馬騰の屋敷。
小さなフットボールチーム、FC西涼の臨時監督に就任した達海。
彼はこの日、馬騰の屋敷に呼ばれていた。
というのも、韓遂との戦の際に彼が提案した戦術、ゲーゲンプレスのおかげで彼女は戦に勝つ事が出来た。
それに見合った褒美や報酬を彼にあげていない、そう思い立ったからである。
そんなわけで、馬騰は自分の目の前に座る達海と会食を兼ねてその褒美や報酬についての話をする予定であった。
しかし、達海はというと…。
「このゲーゲンプレスなんだけどさ、馬岱と馬休、馬鉄、そんでもって韓遂の4人で攻撃ユニットを組むんだよ。どうだい? おもしれーだろ?」
「いや…、確かにそうだが…」
「だろ? 新しい戦術さ。馬超や趙雲がいなくても大丈夫なように考えたんだぜ? 今回みたく、いつも馬超頼りってわけにもいかないだろ?」
「あ、あのだな…」
「一応名前は考えてんだよ、4-3-3の『ファンタスティック・フォー』っつう戦術だ。原理はゲーゲンプレスなんだが…」
「いやいや待て待て」
なんと、戦についての新しい戦術を楽しそうに馬騰に話していた。
いや、それよりも、馬騰には何故か達海の中に韓遂が含まれているのかがわからない。彼女は達海に一任したとはいえ、馬騰の軍には属さない筈だ。
そして、そんな疑問を達海に彼女がぶつけると、達海は苦笑いを浮かべて馬騰にこう語りはじめる。
「いやー、それがさー? 韓遂の奴にはフットボーラーになって貰おうと頼んだら、武人との二足草鞋履きたいって言うもんだからさ。まぁ、あれだ傭兵みたいなもんだよ。本人がやる気みたいだし使ってやって?」
「またどうして…。私と奴は…」
「啀み合った仲だろ? でもね、フットボールと仕事を両立させてる農民や街の奴等を見たら自分もそうしたいってあいつから言ってきたんだよ。そしたら、あいつの配下達も便乗しちゃってさ」
「なるほど…な…」
「あー、あいつらは離反とかもうしねーよ。フットボール出来なくなるしな。俺とそういう契約したから、まぁ、本人達も、もう天下や土地なんかに興味が無いみたいだしね」
そう言いながら達海は飄々とした態度で食事を口に運びながら嬉しそうに馬騰に語る。
馬騰はというと、そんな達海の話を聞いて義理であれ妹である韓遂の新たに生きる道が見つかった事に安堵した。
彼女は達海にこう言葉を溢しはじめる。
「そうか…。あいつが…」
「そういう事。家臣じゃ無くて仕事だからね。だいぶ気が楽になったと思うよ? 肩の荷が下りたんじゃねーかな」
「…まぁ、賃金はもちろんあるんだよな?」
「当たり前だろ? あんたはFC西涼のスポンサーなんだから」
「…全く…、食えんやつだ」
「どーも、お褒めの言葉ありがとさん」
そう言いながら達海は料理を口に運び、ため息を吐く馬騰に告げる。
今あるFC西涼は後ろ盾が無い。だから、達海は馬騰にスポンサーになる様に進言し、フットボールを国を挙げての競技とするため着手していた。
賭け事によるフットボールの経営。
人々が賭け金をフットボールの試合に費やす数パーセントの上納として収め。馬騰に利益が出る様に達海が利益を設定し、それにより、馬騰はこのスポンサーになる事を了承してくれた。
スポンサーならば、それに協力するのもクラブチームとしては当然だ。
という訳で馬騰はこれを了承し、韓遂は形は違えど馬騰の軍の一員として加わることになった。
しかしながら、これではこれまでと変わらないというかもしれない。だが、ちゃんとした違いはある。
それは、これまで軍の一員として戦に参加していた彼女達は任意で戦に参加するか参加しないかを決めれるという事だ。
勿論、任意で入ればその分、戦によってはそれなりに賃金もある。
任意で断ったとしても賃金が発生しない。当然ながら、町民として働いたりして金を稼ぐという選択も取れる。
これは、FC西涼に入った者への特典といっていいだろう。ただし、彼女達には強制的に週に3回は練習を定期的にしなければならない義務が生じているのだ。
「まぁ、国が経営するフットボールの試合に出るんならこれくらいしねーとな」
「あぁ、面白い仕組みだ。最近ではうちのフットボールを見に遠くから来る者もいるというしな」
「戦が無いときの娯楽には丁度良いんだろうさ。賭け事だしな」
