大物殺しの監督と三国志の乙女達   作:パトラッシュS

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長沙での休暇

 

 長沙の城での達海の戦術指南から一夜明け。

 

 達海と趙雲、馬超の3人は目の下にクマを作りながらげっそりと街の食堂で朝食を食べていた。

 

 

「眠い…」

 

 

 テーブルに伏せそう呟く馬超に視線をやり、達海と趙雲の二人はため息を吐く。

 

 というのも昨晩の出来事だ。

 

 張三姉妹。長沙に向かう道中で彼女達はこの長沙の街でライブをするという話を長女の張角が達海達に持ち出してきた。

 

 

『でね! でね! タッツミーとみんなに曲を聴いて欲しいの!』

 

『いや…なんでこの時間…』

 

『いんすぴ…なんだっけ? そんなんが湧いちゃってさ! そういう訳で!お願い!』

 

『えー…』

 

『聴いてくれたらご褒美あげちゃうよ? たっつん』

 

『なんだそれ? いや別に要らない…』

 

『えー!なんと! 聴いてくれたら私のキッスをプレゼントです!パチパチ〜』

 

『聞けよ人の話』

 

 

 達海はそう言って、張角に顔を引きつらせながらそう告げた。

 

 彼女の気持ちを達海もわからんでもない、インスピレーションと彼女は言いたいんであろうことも達海は察しがつく。

 

 だが、達海もそんなくだらない話に乗るつもりはなかった。なかったのではあるが。

 

 

『スポンサーだよねー? ね?』

 

『………………』

 

 

 何故か天然でお馬鹿である彼女はこういう時に限って記憶力は良かった。

 

 そう、スポンサー、達海は彼女達のスポンサーを引き受けた立場だ。ならば、彼女達の歌をプロデュースするのもまたスポンサーの役目である。

 

 非常に面倒だが達海はこれを引き受けてしまった。

 

 そして、彼女達の歌に起こされた隣の部屋で寝ていた馬超と趙雲もまた寝不足といった具合である。

 

 グロッキー状態とはこの事だろうか、ちなみに張角のキスは馬超を盾に使い達海は防ぎきった。目の前で女同士のキスを目の当たりにした感想としてはドン引きである。

 

 

「あー…。私の初めての接吻がぁ…」

 

「まだ、落ち込んでたのかそれ。悪かったって」

 

 

 女同士の接吻に打ちひしがれる馬超に謝りながら寝落ちしそうになる達海。非常に眠たい。これでは今日はフットボール云々の仕事はできそうになかった。

 

 達海はフラフラとした足取りで馬超、趙雲を置いてとりあえず店から出て行く。朝食も取り終えたし寝るべきだと身体も叫んでいた。

 

 

「監督。どちらに…」

 

「寝るよ。お前らも寝なよ。身体はアスリートの基本だ」

 

 

 フットボール選手ならば海外に行く選手も数多くいる事だろう。

 

 特に海外で活躍するフットボール選手に言えることだが、時差ボケという言葉がある。それは日本の時間帯と海外の時間帯がズレている事に関して起きる現象だ。

 

 海外にいるフットボール選手はこの時差ボケと付き合わなければならないが、この時差ボケをコントロールする体調管理が非常に難しい。海外の選手が代表招集にあえば間違いなくこの時差ボケが起きてしまう。

 

 今回の達海の場合は全く別の理由であるが当時の現役時代に体験した様な時差ボケを達海はふとこの時思い出してしまった。

 

 懐かしくもあるが今回は辛いばかりである。

 

 食堂から立ち去った達海はしばらくして寝る場所を求めて長沙の街はずれにやってきた。ここは長沙のフットボールクラブを作るために達海が探し当てた土地だ。

 

 街はずれにあるその土地の木に達海はもたれかかる。

 

 

「最近色々ありすぎて、少し…疲れたな…」

 

 

