大物殺しの監督と三国志の乙女達   作:パトラッシュS

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西涼珍道中

 

 

西涼に向かう道中。

 

 

達海は相変わらずのん気にあくびをしながら隣にいる馬超へと視線をやる。

 

昨日、あれだけ啖呵切って水鏡塾を出たのは良いが、ここには車やバスがない事を達海はすっかり忘れていた。

 

であるからして、水鏡から達海が渡されたのは一頭の馬だった。

 

 

『達海さん、今回の旅のお供にこの子を…。足が無ければ長旅になりますからね?』

 

『いいのかい、きょうちゃん? こんな立派な馬貰ってさ?』

 

『良いのですよ♪』

 

『そっか…あんがとさん。ところでさ、きょうちゃん。一つ聞きたいんだけど?』

 

『なんでしょう?』

 

『馬ってどう乗るの?』

 

『……………………… 』

 

『痛っ! …いや! 無言で脛を蹴るなよ! 馬なんて初めて乗るんだから仕方ないだろ』

 

 

そんな感じで、締まらない様なやり取りを旅立つ朝方に水鏡と繰り広げていた達海。

 

先日の別れを惜しむやり取りはなんだったのか、いや、この際、先日のやり取りで全部済ませてしまったのだろう。

 

その後、水鏡は馬の乗り方を達海に教え快く達海と馬超の2人を見送った。

 

そして、彼女は長い間、自分の塾に滞在していた達海が旅立つ前にこう告げていた。

 

 

『達海さん、貴方はこれからたくさんの出来事に巻き込まれる事でしょう。でも、希望を捨てないでください』

 

『大袈裟だなほんときょうちゃんは。大丈夫だって、なんとかなるさ?』

 

『ほんと…能天気な方ですね…。では、貴方に私の真名を授けます』

 

 

そう言ってにこやかに達海に笑みを浮かべて告げる水鏡。しかし、達海は真名と言われてもピンとこないのか首を傾げて彼女にこう訪ねる。

 

 

『真名? なんだそりゃ?』

 

『私の本当の名前ですよ』

 

『ふーん、そっか』

 

『えぇ、霖と申します』

 

『霖か、なるほど。覚えたよ』

 

『えぇ、だから私の事は霖とお呼びになって…』

 

『んじゃ、きょうちゃんだな』

 

『……………………』

 

『あのさ、無言で靴を踏むのは痛いからね? だって呼びにくいんだから仕方ないだろ? …痛たいっ! あだぁ!』

 

 

せっかく信頼して真名を教えたと言うのにこの言い草。

 

さすがに水鏡もこの達海の言葉にイラっと来たのか二回ほど満面の笑みで足を踏みつけた後何事も無く旅立つ達海の出立の準備を手伝った。

 

 

『それじゃいってらっしゃい』

 

『んじゃ行ってくるよ。あんがとね?』

 

 

そして、達海と馬超が出立したのは塾生たちが寝ている朝方。

 

水鏡以外に誰にも知られずに馬に乗り、こっそりと水鏡塾を後にしたのだった。

 

 

「なー馬超、あとどんくらい掛かるんだ? 馬ってケツ痛くなるんだけど…」

 

「あと2日ってとこかな? 途中での野宿する事を考えると、大体そんぐらいだよ」

 

「マジかよ!? アホみたいに掛かるな。まぁ、いいけどさ」

 

 

達海はそう言いつつ、自分が居た日本における文明技術の偉大さに気づかされた。

 

馬超も馬の扱いに慣れているとはいえ、よくもまぁ、そんな長い日にちを掛けてあんな山奥にある水鏡の私塾まで訪ねて来たもんだと。達海は感服するばかりだ。

 

 

「なー? そういや、達海に私の真名教えてなかったよな?」

 

「…ん? …あれ? 馬超が名前じゃねーの?」

 

「あぁ、その名前も確かに私のものだけど。信頼に値する人には真名ってのを預けるんだよ。神聖なものだから本人の許可なく呼んだら殺されても文句は言えないんだ」

 

「はぁ、なるほどねぇ。知らなかった。カルチャーショックってやつだな。イギリスに来た時に初めて食べた不味いメシ屋にぶち当たった時の事を思い出すな。あーだから水鏡のやつ怒ってたのか?」

 

「かるちゃーしょっく? なんだそれ…? ともかく、不味い飯屋と真名を一緒にしたりするとマジでぶん殴られるぞ? あと、水鏡が怒るのは当たり前だそれは」

 

 

そう言いながら、今朝のやり取りを思い出す様に呟く達海に苦笑いを浮かべ告げる馬超。

 

だが、達海は左右に首を振り言葉の意味を理解していない馬超に弁解する様に語りだす。まぁ確かに真名を理解していなかったのは自分の落ち度だが、そんな文化自体知らなかったことも事実だ。

