袁術が雪と知りあって一週間が過ぎた。
袁術と雪は互いにフットボールが好きということもあってか意気投合した。
足が動かない雪だったが、フットボールに関して達海から色々と教えてもらっていた袁術に教わったり、また、外から袁術達の試合や練習を見ていて気付いた事を彼女に話したりしていた。
「でね! でね! あそこをブワァー! ってやると、あのスペースがヒュン! ってなってね!」
「わかるぞ! あそこじゃな!? 妾もあのスペースはヒュン! ってなって、そっからドーン! ってすれば良いと思っておってな!」
袁術は雪と話す為に練習終わりにいつも木の下に通った。
そこには、雪がいつも袁術を楽しみに待っていて、そして、そこから今の様にはたからみれば意味不明な会話を繰り広げている。
しかしながら、彼女達同士の中ではそれが通じ合っていた。
雪と話すのは袁術はとても楽しかった。
練習や試合が上手くいかない日もあった。そんな時も彼女は袁術を励ましてくれた。
達海が指導する練習を投げ出そうと考えた事もある。けれど、木の下にいる雪がそれをすれば悲しむ事が嫌で必死で頑張った。
「…最近、練習がきついのじゃ…。試合は楽しいのじゃが…」
「あ、でもね! 美羽ちゃん前より上手くなってるよ! この間もシュート決めてたよね?」
「ほ、ほんとかの?」
「うん! いつも見てるんだからわかるよ! 左足でシュート打つのは前は全然だったけど! 今はすっごく上手くなった!」
「ははは…。あ、当たり前なのじゃ! 妾はなんたってふぁんたじすた故な!」
「ふぁんたじすた?」
「夢を届ける者と達海が言っておったのじゃ!」
「うわ! すごーい!」
「えへへ、そうじゃろそうじゃろ! もっと褒めてたも」
そんな風に雪に褒められる袁術はだんだんとフットボールが上手くなる自分が雪に褒められるのが嬉かった。
雪に夢を見せている。確かに袁術はそう感じていた。
そして、そんな袁術を毎日の様に見守る雪もまた袁術の事が大好きで袁術の試合や日に日に上達する動きを見るのがとても楽しかった。
「ん…? あれ? あの娘…」
当然、それに気づく者も現れる。
達海は偶々、通り掛かった際に木の下にいる二人を見つけた。
彼女は達海も見たことがある少女だった。たしか西涼にいた頃、彼女がよくスタジアムに足を運んできていたことを達海は思い出す。
そして、彼女の傍にある松葉杖と足を見て達海は察した。
「なるほど…ね…」
そう呟いて達海は思わず笑みを浮かべながらその場から静かに立ち去る。
道理で飽きっぽい袁術がきつい練習にも耐えてきたのかが達海には合点がいった。
練習を投げて脱走する事をある程度、達海は想定して言いくるめ方をたくさん用意していたのだが、その光景を見てどうやら必要なかった事を悟った。
そして、達海が袁術と雪のやり取りを目撃それから数日後。
この日、袁術に一番嬉しい出来事が舞い込んできた。
「はい、みんな注目〜。今日からウチのマネージャーをする事になった娘だ。仲良くする様に」
「は、はじめまして。今日から…まねーじゃー? というものをする事になりした雪です」
「雪はお前らの試合をいつも陰から見ててな。フットボールをよく理解してるからいろいろ教えてもらう様に! 以上!」
そう言って、達海は嬉しそうに荊州ファンロンのメンバーに雪を紹介した。
袁術はその光景に目を丸くする。それは、まさか自分の側に彼女が加わるとは思ってもみなかったからだ。
袁術はすぐさま雪に近寄ると手を握り、喜びを露わにした。
「雪っ! なんとっ! 妾のチームに入ったのか!?」
「う、うん、達海さんから言われてね? えへへ」
「あ、美羽ちゃん? お友達?」
「私達にも紹介してー? 今日から仲間だし!」
「おぉ、もちろんじゃ! 皆の者っ、紹介するぞ。この者は雪と言ってな!」
袁術はマネージャーとしてチームに加わった雪の事についてみんなに楽しく話した。
いつも警備兵にバレないように木の下に隠れて袁術達の試合を観ていた事。そして、自分達と同じ様にしてフットボールが大好きな少女である事。
その全てを袁術は彼女達に嬉しそうに話した。
その甲斐もあってか、雪がチームに馴染むのには時間はかからなかった。
マネージャーとしての仕事を達海に教わり、彼女はチームにとって自分ができる事は何かを考えて袁術達をサポートした。
もちろん、袁術も雪が側にいることでより力を入れて練習に励んだ。
その分、練習で頑張った袁術はメキメキとフットボールの力をつけていき、ドリブルやパス。そして、周りを見渡せる広い視野。それらの才能が開花していった。
