大物殺しの監督と三国志の乙女達   作:パトラッシュS

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誘拐

 

 

達海達の旅立ちの日。

 

 

達海は馬騰達に見送られながら、西涼の城門の前に来ていた。

達海達を見送るのはFC西涼の選手達、そして西涼に住む住人達だ。

 

戦を終結させ、フットボールを西涼に教えてくれた達海。

 

そんな彼の存在は西涼に大きなものを確かにもたらしてくれた。

 

彼等はそんな達海を楽しく見送ろうとこうして西涼にいる者達は集ったのだ。彼等は達海と馬超、趙雲にそれぞれこう話をする。

 

 

「監督! 私、監督が帰ってくるまで頑張るからね!!」

 

「あぁ、頑張って上手くなれよ? もっと試合に出れるようにな?」

 

 

達海に駆け寄ると彼女は泣きそうになりながら何度もそう話す達海の言葉に頷く。

 

彼女はFC西涼のメンバーだ。元々は韓遂の部下であったがフットボールを韓遂が始める事になりそれに便乗して彼女もFC西涼に入った。

 

しかしながら、フットボールが一番下手くそだった彼女は試合には出れずにいた。そこで達海が彼女に合うポジションを考えてあげ、彼女はそこのポジションを懸命に練習した。

 

そして、試合に出れるようになった。達海は居残りで練習していた彼女についてやり練習を見てあげた日もある。

 

そんな彼女にとってみれば達海はフットボールの楽しさを教えてくれた恩師だった。

 

感極まった彼女は遂に涙を流して達海に抱きつく。そして、達海の耳元で何度もお礼を述べていた。

 

達海はそんな彼女の背中をポンポンと叩いてやり引き離すと持っていた涙を拭けるようにポケットから布切れを渡してあげた。

 

そんな達海の横にいた馬超にもある少女が駆け寄ってくる。

 

 

「ねぇ、馬超! また帰ってきたら絶対試合見に行くからね!」

 

「おうっ! いつでも見に来なよ! そん時はハットトリック決めるからさ!」

 

 

そう言って、少女にハグをしながら別れを済ませる馬超。

 

彼女は馬超の試合を見に来ていた。その時に活躍した馬超を見て、彼女は馬超のファンになったのだ。

 

趙雲にももちろんファンはいる。

 

彼女の素早い走りと足元のテクニック、ドリブルに魅了された西涼の者達は多い。例え、趙雲が西涼の者で無くてもフットボールを通じて趙雲は彼等から受け入れられていた。

 

趙雲に駆け寄る1人の少女。

 

趙雲はそんな少女に気づき、屈むと頭を撫でてやり、ある物を取り出すとそれを手渡してあげた。

 

 

「趙雲っ! ありがとう!」

 

「構わないさ、お前もいつか大きくなる。その時に夢を諦めるなよ?」

 

「うんっ!」

 

「いい娘だ。さ、行きなさい。その仮面は挫けそうな時、お前の力になる筈だ」

 

 

そう言って、少女を笑顔で送り出す趙雲。

 

戦をしている時、果たして自分は彼女の様な無垢な少女に誇らしげに夢を語ってあげれていただろうか?

 

いや、人殺しが常の戦で幾ら活躍してもあの様な目を輝かせてくる者達は近寄っては来なかっただろう。

 

今、趙雲が少女に与えたのは確かに夢だった。

 

趙雲は思う。そうだ、達海の言っていた夢とはこういう事だったのではないかとようやく理解する事が出来た。

 

フットボールの素晴らしさを彼女は身を持って感じた。

 

 

(…なるほど…な。確かに戦では到底叶う事がないものだ。達海殿…。貴方は…)

 

 

西涼の人々から得られる祝福は戦のそれとは比べ物にならない。

 

彼等から得られる眼差しは全て輝いている。それは、戦で得た栄光よりも遥かに価値があるものである様に趙雲は思えた。

 

そして、このフットボールの価値を見出した達海を素直に賞賛する。

 

一流のフットボール選手はどんな大きさのダイヤモンドよりも価値がある。

 

それは一重に物理的な価値ではない、人々の見る光景にそれだけの価値を出す夢を描く芸術家だからだ。

 

確かにこの光景を目の当たりにすればそれも趙雲には納得できるだろう。

 

