翌日。
宴会を開いてもらった達海は盛大に酒を飲み盛大に食事を食べ、盛大にフットボールについて孫堅に語った訳であるのだが。
現在、自分が今まで陥った事のない境地に陥っていた。
それはさながらワールドカップのPK戦でゴールを外した様な。はたまた、ペナルティエリアで相手を倒してPKを与えそのままレッドカード退場した様な錯覚さえ覚える。
目を覚ました達海に訪れた状況。それは紛れもなく人生のゴールに向かって突っ込んでくようなものだった。
「なんだこれ…」
「………zzzz」
「…あー…だめぇ…。冥琳ようやく仕事終わったのにぃ…。zzz…」
目を覚ますと隣に見知らぬ女性が寝ていた。
しかも二人もだ。当然、部屋に帰ってから爆睡した達海にはこんな女性二人を連れ込んだ覚えはない。
すぐさま抜け出そうとベットから恐る恐る抜け出そうと脱出を試みる達海だが、どういういう訳か女性二人は見事な関節技を寝ていた達海に掛ける形で睡眠を取っていた。
動けば動くほどギチギチとかいう関節の音が聞こえる。下手をすればポッキリと骨が逝ってしまうだろう。
寝相が悪いとかいうレベルではない。おそらくは寝る前に達海に掛けたか、それとも本当に寝相が悪いのか。
「サブミッションって…。俺はフットボールやりに来た訳で総合格闘技やりに来たわけじゃねーんだけどな」
そう言って、達海は関節技を決めている同じベットに寝ている二人の女性に苦笑いを浮かべるしかない。
しかも悩ましい事に二人とも前回述べた様に露出が高い服装をしている。豊満な胸や太ももが絡んで来るのは嬉しいが、その実、下手に動く様なら関節が軋みをあげるわけでとりあえず痛い。
朝起きたらプロレスと総合格闘技が始まっていた。ゴングはまだかと達海はともかく彼女らが目覚めるか助けが来るかの二択しか無かった。
「誰か代わってくれ頼む…」
心の底からのメンバーチェンジ願望。
だが、現実は悲しいかな、そんな呟きを聞き入れる人物はいない。
さながら、ドイツの名門で活躍する某日本代表のサイドバックが怪我した時の状況に似ている。
今なら思う。達海が選手でここがピッチの上なら彼の様に手をクルクルして監督に交代をお願いするところだ。
柔らかい物が達海の顔面にたまに当たる様な気もしないわけではないがそんな事より関節技の方が痛かった。
「おーい、起きろー朝だぞー。早くしないと俺の関節が逆に逝くぞ。お嬢さん達? ちょっと聞いてるー?」
「聞いてな…zzzz」
「起きてんだろ、今返事したよな? おい、寝たふりすんじゃねーぞ」
達海は見事な腕十字固めへと移ろうかとしている女性に対して苦笑いを浮かべながら突っ込みを入れる。
しばらくして、関節技が見事にハマったのか達海は腕十字固めを決める女性の太ももを手でパンパンと叩いた。
あ、これはマズイとわかる。あともう少しで完全に極まる一歩手前だった。
「あだだだだ! ギブ! ギブ!」
「あはははは! いやー綺麗に決まったわー」
「いやー綺麗に決まったわ! じゃねぇ! あだだだだ!」
達海猛。35歳。
この歳になり、朝早くから褐色の二人の美少女に腕の関節技を極められるという謎の体験に遭遇したのだった。
その後、関節技を解いた女性に達海は思いっきりチョップを炸裂させた。そして、達海はいつもの服装になり、ベットの下を指差しこう話をしはじめる。
「はい、お前ら正座。あのさ? 寝て起きたらサブミッションってどういう状況な訳? ねぇ?」
「いやー。ちょうどいい感じに入っちゃうもんだから武人の血が騒いじゃってねー」
「騒いじゃったじゃねーよ。こちとら腕がもげる3秒前だったわ」
