フットボールの名門国、ドイツ。
ワールドカップの優勝回数、4回。
ゲルマン民族だけで構成されたファンタジスタ軍団。人々は彼らの事を『マンシャフト』と呼ぶ。
ドイツのリーグ、『ブンデスリーガ』
そのリーグである名門チームが使うお家芸がある。
一気に攻め、一気に守り、一気にゴールを掻っ攫う。
電光石火のカウンターアタック。その戦術は国を越え、世界中を震撼させた。
「…いいか? この戦術で行く。うちに無いのは弓、んで有り余る馬。なら取る方法は一つ」
「な、なんだそれは?」
「速攻だ。ドイツって国じゃ機動力を使ったこいつを電撃作戦なんて呼ぶこともあるけどね。確かそんなんだったかな? とりあえず馬が足りてるなら戦車を作らせば良い」
「…戦車だと?」
「街に馬車くらいはあるだろ? それを改造する」
「なんと、それでどうするんだ?」
「手筈はさっき教えた通りだよ」
「騎馬兵を率いた馬超殿の単騎掛け。それで『初手』は本当に大丈夫なのか?」
「いや、こればかりはこいつの力を信用するさ。馬超が奇襲を仕掛けて敵の副将または大将の首を取った途端に一気に切り替えだ」
「なら達海殿、その役目は私でも…」
「いや、馬超だから意味がある。お前は客将だ、よってここにいる兵士の全員が信用を得ているとは言い難い。かわって馬超は西涼の武人、そして馬騰の娘だ。敵の大将に近い1人をそんな豪傑が討ち取れば相手は浮き足立つし、こちらは勢いがつく」
「な、なるほど。勢いついたまま、電撃の様に素早くという訳ですか?」
達海はその馬騰の言葉に静かに頷く。
速攻、即殺、即追撃。
ドイツの名門。そして、ドイツが生んだ天才監督が用いる必殺の戦術。これを人々はこう呼んだ。
「『ゲーゲンプレス』切り替えのタイミングは馬超が敵の副将、大将のどれかを殺った瞬間だ。その瞬間、伏せてある趙雲と…あとは馬休だっけ、お前さん? そんでもって、お前達2人が追撃する形で浮き足立つ兵士達に馬超と共に突撃を仕掛け、一気に押し切る。戦車で突っ走って目指すはゴールだ。」
「…げ、げーげん?」
「攻守反撃って意味だよ。確か……だっけ? よく覚えてねーや。まぁ、つまり、こいつは速攻に近いやり方だ。その2人が行った瞬間に後ろに控えた馬騰達、あんたらが一気に後詰めで押し掛ける」
「だけど、仕掛けるにしても平原ですよ? どうやって…」
「いや、明日は仕掛けない。明日は籠城して明後日に備える」
「なんと…」
「それに仕掛けるのは平原じゃない。仕掛けるのは丘を降りる出口、ここだよ。あんたらが押し掛ける地点もここだ。それで敵を殲滅次第、一気に丘を駆け上るのさ。敵兵は突然の事で立ち直りができない。目指すは本陣。な? 簡単だろ?」
そう言って、達海は平原に到る道。その丘の出口を指差した。
確かに、ここは森が少しだけ生い茂る土地。伏兵を仕掛ける分にも申し分ない。馬の機動力もその地ならば存分に発揮できるだろう
敵兵はおそらく数も勝っている上、油断している筈だ。
「なんと奇抜な戦術だ…。げーげんぷれす…」
「ちょっとだけ迷ったけどね。これはリスク覚悟のカウンターアタックだ。全員で攻め、全員で守り、全員で仕掛ける。お前さん達は全員で城を守った。やっこさんはこちらが後手に回ってると思ってるんだろうが、相手は賊だろ? なら統率なんて屁みたいなもんだ」
「…いやしかし、兵数は…」
「勢いついたまま隣にいる仲間がばったばったとなぎ倒されていけば必然的に逃げ惑うさ。しかも、こっちは団結力がある。連携を取るなら申し分無いさ」
