大物殺しの監督と三国志の乙女達   作:パトラッシュS

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長沙にて

 

 

 

張三姉妹と出会った達海は長沙に向かう途中で街に寄った。

 

というのも行き倒れていた3人を趙雲と馬超、達海の馬にそれぞれ相乗りさせて連れてきたわけである。

 

ともかく、行き倒れていた3人の事情を聞くと黄巾の乱を引き起こした三人娘だという事が判明した。

 

そして、3人は曹操をはじめとした各領主からの賊討伐に巻き込まれ、黄巾の乱が収まると同時に解放されたわけであるが。

 

 

「まぁ、あれね。早い話が歌を歌うだけじゃ食べていけない事がわかったの」

 

「そっか、そりゃ大変だったな」

 

「でしょ〜? もう宿代を稼ぐのもカツカツだったんだよ〜?」

 

「あーはいはい…。そだねー」

 

 

達海は世の中の世知辛さをヒシヒシと語るピンク髪の少女に対し、適当に相槌を打ちながらそう応える。

 

彼女の名前は張角、張三姉妹の長女らしい。

 

なんというか天然というか、アイドルはアイドルでも歌うというかバラエティに出た方が受けが良さそうな娘だなと達海は思った。

 

本人はどうやら姉妹2人と歌う方のアイドルを目指しているらしいのでなんとも言えない。これもフットボールとは別の一種の夢だろう。

 

 

「んで? あんたら作詞とか作曲出来るわけ?」

 

「もちろん! 私達こう見えてなかなか人気だったんだよ?」

 

「人気だったんなら行き倒れになってないでしょ?」

 

「…うぐっ!? …い、痛いところをつかれた」

 

 

そう言って顔を引きつらせる張角。

 

達海が言っている事は的を得ていた。彼女達が人気だったのはあくまで『太平要術の書』の力があったからこそだ。

 

だがそれも燃やされた今、彼女達が歌を歌っても稼ぎは少なかった。明日の分の生活費もない。財布はまさに毎日が世紀末状態だった。

 

達海はそんな彼女達のお財布事情なんぞ知る由もないが、これも何かの縁。

 

とりあえず、彼女達をこのまま放置するのも気が引けて仕方なかった。

 

 

「しゃあねぇな。んじゃ、俺がお前らのスポンサーになってやるよ?」

 

「え?」

 

「だからスポンサーだってば。俺の名前は達海猛、フットボールの監督だ」

 

 

そう言って達海は張角にスッと手を差し伸べた。

 

それは、握手を求めるものだ。ひとまず、彼女達には職がない。フットボーラーにするにしても彼女達には既にアイドルになるという夢がある。

 

だからこそ、達海はスポンサーとして彼女達に何かしらフットボールの興行の役に立ってもらおうと考えたわけだ。

 

しかしながらこの張角、一筋縄ではいかない。

 

彼女は差し伸べてられた達海の手を見るなりこう彼に告げた。

 

 

「握手代はこちらになります♪」

 

「馬鹿かっ! お前は!?」

 

「あだっ!」

 

 

達海のチョップが張角の頭上に炸裂し、ズビシとかなり良い音を出した。

 

どこに今から契約しようとするフットボール監督の握手に対して金を要求する者がいるだろうか? 肉まんもご馳走した挙句にこれではチョップを炸裂されても文句は言えないだろう。

 

これなら、西涼にいる変態な馬超の妹の方がまだ可愛い方である。

 

 

「まぁ、まぁ、タッツミー大目にみてやりなよ。こいつらも苦労してるんだからさ?」

 

「そうよ! 私達もなんやかんやで苦労したのよ!」

 

「なんやかんやってなんだよ?」

 

「ちぃ姉さん…。かくかくしかじかの方が良いと思うの…」

 

「いやいや、どちらにしろ伝わんねーから。伝言ゲームじゃないんだぞ?」

 

 

達海は張三姉妹に対し、そう突っ込みながら頭を抱える。

 

この握手に金を要求する長女の天然娘もそうだが、あと2人もなかなかの強者だった…別の意味で。

 

趙雲はそれを眺めながら何やら笑いを堪えている様だった。最近、彼女の笑いの沸点が西涼の馬鉄のネタを見た時から下がってきているのではないかと達海は感じた。

 

ひとまず達海はため息を吐くと彼女達にこう話をしはじめる。

 

 

「まぁ、それはともかくだ。話を続けるけど、俺はフットボールをこの国に広めたいんだ。んであんたらはアイドルって言ってたよな、確か?」

 

「うん、そうだね。はふはふ」

 

