大物殺しの監督と三国志の乙女達   作:パトラッシュS

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ティキ・タカ

 

 

 長沙の城。

 

 

 翌日になって達海はこの長沙にてフットボールを広める為、孫堅に交渉を行なった。

 

 クラブチームとホームグラウンドの建設、そしてユースの養成所。この三つの要所を確立する事だ。

 

 手順としては、ほぼ袁術や馬騰達の時と一緒である。

 

 それに加えて…。

 

 

「なぁ、種馬ってのはどうにかできねーかな?」

 

「種馬? はて?」

 

「いやいや、すっとぼけてもダメだかんね、孫策から聞いたしそれ」

 

 

 とぼけた様に達海に返す孫堅に苦笑いを浮かべてそう告げる達海。

 

 しかしながら、孫堅の隣に控える眼鏡を掛けた黒髪の少女が達海にこう話をし始めた。それは、滞在する達海に念を押す様なそんな言葉であった。

 

 

「達海殿、貴方はこの長沙では客人としてもてなしております。我が主は貴方のそのフットボールの普及に協力するでしょう。利益も出ていますからね」

 

「なら…」

 

「けれど、貴方はこの長沙で自分の要望だけが通ると思わないで頂きたい」

 

 

 そう言って鋭い眼差しで達海の目を見据える彼女。

 

 達海もその言葉に首を傾げる。確かに自分の要望というのはそうであるのだが、別に自分でなくても孫策や孫権の美貌や気品があれば自分よりも名家の者に嫁げるだろう。

 

 種馬の撤回は別に不利益ではないはずだ。宴会で言った様に達海は今フリーで動いていて地位も何もないただのフットボールの監督に過ぎない。

 

 

「いや、けどね? 俺は…」

 

「達海殿、私は貴方を気に入っている。なぜなら世論でも貴方は有名な方だからだ」

 

「あーそうなの?」

 

「では、話を続けますね? お言葉ですが貴方は孫堅殿に泥を塗るおつもりですか? それに、孫策、孫権の二人の顔にもです」

 

「いや、そういうわけじゃ…」

 

「ならば、お二人のどちらかの夫になるのが定石。二人も貴方の事を気に入っておられます」

 

「んー…、どうしたもんかね」

 

 

 達海はそう言って頭を掻きながら孫堅、周瑜の言葉に視線を逸らしながら呟く。

 

 達海は二人とも嫌いではないのだが、馬超がいる手前、こうなってくると話がややこしくなる。達海が馬超に視線をやってみれば顔を赤くして驚いた様に口をパクパクとしていた。

 

 嫁は取る気は無いし、かと言って変に断れば女性二人の面子に傷をつける事になり兼ねない、それに孫堅の顔にも泥を塗ることになるのもわかる。

 

 孫堅はそんな様子の達海に話を続ける。

 

 

「二人以外にこの長沙の武人や武将に貴方の好みの女将がいるのであればそちらでも構わぬよ。ただしその者とは必ず婚姻をし我が孫家に尽くして頂きたい」

 

「…あんたあれか? 俺のお袋かなんかか? ものすごく行き遅れたから見合いしろって言われてる気がすんだけど?」

 

「真面目な話ですよ、達海殿。貴方の持つ戦術はそれだけの価値があるのです」

 

 

 孫堅の隣に控える周瑜は飄々としている達海にピシャリとそう告げた。

 

 戦術と言ってもあくまで達海はフットボールの戦術を戦の戦術として結びつけて形にしているに過ぎない。別に大した事でないといえばそうであるのだが、彼女達にしてみればその戦術がどうやら大したことがあるものであったようだ。

 

 しかしながらこの包囲網。悲しいかな回避する術を達海は持ち合わせてはいない。

 

 すると、馬超が慌てた様子で孫堅と周瑜の前に出てくると顔を真っ赤にしたまま声高にこう主張した。

 

 

