大物殺しの監督と三国志の乙女達   作:パトラッシュS

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荊州との別れと誓い

 

 

達海はチャリティーマッチの試合から一週間後。

 

荊州ファンロンの監督を辞任した。

 

それは、時が来たからかも知れない。袁術には自分が教えたフットボールや仲間たちが出来た。

 

ならば、違う地へと行かなければならない、達海はフットボールを広める為にこの地に留まっていたのだから。

 

雪や仲間たちの死を乗り越えた袁術。

 

彼女ならばもう心配する事は要らない、そして、この地には彼女を英雄として祀る熱いサポーター達がいる。

 

旅立つ日、達海はフットボールを教えた袁術と張勲と城門の前で対面していた。

 

 

「やはり…行ってしまいますか」

 

「あぁ、そうだね。フットボールを広めてリーグを作る、それが俺の夢だからさ?」

 

「達海…、妾は…」

 

 

達海は泣き出しそうな顔を浮かべる袁術に困ったように肩を竦めていた。

 

確かに彼女と過ごした荊州での日々は達海にもこの乱世で折れてはいけない心を学ばせてくれた。

 

袁術は達海にとっても大事な教え子だ。秘蔵っ子と言ってもいいだろう。

 

趙雲や馬超は元々、運動能力がありクオリティは高い選手達だ。けれど、袁術は雪と共にフットボールを頑張り上手くなっていった。

 

監督をやっている達海からすれば監督冥利につきる人材だった。

 

達海は泣き出しそうな袁術にポンッと頭に手を置くと笑顔を見せこう告げた。

 

 

「お前がもっともっと上手くなって…そしたら俺がまた監督をしてやる。約束だよ?」

 

「ほ…本当じゃな!」

 

「あぁ、本当さ。お前は本当に強くなった。もっと上手くなる。もっと高い場所にいける。だから、そん時は俺にも夢を見せてくれ美羽」

 

「も…もちろんなのじゃ…! …ぐすっ…。達海にも夢を見せてやるのじゃ!」

 

「待ってるぜ?」

 

「うんっ!」

 

 

そう言いながら涙でクシャクシャになる顔を拭いながら袁術は力強く頷いた。

 

本当にいろいろな事があった。出会いも、別れも、挫折も。達海がいる間。袁術は多くの事を経験し大きくなった。

 

雪は一緒にいる。

 

彼女から貰ったミサンガは試合では絶対に外さない。袁術はそう心に決めていた。

 

達海もまた、自分の元を去ろうとしている。だが、袁術はこの別れをこのままにするつもりは無い。

 

きっといつか、達海と共にピッチを駆け抜ける。そう、心に誓った。

 

張勲もまた、袁術と同様に涙を流しながら達海と対面していた。

 

彼女にもいろいろと達海はお世話になった。

 

袁術の為とはいえど、彼女は荊州ファンロンの為に様々な業務をこなしてくれた。

 

雪や袁術のユースの仲間たちが殺された時も彼女は自分を責めた。そんな時、張勲を支えて励ましてくれたのは紛れもなく袁術と同じくらい心に傷を負っているだろう達海からだった。

 

彼女は達海の手を握ると震える声でこう告げはじめる。

 

 

「ありがとう…ございました…、達海さん…」

 

「お前まで泣くなよ、七乃」

 

「だっ、だって! 私は…!」

 

「お前は最高の選手であり、最高のフロントだったよ。俺の方こそありがとう七乃」

 

「達海さん…! …!」

 

 

そう言って達海に感極まった七乃は抱きついた。

 

そして、達海の胸元で涙を流しながら今まで堪えていただろう感情を爆発させた。

 

抱きつかれた当の本人はというと仕方ないといった具合にため息をつき、優しく泣き噦る七乃の頭を撫でてやった。

 

そして、しばらくして、別れの挨拶を済ませた達海は荷物を馬に積み、馬超と趙雲の待つ城門の外へと馬を進めた。

 

その時だ、城の方から大きな声が聞こえてきた。

 

 

「達海ー!!」

 

 

達海はその声の方へと振り返る。

 

その声の主は笑顔を浮かべている袁術だった。

 

そして、達海は趙雲と馬超を傍に連れたまま、その声の主である袁術に笑顔を浮かべたまま右手を突き上げ答える。

 

だが、次の瞬間、彼女から発せられた言葉に達海は一気に固まる事になった。

 

 

「妾が超一流のプレイヤーになったら! その時は妾と結婚するのじゃぞ!」

 

 

達海はその袁術の声にピタリと馬を止めた。

 

そして、達海の背中には悪感が過る。それは両脇にいる自分の護衛役である馬超、趙雲の2人からだ。

 

いや、なんとなく言いたい事は理解できる。しかしながら、達海は断じてそう言うつもりで袁術にフットボールを教えたわけでは無い。

 