 それからしばらくして、達海が瞼を閉じてそれから暗闇に意識を手放すまではそこまで時間はかからなかった。

 

 風が吹き抜け、達海がもたれかかる木々が揺れる。

 

 久しぶりにゆっくりできる。達海は静かな寝息を木の下で立てていた。

 

 

 

 それからしばらくして、そんな、達海が眠りについた頃。とある人物がその場に通りかかった。

 

 やや桃色掛かった特徴的な髪色に特徴的な褐色の肌。そして、物腰が柔らかそうな少女。孫権だ。彼女は達海の姿を見つけると静かに近寄りこう声をかける。

 

 

「おや、達海殿。こんな場所で何を…って寝てるのね」

 

 

 そう言いながら笑みを零す少女。

 

 彼女が見ていた達海の寝顔はあの不敵な表情を浮かべる彼とはかけ離れたものだった。

 

 彼女はそっと寝ている達海に近寄るとジーっとその顔を見つめた。母が言っていた優れた戦術家、それが彼だ。

 

『ティキ・タカ』と呼ばれる奇抜な戦術を孫堅達に授けた事も彼女は知っている。周瑜が孫策を含めてその事を自分に話してくれた。

 

 姉である孫策は目を輝かせながらその戦術を聞いて尚の事この男が気に入ったようであった。確かに聞いたこともない奇抜な戦術。

 

 

「ね、寝てるのよね? …でもこのまま寝ても寝違えて首を痛めるんじゃ…」

 

 

 孫権はぐっすりと木を背にして寝ている達海の姿を不安げに見ながらオドオドとしていた。男性に対して彼女は会話を等をした経験が乏しい。

 

 実を言えば達海が初めての相手だったりする。

 

 しかし、彼はなんというか、話していると不思議と打ち解けられるような雰囲気の持ち主だった。

 

 初対面の自分や孫策に飄々として振る舞い、それでいて抵抗なく馴染むことが出来た。男性に対して別に抵抗があった訳ではないが彼は親しみやすい何かが確かにあった。

 

 監督はチームに馴染むことが大切だ。コミュニケーションもそうだろう。ましてや達海は外国であるイギリスで人々から愛されるような監督だった。

 

 

「膝枕くらいなら…。…ま、周りに人はいないわよね?」

 

 

 そう独りでに呟きながらしきりに辺りを見渡して確認する孫権。

 

 彼女はしばらくすると達海の側にすっと近寄り、ゆっくりとその隣に腰を落として座る。そして、寝ていた達海の頭にゆっくりと手を伸ばすと…。

 

 

「こ…こうかしら? …どうかな…」

 

 

 達海の頭を木から離してゆっくりと自分の膝上の太ももあたりにおろして膝枕の形をとった。達海の頭の感触が太ももに伝わるのが妙な感触だった。

 

 膝枕なんてことは孫権はしたことが無い。母である孫堅からは一度だけ、幼き日にした記憶があるくらいだ。

 

 このくらいの距離感があると達海の寝息が聞こえる。孫権は頭を動かしてもなお目を覚まさずに心地よく寝息を立てている達海の寝顔を見ながらふと笑みをこぼした。

 

 

「ふふっ…。こうしてると本当に戦術家か疑うわよね」

 

 

 優しくそっと起こさないように達海の寝顔を見つめる孫権。

 

 達海は静かにその孫権の膝上に頭を乗せて眠るだけだ。よほど、疲れていたのだろう。長沙のフットボールに関する産業やスタジアムの建設には達海は全て関わっていた。

 

 さらに、そこに『ティキ・タカ』と呼ばれる新たな戦術の導入。孫堅にそれを教え、達海はその戦術についての話やどういったものが必要なのかを彼女達に話を詰めて教えている。

 

 

「…自分も辛いことがあったでしょうに…。他の人にはそんな素振りすら見せない…。達海が皆から慕われているのはそういった背景があるからかもしれないわね」

 

 

