翌日、謁見の間。
達海達は袁術からの紹介状を経て、この謁見の間にて現在、長沙の領主である孫堅に対面していた。
対面しているのであるが…
「よう来られたな! ささ、達海殿!! こちらですよ?」
「お、おう」
「皆の者も歓迎の準備をせよ! 急げ!!」
「あ…いや、そこまで歓迎しなくても…」
なんとびっくりする程の手厚い歓迎を受けた。
いや、歓迎を受けたどころか孫堅の家臣である者が皆、達海に対して憧れの眼差しを向けていた。
何故、その様な事態になっているのか?
それは、達海の荊州にて受けた素晴らしい評価と袁術とのストーリーがあったからである。
元々、孫家は袁術と荊州で共存している仲。
そんな彼等は以前の袁術の我儘にほとほと振り回されて不満を抱いていた。無能の王。傲慢で民を苦しめる暴君。その時の袁術はその様に孫堅達には写っていた。
しかしある時、再び袁術の話を聞いた孫堅達は耳を疑う事となった。
あの飽き性で傲慢な袁術がフットボールというものを始め、民に慕われ祀られる英雄として愛されていたのだ。
そして、彼女達は袁術のフットボール試合を観戦しに足を一度運んだ。その時に見た彼女は足の動かない農民の少女と抱き合いユニフォームを手渡して観客の者達を感激させていた。
それだけではない、ここ最近始まり勢いが増しているフットボール産業の方も自分達の力を貸して欲しいと向こうから頭を下げてお願いしてきたのだ。
その原因を突き詰めていくと、その原点にはある男の名前が民達から挙がった。
フットボールを各地で広めようとする風変わりな戦術家。
ある時は2倍以上ある兵力を覆し、勝利をもたらす大物殺しの名軍師。また、ある時は身分を問わず、才能を発掘し開花させる天眼の持ち主。
傾いた国を立て直し、暴君を名君と英雄にする人望と手腕。
彼等は口々にこう呼んだ。彼こそが『天の御使い』…。
いや、唯一無二の存在、特別な存在であり最高の監督『スペシャル・ワン』だと。
「達海殿、そういうわけじゃ…。処で、見れば見るほど良い男じゃのぉ、お主?」
「あはは、お世辞どうも」
「こらこら、祭。あまり達海殿を困らせてはダメだぞ?」
「タッツミー! ここの料理上手いな!」
「お前は少し遠慮したら?」
そう言って料理をパクパクと食べる馬超に突っ込みを入れる達海。
そして、趙雲はそんな達海の傍らでメンマを食べながらお酒を嗜みつつ彼に身体を預けている。少し酔ったからかはたまた計算からかは定かではないがその様子は妙に色っぽかった。
「ふふふ、監督殿。貴殿は実に人気ですな? 羨ましい限りで」
「そうかな? まぁ、フットボールを広めようとこんなとこまで足を運んだ甲斐があったのかもね」
「監督殿、私は感謝してますよ?」
「ふふ、そうかい。ありがとね?」
そう言って、達海は長旅ご苦労様と言った風に趙雲が持ってきたお酒を互いに乾杯し笑顔を浮かべる。
このような歓迎を長沙の孫堅から受けるのも、ひとえに達海がフットボールを広めるためにいろいろと頑張ったからである。そして、その頑張りを支えてくれたのは他でも無い趙雲、馬超の二人だ。
なんやかんやで二人とは長く付き合い、そしていろんな出来事を経験してきた達海とっては大切な仲間だ。
しかし、趙雲や馬超にとって達海はまた違う存在であるのだが…、悲しいかな当の本人はフットボールしか頭が無い為に恋路は前途多難である。
そして今、達海が世話になっている長沙の孫堅。
宴会を受ける中で達海はこれは突っ込むべきかなと思いつつ、孫堅にこう口に出して話をしだした。
「なぁ、孫堅さ? あんたら肌が褐色で露出が割と多めな気がするんだけど…」
「あぁ、それは我が孫家の文化とでも思っててくれ。肌の色が他と違うのも特殊な出自の故だ」
「ふーん、俺は好きだけどね。健康的じゃない?」
「なんと、達海殿に気に入られるとは誠嬉しいですな」
そう言って、孫堅は嬉しそうに笑いながら達海に酌をした。
美人からの酌も悪くはない、彼女の綺麗な瞳をに目が合った時にちょっとだけ心臓がピクリと跳ね上がりそうになった。おそらくお酒のせいもあるかもしれない。
達海はそんな孫堅にこう話をしはじめる。
「それにさ、雰囲気がなんだかスペインみたいだなって思ってさ」
「すぺいん? なんですか、それは?」
「情熱の国さ。ここの街も民も武人も…そして、主君も情熱的だと感じてね」
「…ふふ、監督殿は口が達者だな」
「そうかい? スペインにはいろんな文化があるからね、情熱的なフラメンコや…特にフットボールは俺は大好きだぜ」
達海はそう言ってにっこりと孫堅に笑いかけながらお酒を口に運び嬉しそうにフットボールやそのスペインについて彼女に話した。
