西涼道中。
道で拾った趙雲と共に西涼を目指す達海達は途中、小さな集落のような街に寄り。趙雲の為に馬を一頭、仕入れた。
達海と一緒の馬で良いと彼女は言うが、一頭の馬に対して2人も乗り続けるというのは負担が大きい故、目的地到着前に馬が潰れてしまう可能性がある。
「たく…無駄金じゃないか」
「何から何まで本当にありがとう。この恩は必ず返すさ」
「あぁ、40倍にして返せよ」
「…ぐっ…。あ、あぁ、考慮しよう」
そう言って、達海の言葉に顔を引きつらせる趙雲。
なんというか、この達海という人物は摑みどころが無くマイペース。それでもって、趙雲が見る限りなかなかの曲者だった。
それも、自分が彼に対して、からかったり毒を吐こうものなら3倍や4倍にして返してくるような猛者だ。
例えば、道中フットボールの話を達海がした時である。
『ははは、世界を相手に戦ったとは誠に面白い冗談を、いや失敬、変わった格好をしてるだけで無くその様な面白いお方だとは思いも…』
『なぁ、翠。井の中の蛙って言葉知ってるか?』
『ん…? なんだそれ?』
『あることわざでな、井の中の蛙大海を知らずって言うんだけどね。井の中の蛙って海知らないじゃん? つまり無知なわけだ』
『ふむふむ』
『つまり、こういうこと』
『んな!? な、なんですと! 何故私を指差すのですか!! 達海殿!!』
『そういう奴は大体、頭でっかちで老けるのも早いっていうからな、翠も気をつけろよ』
『はぁー。達海は物知りだな。勉強になるよ』
『ぐぬぬ…。で、ですが、私の場合は色々歩き回り見聞を広げていますから、無知ではなく世界を知っていると言っても過言では…』
『はいはい、世界(笑)ね。こんな大陸の一つだけが世界だと思ってるなら船借りてマゼランみたいに世界一周してから出直しな』
『………………… 。ま、まぜらん?』
『あ、マゼランも知らないんじゃ世界のセの字すら満たないね。お疲れ様でした』
そう言って、達海にことごとく躱されるどころかグサゲサと槍で刺される様な言葉を浴びせられる趙雲。
飄々としている彼女であるが、流石の彼女もそんな事が続けばこんな感じに…。
『うがー!』
『ちょ、趙雲が壊れた!』
『あーちょいやり過ぎたかな? 謝んねーけど』
壊れる。人間、普段、人にしている事が2倍3倍にして自身に返って来るのであればそうなるのも必然とも言える。
趙雲はこの時に悟った。
この達海という人物の尾を踏んだりしてはいけないと。きっとこれ以上にえげつない言い回しが飛んでくるのが目に見えてわかる。
だが、この趙雲という少女。彼女もまた負けず嫌いであった。
「ふふ、わかりましたよ達海殿。どうやら貴方は女性の扱いと謂うものを存じ上げないらしい」
「あー、うんそだねー。俺独身だし」
「ははは、その年で独身はいささか、いやはや、私や馬超殿みたいに若い女性は達海殿の様な独身男性には刺激が強いんではないですか?」
「別にー? 俺はフットボールができればそれでいいし。それに他人に馬を買わせるような女性は確かに刺激が強すぎて手にあまるかな?」
「ぐ…。ですからそれは返すと申したはずだ」
「そっかー。まぁ俺は別にどっちでも良いけど。頑張ってねー」
「…………………」
こんな感じに趙雲はマイペースな彼のペースに毎回毎回、乗せられる。
趙雲は割と毒を吐いてるつもりなのだが、当の本人はどこ吹く風。能天気。そして、何より時折えげつない返しが返ってくる。
そんな光景を端から見ていた馬超は思う。
水鏡。貴女も相当大変だったんだろうなと。しかし口には出さない。達海のえげつない言葉攻めに耐えれるメンタルは持ち合わせていないからだ。
私はああなりたくないなと、反面教師として馬超には達海と趙雲の2人写っていた。
