、騎馬兵がそれを蹂躙する。

 

そして、生き残った敵兵を…。

 

 

「皆の者かかれぇ!」

 

 

馬騰の兵士達が殲滅した。

 

 

まさに、連携による蹂躙と殲滅。その出来事は素早く、そして、嵐の様に去って行く。

 

馬超が先頭を切り、騎馬兵、馬戦車兵を用いた趙雲、馬休、馬鉄の兵達が蹂躙し、後ろから駆けてきた馬騰の軍が殲滅する。

 

敵兵達はその様に唖然とし、彼らの士気は一気に落ちた。

 

だが、追撃は終わらない。その勢いはそのままに達海の言ったように馬超が先駆け、それを3人で一気に押し上げる。

 

軍団を一つ、また一つと駆逐していく。

 

その光景は敵兵士達へと伝染し、達海の言った通り、脱走する者まで次々と出てきた。

 

こうなると後は崩れていくだけ。馬超に続き次々と西涼の兵士達は高まる士気を力に変えてそれを存分に発揮した。

 

ドイツ名門のお家芸。『ゲーゲンプレス』。

 

その破壊力の前に敵兵士達はこう思う。まさに、天災のようだと。

 

馬超達は一気に丘を駆け上がり、そして、敵の総大将の本陣までたどり着いた。

 

しかし、本陣まで登りつめてもなお、馬超達の攻撃は止まない。勢いのまま本陣にいた敵兵士達を一気に蹂躙し、殲滅した。

 

だが、彼らの総大将はそうはいかない。

 

 

「…なんだっ!? …一体何がおきているの!?」

 

 

西涼から連れ出した2000の兵士を率いる彼女は腹心である将と共に奮戦した。

 

いつの間にか、昨日まで数で勝り、そして、西涼の城門を攻めていた兵士達が無残にも半分以下まで数を減らしているではないか。

 

唖然とせざる得なかった。

 

あの場所に敵兵が控えてくる事も、まさか、戦力の殆どを使い討って出てくる事も予想外だった。

 

 

「くっ…そ…。どういうことだ! どうなっている!?」

 

「わかりません!」

 

「なんでわからないのよ!? おかしいでしょ!」

 

 

総大将、韓遂はそう腹心である少女に声を上げながら向かってくる騎馬兵達を退ける。

 

だが、この馬騰軍の士気の高さの中。彼女の味方である西涼の兵士達は馬騰軍の騎馬兵に対抗できずにやられていく。

 

抜かったと彼女は唇を噛み締めるしか無かった。

 

韓遂もまた、ここに馬騰の騎馬兵が雪崩れ込んでくる自体、予想していない出来事だ。その対策もしているわけがない。

 

自分が総大将になり率いた兵数は6000強。確かに賊軍が多いがそれであっても自分が指示した指揮は万全で盤石なものだった。

 

だが、この戦で一気に破綻。

 

蓋を開ければ、籠城した西涼の城を落とすのに時間がかかり、今日で西涼を落とし切れると思った矢先。半分しかいなかった筈の馬騰の軍がいつの間にか目前まで迫って来ている。

 

 

「く…そぉ…」

 

「韓遂様!」

 

 

そう叫ぶ、西涼の兵士の1人。

 

次の瞬間、韓遂の背後から手が伸びたかと思うと、彼女の首元に槍の柄が押し付けられていた。

 

彼女はその出来事に唖然としながら背後へと視線をやる。すると、そこにいたのは凛とした顔つきをした髪を束ねた娘だった。

 

 

「…ぐ…! …貴女は…!」

 

「………………」

 

 

そう自分が離反した馬騰の娘、馬超。

 

元々、馬騰の元にいた韓遂も彼女の力は知っている。背後を取られさらにこの状況ではもはや勝敗は決したと言っていいだろう。

 

馬超は槍の柄を押し付ける彼女にこう告げる。

 

 

「逆賊韓遂! 降伏せよ!」

 

「……だ、誰が!? …」

 

「御免! 許せ!」

 

「ゴフッ! …ば、馬超…貴女…」

 

 

彼女はそう呟くとガクリと意識が途絶えその場で武器を落とした。

 

馬超はすかさず彼女の腹に当身を当てて気絶させたのだ。これは、彼女が下手に自害をさせぬ様にといった配慮からだ。

 

当身を当てられた韓遂は力なく馬超の身体に体重を預ける。

 

それから、彼女を捕らえた馬超は声高々に戦を終わらせるためこう宣言した。

 

 

「敵総大将! 捕縛した!」

 

「「「オォ!!」」」

 

「この戦、我等が勝利だっ!!」

 

 

あちらこちらで声が上がり、勝鬨を上げる。

 

離反していた西涼の兵士達はそんな馬超の叫びに韓遂が敗れたことで手に持っていた武器を次々と地面に落としていった。

 

また、賊達は敗戦の報を聞いた途端、慌てた様に逃げ惑う。だが、そんな敗戦の賊達は次々と馬騰の兵達に狩られていった。

 

なぜ、馬騰が敗戦の賊達を狩るのか? それは、彼らを野放しにしておけば周りの村で略奪を働く恐れがあるからだ。

 

元は農民かもしれないが、黄色い布を頭に付けた途端。彼らは兵士となる。

 

ならば、兵士となったからには降伏するか狩られるしかない。

 

 

「逃げる者は徹底的に狩れ、降伏する者はそのまま捕虜としろ。良いな?」

 

「はっ!」

 

「…西涼の兵士達は特にな、頼んだぞ」

 

「かしこまりました」

 

 

馬騰はそう告げると馬を反し、丘を兵士達を引き連れて降りてゆく。

 

今回の戦に勝てたのは間違いなく達海の采配のお陰だ。

 

『ゲーゲンプレス』という聞いたことがない陣形を敷き、凄まじい速さで敵本陣にまでたどり着いた。

 

あれほどの戦術は馬騰も今迄見たこともない様な戦術だ。

 

そして、その達海が敷いた戦術の中の歯車として戦った馬騰はやり切った感情。それと、未だに湧き上がてくる昂ぶる感情がなんだか心地よく感じた。

 

 

(あの男…。本当にすごいやつだよ)

 

 

馬騰は素直に自分の兵士達の力を存分に引き出した達海の戦術に素直に感服するのだった。

 

 

 

 

勝鬨を上げる馬超の声を遠くから聞いていた達海は静かに瞳を閉じ、そして、いつもの様に不敵な笑みを浮かべていた

 

そして、そんな彼の元に伝令がやってくる。

 

 

「伝令! 達海殿! 馬超殿が総大将を鹵獲…」

 

「あーいやいいよ。だいたいわかってるからさ。あの声聞けば」

 

「…は?」

 

「勝ったんだろ? 戦?」

 

 

達海の言葉に目を丸くした伝令は静かに頷く。

 

達海はその伝令の反応を見て、戦場であった丘の麓を見つめた。

 

そこには何人もの屍が倒れている。それは、達海があの戦術を用いたことにより築かれたものだ。

 

戦に勝った事は確かに喜ばしいことだろう。しかしながら、達海はそんな戦場の光景を見て思った。

 

彼らの中にも、フットボールの才能がある奴もいただろうし、家族や夢もあったんだろうなと。

 

 

「これが戦乱か…。やっぱりやりきれないね、ホントさ…」

 

 

達海は独り言の様にそう呟くとため息を吐く。

 

時代を越えて初めて体験した戦場。達海はなんだかやりきれない気持ちを抱えつつも戦に勝利した彼女達の帰りを待った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。