大物殺しの監督と三国志の乙女達   作:パトラッシュS

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託された願い

 

 

 

達海がユニフォームの生産を提案してから数日後。

 

チームユニフォームが完成した。

 

金色の龍がサッカーボールを掴むロゴマーク。そして、黄色と黒の縦縞模様。

 

ユニフォームの下には専用の白いシャツを着用。今で言うアンダーというものである。

 

ズボンは黒色。新品同様の綺麗なユニフォームだった。

 

すぐさまそれを大量に生産。もちろん、クラブハウスの選手専用とサポーター専用の物で分けて生産を開始した。

 

 

それから、2日後。

 

張勲は達海からクラブハウスに呼ばれた。それは、この荊州ファンロンを次のステップに飛翔させる為だ。

 

達海は荊州ファンロンにトップチームを作る事にしたのだ。

 

その荊州ファンロンのトップチームの一人として達海はこの日、張勲をメンバー入りさせた。

 

いつか、ユースで活躍する者達が目指す夢の舞台。

 

達海はその舞台を張勲に作ってもらう事にしたのだ。

 

そして、張勲がこれを快く承諾。自分の主である袁術がいつでも迎えられるようにと彼女はピッチに立つ事を達海に約束した。

 

こうして荊州ファンロンはトップチームを設立。

 

これは事実上、公式試合をこれから行える環境が出来た事を意味する。

 

ホームスタジアムを持つ荊州ファンロンは西涼FC同様。サッカーボールの普及によりフットボールを民間でやっている者達に知れ渡る。

 

そして、西涼と同じ仕組みで賭博を主にその盛り上がりは他の県にまで知れ渡るようになっていった。

 

それから、数ヶ月の後に軌道に乗ってきた荊州ファンロンを見て達海はさらなる試みを行なった。

 

それは、民間と荊州ファンロンのトップチームとの試合。

 

達海はある少女をトップチームに合流させる決断を下した。

 

 

「美羽、お前は明日の試合。トップチームと合流だ」

 

「…え?」

 

「わぁ!? すっごーい! 美羽ちゃん!」

 

「やったね! おめでとう! 美羽ちゃん!」

 

「おめでとう!」

 

 

それは袁術のトップチームへの昇格だった。

 

周りのチームメイト達はこの報に喜んだ。彼女達も袁術の才能を認めている。最初こそはあまり上手ではなかったフットボール。

 

だが、それでも彼女は達海の練習をユースのチームメイト達と乗り越えてきた。

 

彼女達はそんな袁術の努力も優しさも努力も知っていた。

 

だからこそ、彼女がトップチームに召集される事に誰一人として不満もなかった。

 

それどころか、チーム全員が袁術の昇格を祝福した。自分達の分まで頑張って欲しいと彼女に願って。

 

だが、当然、袁術はこんな期待をされたのは初めてである。彼女は達海に問うた。

 

 

「な、何故、妾なのじゃ? 他にも…」

 

「いや、おまえだからだよ美羽。お前さんが一番フットボールが上達した。みんなも認めているだろう?」

 

「じゃ、じゃが…妾は…」

 

「心配すんな、明日は楽しんでこい。フットボールをさ」

 

 

達海はそれだけを袁術に告げた。

 

ただ、楽しんで来い。

 

試合に出る予定の袁術に達海は笑顔を浮かべていた。彼女がフットボールを人一倍好きになって努力したのも達海は知っている。

 

きっかけは袁術の友達である雪の影響なんだろうがそれでも彼女がトップチームに加わる事は何よりもみんなが賛同した事だ。

 

だが、袁術はそれでも、不安で一杯だった。

 

西涼で見た試合。あのピッチの中にいる人達は袁術には全て眩しく見えた。今度は自分がその者達と同じ土俵に立つ。

 

その夜、袁術は不安で眠れなかった。

 

友人である雪はそんな袁術に連れ添うように初めて彼女と会った木の下で夜の月明かりの下、二人で明日の試合について話をしていた。

 

 

「だ、大丈夫だよ! 美羽ちゃん!」

 

「本当かの? こんなの…初めてなのじゃ」

 

 

袁術はそう言って、震える手をギュッと握りしめる。

 

今まで練習を積み重ねてきたユースのチームからの昇格だ。

 

才能を開花させはじめた袁術は、そのメンバーに達海から抜擢された。

 