「はぁ…姉様…」
「何よ〜蓮華〜」
「お前もだっての。どうやったら寝ながら関節極めれんだよ。びっくりだよ」
「あ…わ、私はお母様に言われてですね!? た、達海殿の夜の相手をと…」
「夜じゃなくて朝試合開始だったよ。それも見事に技が決まってたし」
「あ…えっ…と…。そ、それは…雪蓮姉様が…関節技を極めれば逃げられ無いとおっしゃるものですから…」
そう言って、蓮華と呼ばれた少女は横目で雪蓮と呼んだ少女に視線を向ける。
確かに逃げれなかった。逃げれなかったけれども、それ以前に足や腕がとんでも無いことになり兼ねない。
まぁしかし、達海も元プロフットボーラーなので関節には柔軟性があり、怪我は早々にしないのであるが。
しかしながら、視線を向けられた雪蓮は正座をさせられたまま蓮華から視線を逸らすとわざとらしく口笛を吹いていた。
そんな雪蓮の対応にガーン! とショックを受けた様子で涙目になりながら渋々達海に申し訳無さそうな表情を浮かべていた。
達海はため息をついて正座をさせている二人にこう話をしはじめる。
「あのね? そもそも女の子二人が男のいる部屋に夜の間に押し入るのはモラルが無いでしょ?」
「モラル? 何それ? 食べれるの?」
「食べもんじゃねーよ。常識な! 常識!」
「らしいわよ、蓮華」
「はぁ…初めて聞く言葉ですね」
「流れ的に食いもんには行き着かないと思うんだけどねぇ?」
そう言って、達海は顔を見合わせる二人の会話に苦笑いを浮かべる。
ただでさえ二日酔いで頭が痛いというのにまた頭痛の種が増えた様な錯覚さえする現在の状況。
モラル自体をご存知無い。
いや、それ以前に夜に男の部屋に来るという状況。まさか、寝ている間に何かあったんじゃ無いだろうか。
達海はそんな悪感が背中に過るが、とりあえず口には出さない事にした。聞いたら聞いたでなんだか話が面倒臭そうになるからである。
とりあえず、達海は二人について訪ねる事にした。
「あー…。頭痛い。んで、あんたら誰よ?」
「あ、私達?」
「そうだよ。それしか無いでしょ?」
「私は孫策よ。んでこっちは妹の孫権」
「…えっと…。お初にお目に掛かりま…」
「え? 孫堅? お前イメチェンしたのか? それ?」
「えぇ!? あ、あの! 違…っ!」
「はぁ…。なるほど…世の中は広いなぁ。姿を変えれるなんて驚いたよ」
「いや、字が違うから…堅と権だからね?」
「あ、そうなの?」
そう言って、二日酔いの達海の言葉に肩をポンと叩き冷静に突っ込みを入れる孫策と名乗る少女。
母親と間違えられた孫権はと言うと涙目になりながら下を向いて正座をしている。達海はなんだか悪いことをしたなと思いつつ顔を引きつらせていた。
そして、とりあえず何故、孫堅に言われて二人は夜に達海の部屋に入って来たのかを訪ねる事にした。
「あのさー。そういや、聞きそびれたんだけど。なんでおたくら俺の部屋に来たわけ? 孫堅の娘でしょ?」
「うーんまぁ、そうなんだけどねー」
「なんだよ、歯ぎれ悪い返事だな。とりあえずどういう事なの?」
「…えっと…。それは…」
訪ねる達海の言葉に言いにくそうにする二人の少女。訪ねる達海はと言うと首を傾げたまま二人の真意がわからずキョトンとしている。
そして、しばらくして、孫策はため息を吐くと達海にこう話をしはじめた。
「実は母様から言われてね…?」
「はぁ…。それで?」
「うん、まぁ、その…貴方を夜這いして来いって…」
「ふーん。そうなんだー。夜這いねー。 ……。はぁ! なんだ! 夜這いって!」
「いや、まぁ、私達のどちらかが貴方を食べちゃえば。ほらなんていうか、貴方をこちらの陣営に引き込めれる〜ってな感じで」