達海はジト目でこちらを見てくる両脇にいる2人に苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

だが、馬超や趙雲から達海に対してこんな言葉が飛び交ってくる。

 

 

「ふーん…タッツミーいつの間に美羽とそんな仲になったのかー、へー?」

 

「いやいや年齢考えろよ、無いだろ普通?」

 

「それよりも張勲殿を手篭めにするとは…とんだ腹黒監督ですな、達海殿?」

 

「…知らねーよ。いや、手篭めにっていうか俺何にもしてないんだけど」

 

「だから貴方はアホなのだ」

 

「…おかしいな。俺ってこんなに人望なかったっけ?」

 

 

そう言って、達海に辛口な言葉を連発する2人に首を傾げながらそう呟く達海。

 

むしろ、人望しかないのでこんな事になっている訳であるが、当の本人は監督として彼女達に接していた為に全く自覚が無い。

 

それどころか、辛口な2人の言葉に首を傾げる始末である。

 

こうして、達海は様々な出会いと別れをした『小さな妖術使い』がいる荊州の地を去っていった。

 

この地の農村部に位置する慰霊碑。

 

その慰霊碑には達海が教えた教え子達の名前が全員刻まれていた。そして、その中には雪の名前がある。

 

その慰霊碑は毎年。荊州ファンロンのサポーターによって掃除が成され、チームが勝利した日には楽しく宴会を開くという話であった。

 

 

 

荊州の地から離れた達海一向。

 

 

次に向かうフットボールを広める地は決めていた。それは、荊州のすぐ側にある地、長沙の孫堅の治める地だ。

 

フットボールの産業を始めた際。協力してくれたのは孫堅だった。

 

袁術のフットボールの試合も何回か足を運んでいる彼女ならば、すぐにフットボールに対しても理解をしてくれる。

 

達海はそう感じて、フットボールを広めるべく孫堅がいる地へと足を踏み入れるべく道を進んでいた。

 

 

「長沙の孫堅かぁ、私も見たことないんだよね」

 

「どんなお方だろうな? 私も一度見かけた事はあるが…」

 

「あ、そうなんだ?」

 

「はい、一度だけ戦で。しかしながら、一度ゆえあまり彼女の内情は知りませぬ」

 

「ふーん…。孫堅ねぇ…」

 

 

達海も孫堅の話は街の人や小学校の時に見た暇つぶしの漫画程度の知識しかない。

 

確か、孫家とかいう家だとかで何かの戦で敗戦して死んだとか描いてあったような気がする。

 

それで、孫策やら孫権やらが次々に現れて治めた国だとか、詳しい話はよくわからない。

 

曖昧な知識の達海。

 

 

孫堅。長沙の太守。

 

長沙のほかにも合わせて3群程の地域を持つ名君という話だった。

 

近年ではフットボールの産業を始め、荊州を袁術と共に共存する様になっている。

 

彼女の素性は良くは知らないが、娘が2人おり、孫策、孫権という娘だそうだ。

 

達海は今からその地に足を踏み入れなくてはならない。しかしながら、袁術のところにいた達海の事を多分彼女達は知っているだろう事は把握していた。

 

 

そんな、孫堅の元へと向かう道中。

 

達海はある3人が倒れている事に気がつく。見た限り、行倒れだろう。

 

またこのパターンかと思いつつ、趙雲の例もある。彼は冷静に両脇にいる2人にアイコンタクトを送るとこう告げた。

 

 

「よし、お前らプランBだ」

 

「同感ですな」

 

「タッツミー、次の街で肉まん食べようぜ」

 

「「「ちょ…!ちょっと待ったぁ!」」」

 

「あーあ、捕まっちゃったよ。何してんだよほんと…」

 

 

行き倒れに会う確率はどれくらいかはわからない。

 

だが、達海は明らかに行き倒れにおかしなほどエンカウント率が高い自分の運を呪うほかなかった。

 

彼女達は全員立ち上がると縋り付くように達海の足にしがみついた。

 

 

「もう3日! もう3日何も食べてないの!」

 

「だー! わかった! わかったから離せ!」

 

「嫌だ! 逃がさない! 逃がさないんだからぁ!」

 

「ゾンビかお前はっ!?」

 

「姉さん! そのまま!そのままだよ!」

 

 

その必死さは凄まじいの一言。

 

身なりはそれでこそ派手とは言わないが、明らかに農民のそれとは違う彼女達。

 

そんな彼女達に引き止められた達海は困惑する中、しぶしぶ3人を馬に乗っけて前回の趙雲同様に肉まんを奢るハメに成った。

 

これが、達海と少し前に黄巾の乱を引き起こしたアイドルを目指す三姉妹との邂逅だった。

 

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