これはこの外史における、ユースの初の昇格の事例と言ってもいいだろう。それゆえに袁術もまた多大なプレッシャーを感じていた。

 

手の震えが止まらない。

 

夢にまで見た観客に囲まれた試合。しかも、自分が初めてユースの昇格プレイヤーだ。

 

これから続く者たちの為にも結果を残さないといけない。

 

当然、観客席から応援する筈の雪も袁術同様に緊張している。

 

だが、彼女はマネージャー。そして、袁術の友人だ。

 

なら、友人として、マネージャーとして彼女が出来ることは一つ。左足が動かず、フットボールを諦めた彼女が出来る事。

 

それは、フットボールのプレイヤーとしてピッチに立とうとしている袁術に夢を託す事だ。

 

だが、彼女は袁術が明日ピッチで彼女らしくプレイが出来るように寄り添う事しかできない。

 

自分が彼女の隣でピッチに立てたら、そんな、叶わない想いを押さえ込み、雪はゆっくりと袁術に話しかける。

 

 

「美羽ちゃん…」

 

「おかしいの…。練習ならこんなに緊張しないのじゃが…あはは」

 

「ううん、そんな事ないよ? あんな舞台に立つってなれば誰でも緊張するよ」

 

「そうかの? 妾は…今までみんなと達海に教えられながら練習して仲良くなって。だから余計に頑張らないとって」

 

「…そっか」

 

「うん…」

 

 

そう言って、袁術は顔を俯かせて雪に静かに頷く。

 

気まずい沈黙が二人の間に漂う。そう、雪にも実際にピッチに立つ袁術の気持ちなんてものはわからない。

 

たくさんの期待。そして、ユースのみんなの願い、夢を彼女はその小さな身体に背負っている。

 

すると、雪はあるものを取り出し始めた。

 

 

「美羽ちゃん? 手を出して?」

 

「え?」

 

「いいから、ほら」

 

 

袁術はそう言って、雪に言われるがまま手を差し伸べた。

 

手を差し伸べた袁術は雪にされるがまま、腕に何かを巻きつけられた。それは、色とりどりの綺麗な四つ編みにされた紐のような物だ。

 

袁術は手に巻かれたそれを首を傾げながら見つめる。明らかに安物の様な腕飾りだが、何処か袁術にはそれが綺麗なものに見えた。

 

そして、それを巻き終えた雪は笑顔を浮かべたまま袁術にこう告げる。

 

 

「ミサンガ…っていうんだこれ」

 

「み、みさんが?」

 

「そう、これを付けてると願いが叶うって。タッツミーから教わったんだ♪」

 

 

雪は笑顔のまま、袁術に巻き終えたミサンガについて袁術に説明する。

 

そして、袁術にミサンガを巻いた後。雪は笑顔を見せたまま自身の手を上げて同様に自分の手に巻かれたミサンガを袁術に見せた。

 

願いが叶う。それは二人で付ければきっと二人分の願いが叶うはずだ。

 

雪はそう思っていた。だから、袁術と同じ様に自身の腕にも同じ様なミサンガを身につけていた。

 

ピッチに立つ袁術に一人で全て背負わさ無い様に。気休めかも知れないが雪はそう思って達海から教わったこのミサンガを作った。

 

 

「お揃いだよ♪ だからね、明日は一人じゃないよ美羽ちゃん? 私も一緒に戦うから」

 

「雪…、お主…」

 

「私は足が動かない…。けど、美羽ちゃんの応援は出来るから…。だって、私が美羽ちゃんの一番目のファンだからね♪」

 

「…あははは、そうか、雪が妾のファンか! なら妾も明日は頑張らねばな!」

 

「うん♪ 観てるよ!」

 

「任せておくのじゃ! きっと! きっと! 雪に胸を張れる様に頑張るのじゃ!」

 

 

袁術の手の震えが止まった。

 

緊張していた筈の気持ちが和らぐのを袁術は感じる。雪が隣にいて見てくれている。

 

今までだってそうだった。

 

だったら、もう怖いものなんて無い。明日の試合は楽しもう。そう、自分が最初にフットボールを始めた時だってそうだったじゃないか。

 

好きだから夢中になれた。好きだから大好きな友人の為にもっといいプレイをしようと思った。

 

