大物殺しの監督と三国志の乙女達   作:パトラッシュS

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水鏡塾にて 2

 

 

水鏡の私塾。

 

 

この時代、漢王朝時代の中国に無一文宿無しの状態で来てしまった達海は水鏡から頼まれ、この私塾にて戦術の講師をやる事になった。

 

水鏡は「達海が言う『ジャイアントキリング』のやり方を生徒達に教えて欲しい」と彼に言った。

 

だが、達海の戦術はフットボールでしか使った事がない。なので、軍事におけるジャイアントキリングのやり方なんてモノは正直無知に近かった。

 

だから、彼もまた水鏡の元で個別に独学をしつつ、分からない部分を彼女に聞いたりしながら知識を身につける事にした。

 

 

それからかれこれ、2ヶ月が経つ。

 

 

「叶、上がれ! そこで止まってんじゃライン上がらねーだろ!」

 

「は、はいっ!」

 

「樹奈も裏取られんのにビビんな! ディフェンス! ポジショニングしっかりしろ!」

 

「ふ、ふぁい!」

 

 

達海は水鏡の生徒である彼女達に指示を飛ばす。

 

何をしているかと言うとフットボールの試合だ。

 

水鏡チームと達海のチームと別れての紅白戦。2ヶ月の期間、彼はフットボールのルールと戦術を全て彼女達に叩き込んだ。

 

基本的なポゼッションとその役割、そして動き。

 

彼女達に教えたのはこれとフットボールのフォーメーションである4-4-2、3-5-2、4-5-1と言った戦術だ。

 

では何故、水鏡の元で軍事の事を学んでいる達海が彼女達にこんなフットボールのフォーメーションを覚えさせ、フットボールの紅白戦をさせているのか?

 

それは、当然ながら別に彼女達にフットボールを教えてフットボール選手にする為ではない。

 

 

(お…、あの変な帽子を被った嬢ちゃんと噛み噛み嬢ちゃん…。良いポジショニングだ、戦術の内容を理解出来てんのか?)

 

「え、えい!…あう…!」

 

(まぁ…プレー内容はハナから期待してないけど…)

 

 

飛んできたボールを思いっきり空振りして転ける少女を見ながら、そう内心で呟く達海。

 

ポジショニング、それはフットボールの戦術において重要な事。

 

この”ポジショニングを理解しているか否か”のみをこの試合を通して達海は分析していた。

 

プレー内容は別に重要視してはいない。だが、戦術を理解した動きを見せているかどうか。

 

達海が見た中でその動きが多少なりと出来ているのが、先ほど挙げた彼女達だ。

 

それからしばらくして、達海はパンパンと手を叩くと彼女達にこう告げる。

 

 

「はいはーい、しゅーりょー」

 

「はぁ……、はぁ……」

 

「ぜぇ……、ぜぇ……」

 

「こひゅー…」

 

 

その達海の掛け声と共に地面に倒れ込み、汗だくで空を仰ぐ水鏡塾の生徒達。

 

彼女達は元々インドアな上、一日中塾の机で勉強ばかりしている者達ばかりだ。そんな彼女達がフットボールのプレー時間である90分間を丸々走り続けれるわけがない。

 

そんな彼女達の為に達海はとりあえず試合時間を7分間で組んだのだが、この有様である。

 

 

「まぁ、いいや。そんじゃみんなお待ちかねの結果発表~」

 

「ぜぇ…はふぅ…」

 

「今回、戦術をまぁまぁそこそこ理解出来ていたのは…そこにいる帽子被った嬢ちゃんと噛み噛み嬢ちゃんだけだ。あとはてんでダメ、戦術をまるで理解して無い」

 

 

そうバッサリと言い切る達海。

 

体力を使い果たしている彼女達はそんな達海の言葉に対し、汗だくで黙って聞いているだけだ。何故なら話すと余計キツイからである。

 

とはいえ、たかだか7分間だけでこれ程動けなくなるのは達海も予想外だった。

 

 

「てか、お前ら体力なさ過ぎだろ…普段何食ってんだ?」

 

「た、達海先生。これはなんの意味が…?」

 

