大物殺しの監督と三国志の乙女達   作:パトラッシュS

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西涼

 

 

 

西涼。

 

馬超の母、馬騰が治める国。

 

この地にはよく異民族が侵略をしに訪れる。国境が隣接している故か、はたまた違う目的かは定かでは無い。

 

馬超の母である馬騰はそんな侵略者である異民族を排除し漢王朝の安寧と平和を守り続けていた。

 

だが、世の中は変わる。

 

漢王朝はもはや、末期。皇室は腐敗し。民が苦しむ中。その不満は賊となり国家である漢王朝に反旗を翻すところからして民の総意が明確に現れていると言えるだろう。

 

 

「敵兵の数は?」

 

「おおよそ、6000強くらいと言ったところでしょうか…。流石にこれでは…」

 

「弓兵も不足し、極端に騎馬兵だけが多い現状で籠城か…」

 

「兵数なら迫ることができましょうが、いかせん分が悪いかと思われます」

 

「でしょうね。どうしたものか」

 

 

賊の鎮圧に乗り出したいが、異民族の侵攻がタイミング悪く重なり、そちらに兵を回している故、増援はできない。

 

馬岱に兵を向かわせそちらは対処してはいるものの、賊の方にまで手は回せない状況だ。

 

ならばどうするか、残りの兵で対処するしか無いのは明白だ。

 

だが、馬騰の文官が述べた様に兵数でも劣っている上。弓兵が極端に少なかった。この様になっているのも異民族から砦を守るために馬岱が率いらせる兵士に弓兵を多く割く必要があったからだ。

 

 

「どうなさいますか、馬騰殿?」

 

「討って出るしか無いでしょうが、何も策が無ければ負けは必定。馬超はそろそろ戻るはず、それまで持たせればなんとか巻き返しもできるだろう」

 

「いやしかし、馬超殿が連れてくる水鏡殿の私塾の者がよほどの切れ者でなければ厳しいのでは無いですか? もし違えでもしたら…」

 

「あれは私の娘だ。人を見る目はあると思ってる」

 

「…いや、馬超殿は頭の方はあまりよろしく無い様な…」

 

「何か?」

 

「いえ、ナニモ…」

 

 

そう言って威圧感のある口調で笑みを浮かべる馬騰の言葉に思わず視線を逸らす。

 

確かに娘の馬超が頭が弱いのは馬騰も知ってはいるが、水鏡程の人物が、困っている馬騰の国の状況を考えて無能な者を寄越す可能性は無いと馬騰は思う。

 

それに、信用して送り出した娘がそんな国の命運が掛かるこの状況でヘマをやらかすかもしれないなんてことを言われれば母親の心情としても黙ってはいられない。

 

 

「そんときは城を枕に野垂れ死だよ。わかりきってるだろ? 信じるしか無いよ」

 

「はい…。わかっております」

 

「今はできるだけのことをする。それだけだ」

 

「はっ!」

 

 

そう言って、文官の男は頭を下げすぐさま持ち場へと戻る様に駆けてゆく。

 

それを見届けた後。馬騰は静かに城から見える敵兵の姿を見据えた。

 

視線の先には黄色の旗印。

 

この城を開け渡せば、城内にいる民には地獄絵図が待っている。そんなことだけはさせるわけにはいかない。

 

 

「で、伝令!」

 

「…!? …どうした?」

 

「はっ! 馬超殿がご帰還なされました!」

 

「…!? 来たか!!」

 

 

そう言って、伝令の言葉を聞いて急いで城内へと戻る馬騰。

 

水鏡の私塾へ向かう前に賊に見つからない様に馬超に抜け道を教えていた甲斐があったと馬騰は笑みを浮かべる。

 

大体、あれから7日。

 

ようやく、待ち焦がれた反撃の機会。馬騰は馬超がどのような軍師を連れてきたのかと心待ちにしていた。

 

城内の扉を開け、到着した馬超が城内に戻った馬騰の視線の中に飛び込んでくる。

 

 

「母様、今帰ったよ!! 状況は?」

 

「良く帰った! …が、見ての通りだ。あんまり良くは無い」

 

「そうか…。異民族は?」

 

「蒲公英に鎮圧に向かわせた。後は賊だけ」

 

「数は?」

 

「賊だけで6000強だ。こちらは多くて4000。それも弓兵が極端に少ない」

 

「本当かよ…」

 

「あぁ、城内に兵士を割けば3000がいいところだ」

 

「数が2倍近く違うじゃねーか」

 

 

そう言って、馬騰の言葉に馬超は思わず頭を抱えそうになる。

 

明らかに自分が水鏡塾に向かう前よりも状況が悪くなっている。

 

兵数は14000いた筈だ。馬岱が異民族鎮圧に兵を挙げていたとしても後、3000は居てもおかしくは無い。

 

馬超はその事について馬騰に訪ねると彼女は言いにくそうにこう言葉を紡ぎはじめる

 

 

「…脱走兵と寝返りだ。2000程がいなくなってしまった。後の1000は籠城戦の際に負傷もしくは死んだ」

 