「だ、ダメだ! ダメだ!! 達海は私の許嫁だぞっ!? これは誰にも譲れない!!」

 

「あ…まだ生きてたのかそれ? てっきり忘れたもんかと」

 

「何言ってんだ!? 当たり前だろ!!」

 

「ほう…そうなのか?」

 

「いや、俺は許嫁は保留っつてんだけどね?」

 

「えぇっ!?」

 

「いや、言ったじゃん」

 

 

 仲介に入って許嫁を主張する馬超にそう言ってツッコミを入れる達海は呆れたようにため息を吐く。

 

 こちらを見ている趙雲の表情が不機嫌になっているのを横目に、達海はひとまず場を収めるために孫堅にこう話をしはじめた。

 

 

「てな感じで、俺は他の陣営とかからもこんな話が出てる訳なんだが…。まぁ…あれだ、俺は身を固めるつもりは無いんだよね、残念だけどさ?」

 

「ほぅ…」

 

「理由は知ってんだろ? 俺には夢がある、この大陸にフットボールを普及させるってでっかい夢がね? 犠牲になった奴らのためにもそのフットボールをみんなが見て夢を与えれる日が来るまで何処かに留まる訳にはいかないんだよ」

 

 

 そう言って達海は笑みを浮かべながら孫堅に言い切った。

 

 理想はクラブチームを作りリーグを開幕させること、そして、自分はその時、フットボールの監督として選手達の指揮を執る。

 

 そんな夢半ばで達海は人生の墓場に超ロングミドルシュートを叩き込みたくは無い。むしろ思いっきりボールをゴール頭上に蹴り上げて宇宙開発したいくらいだ。

 

 

「全く…一筋縄では、いかん御仁だな?」

 

「どーも、よく言われるよ」

 

「では、許嫁の件は後にしておこう。貴方には私達に戦術を教えて頂きたい」

 

「結局保留になるのか…はぁ、もういいや…。でも戦術ねぇ…? ま、いいよ」

 

「監督っ!?」

 

「まぁ、仕方ないさ? 教えなきゃ結局対等にはならないんだろうし、お前が言いたい事はわかってるよ星」

 

 

 達海のフットボールにおける戦術を戦に転用する事を告げる孫堅の言葉に趙雲は声を上げるが、達海は彼女を制すようにこう告げた。

 

 達海の持つ戦術は長年フットボールをしてきた選手や名将が培ったもの。しかし、今は戦乱だ。達海の組んだ戦術が結果を残している現在ならばそう要求される事も致し方無いだろう。

 

 趙雲も達海と行動を共にしてきている。彼が戦ではなくフットボールを通してこの国に夢と希望を与えようとする理想もある程度理解していた。

 

 

「ほんじゃま、戦術教えっから紙持ってきて? あんたら実践できるかどうかは知らないけどさ」

 

「おぉ!」

 

「達海殿、それではこちらに」

 

「どーも、後は将の数と特性も教えてくれ。ポジション考えるからさ?」

 

「監督…これでは」

 

「はなっから無償で何かを成し遂げれるなんて考えてないよ俺は。等価交換って奴さ、割り切るのも必要だぜ?」

 

「…はい」

 

「よろしい、それじゃはじめっぞ」

 

 

 そう言って、達海は用意された筆と紙に簡単に戦術を書いていく。将のポジショニングと位置の設定。

 

 そして、紙に書いた戦術を事細かにわかりやすく彼女達に達海は伝え始めた。

 

 情熱の国、『スペイン』。

 

 そのスペインが用いる戦術にして現代のスペインが誇るフットボール理論、『戦術的ピリオダイゼーション理論』。

 

 ”フットボールはカオスであり、かつフラクタルである。”という理念のもとに構成されたこの戦術は『ティキ・タカ』と呼ばれる圧倒的なポゼッション戦術である。

 