「ん…? 簡単さ、戦術理解ができてるかどうかの採点」

 

 

達海はへばりながら話す少女に簡単にそう答える。

 

だが、インドアな彼女達からすれば身体を動かして何故こんなキツイ事をしなきゃいけないのか納得しきれない様子であった。

 

だが、達海はとりあえず彼女達にこう話をしはじめる。

 

 

「軍事とかで使ってる…鶴翼の陣だっけ? つまり、陣形は戦術の基本だ。つまりフォーメーションと一緒、なら話は早いだろ?」

 

「えっと…」

 

「指示する側が理解しておらず、実践できない陣形をどうやって他の連中に指示すんだよ? 俺だったら絶対納得いかないね」

 

「!?」

 

「俺はこのフォーメーションは大体わかるし、動けるよ? 多分、お前らの動いてた数倍も。体力とかの問題じゃ無い。つまるところ、指示する奴らの動きを把握するのは指揮官として当たり前の事っつう訳だ」

 

 

達海はそう告げると大きな欠伸を一つ入れ、彼女達に話を続ける。

 

そして達海は棒を取り出すと、地面に絵を描きながら彼女達に簡単に説明をしはじめる。

 

 

「サイドから攻撃を仕掛ける際、サイドバックがいるのは前のサイドアタッカーのフォローと攻撃に厚みを増す役目もある。それに、守備参加ですぐにボールを奪取する役目もね。つまりハードワークが求められるポジションだ。けどね、俺は今回、ハードワークは求めてない。つまり守備参加のみだ」

 

「は…はい…」

 

「ルールの説明はたくさんしたよな? 『オフサイドトラップ』ってルール。だけどディフェンスの2人は前に、後のサイドバックの2人は極端に後ろに下がってる」

 

「あ…、」

 

「こんな風にディフェンスラインはバラバラだ。連携なんて話にならないよ。前のやつらは前のやつらでポジションの位置分かってないから左サイドアタッカーが1人は後ろ、右サイドのもう1人は前に出てこんな風に崩れてる」

 

 

そう言いながら、達海はわかりやすく図面を用いて彼女達にポジションの役割を説明する。

 

そして少女達の中で唯一、まともだと言った2人についても達海は語り始めた。

 

 

「さっきの2人、えーと名前なんだっけ?」

 

「しょ、諸葛亮です!」

 

「ほ、龐統です!!」

 

「そう、諸葛亮と龐統…ん? 諸葛亮と龐統? …まぁ、いいや。その2人は中盤に入ってもらったけどね」

 

 

達海は2人の名前を聞いて一瞬だけ首を傾げる。

 

だが、彼は話の途中なのでとりあえず、その疑問は保留にし、引き続き、中盤に入ってプレーしていた彼女達についての説明を塾生達にしはじめる。

 

 

「2人は中盤で互いにアンカーとパサーの役目、それとチームのバランサーとして動いてたよ。まぁ、内容はてんで駄目だったけどね? でも声掛け合ってたろ、2人で?」

 

「あ…は、はい!」

 

「まぁ、その点は合格点だけど。中盤にいるって事は全体を把握する絶好のポジションだ。全員に指示出してフォーメーションの改善が出来なかった事については減点かな?」

 

「あ…あう…。そ、そんな…」

 

 

達海の言葉に思わずへこむ諸葛亮と龐統の2人。

 

達海はそんなへこむ2人を見て笑みを浮かべると2人にこう話をしはじめる。

 

 

「まぁ、俺は現役の時見えてたけどね。90分プレーしている中、ピッチ全体の動きがさ?」

 

「っ!?…う、嘘です! そんな事出来る筈がありませんっ! 私達でさえポジショニングでいっぱいいっぱいだったのに!」

 

 

そう言ってケラケラと笑う達海に対し、ピッチの中で動いていた諸葛亮は涙目になりながらそう言いよる。

 

7分間だけ、そんな時間でさえ動きながら全体を把握するなんて事は到底できるものでは無い。体力も無い自分達なら尚更だと諸葛亮は思った。

 

だが、達海は空を指差しながら彼女達にこう話をしはじめる。

 