「肉まん食いながら話を聞くなっつうの…まぁ、良いや。それでさ、フットボールの試合の実況なんだけどあんたらにしてもらおうかと思ってね?」

 

「…ふっとぼーる? 聞いたことないけど?」

 

「なんでアイドルを知っててフットボールを知らないんだよ、おかしいだろ?」

 

 

達海は今だに肉まんを頬張っている張三姉妹の次女、張宝の言葉を聞いて頭を抱える。

 

いや確かに”フットボール”は聞いたことがないかもしれないが、”アイドル”という単語を知っていて歌を歌っているという彼女達が本当に謎だった。

 

さらに達海が掘り下げて話を聞くとユニット名は『数え役満☆三姉妹』だとか。

 

もはや、フットボールではなくて麻雀が始まったのかと、これには達海も苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

「そういうわけだからお前ら実況な? いや、実況しろ。 始球式には歌わせてやるから…」

 

「作詞作曲はもちろん私だよね?」

 

「…好きにしたら? うん、良いんじゃないかな?」

 

 

もはや達海は自分よりマイペースを貫く彼女に白旗を揚げる寸前だった。

 

上には上がいる。達海も大概マイペースでかなりの天然であるのだが、天然が天元突破した様なこの張角には突っ込む事しかできない。

 

そして、この姉にして、この妹達だなと改めて納得してしまった。

 

まぁ、試合前の盛り上げとかには適任だろう。ひとまず彼女達にはこう話をした。

 

 

「んじゃ、同行って事で良いんだな?」

 

「しばらく紐になります」

 

「紐になるってなんだよ…。はぁ、もういいや」

 

「監督が諦めるほどの強者とは…。恐るべしだな張三姉妹」

 

 

こうして、張三姉妹は達海達一向と同行する事が決まった。

 

目指す地は長沙。

 

改めて3人分の馬を仕入れた一行はこうして長沙に向かい馬を進める。しかしながら、張三姉妹はというと慣れない馬に尻を痛めていた。

 

 

「ねぇ、さっきからお尻が痛いんだけどさ。たっつん?」

 

「”たっつん”って誰だよ?」

 

「達海の事だよーやだなー。だってたっつん真名教えてくれないじゃん!!」

 

「だから、”タッツミー”だってば」

 

「んじゃたっつんでいいね!」

 

「……………お好きにどうぞ」

 

 

普段、人にやる事を他人からやられるとなんだかイラっとくる。達海の場合は天然でやっていたがこの張角という娘は更に上を行く。

 

天然娘VS天然監督。

 

が、しかし、この勝負。達海が突っ込んだ時点ですでに勝負がついていた。

 

馬超はそんな張角と達海のやり取りを見ながら嬉しそうにこう話をしはじめる。

 

 

「あ、私はずっとタッツミーって呼んでるけどな、な? タッツミー」

 

「えー!? たっつんのほうが可愛いよー! そうだよねー?」

 

「いや俺に聞くの? それ?」

 

「だってあんたの名前じゃない」

 

「ちぃ姉様が言う通り…」

 

「いや、たっつんって可愛いか?」

 

 

達海は馬に揺られながら自分のニックネームについていろいろと議論を交わす彼女らに首を傾げる達海。

 

たっつんと呼ばれるのは意外と初めてだったりする。新しいあだ名が見つかりちょっとだけ達海は嬉しかった。

 

そんなこんなで、新たに3人を加えた達海一行は長沙の街に辿り着いた。

 

長沙の街には賑やかな商店が並んでいる。中には荊州ファンロンや袁術のユニフォームを売る商店もあった。

 

同じ荊州の地である。フットボールの人気はこの地においても浸透しつつあるのが伺えた。

 

 

「あっ! これ、私たちの背番号だぞ!! タッツミー! 馬超って書いてある!!」

 

「西涼がそもそも発祥になってるからな、新しく向こうで馬騰が作ったんだろ」

 

「ほぅ…、これは…。私のもあるな」

 

「えー! 何! 何!? どんなの! どんなのー!?」

 

「私達にも見せなさいよ!」

 

 

こんな感じに長沙の商店に立ち並ぶユニフォームやフットボールグッズに目を輝かせる一同。

 

ここにはこれ以外にもたくさんな品揃えがあった。例えば。

 

 

「監督、これは何でしょう?」

 

「スパッツだね、フットボール用の下着さ。パンツだと蒸れたり、汗の水分を吸い込んで重くなるだろう? 下半身の機動性を上げる為の下着だよ」

 

「んじゃ! んじゃ! タッツミー! これは?」

 

「あぁ…これは…はぁっ!? スパイクじゃねぇか!! もう出来てたのかよ!?」

 