 孫権は優しく膝上に頭を置く達海を優しく撫でながら暖かい眼差しを向ける。

 

 昨日のフットサルを子供達と繰り広げる彼の眼差しはまるで子供のように輝いていて、その楽しさを伝えようとしていた。

 

 アルゼンチンやコロンビア、ブラジルには何万、何千という子供達がいる。

 

 貧しい土地に生まれた彼等の中で有名になったファンタジスタは大勢いた。『サッカーの神様』と言われた人物も例外ではない。

 

 貧困の中で育った彼等はハングリー精神を持ち合わせている。今いる環境から抜け出すようにもがいて彼等はフットボールで成功を掴みとった。

 

 それでなくとも、挫折や悔しさを味わった選手は大勢存在している。

 

 確かに恵まれた環境の中に置かれた人材で大成する者達は大勢いることだろう。

 

 だが、たらい回しにされて捨てられた者達は悔しさをバネに這い上がり掴み取る。

 

 現実に2016年プレミアリーグを制覇しようとしているチームの選手達がそれだ。

 

 それに限らず、悪童と呼ばれたフットボーラー達の中にはフットボールをしていなければ自分は人殺しや犯罪者になっていてもおかしくないと述べている者達もいる。

 

 道を違えず、厳しい環境と挫折と苦しみを乗り越えた者が掴み取れる栄光。

 

 達海はその手段をやり方を夢を子供達に知ってもらいたい。その場所を作ってやりたいとそう思ってこの旅をしている。

 

 孫権もまた、その達海の真意を昨日の彼を見ていて少しだけ理解できた気がした。

 

 だから、彼女もまた達海という人材の使い方を戦に使うというやり方にはあまり賛同はできない。

 

 しかし、達海はそれでも。

 

 

「割り切ってるのね。戦が起きるこの時代で自分がどういう立ち位置にいるのか理解して…。 私にはとても真似できないわ」

 

 

 それからしばらく、孫権は寝ている達海と共に木の下で数時間の時を過ごした。

 

 人が死ぬ戦乱、フットボールという新しい競技。

 

 達海が選んだフットボールを広めるという試みは前途多難であり、これから先も困難な状況に陥るかもしれない。

 

 けれど、今だけは静かに瞼を閉じ風に揺られながら孫権の膝上でその長旅と疲れを取ることができた。

 

 

「いい天気ね。せっかくだし私も少しだけ寝ようかしら…」

 

 

 孫権はそう呟くと静かに瞳を閉じた。

 

 風に揺れる木々、そんな中で二人は木の下で膝枕をしながら寝ている。いい天気の日には眠気があるもので体温的にも心地よいものがあるのだろう。

 

 その頃、馬超や趙雲もまた孫堅の城で昼寝をしていた。昨日の張角の作詞作曲に達海と付き合わされていたので致し方ない。

 

 その苦労もあってか作詞作曲が無事完成した張角は二人を連れて現在進行系で長沙の街中でライブを行なっている最中だろう。

 

 

「みんなー! 私の歌をきけー!」

 

「姉さん! それ違う人! 違う人だから!!」

 

「…でかるちゃー?」

 

「あんたも乗らないの!」

 

 

 ただし、方向性は定まっていないようである。

 

 ライブはそれなりに評判は良かったようである。彼女達の歌の質も歌詞も達海が手を加えてくれるようになってから上達しているように本人たちも感じていた。

 

 達海としてはアイドルプロデュースよりフットボールプロデュースの方がしたいのは明白であるのだが。彼女達が人気が出ればフットボールの宣伝も効果的になってくるのでこの場合はいい方向に事が運んでいると言えなくもない。

 

 

 そして、その後、目を覚ました達海が膝枕をしていた孫権に突っ込みを入れて顔を真っ赤にした孫権が恥ずかしさのあまり思わず城まで飛んで帰り部屋に閉じこもって悶えたのはまた別の話である。

 

 

 

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