「…あなた様が気に入り次第。婿にしろと言われまして…」
「情熱的どころじゃ無いな。だいぶ炎上してね…?」
「早い話が種馬ね」
「フットボールやりに来たのになんで総合格闘技から競馬になってんだよ。おい」
達海は二日酔いで痛い頭が更に痛くなった様に感じた。
朝から総合格闘技と思いきや次は競馬になった。おかしい。フットボールをこの地に広めに来た筈なのに話がこじれ過ぎて頭がどうにかなりそうだった。
まぁ、とりあえずわかった事は彼女達は夜に自分を襲いに来たのは良いがお酒で爆睡していたので襲うに襲えなかった事。
そして、仕方ないから朝に相手をして貰おうと逃げない様に関節技を掛けながら寝た事。
とりあえずこの二つだった。
達海は内心かなりホッとしながらも身の危険を回避した事に安堵する。フットボールを広めに来たのに鹵獲されたのではたまったものでは無い。
達海はため息を吐くと二人にこう話をしはじめる。
「とりあえず朝飯食うか、腹減っちまった」
「あ、賛成!」
「お姉様! …な、なんかいろいろと申し訳無かったわ…ごめんなさい」
「いや良いんだよ。…行くか」
とりあえず、彼女達の種馬発言は聞かなかった事にしておこう。
達海はそう心の中に押しとどめ。皆がいるであろう朝食を取りに二人を連れて部屋を出た。
そして、部屋を出たのは良いがそのタイミングは本当に最悪なタイミングであった。なんと、部屋の外には達海を待っていた趙雲と馬超がいた。
当然、二人は達海が連れている女性を目の当たりにする事になる。
「「「「あっ…」」」」
「よう、おはようさん二人共」
だが、達海はそんな二人の心境を知ってか知らずかなんの事も無いように挨拶を交わす。
しかし、当然、二人はこの状況を見て思う事は一つ、達海が背後の女性二人と同じ部屋から出てきた事に対する問題だ。
その後、趙雲と馬超の二人から何故か怒られたり説教を受ける羽目になった達海は二日酔いの頭痛が加速する中。朝食を食べる羽目になった。
それから暫くして、朝食も食べ終わりひとまずひと段落ついた達海。
達海はいつものようにサッカーボールを片手に持つと長沙の街に一人で繰り出した。
というのも、達海はサッカーボールを持って行く場所は決まっている。長沙の子供達がいる遊び場所だ。
フットボールを教えるならまずは子供達から。
フットボールが浸透しつつあるこの地ならばそんな子供達がフットボールに夢中になってくれたらという達海の願望である。
もちろん、孫堅には一度目通りして、今は全員客としてこの長沙の地に暫く滞在させてもらえる段取りにしている。
「おっ、うめーな! そうそう! 足のつま先で蹴るんじゃ無い足の甲で蹴るんだ」
「あ! 本当だ! 上がった!」
「うん、筋が良いな。ファンロンのユースに行けばもっと上手くなるぜ? お前」
そう言いながら達海は子供達に混じりフットボールを実践したり教えたりする。
子供達はそんな達海の魔法のようなテクニックに驚かされながら目を輝かせていた。ボールが達海の周りを踊っている。
綺麗なリフティングを繰り返した後に達海は綺麗にボレーを放つと木にぶつけて反射させ、自分の元にボールを飛ばし手で受け止めた。
それを見た子供達は「おぉ!」と声をこぼし嬉しそうに達海に駆け寄る。
「すげぇ! 今のどうやったんだ!」
「教えて! 教えて!」
「ははは、そう慌てんなよ。こうしてだな…」
「はぁ!すっごいですねー!」
「うぉ! どっから湧いて出た!」
そこに混じって居た女性に思わず声を上げる達海。