「すぱいく?」

 

 

驚いた声を上げる達海に対し、首を傾げる馬超。

 

見た目は変わった靴にしか見えない。何しろその靴は靴底に突起物のようなものがたくさん付いているのだから。

 

しかしながら、よく見れば靴にしてはシャープな作りで、デザインもなんだか斬新だった。

 

達海はこのスパイクについてこう語り始める。

 

 

「俺がデザインしたフットボール専用のスパイクだよ! はぁ…もう出来てたのか…。依頼を出したのは確かにだいぶ前だが、凄いねぇ」

 

「フットボール専用の靴と? そんなものを何故?」

 

「まぁな、足の踏ん張りが効けばフリーキックの精度やプレースキックも綺麗な弾道が蹴れる。だから必要になるのさ、スパイクは特にね?」

 

 

そう言って達海は馬超から受け取ったスパイクをまじまじと眺めながら笑みを浮かべていた。

 

プロのフットボール選手には練習用、試合用とスパイクを別けて着用する者も少なくはない。

 

フリーキックを得意とする選手ならばスパイクに尚のこと拘りがあり、それが、フリーキックの精密さにも結びついていると言っても過言ではないだろう。

 

達海もスパイクにはいろんな思い入れがある。

 

 

「まぁ、デザインは上々だね。あとは履き心地かな?」

 

「履き心地とは?」

 

「足が合わない人には足を痛める事もあるんだスパイクは。だから、自分にあった物を探さないとね」

 

「なるほど、そういうわけだったのか」

 

「ふーん…、たかだか靴なのにねぇ…?」

 

「フットボーラーは足が命なんだ、靴が一番重要なんだよ」

 

 

そう言いながら達海は張宝の言葉に苦笑いを浮かべながらやんわりと答えつつ、持っていたスパイクを元に戻した。

 

そして、達海は周りを見渡すとため息を吐き、こう話をしはじめた。

 

 

「ま、それは置いといてだ。そこで、ナンパされてるお前の姉ちゃん達をどうにかしないとな?」

 

 

そう言って達海は親指を立てて張角のいる場所を示す。

 

そこには、いかにも賊風で人相も柄も悪そうな男に絡まれている張角と張梁の姿があった。

 

達海は手に持っていたサッカーボールを片手にポンポンと手の上で遊ばせながら彼等に近寄る。

 

 

「なぁ、いいだろう? 優しくしてやるから来いよ姉ちゃん?」

 

「グヘヘ、こいつは上玉だぜ。どうせならさらっちまうか?」

 

「悪くねぇなぁ」

 

「嫌っ! 近寄らないでよ! っていうか臭っ!? 貴方達臭すぎ!!」

 

「口がなってないみたいだな? これは調教のしがいが…って誰だテメェ!!?」

 

 

そう言って、彼等は張角と張宝の前にいつの間か立っていた達海に険しい顔を見せる。

 

彼等からしてみれば、せっかくの上玉の女性を攫おうかどうかとしていた矢先、水を差されればそうもなるだろう。

 

だが、達海は持参しているサッカーボールを持ったまま笑顔を浮かべこう話をしはじめた。

 

 

「あー、俺? こいつらのスポンサーやってるフットボールの監督の達海ってもんだけど? おたくら、うちの『数えチョンボ☆三姉妹』に何か用か?」

 

「数え役満だからっ! 『数え役満☆三姉妹』!!」

 

「そうそう、うちの『数え焼き鳥☆三姉妹』に何の用かな?」

 

「「「ワザとだよね!? 絶対、ワザとだよね!!?」」」

 

 

そう言って、達海はワザとらしく言い直しつつもそれも3人から突っ込まれつつ彼等に告げる。

 

しかし、彼等も意外と素直なのか達海の言葉に目を丸くしながら、こう話をしはじめた。

 

 

「そうだよ、ここにいる『数えチョンボ☆三姉妹』ってやつに用があんだよ。関係ないにいちゃんは引っ込んでな!!」

 

「数え役満っ! 数え役満だから!!」

 

 

律儀に賊風の男の言葉に突っ込みを入れる張三姉妹、長女の張角。

 

だが、どうやら既に彼等の中ではチョンボ三姉妹で固定されたようであった。現実は非情である。

 

しかしながら、そんな達海とのやり取りを繰り返しながらも、彼等は強引に張角の腕を掴見上げた。

 

 

「んじゃ頂いて行くぜ? 悪いな?」

 

「達者でやれよ」

 

「いや! そこは助けるんじゃないの!?」

 

「えー…」

 

「あからさまに嫌な顔した!?」

 