吹っ切れた袁術はこうして試合前に雪に再び勇気を貰い、試合前の夜を過ごした。

 

 

翌朝。

 

袁術は達海からトップチームに加えられ、張勲と共にクラブハウスの隣に建設したスタジアムに連れてこられた。

 

収容人数は15000人。

 

だが、小さなスタジアムならこれでも良い方だろう。

 

賭博の為にやってくる人々やフットボールという文化に感化された者達が集まるこのスタジアムは重税が解除され、商店が立ち並ぶこともあり満員とはいかないが、それでもかなりの人数が集まるスタジアムになっている。

 

試合は実力派を揃えた農民や町民のフットボーラーの選抜チームと荊州ファンロンとの試合だ。

 

リーグが開幕出来ない今、興行として成り立つのはギャンブル。

 

だが、もちろん子供達の入場が無料なこともありそれ以外の娯楽でくる者達も少なくはない。

 

 

「さて、それじゃスタメンは美羽に七乃を中盤に置いた4-4-2のオーソドックスで行くぞ。準備はいいか? お前達」

 

「「「はい!」」」

 

「いい返事だ。それじゃ行くぞ」

 

 

ミーティングを終えた達海はそう言って、ロッカールームで全員に確認を取るとメンバーを引き連れてスタジアムに入場する。

 

袁術の背番号は10番。

 

この10番という数字はエースが着ける背番号。皆はそうは思ってはいないだろうが達海はその背番号を袁術に授けた。

 

緊張感が漂うスタジアム。ピッチに立つ袁術にもその緊張感がわかる。

 

スタジアムにいる観客。ベンチに座る仲間。

 

そして、この試合を見に来ているユースの仲間達と友人でありマネージャーの雪。みんなの想いを胸に袁術はこの場に立っていた。

 

それから、11人のフットボールプレイヤー達は互いに入場すると見合う形で礼をする。

 

そして、審判が各自位置につき、いよいよフットボールの試合が開始された。

 

 

試合は前半10分。

 

相手のストライカーがディフェンスを振り切り、ゴールに迫る。

 

だが、それを阻止する綺麗な七乃のスライディングが決まり敵選手は転倒した。しかし、これはボールにいっているため試合は続行。

 

今回の実況には趙雲と馬超の二人が入り、試合を盛り上げる為の実況をしていた。

 

 

「今のスライディング上手いなぁ、ああなると敵選手は全然シュートに行けないぜ」

 

「あぁ、そうだな。おっとここでファンロンの選手が一人上がってきてるな」

 

「クロスが入る〜。…がダメ。互いに譲らない試合だなこれは」

 

 

そう言って、二人の解説同様にクロスがクリアされた途端、観客席から吐息が漏れる。

 

自分の生活を掛けてこの試合にお金を賭けている者達もいるだろう。互いに譲らない膠着した試合は前半28分に差し掛かる。

 

その時だ。中盤にいた袁術が相手の選手からボールを奪い取った。

 

そして、そのままそれを思いっきり蹴り上げると長いロングフィードを繰り出した。

 

 

「…ボールを奪取した! 袁術の奴が中盤からロングフィードだ!」

 

「裏に抜ける! ストライカーフリー!」

 

「決めたぁぁあああ!! 荊州ファンロン1点目!」

 

 

実況席の馬超の叫びと共に会場が揺れた。

 

綺麗なアーチを描く様なそんなロングフィードだった。まるで魔法が掛かったような綺麗なボールに思わず観客達は息を飲む。

 

そう、これが袁術のプレイだった。

 

味方に綺麗な魔法の様なパスを供給する。さらに、惑わす様な絶妙なフェイントを入れたドリブル捌きはディフェンスにもなかなか止められない。

 

これは達海から袁術が教わったプレイだ。

 

同じ様なポジション、ミッドフィルダーで活躍していた達海からの直伝のドリブルだ。そうそう取れる様な代物じゃない。

 

それから試合は拮抗し、荊州ファンロンは失点は無かったものの危ない場面を幾つか凌ぎきり、後半に折り返す。

 

そして、その後の試合は両者とも譲らない拮抗した試合が続く。

 

ジリジリと時間だけが過ぎていく。

 

 

だが、試合が再び動いたのは試合終了直前、後半45分の出来事だった。

 

試合終了間際。観客席にいた者達が全員思わず立ち上がる様な出来事が起こる。

 