達海はそう言いながら肩を竦めて馬騰に告げる。
町民と農民による試合は勿論だが、自主的に彼らが組織したチームとFC西涼でカップ戦などの催しもこれから行なわれる様だった。
一応、臨時監督の達海がいない時は選手兼コーチとして韓遂が指導する様に話は通してある。
練習メニューはフットボールにおいてかなり厳しい練習と言われた『マガト流軍隊式練習法』を採用。
某日本代表キャプテン曰く「死ぬ程きつい練習だった」と言わしめた練習方法だ。
もともと、武人や兵士挙がりの彼女達だ。基礎体力作りやフットボールの身体作りには持ってこいと言った練習方法だろう。
これを彼女達に課している。勿論、自分が居ない間の報告は西涼の文官、または馬騰にまとめる様に言いつけてある。
そして、達海は一通り話を終えた後に馬騰にこう告げはじめる。
「あれ? そう言えば今日はなんで呼ばれたんだっけ?」
「…あのなぁ」
「あ、そうだ報酬とか言ってたな。そんで? その報酬ってなんだ?」
達海は首を傾げながらそう馬騰に問いかける。
報酬と言われてもピンと来ない。達海は十分な報酬を受け取った筈だ。特にフットボールのクラブを作ったのもそうだし、草原を整備させてフットボール場を作ったのもそうだ。
しかし、馬騰はこれでは不足だと思っている様子だった。達海からしてみれば十分な報酬に値しているのであるが。
そして、馬騰はそんな疑問を抱く達海とは裏腹に満面の笑みを浮かべていた。
「いや、聞けばお前は妻子がいないというでは無いか」
「んー…まぁ、そうだねー。独身っちゃ独身かな?」
達海はそう言いながら食事を口に運ぶ。
別にフットボールの世界でフットボールだけをしていた達海には恋人や妻なんてものは持とうなんて考えたことも無いし、逆に言えばフットボールこそが恋人であり愛すべきものだった。
イングランドに居た時も同じ事を聞かれはしたが『オンリーワンアイラブフットボール』で大体通じていた。
しかしながら、達海も現役を退き、今は監督である。
ならば、妻子を持っても良い頃合いだろうと言われはするがそれでもフットボール愛の方が大きくそんな女性などいる筈も無い。
達海はそんな事を思い出しながら水を口に含む。
「実はな、私の娘をお前の許嫁にしようかと思ってな」
「ブッー!!」
そして、馬騰のトンデモ発言に含んでいた水を盛大に吹き出した。
達海は目を丸くしながら、平然と聞き捨てならない事を言ってのけた馬騰へと噎せながらこう言葉を発した。
「ゲホッ! ゲホッ! 馬鹿野郎、変なこと言うんじゃねーよ!? 噎せただろ」
「いや、冗談ではない。私はそれだけお前を買っているんだ。なんなら私の夫でも構わないぞ?」
そう言いながらクスクスと笑う馬騰に達海は唖然としていた。
いや、確かに馬騰達を戦には勝たせたが達海はこの西涼に骨を埋めるつもりはまったくなかった。
むしろ、戦を終えてフットボールのチームを作ったら次の国へ向かい、同じ様にフットボールのチームを作って、そして、リーグを作るつもりだったのだ。
これには達海も今までに直面したことがない展開に動揺せざる得なかった。
「あのなぁ、俺は監督だし…」
「私の真名は葵だ。不束者だがよろしく…」
「聞けよ人の話」
思いっきりブーメランな事を口走る達海だがこの時ばかりはそう言わざる得なかった。
いつの間にか戦に協力して、なんとなくフットボールクラブを作ったと思ったら、半ば無理矢理、許嫁を取らされそうになっている。
この意味不明な状況をそう言わないでなんと突っ込めば良いのか、皆目検討もつかない。
達海はため息を吐くとゆっくりと口を開き話をしはじめる。
「だからさー、俺は…」
「母様っ、話は聞かせてもらった! 私は構わないぞ!!」
「私もここにいるぞ! …てへ、言ってみたかっただけですが…」
「達海殿と…夫婦…。悪くない気がします」
「えへへ〜毎晩、ハードなSMプレイをされるんですね、わかりますよ」
「だ、だめだっ! 監督はお前らには渡さんぞ!」
「お前ら全員帰れよ。どっから入り込んできた馬鹿野郎」
そう言ってタイミングを見計らった様に馬騰の屋敷で会食をしていた達海の元になだれ込む様に入り込んでくる馬超姉妹達+韓遂。
だが、達海はと言うとそんな彼女達に苦笑いを浮かべてそう告げる。