「私は絶対、ああならないようにしよっと」
他人を見て我が身を振り返るとは良く言ったものである。
だが、それにしても1人増えただけで随分と賑やかになったものだ。だが、当初の目的は忘れてはいない。
そう、馬超の目的は西涼の戦況を変えてくれる軍師、策略家を水鏡塾から急いで連れて来ること。
水鏡塾を後にして大体3日。そろそろ、西涼に着く頃合いだろうか。
「タッツミー。そろそろ西涼に着くぜ。っとその前に少し道を変えるよ」
「道を変える? はて? 馬超殿、それは何故?」
「賊が出張ってるから見つかんねーようにだろ? わかったよ」
「あぁ、抜け道があるんだ。そっちから西涼の城に入る」
そう言って、道を変える馬超の後ろを趙雲と達海は後からついていく。
険しい獣道のような抜け道であるが、確かに、こんな道ならば人の目にはつかない。
趙雲と達海はしばらく、先導を馬超に任せる。
そして、しばらくすると、道を抜け、目の前には巨大な城壁が現れた。
「裏門だ、それも敵兵からは分かりにくい様にしてある」
「はぁ…。なんだか凄いな…。これが城ってやつか」
「しかし、戦をしている割には随分と静かだ」
「もう夕暮れだ。おそらく敵も引き返す頃合いだったんだろう。敵兵とはいえ、相手は賊だ。夜も城を攻め続ける程の力はないんだろうな」
そう言って、静かな西涼の城の様子に疑問を浮かべる趙雲に馬超は笑みを浮かべそう告げる。
なんとか持たせてくれている。自分がいない間。母は帰る場所を守ってくれていた。
馬超は城門を開けるとすぐさま2人に入る様に促す。
「入ってくれ、歓迎するよ。西涼へようこそ」
「気のせいか地獄へようこそに聞こえるな?」
「あらがち間違えでもないでしょうな、達海殿。戦とはすなわち地獄と隣り合わせ故。戦をしに来たのでしょう?」
「まぁ…ね」
達海はそんな趙雲の言葉に短い返事を返し、先導する馬超の後をついて行く。
城の中は割と立派な造りだった。とはいえ、日本の城とは違い街を囲う様な城壁の様な造りだ。
達海は今まで見たことがないそんな城の中を見渡しながら馬超の後を趙雲と共に部屋に案内される。
「お、おぉ! 馬超殿! 戻られましたか!」
「今帰って来たよ。母様は?」
「ご無事ですよ。ただいま呼んで参ります故」
「頼んだよ。戦況を早く知りたいからな」
「はっ!」
そう言って、趙雲と達海の2人を見たその兵士は頭を下げるとすぐさま姿を消す様に早足で立ち去っていく。
そして、それを見届けた馬超は2人へ振り返るとこう告げた。
「来て早々だけど多分すぐ軍議に入ると思う。お前達2人を母様や家臣たちに紹介しなきゃいけないしね」
「別に構わないさ。趙雲、あんたは?」
「ふふ、何を言われる。当たり前でしょう? 恩は必ず返すと言った筈。この城に入った途端に私の心は決まっていますよ」
「お、やる気だね。そういうの嫌いじゃないぜ」
「達海殿。そんな風な言い回しだと女性は勘違いしてしまいますぞ?」
「そりゃ勘違いする奴がおかしいよ。やる気があって良いのが好きと言ってるのであって間違った解釈をしてるんだから」
「……相変わらずですな」
はぁ、と達海の言葉にため息を吐く趙雲。
そうだ。達海という男はそういう男であると今更ながら再認識させられた。飄々としたマイペースな男性。
それでいて何故か不思議とその言葉や立ち振る舞いには魅力なようなものを感じる。
「んじゃ、お仕事の時間かな? さぁて、いっちょかましてやるか」
達海はそう言って、ストレッチをするようにして背筋を伸ばす。
目的地である西涼の城には着いた。後は自分がここにいる奴らを勝たせてやるだけ。
この世界に来ての初めての戦。
これが達海猛のこの戦乱に対するジャイアントキリングの一歩。
彼は密かにそんな状況に僅かながら心が躍っていた。