それは、中盤から上がって来た袁術が張勲からパスを受けた時だ。

 

相手からの激しいスライディングタックルが袁術に襲いかかってきた。

 

だが、袁術は冷静にこれを避けると、そのまま勢いをつけてボールを足に吸い付ける様にして1人、2人とディフェンスを躱す。

 

そして、明らかに観客達から見ても遠いだろうと思われた28メートル程の地点から彼女は思いっきりボールを蹴り上げた。

 

ボールは回転が掛かり、ゴール前の地面にバウンドする。

 

だが、バウンドと同時に加速。そのままゴールキーパーが反応して飛び込んだにも関わらずゴールの中に吸い込まれていった。

 

観客達はその光景に唖然とした。

 

袁術がピッチに立つその姿。それは正に妖術使いの様な大胆不敵なプレイだった。

 

ドッと観客席から歓喜の声が広がる。監督席に座って試合を見ていた達海も思わずその光景に席を立ち上がった。

 

 

シュートを決めた袁術は嬉しさのあまり観客席に一目散に向かっていった。

 

そして、彼女は一目散に向かった先にいる少女に抱きつくと涙を流して喜ぶ彼女の耳元で何度もお礼を囁いた。

 

彼女は暫く少女を抱きしめた後、何かを囁くと自分のユニフォームを脱ぎ、彼女に手渡した。

 

 

「雪…っ! ありがとうなのじゃ! シュートを決めたら達海からこうしろと言われたのでの」

 

「あ…ありがとう! 美羽ちゃんっ! …ぐす…っ!」

 

「えへへ…。雪のミサンガのおかげじゃ。妾こそありがとう」

 

「うんっ!」

 

 

雪は涙を流しながらそう言うと袁術が脱いで手渡したユニフォームをギュッと抱きしめた。

 

願いが叶った。

 

雪はそう思った。自分が見てきた彼女が綺麗なドリブルに魔法の様なパスを見せてくれた。

 

ずっと、自分も憧れだった。あのフットボールをするピッチが。

 

その願いを袁術が代わりに叶えてくれた。足が動かない自分の代わりにピッチに立ってボールを蹴ってあの憧れだった舞台で活躍した。

 

そんな、彼女がシュートを決めて一目散に自分の元にやって来てくれた。

 

まるで、夢の様な1ページ。

 

それを見ていた観客達はもちろんその光景に目を疑っていた。

 

雪の身分は農民。それは成りを見ればみる者ならすぐにわかるだろう。それに対して袁術は袁家が出自の由緒ある家柄の領主だ。

 

傲慢で我儘。それでいてずっと領民を苦しめてきた。

 

そんな彼女が農民の娘である雪に抱きつき、お礼を述べて感謝し、ユニフォームまでプレゼントした。

 

その光景が試合を見ていたサポーター達の目にはこう映る。

 

あぁ、彼女は変わったのだと。

 

この試合を見ていた者達にはわかるだろう。袁術のプレイが傲慢で我儘なそれとは違う事も最初の得点も袁術からのアシストからだった。

 

これには、実況席にいた馬超も趙雲も思わずこう言葉を漏らした。

 

 

「袁術の奴…変わったな?」

 

「あぁ、そうだな…、良いプレイだった」

 

 

観客達は席から立ち上がると試合終わりと同時に一斉に立ち上がり袁術と雪に対して、拍手を送った。

 

袁術と荊州ファンロンの選手達全員がスタジアムから退場するまで、暫くその拍手は鳴り止まなかった。

 

袁術のトップチームでのデビュー戦。

 

それは、1ゴール。1アシストと鮮烈な印象を観客達に植え付ける素晴らしいデビュー戦となったのだった。

 

 

それから暫くして。

 

達海は袁術の鮮烈なデビュー戦を祝して、全員で戦勝会という名の宴会をクラブハウスで行った。

 

チーム一丸となって勝った試合。袁術は雪とユースのみんなと一緒に喜びを共有しながら宴会を楽しんだ。

 

そんな袁術の試合を見ていた趙雲と馬超も彼女に祝いの言葉と雪に対して行った行為を素直に賞賛した。

 

身分の垣根を越えた彼女の行為。それは、確かに雪やユースだけではなく見ていた観客達に夢を与えた。

 

 