 

 

「いや、カルチャーショックってのは別の国の言葉で文化の違いって意味さ。美味いメシ屋と不味いメシ屋だと食べた時の衝撃も違いもおっきいだろ? そういうのを例える意味じゃ一緒だよ。まぁ、イギリスにも美味いレストランはあったけどね」

 

「そんなもんか? でもまぁ、それはこの国じゃ失礼に値するから気をつけなよ? 礼節なんてのはどこの国でも共通してるんだろ?」

 

「あぁ、頭ん中に叩き込んだからもう大丈夫だよ。あんがとね馬超」

 

「翠だ」

 

「ん?」

 

「私の真名だよ。あんたは?」

 

「教えていいのか?」

 

「構わないさ。あんたは私の国の助けになってくれるって言ってるし、水鏡もあんたには一目置いてたみたいだからね」

 

「そっか」

 

「あぁ、信頼の証って奴だよ」

 

 

そう言ってニカッと笑みを達海に向ける翠。

 

達海はそんな翠の笑顔を見て、照れる様に後頭部を掻きながら苦笑いを浮かべる。そして当然、馬超もまた達海にこう訪ねた。

 

 

「そういや達海の真名ってなんだ? 良かったら教えてくれよ」

 

「いや、だから真名なんてのは俺には…」

 

 

達海はそう言いながら考え込む。

 

この状況で馬超が自分に真名を預けた。という事は彼女は自分がそれにあたる人物であると認めてくれた事に他ならない。

 

だから、達海は礼を尽くす彼女に真名を名乗らせるだけ名乗らせて自分が名乗らないのも不公平でないかと思った。

 

よって、彼女に達海は何か思いついたのか意味深な笑みを浮かべこう告げた。

 

 

「タッツミー」

 

「ん? なんだそれ?」

 

「俺の愛称だ。ま、真名ってほどじゃないけど現役のフットボーラーの時はこう呼ばれたんだよ、みんなにさ」

 

「へぇ…、ふっとぼーるがなんだかよくわかんねーけど。タッツミーだな? わかった!」

 

「あぁ、好きに呼んでくれ。呼びにくいなら達海でも別にいいよ?」

 

「えへへ、んじゃタッツミーって呼ぶよ私は」

 

 

そんな他愛もない会話を繰り広げながら楽しく西涼に向かう道中で笑いあう2人。

 

その後は達海が監督をしていたフットボールの話やヨーロッパ。イングランドの話。そして、世界で行なわれるW杯の話なんかを翠に話しながら賑やかに会話を続けた。

 

特に、翠はW杯やヨーロッパの国についてとても興味を抱いた様だった。

 

 

「はぁ、規模がデカイなぁ。私も世界と戦うなんて事は想像したことがないよ」

 

「まぁね、そこを目指す為にたくさんの国が戦って世界で一番強いフットボールの国の頂点を決めるんだ。世界中にいるフットボーラーはその舞台を夢見て汗水垂らして練習に励んでそこを目指す。すげーだろ?」

 

「ふっとぼーるか、なんだか私もやってみたくなったな」

 

「戦が終われば選手になればいい。そんときは俺が監督になってやるよ」

 

「ほんとか!?」

 

「あぁ、俺もフットボールの監督が本職だしな」

 

 

そう言いながら、達海は目を輝かせる馬超に任せとけと言わんばかりに頼もしく軽く自分の胸を叩く。

 

達海は目を輝かせる翠を見ながら何処か懐かしく感じた。確かに自分がフットボールをやっていて夢を見てひたすら追っかけていた時の目と似ている。

 

 

「おまえはいい選手になるよ、翠。そんな目をしている奴がドンドン上手くなるからな」

 

「えへへー。なら達海に負けねー選手になるぜ! 私は!」

 

「そりゃ無理だな」

 

「なんだとー!?」

 

「タイプが違うんだよ。適材適所。俺のポジションは多分おまえじゃ無理だ。違うタイプの選手になるよ」

 

 

そう言って達海は声を挙げる翠に軽い口調で告げる。

 

タイプの違う選手はたくさん存在する。その選手がチームに合うか合わないか。。良い部分を引き出せるか引き出せないかでその選手の存在価値が変わってくる。

 

その良い部分を引き出せないチームにいる選手は良いモノを持っていたとしてもベンチ。ベンチ外に置かれチームから弾き出される。

 

フットボールとはそんな有能な選手が埋もれることもある非情な出来事が日常茶飯事にあり得るスポーツだ。

 

 

「まぁ、俺以上の選手にそのタイプで上回れるかもしれないけどね、おまえは」

 

「…ほんとか!?」

 