「くっそ!」

 

「だが、まだ諦めるには早い。その為にお前を戦線から外したんだ」

 

 

そう言って、拳を机に叩きつける馬超の肩を掴む馬騰。

 

肝心な事を馬騰は忘れてはいない。馬超は水鏡塾から連れてきた人材を連れてこさせるため長い間戦線から外していた。

 

馬超はその馬騰の言葉に静かに頷く。

 

 

「あぁ、連れてきたよ。とっておきの戦術家をさ」

 

「流石、我が娘だ」

 

「おぉ、馬超殿! 水鏡塾から軍師を! どの様な方ですか?」

 

「ははは! 馬鹿者! あの水鏡塾の門下生だぞ?」

 

「あ…いや…、門下生じゃないんだよ。水鏡塾から連れてきたのは」

 

「なんと…。それは一体?」

 

「けど、水鏡のお墨付きの戦術家さ」

 

 

そう言って、馬超は笑みを浮かべてその場にいる全員に自信ありげに答える。

 

しばらくして、そんな馬超の後ろに振り返ると待たせている二人を呼ぶ。

 

 

「いいぞ! 二人とも来てくれ!」

 

「あーやっとか、こちとら長旅で疲れてんだ」

 

「…翠、この二人は?」

 

「あぁ、こっちが…」

 

「お初にお目にかかる。私の名は趙雲子龍。この度ご息女から行き倒れていたところを助けていただきました」

 

「ほぅ…、見たところ武人みたいだな?」

 

「はい、槍にはそれなりに自信がございます。行き倒れていたところを助けていただいた恩があります故、今回、合力させて頂く」

 

 

そう言って、自分が持つ槍を見せる趙雲。

 

その瞬間、馬騰の家臣達からは、おぉっ! という声が上がる。

 

つまるところ、合力してくれる心強い武人を馬超が連れてきた事に関心してだろう。

 

しかしながら、今、馬騰が欲しているのは武人ではない。この状況を打破できる軍師だ。腕が立つ武人が居てもこの状況を打破できるとは馬騰は到底思ってはいない。

 

馬騰はもう一人の人物へと視線をやる。

 

 

「それで、もう一人の者は」

 

「あぁ、こいつは…」

 

「あぁ、いいよ翠。後は俺が説明すっから」

 

 

そう言って、その人物は口を開いた馬超を制して不敵な笑みを浮かべて馬騰の前に足を踏み出した。

 

よく見れば馬騰と家臣達がその人物が変わった格好をしていた事に気づく。

 

見たことが無い緑の長い衣類。そして、紐の様な物を首から垂らし、中に白い生地の衣服を身につけている。

 

そんな珍しいものを見る様な眼差しで全員から見られる中。その人物はゆっくりと口を開き話し始めた。

 

 

「さて、まずは自己紹介からだな? 俺の名前は達海猛、フットボールの監督だ」

 

「ふっとぼーる? なんだそれは?」

 

「まぁ、それはいいや。んで、こいつが言ってた戦術家っていうのは俺の事だよ」

 

「…戦術家? …そのおかしな格好でか?」

 

「ご名答」

 

 

そう言って、達海は呑気にポケットに手を突っ込み。真っ直ぐな眼差しで家臣達と馬騰の目を射抜く。

 

それからしばらくして、彼は対面する馬騰達にこう話をしはじめた。

 

 

「そんで、あんたらは俺に何をして欲しいわけ?」

 

「決まっているだろう。お前の策を用いて必ず戦に勝たせろ」

 

「ふーん、じゃあはっきり言おうか? それは俺だけの力じゃ無理だ」

 

「なんだと?」

 

「当たり前の事だろ。数考えろよ。今さっき聞いた話だと2倍以上違うって言ってただろう。それを俺一人だけでどうにかしろ? 無理だね、というよりどんな奴引っ張って来てもそりゃ無理だ」

 

「ならば貴様は何を…?」

 

「俺がしに来たのはあんたらを勝たせる事。それは間違っちゃいない。だが現状、俺が教えた戦術をあんたらが実践できるかと言えば正直な話わからない。だから俺は必ず勝たせるとは言い切れない。こればっかりはあんたらと兵士次第だ」

 

「…ぐっ…、では何をしに来たのだお前は?」

 

「言っただろ? 勝ちに来たんだよ。っとその前にお前ら、…信用できるか? 俺を」

 

 

そう言って、真っ直ぐに達海は馬騰とその家臣達の目を見据える。

 

彼女達は顔を見合わせる。確かに信用できるかどうかと聞かれれば、先ほどまで翠が連れてくる人物を疑っていた程。

 

信用をしていると言われれば彼の実績を目の当たりにして無い以上、信用が確立しているわけでは無い。

 

 

「お前みたいな胡散臭い格好した戦術家なんて見たこと…」

 

「ほらな、信用があるかどうかわからない。お前らのその態度じゃ勝てるもんも勝てないよ」

 

「なんだと!?」

 

「戦術は連携が基本だ。そんな状況で信頼できない指導者の戦術を用いても100%の力は発揮出来ない、むしろ総崩れだ」

 