 4-2-3-1のポジショニングであるが、左寄りにポジションを固めたこの戦術。左寄りに多くの人数をかけることで、ポゼッション率を高められるという利点がある。また軍全体が広がりすぎることをなくし、全体的にコンパクトに固められたこの戦術では連携が取れやすく組織的な攻撃展開が可能。

 

 

 素早い攻撃展開により、前線の将は背後の将との連携を取り、敵を殲滅する。前線に張る1のポジションに入る将には優秀な攻撃力があり、それでいて前線の兵を上手く散りばめ展開を指揮できる将が必要だ。

 

 話を聞いていた周瑜は目を丸くしながら達海の話に聞き入っていた。

 

 

「…こ、こんな戦術があるなんて…」

 

「まぁ左寄りの戦術だけど、カバーリングやフォローはしっかり行わないとね?」

 

「しかし、これでは右側が手薄に…」

 

「右側には数の少なさをカバーできる優秀な将がいるね、それでいて上がってこれる奴がさ」

 

「なら、ワシじゃな」

 

「黄蓋殿? しかし、貴女は…」

 

「手薄な場所を固めるのであれば任せろ。何、護ることには長けておる。任せておけ」

 

 

 そう言って自信ありげに答える黄蓋と呼ばれる女性はどんと胸を叩き全員に告げる。

 

 ひとまず、一つのポジションが黄蓋に決まった事を見計らい達海は続けるように話をしはじめた。

 

 

「んで、ワントップは誰にする?」

 

「思春…と言いたいところだが、まぁ、雪蓮だろうな。あいつは前線に出たがるからなぁ」

 

「んじゃ、孫策だ」

 

「はぁ…凄い…」

 

「よく見ておきなさい穏、これは我が軍が用いる今後の戦術の基盤になるわ」

 

 

 そう言って、周瑜は胸がやたらと豊満で翠色掛かった髪色の少女にそう告げた。

 

 達海が教える戦術は近代的なフットボールの戦術と兵法や軍事に結びつけて編み出したような戦術だ。基盤はフットボールの戦術であるが、その実、紙に書かれた戦法や戦術は理にかなっているのである。

 

 周瑜はそれを見て思う。やはり、これだけの戦術の引き出しを持つ人物を野放しにしといて良いものかと。だが、彼はどこの陣営にも属さない姿勢をこれまで示している。

 

 天下や家臣や地位にも興味がない、それは逆に不思議であった。

 

 そんな、周瑜の思惑とは別に達海は全く別の事を考えていた。それは彼女の隣にいる穏と呼ばれた少女についてだ。

 

 どうやら周瑜の弟子のようである。達海は二人のやり取りを見ながら首を傾げた。彼女とは達海は面識は宴会の時くらいしかない。

 

 

「あんた、名前は?」

 

「私ですか? 私は陸遜と申しますぅ〜。あ、達海さんなら真名で良いですねぇ〜私は穏です♪」

 

「おいおい、真名って神聖なもんだろう? そんな簡単に…」

 

「いや、別に構わないぞ。達海殿は我らに奇抜な戦術を教えて下さった。ここに居らん者がおるが後で真名を授けるように言っておこう」

 

(いや…別にそこまでしなくてもいいんだけどね?)

 

 

 達海はそう言って、笑みを浮かべて告げる孫堅の言葉に内心そう呟きながら顔を引きつらせる。

 

 この様子だと自分の登用を未だに諦めていないような態度だ。まぁ、目の前で披露した『無敵艦隊スペイン』の戦術を目の当たりにすればそうなるのも仕方ないと言える。

 

 ちなみにこのスペインの戦術は2010年に行われたW杯のスペインが用いた戦術をベースにして達海がアレンジを加えたものだ。

 

 それから、達海は孫堅の命令で家臣達から真名を次々に与えられた。それを見ていた馬超が何か言いたげだったが真名を授けること自体は本人の意思なので何にも言うことが出来なかった。