一通りの別れの挨拶を済ませた達海達は最後に見送りに来た馬騰達の方へと視線を移す。

 

 

「それじゃ行くよ。馬騰、ありがとな見送りまでさせちまって?」

 

「何、構わないさ。未来の夫の旅立ちの日だ。当たり前だよ」

「だから保留だってば。俺の話聞いてないでしょ?」

 

 

達海はそう言いながら苦笑いを浮かべ馬騰に告げる。馬騰本人はする気満々みたいだが、達海はそんな彼女に苦笑いで応えることしかできない。

 

各県にフットボールクラブチームの設立。そして、リーグの創設。

 

達海の夢はまだ途中。

 

三人は暖かく送り出してくれる西涼の人々に手を振りながら、長い間、世話になったこの地に別れを告げて旅立つ。

 

次の目的地、そこに新たにフットボールを伝える為に…

 

 

 

西涼から出て7日目。

 

 

達海達は次の目的地について何にも決めていなかった。

 

と言うのも、特に行きたい場所や目指す場所を決めていなかった事がそもそもの原因なのだが、達海は行く先々でフットボールが伝えれば良いと思っており、行き先は決めない事にしていた。

 

まぁ、そう言うこともあってか、達海は村や街に寄ると子供達や街人にフットボールがどういったものなのかをリフティングを交えながら教えていった。

 

時には試合もし、馬超、趙雲が彼等にフットボールの手本を見せる。そんな旅が一週間ほど続いた。

 

そして、現在は三人で酒場でお酒を飲みながら楽しく談笑している訳だが…。

 

 

「いやー、馬超。お前、リフティング上手くなったね。見直したよ」

 

「えへへ〜。タッツミーのお陰だよ♪ ありがとな♪」

 

「馬超殿。お酒が入っているとはいえ、監督にデレデレしすぎなんじゃないか?」

 

「べっつに良いだろ〜? タッツミーは私の物だ」

 

「いやいや、俺は物でも何でもないから…って、ひっ付きすぎだお前。顔が近いし酒くせーぞ?」

 

「ははん、星? さてはヤキモチだなぁ? 悔しいか? ふはははは」

 

「監督、馬超に顔面フリーキックの許可を」

 

「いや、やめてやれよ、酔ってるだけなんだし。てか、こいつ酒癖悪かったんだな」

 

 

達海はデレデレと自分の横でお酒を飲んで引っ付いてくる馬超の顔面を手で押しのけながら、趙雲の言葉に苦笑いを浮かべそう告げる。

 

馬超が先ほど趙雲に言った名前は趙雲の真名だ。

 

趙雲は自分の真名を西涼から出て暫くして馬超と達海に名乗った。

 

それは、一重に達海の人望とそしてカリスマ性。人々に夢を与えるフットボールと言うものの素晴らしさを見に染みて感じたからだ。

 

達海の事を主と呼ぼうとしたが、達海本人が監督と呼べと頑なに言ったので今は趙雲も達海の事を監督と呼んでいる。

 

すると、暫くして趙雲もまた酒を飲み過ぎたのか彼女も席を立つと達海の隣にドカリと座った。

 

 

「おい、人口密度高くなんだろうが、向こう行け。向こう」

 

「嫌です。監督、私はそこの頭の悪そうなストライカーに負けるつもりは無い。それに私の様な美人が隣に座るのですよ? 達海殿も嬉しいのでは?」

 

「馬鹿野郎、狭くてお酒が飲み難い。それにお淑やかな美人ならもうちょっと余裕があるだろうからね? つう事は星はお淑やかな美人じゃないって事だ」

 

「う、うぐ…! 相変わらず容赦ありませんな。私とは言えどちょっと泣きそうになりますよ、監督?」

 

「大丈夫、お前のメンタルはおそらくイタリアのカテナチオよりも硬いよ」

 

「私をなんだと…。はぁ…、もう良いですよ」

 

「冗談さ、それだけのメンタルを持っているのはむしろ誇りに思っとけよ。PKやフリーキックにはそういったメンタルを持った奴が必要なんだしさ?」

 

 

達海はそう言うとコップに入っていた酒を一杯飲みきり、その場から立ち上がる。

 

そして、そんな行動を取る達海に2人は首を傾げる。

 