まだ、この件に関しては何にも答えてないにも関わらずワラワラと現れた彼女達に流石の達海も頭を抱えるしかなかった。
それに…。
「自分より強い奴と結婚するとか言ってるんじゃ。馬騰…そりゃ嫁の貰い手に困るぜこいつら、まともなの馬休だけじゃねーか」
「ち、違う! 私はっ!」
「だから貴様が娶れと言っているだろうが、私も含めて」
「なんでだよ。おかしいよね? 俺は監督だって言ってるよね? あと俺はこいつらより強くないよ?」
達海にとんでもない事を平然と言ってのける馬騰にもはや頭を抱えるしかない。
これは、さながらドーハの悲劇でワールドカップ出場を逃した時の日本代表が天を仰ぐ様な状況のそれと完全に酷似していた。
いや、人生の墓場にゴールと言う意味では味方のゴールキーパーが自陣のゴールに向かい思いっきりボールを蹴り込んでオウンゴールされた気分だ。
達海にしてみればとんでもない話である。
「とりあえず保留だよ、保留。俺はまだ結婚しないからね?」
「…面白くありませんな」
「いつからいたんだよ、趙雲。そんでもってお前後でインターバル走50セットな」
「いやはや、馬騰殿の許嫁の話から…え? 冗談ですよね、達海殿?」
「マジだよ」
そう告げた達海の言葉に唖然とする趙雲。
インターバル走のキツさは趙雲も知っている。しかもそれに加えてその後なんとあの軍隊式練習法はもはや死刑宣告に等しかった。
彼女はすぐさま土下座の体制に入り、すかさず達海に頭を下げた。
「調子に乗ってすいませんでした」
「よろしい、なら20セットに減らしてやる」
「実は美味しいメンマがありまして後で達海殿と分けようと…」
「よし、今日は練習休みにすっか」
その瞬間、趙雲は小さくガッツポーズを決める。
試合は終わるまでは分からない、例え2-0であったとしてもだ。達海の場合は本当に単純であるのだが。
しかしながら、不思議である。達海自身、彼女達に気に入られたり無性に好かれたりする様な行動はした覚えがない。
だが、馬騰の許嫁の話を聞いた途端にこれだ。
どんだけ男に飢えてんだとか思いつつも達海はとりあえず今後の方針について話し出す。
「まぁ、そんな訳で俺はこれから西涼を出て他のとこにクラブチーム創設の旅に出る予定なんだけど…」
「な、なら私の力が必要だな!? 保護者公認の用心棒な訳だしっ!」
「いやあのね? 水鏡は保護者じゃないから…」
「私もご一緒させて頂きましょう達海殿、なんだか面白そうだ」
「…うんまぁ、あのきつい練習から逃げたいんだろうけどな? お前らは」
「「ギクリッ…!」」
そう言って達海の図星をついた言葉に思わず身体を硬直させる馬超と趙雲の2人。
そして、そんな2人にジト目を向ける姉妹と韓遂。それだけ、マガト流軍隊式練習は相当きついことが伺える。
だが、確かにこんな乱世の世では何が起こるかわからない。達海はそれを踏まえてため息を吐くとこう告げはじめた。
「いいよ、確かにこんな物騒な世の中じゃ何があるかわかんないから」
「な、なら監督、私を連れて行っても…」
「ダーメ。お前はキャプテンなんだから後の練習見なきゃいけないだろ? サボったりしたら報告挙がるからしっかりやれよ?」
「そ、そんなぁ〜」
そう言って、ついて行こうとする韓遂に飄々とし態度でそう告げる達海。
そんなこんなで、今後の方針を固めた達海は馬騰に話を続ける。
「てなわけだから、2週間後にここを出るよ葵。こいつら頼んだぜ?」
「あぁ、任せておけ、お前を守ってくれる許嫁もいるし安心だな」
「え、えぇ!母様!」
「葵。マガト式軍隊練習法体験してみる?」
「いや、何でもないよ? 楽しんでおいで」
「に、逃げるのは卑怯ですよ! 母様!」
馬岱はそう言って達海から視線を逸らす馬騰にそう告げる。
それは馬騰もマガト流軍隊式練習法がどれだけきついものか知っている為、笑顔でそう告げる達海にこれ以上余計な事は何も言えなかった。
こうして、達海は2週間後に西涼の地を離れ再び新たなフットボールクラブチームの創設の計画へと踏み出す。
それは、この大陸でのフットボール普及の為。
そして、乱世で苦しんだ民衆にフットボールの楽しさと夢を届ける為に。
彼のジャイアントキリングは西涼の地からこうしてスタートしたばかりだ。