 

 そして、大まかな戦術の説明を終えた達海は今の時点で自分から戦術を聞き出す孫堅に何かを察したのかこう質問を投げかけた。

 

 

「そういやさ、俺にこの時期に戦術を聞きたがるって事はなんかあるだろ?」

 

「ん? さぁ?」

 

「すっとぼけなさんなよ。戦術を聞きたがるって事は大概予想はつくさ、戦だろ?」

 

「!? …やはり!」

 

 

 その達海の言葉を聞いた趙雲は表情を険しくして孫堅と周瑜を見据える。

 

 達海の予想通りならば、彼女達は達海がこの長沙に来てフットボールのホームグランドやクラブチームの建設の他に彼に戦の手助けをして貰おうと画策していたのだろう。

 

 そして、多分、それを進言したのは周瑜をはじめとした長沙の軍師達だと予想がついた。

 

 だが、達海はそれでもいつものように飄々とした態度で表情を険しくする趙雲に笑みを浮かべると孫堅達にこう話をしはじめる。

 

 

「この戦術はもうあんたらのお家芸だ、他に知られたら対策立てられるから他の陣営には話さないようにね?」

 

「…監督、なぜですか!?」

 

「言ったろ? 俺はフットボールを広めに来たってさ。この戦術はフットボールにも使える戦術だ、こいつらにはそれを教えただけだよ」

 

「そのフットボールの戦術を戦に使われるのですよ?」

 

「それがこの乱世なら仕方ないさ。郷に入ったら郷に従え…まぁ、諦めも肝心さ」

 

「く…っ! し、しかし、戦術を理解している貴方が戦地に赴く事にも…」

 

「致し方ないだろうね、覚悟はしてるさ」

 

 

 そう言って達海は何事も無いように淡々と趙雲にそう答えた。

 

 本来ならば、戦地に立つ必要はない達海であるが発案した戦術を一番理解しているのも達海である。

 

 ならば、指示を出しどういう動きをするべきなのかを将に指示を出さないといけない。

 

 孫堅はそんな達海と趙雲のやり取りを見ながら笑みを浮かべていた。

 

 

「残りの荊州の領地を持つ劉表を攻める予定だよ」

 

「炎蓮様!」

 

「あーもう堅苦しいのは疲れたわ、なんで畏まっていちいち口調を変えなきゃねぇんだよ? 嫌になるぜ」

 

(あ、こいつ、間違いなく孫策の母ちゃんだわ)

 

 

 急に口調が先日と変わり、豪快なものになる孫堅に達海は苦笑いを浮かべる。

 

 まさか、あんなにかしこまったように自分をもてなしていた孫堅が実はこんな豪快な人物だったとは達海も予想だにしてない事態だった。

 

 にも関わらず。あの孫策を見たおかげかなんとなくだがこの孫堅の豹変ぶりに達海は確かに親子だなと納得がいったのも事実である。

 

 

「つうわけで達海、あんたの真名おしえな!」

 

「…うん、作ってたのかあのキャラは」

 

「もともとこんな方じゃ、炎蓮は口調やお前さんに気を使って、最近かなり溜めてこんでいたみたいじゃがの?」

 

「あっ、そうなんだねー。そりゃ元がこれじゃストレスも溜まるわ」

 

「さぁ!名乗れ!」

 

「こえーよ」

 

 

 達海は豪快にそう言って戦術を説明していた自分にバンッと詰め寄る孫堅に苦笑いを浮かべそう告げる。

 

 椅子に座っていた孫堅の今までの態度が嘘のような変わり様。取り繕うにしてもかなり我慢していたんだなと達海は顔を引きつらせるしかなかった。

 

 その後、達海は馬超同様に愛称を孫堅に教える羽目になった。

 

 長沙の太守、孫堅。

 

 この日、達海はその孫堅の真名と素顔。そして、家臣達から真名を受け取る事になった。

 

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