「嘘は言わないよ。まぁ、それよりも今は戦だ」

 

「ん…。あ、そ、そっか…戦乱が終わらねーとふっとぼーるなんてできないもんな!」

 

「そういう事」

 

 

達海はしゅんと落ち込む翠にさっぱりとした口調で簡単にそう告げる。

 

戦なんてしてたらフットボールどころの騒ぎじゃない。人がたくさん死に。もしかしたらフットボールに適した有能な人材すら失う事になる。

 

達海はそんな現実を翠に対して口に出しただけだ。

 

しばらく道なりに馬を進める2人。

 

すると、対面の方に何やら倒れている人物がいた。

 

何やら奇妙な着物を身に付けて倒れる彼女。着物の丈が短いのか妙な色っぽさがある。髪は珍しく水色掛かった様な髪質で顔も整った美人だ。

 

達海と翠の2人は倒れているその人物を見つけると互いに顔を見合わせる。

 

そして、互いに頷くと意気投合したように2人ともこう言葉を発する。

 

 

「…よし、見なかった事しよう」

 

「同感だ、なんか胡散臭そうだしな」

 

「ちょ、ちょっと待ってもらいたい。それはいささか薄情ではござらんか、お二方?」

 

 

そう言ってその倒れている少女を素通りしようとした途端。倒れていた筈の彼女が起き上がり達海と翠の2人を呼び止める。

 

2人は驚いたように顔を見合わせるとしばらくして達海がこう口に出した。

 

 

「お、死体が動いたぞ?」

 

「死体では御座いませぬ! こんな美人が倒れているのになんたる…うぅ…」

 

「モロ嘘泣きなの丸わかりだからな?」

 

「血も涙も御座いませんな」

 

「…いや、行倒れなのはわかるけどこうなるから関わりたくなかっただけだよ」

 

 

そう言って苦笑いを浮かべる達海。

 

そんな達海の横で翠もまた全くだと言わんばかりに首を無言で縦に振る。

 

そんな中、倒れていた少女は彼らにこう話をしはじめる。

 

 

「私の名前は趙雲、趙雲子龍と言います。旅の途中、食料が尽きここで行倒れてしまって…この3日何も食べていないのです」

 

「はぁ、それはまた大変な事で」

 

「全くです。道中に寄った店でメンマに夢中になっている隙に財布が盗まれ、食料も底を尽きた次第でして、どうしようかと困っていた次第で…」

 

「なんで話しながら、アンタいつの間にか俺の馬の後ろに座ってんの?」

 

「あ、前がよろしかったですか? 以外と大胆な方ですね」

 

「…あーだめだこいつ同行する気満々だぞ、タッツミー」

 

 

大胆にも倒れてた少女が達海の馬の後ろに跨る光景を目の当たりにした翠は顔を引き攣らせながらそう達海に告げる。

 

このふてぶてしさは達海に似通っているようなそんな気もしないわけでもない。

 

 

「俺たち今から西涼っつうとこに行くんだけどあんたは良いのか? そんなとこまでついてくる気か?」

 

「どうせ流浪の身。まぁ、これも何かの縁ゆえ、同行させて頂きたい」

 

「なんつーか、ここまで行くとなんか凄いな」

 

「あと、食べ物を頂けると非情に助かります」

 

「あーはいはい、わかったよ。ほら、肉まんだ」

 

「助かりました」

 

「…まぁ、なんか増えたけど。次の街で馬を一頭仕入れなきゃな? ちょうど金銭には水鏡殿が工面してくれたんで余裕があるし」

 

「…水鏡殿?」

 

 

その名前を聞いた途端。ピクリと趙雲と名乗る少女が反応する。

 

そんな彼女の反応を見た2人は顔を見合わせると趙雲と名乗る少女にこう問いかけた。

 

 

「なんだ、あんたきょうちゃん知ってんのか?」

 

「まぁ、はい。私塾を開いている方で有名な兵法の講師とお聞きしてます」

 

「…そうなんだ。あ、こいつはその水鏡から推薦された戦術家だよ」

 

「なんと!? ならば名だたる戦術家の方とお見受けしますが?」

 

「なんでどいつもこいつも戦術家呼ばわりなんだよ。フットボールの監督っつってんだけどな?」

 

「ふっとぼーる? はて? 聞いた事は御座いませんな」

 

「…もう1から説明すんのが面倒くさい」

 

「あはは、心中お察しするよタッツミー…」

 

 

そう言って、馬上でげんなりとする達海に苦笑いを浮かべ同情する翠。

 

こうして、道中に倒れていた奇妙な少女を加え達海達一同は西涼へと馬を進める。

 

その間、時間を持て余した達海が再びフットボールについての説明を翠を交えて1から趙雲に説明する羽目になったのだった。

 

 

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