いつの間に混じっていたのか、黒く長い髪、そして忍者のようでいてそれでいてチャイナ服に近い服装の少女。
達海は以前見覚えがあった。それは袁術が自分を攫う際、張勲と共に来ていた自分を気絶させた少女だ。
名前は確か…。
「重体だっけ?」
「違いますよ!周泰です!周泰! 誰が大怪我してますか! ピンピンしているのですよ!」
そう言って、名前を思いっきり間違えられて突っ込みを入れる黒髪の美少女。
彼女の名は周泰。
一時期、袁術の依頼を受け達海の誘拐に加担したのだが、その時に彼に膝枕をして首を痛めないように気遣ってくれた少女だ。
なお、首筋と何故か無駄に当身を当てらたので当身の部分は微妙に後から痛くなったことを達海は覚えていた。
突っ込みを入れる彼女に達海は頭を掻きながら申し訳なさそうにサッカーボールを子供達に手渡しながらこう告げる。
「あーごめんごめん。そうだったね、あんときは膝枕してくれてありがとね? お陰で首が無事だった」
「いえいえ、あれも任務なのです」
「横腹に良いもん入ったのは後引いて痛かったけどね?」
「………………」
「無言で目をそらすなって」
達海は苦笑いを浮かべて視線を自分から外す彼女にそう告げる。
確かに、横腹に当身は必要無かった事はよくよく思い返せば周泰もわかっていた。しかしながら勢いで入れてしまったのでもはや後の祭りである。
達海にはあの時は悪い事をしたと彼女も反省していた。
「えっと…。昨日の宴会の際、謝罪しようとは思ってはいたんですけれど…」
「いや、いいよいいよ。昨日は騒いでたしそんな暇無かったんだよね? 俺はもう気にして無いからさ」
「は、はい!」
達海の言葉に良かったと安堵しながらホッとする周泰。
あれは最早過去の事。それに誘拐自体、達海はあんまり気にしてはいない。あれがあったからこそ袁術にフットボールを教えることが出来たしたくさんの経験も出来た。
ひとまず、達海はサッカーボールを蹴り合う子供達を指差しながら周泰にこう告げる。
「あ、それとさこれから子供達とフットサル形式で試合するんだけど周泰参加してみる?」
「え?…わ、私がですか!」
「そうそう、何事も経験さ。お前さん運動能力高そうだしね」
そう言って達海は笑みを浮かべ周泰にフットサルに参加するように促す。
達海のその言葉に周泰は多少、戸惑いながらもひとまずそのフットサルというものに参加してみる事にした。
『フットサル』
その名前の由来は「fútbol(スペイン語)」と「futebol(ポルトガル語)」と、室内を表す「salón(スペイン語)」と「salão(ポルトガル語)」の合成語になっている。
スペイン語の「フットボール・デ・サロン」の意味をいつの間にか短く略され、「フットサロ」→「フットサル」と変化して、定着していったものである。
競技としては室内が主だが。もちろん室外でも出来るスポーツだ。
プロのフットボール選手もこのフットサルをする選手が多い。かの有名な『ブラジルの至宝』も自国のフットサルの大会に出たことがある。
フットボールとは違いこれは人数が少なくできるスポーツだという事。
五人制のフットボールで出来る為、手頃に遊ぶ事が出来るスポーツだ。
周泰は戸惑いながらも達海に誘われるがまま、子供達と共にフットサルに参加する事になった。
「よし! そんじゃ行くぜ?」
「はい!」
こうして子供達に混じり、フットサルを行う達海と周泰。
そこには試合開始の笛と共に楽しげにボールを蹴る子供達と二人の姿があった。
翌朝の出来事。それを忘れるようにフットサルに打ちこむ達海には丁度良い運動になったのだった。