「よくやったよ、袁術。私は見直した」

 

「そ、そうかの? 妾も馬超のプレイには感動させられたのじゃ!」

 

「翠でいいよ、あんたはもう私と同じ誇り高い選手だ。袁術」

 

「う、うん…。そのありがとうなのじゃ」

 

「私は星だ。袁術、そう呼んでくれ」

 

「妾は美羽、2人もそう呼んでくれたも? …えへへ」

 

 

袁術は純粋に嬉しかった。

 

あの西涼で見た試合に出ていた憧れの趙雲や馬超に真名を預けられるほど認められた事もそして、あの時、ピッチで観客達から認められた事も全てが特別なものに感じた。

 

それも雪の支えがあったからだ。袁術は素直に雪の存在に感謝していた。

 

宴会も無事に終わり、袁術は雪と共に宴会を抜け出した。

 

 

「…美羽ちゃん宴会はもういいの?」

 

「うん…。もう十分皆から祝ってもらったのじゃ」

 

「そっか、えへへ」

 

「なんじゃ? 雪」

 

「ううん。美羽ちゃんからもらったユニフォームなんだけどね、私一生忘れない宝物にしようと思ってね」

 

 

そう言って雪は嬉しそうに笑っていた。

 

袁術もまた、そんな雪の笑顔に思わず笑みを溢す。雪が自分を励ましてくれたおかげでみんなから認められた。

 

感謝をするべきは袁術も一緒の気持ちだった。

 

 

「なぁ、雪。これからも妾を応援してくれるかの?」

 

「当たり前だよ! 絶対! もっとすごい舞台で戦おう!! その時は一緒だよ?」

 

「ほんとじゃな! もちろんじゃ! 妾はもっと凄いところに行くからの!」

 

 

そう言って、互いに指切りをして笑い合う2人。

 

足が動かない雪の代わりに袁術がもっと凄い場所に彼女を連れて行ってあげる。

 

そんな約束をデビュー戦を終えた夜。袁術はしっかりと雪と交わした。

 

 

それから袁術のデビューから数日の期間が経った。

 

達海はユースの選手達や雪達を一度、故郷である農村に返して欲しいと親たちからの要望を受けた。

 

どうやら袁術が重税を撤廃し、産業が豊かになりつつある期間に人手がいるらしいのである。

 

時期的にも一週間くらいならば、問題はないと達海は考えていた。

 

張勲も袁術の二人の意見を聞いてみたが、二人とも賛同してくれた。馬超と趙雲も同じく農村に一度、一週間だけユースの子供達を返す事には頷いた。

 

袁術も雪や他のユースの娘達が農村に帰りたがっていた事を知っている。親元を離れてホームシックになる娘ももちろん中にはいた。

 

だからこの時期に返してやること自体に反対する事は無かった。

 

雪は農村に帰る前。袁術にあるものを渡していた。

 

 

「はいこれ!」

 

「な、なんじゃこれは?」

 

「はちみつレモンっていうんだ♪ タッツミーから教わって作ってみたの。疲れが取れるからよかったら食べてみて?」

 

「おぉ!」

 

 

彼女は袁術にはちみつレモンをプレゼントした。

 

自分が農村に帰る間は袁術に会えない。だから、代わりに美味しい物でも作ってあげようと達海から袁術の好物を聞いて、さらに、このはちみつレモンを教えて貰った。

 

袁術はこの雪が作ってくれたはちみつレモンをかなり喜んだ。自分の好物とフットボールにも疲れを取るには良いと聞いて雪に感謝した。

 

それから、雪と一緒にユースのメンバーの何人かは農村に帰って行った。

 

 

そして、後にとんでもない出来事が起こるとはこの時、誰も予想していなかった。

 

 

 

雪とユースのメンバー数人が農村に帰省してから数日の後だった。

 

袁術も達海達も予想だにしなかった出来事がそれから暫くして舞い込んでくる。

 

それは雨が大量に降りしきる日の出来事だった。

 

ある兵士が袁術の城へと血だらけで伝令の為に飛び込んで来た。

 

 

「で、伝令ですっ…申し上げます! …農村部地域が賊による襲撃を受けました! 農民に大量の死者が出ております!」

 

 

これが、荊州ファンロン設立後、後に多く語り継がれる。『ファンロンの悲劇』の幕開けだった。

 

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