「…ちぃ姉さん…、助けて」

 

「天和姉! 人和! ちょっと、あんた男でしょ!? なんとかしなさいよ!」

 

 

そう言って、姉妹の危機に流石の張宝もこれはマズイと思ったのか、達海の服の裾を掴むと彼を左右に揺らす。

 

サッカーボールを抱えた達海は左右に揺られながら、仕方ないと言ったようにため息をついて言葉を発した。

 

 

「ったく…おーい馬超?」

 

「ひゃんだ? ひゃふっふひー?」

 

「肉まん食いながら喋んなっての…。ちょっとブチかますから、なんかあったら星と頼むなー?」

 

「ひょうひゃいひまひた、ひゃんほふ」

 

「お前もかよ…」

 

 

そう言って、美味そうな肉まん屋を見つけた二人はそれを口に含みながらやってくると達海の言葉に了承する様に頷く。

 

護衛で付いてきている筈なのに明らかな職務怠慢であるのだが、達海はあまり気にしないことにした。

 

そして、達海は張角達を引き連れて連れ去ろうとした彼等を呼び止めるようにこう声をかける。

 

 

「おーい! あんた達、忘れ物だよー?」

 

「あん? なんだ? なんか文句あんの…」

 

「いやー、悪いね兄さん。ちょっと下に落し物だよ?」

 

「あ? なんだと? どこだよ?」

 

 

そう言って、張角の腕を掴んでいた男は前屈みになって、達海が指さす場所に視線を向ける。

 

だが、次の瞬間に彼の目の中に飛び込んで来たのは白い頭程の大きさの球体だった。

 

 

「キックオフだー!」

 

 

前屈みになった人相の悪そうな男に向かって、達海は顔面に向けて思いっきりサッカーボールを蹴り上げて直撃させた。

 

男の顔面はドゴォ! と凄まじい音を辺りに響かせると身体ごと吹き飛び、掴んでいた張角の腕を手放した。

 

元プロフットボール選手による至近距離からの超本気の顔面プレースキック。

 

足が命のフットボール選手が放つ全力のキックはそれはもはや凶器に近い。

 

かつて、ブラジルにフリーキックを蹴るサイドバックがいた。

 

そのサイドバックの左足のフリーキックから放たれるボールの速度は時速にして140km。いや、最高速度は180km出る時もある。

 

ボールを触ったゴールキーパーが腕を骨折する様な破壊力を持つそのフリーキックを放つそのサイドバックはこう呼ばれた。

 

『悪魔の左足』と。

 

そんな、左足のフリーキックとは確かに達海は比較出来ないが、達海も元プロのフットボール選手だ。

 

人相が悪そうな彼が受けた顔面プレースキックの速度は至近距離。よって恐らく威力からしてその『悪魔の左足』と近い速度は出ている筈だ。

 

凄まじい音を立てて達海の顔面プレースキックを受けた彼は身体ごと1回転すると地面に身体を叩きつけそのまま失神した。

 

もう一人はその光景を見て顔を真っ青にする。

 

 

「あー、やり過ぎちゃったかな? まぁ、死んでないでしょ? 多分…」

 

「…いや、タッツミー…、あれは死んだよ多分」

 

「多分、死にましたね」

 

「多分、死んだわ」

 

「間違いなく、死んだと思う」

 

「お、おい! しっかりしろ! ひ、ひでぇ! なんてことしやがる!」

 

 

そう言って、1回転してピクピクと痙攣している男を全員で見下ろしながら全員にそう突っ込まれる達海。

 

そして、流石に仲間もその光景を見て顔を真っ青にしてピクピクと痙攣している男の安否を気遣ってか張梁の身体を離してすぐさま駆け寄ってきていた。

 

達海はそんな彼等に苦笑いを浮かべ申し訳無さそうにこう話をしはじめる。

 

 

「まぁ…なんだ。…なんかごめんな?」

 

 

明らかに絡んできた向こうが悪いのにも関わらず達海はあまりに不憫に感じて思わず謝ってしまった。

 

その後、可哀想に感じた彼等に達海は袁術のフットボールの試合の招待状を渡してあげた。

 

彼等はそれを受け取ると大人しく引き上げていったが彼等のその背中はどこか寂しそうだった。

 

 

それからしばらくして、達海達はひとまず今晩は長沙の宿に泊まる事にした。

 

長旅で疲れていたので孫堅に謁見するのは明日以降の予定にしたのだ。

 

フットボールの産業が盛んになりつつある。長沙の地。

 

達海の新たなフットボールクラブの設立。

 

それは、これから幕を開けようとしていた。

 

 

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