ミッドフィルダーのポジションにいる彼女は中盤で指示を出してチームをコントロールできる支配者。
そして、視野が広くなった彼女はようやくここに来てユースのチームメイトや雪の話を聞いて悟った。今まで自分が我儘を通す為に重税を民に課して来た事の過ちを。
袁術は今まで自分の我儘や贅沢の為に行って来た重税をここに来て撤廃する様に家臣らに告げた。
もちろん、重税により袁術の様に甘い汁を吸って来た文官や家臣の一部は袁術のこれに反発した。
しかし、張勲をはじめとした袁術を擁護する家臣の親衛隊の者達やユースの練習を仲間達と頑張る袁術の姿を見てきた馬超、趙雲がこれを抑え彼等の反発を駆逐した。
そして、重税を解かれた民達はこの報に歓喜した。
長きに亘って国内の政治が乱れ、重税を課せらていた民達。だが、ようやくその呪縛から解放されフットボールの産業も好転する様になっていく。
そして、ユースで頭角を現してきた袁術はそんな視野の広さを政治にも反映させていった。
彼女が所属するフットボールクラブ、『荊州ファンロン』。
その小柄な身体から信じられない様なパスを供給する彼女の姿。その姿を見てユースのチームメイト達は彼女にこう名前を付けた。
『小さな妖術使い』と。
荊州ファンロンのクラブハウス。
数ヶ月の期間を掛けて完成したこの場所の一部屋、達海はその部屋の椅子に座っていた。
そして、そこにいるのは趙雲、馬超、張勲の三人だ。
達海が彼女達を呼んだのは他でもない、重税が無くなり。撤廃された今、荊州の地で新たな試みをしてみる事にしたからだ。
それは、この地で新たに作る名産品。
チームユニフォームや練習着の開発だ。
今までは私服やビブスは無く、鉢巻などでチーム分けをしていた。では、何故今更になってユニフォームや練習着が必要なのか。
達海はその事について趙雲や馬超達にこう話をしていた。
「なぁ、タッツミー? なんで今更そんなものが必要なんだ?」
「そうですよ、監督」
「いや、お前らその格好でフットボールしてたら普通にパンツとか見えるから…。そういう訳だ」
「……は、はぁ!? どういう事だよ! それ!」
「どうもこうも、スカートで足あげてフットボールのボール蹴ったりボレーしたりしたらそりゃ見えない様にする方が無理だろ下に別の何かを履いてるならまだしも。お前ら淑女なら男の目とかも気にしないとな」
「…監督は変態でしたか」
「俺が変態なら、こんな事言わないで放置だろ普通」
そういう訳でユニフォームや練習着の作成を荊州で行う事になった。
達海曰く、「今の今まで黙っていたけれどそろそろ趙雲や馬超の女性としての沽券に関わって来ると感じた」のでこの決断に至った訳である。
達海は彼女達にこう話をしはじめた。
「つーかさ、今の今までなかったのがそもそもおかしいんだよ。お前らそんなイメクラみたいな格好してんのになんでユニフォームやらが置いてないのかが不明だよ」
「い、いめくら?」
「うんまぁ、それはいいや、とりあえずユニフォームと練習着。そんでもって練習や試合用の下着の生産。これを職人呼んでこの地でメーカーとして始めてもらう」
「はぁ…。これはまた盛大な…」
「需要あるんだしね? これもフットボールの為だ」
達海はそう言いながら肩を竦めた。
確かに今、普及しつつあるフットボールの需要として考えるならユニフォームや練習着は確かに必要だ。
これから先の事を考えると荊州の産業の一つにしても悪くはないだろうと張勲は小さく頷く。
「ええ、わかりましたではそうします♪」
「あんがとね? 張勲」
「達海さん、美羽様と同様、私の名前は七乃で構いませんよ? 」
「ん? あぁ、それじゃ七乃。よろしくね?」
「はい♪」
そう言って、達海にさらっと真名を呼ばれ上機嫌になった張勲はにこやかな笑みを浮かべながら早速、いろいろと話をつけるために部屋から出て行く。
それからしばらくして、馬超と趙雲の二人はいつの間にか親しげに達海から真名を呼ばれて欲しがる七乃の様子を見て不審に思ったのか達海に詰め寄った。
「タッツミー? ありゃどういうこと?」
「監督?」
「あー、今から忙しくなるな。俺も休憩がてらに寝る…」
「「誤魔化すな!」」
「あー…もう面倒だほんと…」
こうして、達海は彼女達に張勲とは何もない事をひたすらに説明して誤解を解くのに数時間ほど時間を費やした。
そして、張勲の真名をいつの間にか授けられていた達海本人にも七乃の真意が現在進行形で分かっていない事も継ぎ足しておこう。