達海はアルコールが回る頭の中、彼女達にこう一言告げた。

 

 

「手洗い。いってくるわ」

 

「おぉ、流石監督。柔らかな言い回し方ですね」

 

「手洗いってなんだ?」

 

「便所」

 

「翠…。お前のせいで台無しだよ」

 

 

気を使う達海の言い回しに星が感心していたのもつかの間。翠が聞いてきた一言が達海のオブラートな言い方を一気に粉砕した。

 

と言うのも酒を飲んでいる最中や食事中に便所なんて聞けば食欲が無くなり、酒が飲み難くなる。

 

そう言った思いやりなんだったろうが、翠の言葉にダイレクトで答える達海も達海である。

 

そして、席を立った達海は店員から手洗いの場所を聞いて用を済ませ、スッキリした面持ちで再び、馬超と趙雲の元に戻ろうとする。

 

すると、席に戻ろうと外の厠からした達海の目の前に見知らぬ少女達が達海の道を阻む様に立っていた。

 

青色掛かった髪の毛。そして、帽子を被ったアナウンサー嬢の様な。赤白の変わった制服に可愛らしい容姿の女性だった。

 

もう片方は黒髪の美少女。一見すれば忍者の様な雰囲気をしているがチャイナ服を着ているのでゲテモノ忍者娘と達海は内心思っていた。

 

達海は道を阻む2人にこう問いかける。

 

 

「何?あんたら?何の用?」

 

「達海殿ですか〜?」

 

「ん、あぁ、まぁ、俺が達海猛だけど…」

 

「御免!」

 

 

そう言うと黒髪の美少女は達海の懐に飛び込むと片手を引き。腹に思いっきり拳を繰り出す。

 

達海はそれに咄嗟に反応したのか、フラリと身を引くとマルセイユルーレット(身体を反転させ回転する)の要領で回転し彼女の拳を躱した。

 

達海は驚いた眼差しを目の前にいる青髪の帽子を被った少女に向ける。

 

 

「な、なんだよいきなり…物騒だな、酔っ払いか!?」

 

「達海猛さん、貴方には一緒に来ていただきますー。私の主がお気に召した様でして〜♪」

 

「は、はぁ? お気に召したって? 何…」

 

「はぁ!」

 

「…っが! ……クソっ! 背後から!? …」

 

 

先ほど、マルセイユルーレットで躱した黒髪の美少女の手刀と当身が達海を背後から襲った。

 

いきなりの衝撃にお酒を飲んでいた達海は思わずそれを身体にモロに受け意識を手放した。

 

地面に膝をつき、倒れそうになる達海をすかさず支える様に青髪の少女と黒髪の美少女は彼の身体を持った。

 

 

「張勲殿。これで良かったでしょうか?」

 

「はい、上出来ですね〜♪ 兵士には彼の私物の丸い球も回収する様にしてあるので手筈は完璧です」

 

「しかし、なぜ彼を…?」

 

「さぁ? 我が主人の要望ですからねー♪ 周泰殿。ご協力感謝です〜」

 

「構わないですよ。では、早くずらかりましょう あそこに馬車を控えさせていますので」

 

「はい、では運びましょうか」

 

 

そう言って、周泰と張勲と名乗る少女2人は兵士達の手を借り、達海の身柄を馬車へと乗せる。

 

そして、馬車を動かす様に兵士達に促すと達海を乗せた馬車は一目散にその場所から消えてしまった。

 

そんな中、酒場の中で異変に気がついた馬超が趙雲にこう言葉をこぼす。

 

厠から達海が帰ってくるのがあまりにも遅すぎるのだ。こんな、長時間、厠に籠るのはあまりにも不自然すぎた。

 

 

「なぁ、星? タッツミーのやつ遅くないか?」

 

「…ん? 確かにそうだな? もう帰って来てもおかしくないが…」

 

 

そうして、酒場の席から立つ2人。

 

あまりにも不自然だった。達海はいわばフットボールの文化をあちらこちらに知られせているとはいえど、命を狙われる様な人物ではない。

 

だからこそ、2人は安心しきっていた。達海が狙われ攫われるなど夢にも思っていなかったからだ。

 

それから暫くして、2人が町民から話を聞いて達海が謎の馬車に連れ去られていった事を知るのは数時間後の事だった。

 

 

 

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