 

「楽しいぜー? 空からピッチ全体が見えるってのは、鳥になったような気持ちになるんだ」

 

「…そんな事…」

 

「感覚の問題さ? 自分の視界以外の場所つまりは死角、そこが見えるってのは戦術以外であっても凄い武器になるんだよ」

 

 

達海はそう言いながら、ポンと涙目になっている諸葛亮の頭に手を置く。

 

涙目になっていた諸葛亮は顔を見上げ、そんな達海の顔を見る。自分の頭に手を置く達海はどこか懐かしむ様なそれでいて寂しそうな顔つきをしていた。

 

 

「…フットボール選手の選手としての寿命は短い。そんな数々のフットボーラーは夢を叶えて、そして見てる人達に夢を見せるんだ。だから、この戦術を理解するために何百回も何万回も頭に叩き込む為に身体で練習してる訳だ」

 

「……………………」

 

「このフォーメーションの全ては長年積み重ねてきた歴代フットボーラー達が考えついた故の戦術さ。確かに難しいと思うよ? けどね、これが”理解している”と”理解していない”とじゃ戦術の組み立て方もだいぶ違うのさ」

 

「は…はい…」

 

「うん…」

 

 

達海の言葉に諸葛亮と龐統はしゅんとした様に落ち込む。しかしながら、達海が話すフォーメーション理解については自分達はある程度こなす事ができたと思っていた。

 

けれど、達海が言う様に全体の把握までは至っていない。身体を動かしながら把握なんてのは無理だと自分達の中で決めつけがあったからだ。

 

軍師を目指しているのであれば全体を見て作戦や戦術、戦略を立てないといけない。達海の指摘に2人は納得せざる得なかった。

 

 

「つうわけで今日は解散ー。俺は塾に帰って寝るよ。昨日、きょうちゃんから借りた兵法書を朝まで読み漁ってたから眠くてさー、そんじゃおやすみー」

 

「あ、達海先生!」

 

 

そう女生徒が声を掛ける間もなく、達海は水鏡塾の建物の中にへと入っていく。

 

そして、取り残された塾生達は達海の講義が終わった後。全員で達海について話していた。

 

 

「はぁ〜…やっぱり達海先生ってイケメンだよねー」

 

「おじさまに全然見えないなー、凄い戦術家だよほんと」

 

「彼女とかいるのかなぁ?」

 

「あら、彼は独身らしいですよ?」

 

「「「ほんとですかっ!? 水鏡先生?」」」

 

「あ、あら…。えぇ、ほんとですよ?」

 

 

全員で水鏡の言葉に反応し詰め寄る女生徒達は目が燃えていた。

 

それはそうだ。こんな山奥にある塾に男の人がいること自体が珍しい。ましてや、その戦術の知識や考え方は画期的で新しいものばかりだ。

 

そんな、彼の考え方やそして、元からあるカリスマ性を見て惹かれる女生徒達は必ずいる。

 

まぁ、当の本人は微塵も興味はないのだろうが。

 

 

「朱里ちゃん…、私達もっと頑張らないとね…?」

 

「うん…、そう…だね」

 

 

達海の言葉を思い出しながらそう話し合う2人。

 

よほど今日の講義が勉強になったのだろう。先ほど達海が講義に使った図を見ながら、どうすれば良かったのかを互いに意見を出し合いながら復習をしはじめた。

 

そんな彼女達の様子を見ていた水鏡は微笑ましくその光景を見つめる。

 

 

(彼を連れてきて正解だったわね…)

 

 

それは、達海の存在が彼女達の新たな刺激となっている事への確信だった。

 

閉鎖的な山奥の塾での勉強だけでない、そういった知識の使い方を彼女達は理解できていない。

 

達海がそんな彼女達の戦術についての見聞を広げるきっかけになっている事を水鏡は彼女達の学ぶ姿勢を見てそう感じた。

 

 

 

それから、漢王朝に連れてこられた達海が水鏡塾に来て水鏡塾の生徒達に講義を続けること3ヶ月。

 

ある訪問者により、ついに達海の運命の歯車が動き出した。

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