大物殺しの監督と三国志の乙女達   作:パトラッシュS

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水鏡塾にて 3

 

ある日の昼過ぎ。

 

 

達海はのんびりと水鏡塾でいつものように兵法書を見ながら空を見上げていた。

 

 

「ふああ…、平和だね~」

 

 

呑気に欠伸をしながらそう呟く達海。

 

なんやかんやで水鏡からこの私塾に連れてこられて数ヶ月が経った。

 

達海は独学ながらも、たくさんある兵法書や軍事についての本を読んである程度の知識を取り入れてきた。

 

別に理由は特にない。強いて言えばフットボールの戦術に何かしら取り入れないかと思っての事だ。

 

それからしばらくして、水鏡が兵法書を読んでいた達海の前に現れる。

 

隣には水鏡塾の中で顔を見たことがない髪をポニーテールに束ねた美少女が立っていた。

 

 

「達海さん、少し時間をよろしいですか?」

 

「あーと…いいよー別に、特に今何もしてねーし」

 

「助かります、それじゃこちらで少しお話を…」

 

 

そう言って、水鏡は達海に部屋を移して話しをする様に促す。

 

達海はその場から立ち上がると、水鏡と少女の後からついていき、私塾の中にある応接間の様な部屋へと案内された。

 

連れてこられた達海は状況がいまいち理解できていない。よって、部屋に入り水鏡と向かい合う様に座った後、すぐさま彼女にこう訪ねる。

 

 

「んで、なんだい? 要件ってのはさ?」

 

「はい、実は…こちらの…」

 

「馬超だ。実はここの人間の知恵を借りたくて参上した次第だ」

 

「…あーうん、そっか。そんで?」

 

「実は馬超さんのいる西涼なんですが、どうやら一悶着あったみたいで…」

 

「ふーん…なるほどねぇ。んじゃとりあえず話だけ聞こうか?」

 

 

達海はそう言うと欠伸をしながら馬超と名乗る少女と話を聞くため水鏡と共に対面する。

 

ここの私塾には確かに優秀な人材は多い。

 

其の為に戦でその才を使いたいという人物が訪れれば、この私塾からその人材を貸し出す事になる。

 

達海も水鏡もそんな戦地に私塾の生徒を出させるのは気が引けていた。

 

もし、戦に負ければその人材はどうなるのか?

 

そんなものは容易に想像できる。敵軍に加担していたとなれば、殺されるか捕虜として捕らえられる事になるだろう。

 

 

「んで、嬢ちゃん。アンタらは何で揉めてんだ?」

 

「…実は…賊が西涼で暴れている。黄巾賊の連中だよ」

 

「黄巾賊? なんだそりゃ?」

「黄色い頭巾を被った賊です」

 

「ふーん、そうなの?」

 

「母様も頑張ってるんだがなかなか手を焼いていて…。それに加えて異民族の奴らもこの混乱に乗じて攻めてきやがったんだ」

 

「あらら、そりゃ大変だ」

 

「早く黄巾賊を鎮圧して異民族の方へ兵を割きたいが兵力差があってなかなか鎮圧も難しい…。他の国の奴らに頼るわけにもいかない。だから…」

 

「知恵を借りに来た訳、ねぇ?」

 

「できれば首謀者を手早く討って、事を丸く収めたいんだ」

 

 

そう言って、達海は馬超の言葉を聞いて頭をガシガシと掻く。

 

また面倒な事が転がり込んできたといった感じではあるが、彼女がこんな山奥にまで懇願しに来たというのはおそらく状況は芳しく良くない。

 

しかしながら、達海は何故か笑みを浮かべていた。

 

 

「ふーん、そっか。要は敵さんの方が数が多くてどうにもなりそうに無いってことね?」

 

「あ、あぁそうだけど…?」

 

「なら分かった。んじゃ俺が行こうか、その西涼とかいう場所にさ?」

 

「…っ!? …達海さんッ!?」

 

「…あー大丈夫、大丈夫だって。敵が多くてお前さん達の国で踏ん反り返ってんだろ? だったらそいつらの鼻っぱしへし折るなんて面白いじゃない」

 

「!? …やってくれるのか!?」

 

 

達海の身の安否を心配し、声を上げる水鏡とは裏腹に馬超は楽しげに話す達海の言葉に心強さを感じたのか嬉しそうに彼の肩を掴む。

 

達海はそんな2人に変わらずこう話を続ける。

 

 

「まぁ、負けりゃ終わり。戦もフットボールと一緒だ、勝たなきゃ意味が無いからね」

 

「ですが貴方は!?」

 

「フットボールの監督であって軍専門の戦術家じゃない…だろ? まぁ、何事も経験さ。こんな時代なら尚更やらなきゃ何にも始まらないさ」

 

 

そう言って、達海は苦笑いを浮かべながら水鏡に告げる。

 

本人も自覚はある。実際に人が死ぬ場面や戦の悲惨さを見たことは無い。むしろ、それとは無縁の生活を達海は送っていた。

 

しかし、戦争に身を置いた監督も存在する。

 

ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争。

 

かつてその戦争に巻き込まれ資産を全て失った監督がいる。

 