「…………」

 

「俺が戦術を敷く前にだ、お前らを勝たせる前に三つだけ約束がある。これさえ守れるなら勝たせてやるよ?」

 

 

馬騰と言葉を交わしていた達海はそう言い切った。

 

確かに彼が言っている信用。自分が描いていた人物とは違うし、本来、連れてこさせるように頼んだ水鏡塾の門下生でもない。

 

だが、彼の言葉には何かしら力があった。

 

 

「さあ、どうするよ? 腹くくるなら、今のうちだぜ? 俺と一緒にすんげーワクワクするジャイアントキリングを起こすか。それとも、このまま楽しくみんなでこの世から仲良くバイバイするかだ」

 

「じゃいあんときりんぐ?」

 

「大物喰らい、大物殺しって意味さ。目の前にあるでっかい6000って獲物が垂れ下がってんだぜ? そいつらを半分の数でぶっ倒す。正々堂々真正面から。…どうだい? ワクワクしてこねーか?」

 

「…っ……!?」

 

 

そう言われた途端、馬騰と家臣達は目を見開いた。

 

ワクワクするだと?。こんな死地の中で。

 

6000の兵を真正面から3000の兵で打ち破るなど。そんなものは奇跡に近い。ありえない。そんな事は。

 

しかしながら、彼は笑いながら自分達にそう言い切った。

 

その言葉に馬騰だけじゃない。馬超も…そして、趙雲もまた震えた。武人ならばそんな夢のような話を聞けば誰しもそう感じるだろう。

 

 

「できるのか? そんな事…」

 

「それを絵空事かそうじゃないか、そうするのはあんた達の力次第だ。守ってきたんだろ? 協力してこの城を」

 

「…あ、あぁ…そうだとも」

 

「ならできるさ。できないからやらないじゃない。やるからにはやってみせる、だろ?」

 

 

達海はそう言ってニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

勝たせる。それはたった一つの目的だ。非常にシンプルで分かりやすい、この城、そして西涼を守ってきた者達の総意だ。

 

なら鼻っから迷う事など無い。今も自分の娘の一人は砦で異民族と戦っている。

 

その母である自分も相応しい在り方であるべきだ。

 

 

「いいだろう。なら聞かせな、あんたの条件ってやつをさ?」

 

「やるんだな?」

 

「あぁ、腹は決めたよ。あんたに任せる」

 

「わかった。なら、まずは一つ目。俺が立てた戦術を疑わない事」

 

「あぁ、皆も良いな」

 

 

そう言って、家臣達に確認を取る馬騰。

 

家臣達はその言葉に静かに頷き、領主である馬騰の言葉に従う事を誓う。

 

そして、それを確認した達海は再び口を開き話を続けはじめた。

 

 

「二つ目、この戦術は連携が大事だ。絶対に何があっても敵前で逃亡すんな。俺の指示以外はな」

 

「…。あぁ、わかった」

 

「三つ目、この戦術を教えたらそれはあんたらのもんだ。この戦術を誰にも漏らすんじゃねーぞ?」

 

「…ちょっと待て? それはどういう…」

 

「対策を練られるからだ。だからこの戦術はあんたらのお家芸にしろって事。わかったら返事」

 

「あ…あぁ、わかった」

 

「よろしい。なら、まずは段取り決めるぞ。図面とかある? 地図の?」

 

「あ、はい! ただいま!」

 

 

そう言って、達海はひとまず策を練るために図を持って来させるように家臣の一人に告げる。

 

そして、しばらくして、家臣の一人が持ってきた図面を卓に広げるとそれを見ながら。話をしはじめる

 

 

「あんたら確か、馬だけだっけ? 弓兵いないって言ってたよな?」

 

「あ、あぁ…いまは砦の方に向かわせている」

 

「んじゃわかった。それじゃ、賊がいるのは…」

 

「この丘だ。明日になれば兵を率いて城を攻めにこの平原へやってくるだろう」

 

「なるほどね、わかった」

 

 

達海は馬騰から状況の確認を取るとジッと地図を見つめる。

 

弓兵がおらず、馬が数多くある状況、やる戦術はすでに決まっている。後はそれの共有と段取りだ。

 

 

「…4-5-1だな。後は兵士の割合だけれど、3000じゃ到底足りねー。つう事は五百づつ分けたとして…」

 

「…? 達海殿? 何を考えてらっしゃるのですか?」

 

「5-1だな。よし、それで行くか」

 

 

達海は趙雲の言葉が耳に入っていないのか、独りでにそう呟くと広げてある図を用いながらその場にいる全員に自分が考えついた戦術を告げはじめた。

 

 

「いいか、お前ら。ちゃんと耳の穴かっぽじって良く聞きながら覚えろよ。わからねー奴は書くもん用意しとけ」

 

 

こうして、達海による戦術講義がはじまった。

 

フットボールの戦術。そして、戦。

 

その地図を用いながら話す達海の奇天烈な戦術はその場にいる全員には考えつかないようなものだった。

 

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