情熱の国、『スペイン』。
欧州フットボールのドリームチームを抱える国。
国自体もフットボールには情熱を注ぎ、その情熱さゆえに凄まじい応援が国内で巻き起こる。
特に銀河系軍団と名高い『白い巨人』と呼ばれるフットボーラーが憧れるマドリードを本拠地にチームを置くクラブ。
そして、サクラダファミリアがあるバルセロナ。世界最高峰の選手達がこの地にある最高峰のメガクラブに憧れやってくる。中でも最近なら最強攻撃ユニットMSNがメディアでも取り上げられ有名だろう。
その世界最大最強のクラブチームが激突する『クラシコ』と呼ばれるダービーマッチは世界が注目する。
世界の二大巨頭の選手が激突するこの試合はまさに夢の塊で少年、少女の夢のような試合だ。
そして、スペインの国自体も素晴らしい人材を輩出し続けている。
『神の子』と呼ばれるストライカー。中盤は世界最高のミッドフィルダー。そして、サイドにはDon Andrés (ドン・アンドレス)と呼ばれるサイドアタッカー。
それらを有するスペインはこう呼ばれた。
『無敵艦隊』と。
その話を聞いた孫堅は思わず「おぉ!」と声を上げてその達海の話に感銘を受けた。
よもや、自分の治める国や民、そして、自分の家臣達を見た達海の評価がまさかそんな素晴らしい評価と名前をつけられるとは思いもよらなかったからだ。
『無敵艦隊』自体はスペインのあだ名として日本のメディアが勝手に付けたものだが、おそらくお国柄向こうはこの名前をあまり好きではない事を豆知識として付け加えておこう。
「無敵艦隊か…いい名だ。ところで達海殿は今どのような御身分なのですか? さぞ、いい御身分でしょう?」
「いんや? 俺は今フリーだよ、フットボールを広めるのが夢だからね」
「なんと!? …ふむ…では、我が陣営に懐柔したり取り込める可能性も…」
「なんか言ったかい?」
「いや! それよりも酌をしましょう」
「お、悪いねー」
そう言って達海は器に酒を注がれそれを嬉しそうに飲み干す。
長旅をしてきた身体にはアルコールは特に沁みた。お酒がだんだんと進み、宴会も中盤に差し掛かる。
すると孫堅の家臣達の前にマイクの様な物を持った三人娘が現れた。
「おーい! たっつん! 歌ってもいいんだよねー?」
「おー! 歌え!歌え! そんでもってテンパッてドジれ」
「なにそれー! ひどーい!」
「あははははは! 冗談さ。んじゃ俺が作曲した曲だからしっかり歌えよ」
「見てなさいよ! 私達もやるときはやるんだから!」
そう言って、達海の言う言葉に噛み付く三人娘。お酒が入っている達海の茶々にブスーっとした表情を浮かべながらも3人はマイクを握って宴会を盛り上げる為に歌を歌う。
その曲は達海が考えてくれた曲だ。彼が今まで見た光景とこれからフットボールをし目指す者達への激励の曲。
張三姉妹の長女、天和はマイクを通してその場にいる全員に曲の名前を告げた。
「聞いてください!『 My Story!』」
そして、マイクを通して歌いだす天和。
リズミカルにだんだんと加速するそれは心躍る様なそんな錯覚さえさせられる。歌詞に込められた曲にはフットボール選手の姿が鮮明に聞いている者達全員の頭に思い浮かぶ。
家臣達もそうだが、宴会は大いに盛り上がりを見せた。
達海もそれを聞きながら嬉しそうに笑みを浮かべる。
たまの息抜きにはこういうのも悪くない。
達海はその宴会後、孫堅の軍師。周瑜から寝室に案内された。
もちろん、馬超、趙雲、張三姉妹とは別の部屋だ。
それはそうだろう。女性と男性が同じ部屋に寝るのは達海のモラルとしても無い。フットボールは紳士のスポーツ。ならば、フットボールの監督も紳士であるべきだ。
お酒に酔った達海はその寝室に案内されたのちにベッドに飛び込むと眠る様に熟睡した。
そして、この達海の選択が翌朝、とんでもない事になるとはこの時の本人は知る由も無かった。
「手筈は?」
「万全ですね」
「ふむ、ふふふ…達海殿には我が孫家の繁栄の為に頑張って貰わねばな」
「いろんな意味でですか?」
「いろんな意味でだよ」
そう言ってにっこり笑う孫堅に顔を引きつらせて頭を押さえる仕草を見せる周瑜。
達海の人望はもはや、荊州以外にも知れ渡りつつある。
ならば、その人材を何としても手元に置いておきたい。それに領主である孫堅自身が達海の事を気に入ってしまっていた。
こうして、長沙の城で泊まることになった達海達一同。
しかしながら後に達海は語った。
あそこ以上にアプローチが情熱的過ぎて達海があんなに襲われかけた場所は他には無いと。
そして、それはまだ始まったばかりである。