フットボールをしたかった。しかしながらこの紛争の影響で母国を追われた監督。銃撃戦に巻き込まれ肩に銃弾を受けるという事さえもあった。

 

だが、彼は見事に苦難を乗り越えた。

 

達海もまたそんな風にありたいと思った。今は戦の世であったとしても。いずれこの国をフットボールができる国にしたい。

 

 

「戦はどんな国でも起こるのさ。それが起きた時にようはどう立ち回るか。俺はフットボールを愛してる。だから、フットボールが出来る国になって欲しいのさ。早くね。だから馬超の協力をしてやって賊を鎮圧した後は…。フットボールを満足にさせてくれる殿様に仕えるさ」

 

「達海さん…、それは…」

 

「今は戦乱だ、まぁ面倒な事この上無いよ。だから前向きに考える事にしたんだ。俺がみんながフットボールを満足に出来る国にしてやるってね」

 

 

達海は覚悟を決めた眼差しを水鏡に向けてそう告げる。

 

フットボールの戦術家なんて、戦ならなんの役にも立たない。なら、軍事に関する戦術家になるしか無い。

 

達海は水鏡にそう言っているのだ。もっとも戦術といえどフットボールの戦術くらいしか達海は無いのだが。

 

そのフットボールの戦術を戦とどうやって結びつけていくのか。達海は今後それを試行錯誤しなければならない。

 

だから、水鏡に借りた兵法書を彼は頭にこの数ヶ月叩き込んだのだ。

 

 

「あのさ…その、フットボールってなんだ?」

 

「後で教えてやるよ、嬢ちゃん」

 

「あ、あぁ」

 

 

達海の言葉に思わず頷いて応える馬超。

 

達海は水鏡をまっすぐに見据えながら、こう話を切り出した。それは、水鏡塾から自分は出て行くといった意思表示の様に。

 

 

「つうわけでお世話になったな、きょうちゃん。ありがとね、長く泊めてくれて」

 

「…っ…、やはり出て行かれるのですね?」

 

「あぁ、いつまでもここには居られないさ。あいつらにもよろしく言っておいてよ」

 

 

水鏡はそう言って笑みを浮かべる達海の言葉に納得したのか、柔らかい笑みを浮かべていた。

 

それは、彼が何か使命を持ってこの場所から出て行くと言ってくれたからだ。

 

彼の言葉には人々が惹かれるカリスマ性がある。そして、与えてくれる夢がある。

 

それは、きっと実現できるものだと水鏡は感じていた。

 

 

「フットボールが出来る国…ですか。楽しみですね、それは?」

 

「もしリーグが出来て開幕出来る様になったら、あんたは特等席で見せてやるよ?」

 

「それは…楽しみですね」

 

 

そう言って、笑顔を浮かべる達海の言葉に水鏡は思わず涙が溢れ出そうになった。

 

今生の別れではない。けれど、戦乱の世に出るということはいつ死ぬかわからない状況になるわけだ。

 

達海の言葉に水鏡は溢れそうになった涙を指で拭き取ると達海をまっすぐに見据えながら、こう訪ねる。

 

 

「出立はいつにしますか?」

 

「明日。とりあえず今日は無理だろうしね」

 

「わかりました、彼女達にもこの事は黙って置きます」

 

「助かるよ」

 

 

そう言って肩を竦める達海に水鏡はいつも通りに優しい笑みを浮かべてそう告げる。

 

そして、水鏡塾に訪ねてきた馬超に視線を向けると水鏡は彼女にこう告げはじめた。

 

 

「彼は優秀で一流の戦術家です、きっと貴方がたの力になってくれるでしょう」

 

「お、おう…」

 

「だから、彼をよろしくお願いします」

 

「おいおい、やめろよ。なんかそれだと、きょうちゃんが俺のお袋みたいじゃねーか」

 

「保護者でしょう♪」

 

「まぁ、そう言われるとあらがち間違ってはないけどさ?」

 

 

そう言って、にこやかに応える水鏡に苦笑いを浮かべる達海。

 

そんな2人のやり取りを見ていた馬超もまた水鏡に応える様に持っていた十字槍を横にして決意を彼女に語る。

 

 

「この槍に誓って必ずこいつは守るよ。約束する」

 

「いや、だから大袈裟だって…」

 

「あらあら、それは頼もしいですね。…では、お願いしましたよ馬超さん♪」

 

「応!」

 

「聞けよ、人の話」

 

 

そう言って、盛り上がる2人をよそに突っ込みを入れる達海。

 

そうして、この出来事により達海は今後の方針を固めた。

 

フットボールができる国。そんな国で監督になるという目標を。

 

馬超という少女との出会いが達海に新たな一歩を歩むきっかけになった。

 

 

「でも、なんつうか…」

 

「なんだよ…、なんか不満でもあんのか?」

 

「いや、お前さん…アホそうだなって思って」

 

「なんだとー!?」

 

 

そして、多分、気のせいだろうが、その少女は奇しくも会った事もない、けれど、どこか見たことある様なハゲ頭のCBのサッカー選手を思い出させる不思議な雰囲気の持ち主だったとのちに達海は語った。

 

しかも、その雰囲気を持ち合わせて居たのは、なんと驚くべき事にこの国に彼女だけでなかったという事も付け加えて置こう。

 

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