だが、機動力を使った主導権掌握は本来なら機甲師団が最も有効な手段だ。それに航空機による支援も必要である。
達海もそれはわかっている。しかしこの時代に機甲師団なんてものは無い。だから代用として馬車を改造した戦車を使う事にした。
地形を適切に選択する機動の原則、奇襲の原則、そして、決定的な地点に戦力を集中させる殲滅の原理。
この内の原理はクリアしている。だからこそ、あとは成功させるだけだ。
ゲーゲンプレスは本来ならこの馬超が討ちとる段取りにしている大将、副将のところにボールが入る。
ロングボールをFWに入れ、そのボールが敵に取られた瞬間スイッチが切り替わり、チーム全員でプレッシング。
そして、敵にボールを失わせるエリアまで追い込み、ボールを奪い取った瞬間に全員でカウンターアタック。
このゲーゲンプレス、相手の攻撃の勢いを利用してボールを奪ってから、さらに力強いカウンターアタックを仕掛ける攻撃寄りの戦術でもある。
そうなると、今回の戦術のキーマンは馬超だ。
FW、エースストライカーのポジション。馬超は達海からその役目に選ばれた。
「やれるな、馬超?」
「おうっ! 任せろ!」
「しかし上手くいくのか…?」
「やれないなら終わりだよ」
彼女達は達海から聞いた戦術に不安を感じる声を挙げるが、達海はそんな彼女達にばっさりとそう言い放った。
達海から聞いた三つの約束の内の一つ、「彼から聞いた戦術を疑わない事」
そう、信じて疑えば兵士にもそれが伝染する。ならば道は一つしかない。
「わかった、勝とうこの戦」
「当たり前だ。あとはあんたら次第だよ。頑張って」
「ふ…。いやはや、まさかこんな胸躍る奇抜な戦術を出されるとは…この趙雲も度肝を抜かれましたぞ」
「どーも。お前さんもしっかり頼むぜ?」
「おまかせください、この槍に賭けて」
そう言って、自信ありげに答える趙雲。
達海はそんな趙雲を横目に見ながらフッと笑みを浮かべる。
このゲーゲンプレスは彼女達の連携が必要不可欠。ポジショニングもそうだが、組織力が高く無ければやられる可能性もある。
「さてねぇ、吉とでるか凶と出るか。ワクワクしながら見なきゃわかんないね、これは」
「ふふふ…変わった御仁だ。まるで『天の御使い』のようだな」
「なんだそれ?」
「伝承にある天が遣わされた人物だ」
「ふーん。俺はそれより『スペシャル・ワン』って呼ばれたいけどね?」
「す、すぺしゃる?」
「あー、こっちの話だから気にすんな」
達海の言葉に首を傾げる馬騰。
達海の方針は馬による機動力を生かしたゲーゲンプレスに決まった。
数は確かに劣るが、錯乱を目的としたこの戦術ならば相手も予想だにしてないだろう。それに馬超、趙雲は達海も知っている名将だ。
だからこそ、この戦には負ける気は毛頭無い。
そんな中、達海から指名を受けた馬休は意気揚々とこう言葉を発する。
「わかりました。ならば私はお姉様の力に必ずなります!」
「… 鶸、お前」
「このげーげんぷれす! 必ず成功させましょうねっ!」
「成功したら『ダンケ!』と叫ぶの忘れんなよ?」
「? なんだそれ?」
「やったとか嬉しいとかそんな感じの意味さ。別に言わないなら言わなくてもいいけど?」
「よし、わかった! 『だんけ!』だな? 覚えたぞ!」
「ほんと素直だね、翠はさ?」
「だんけ! タッツミーに褒められたぞ!」
もうモノにしているのか、そう言って目を輝かせる馬超に苦笑いを浮かべる達海。
確かにドイツではよく言うが、まさかこんなに素直に翠が使い始めるとは達海も予想外だった。半ば冗談のつもりで教えたのであるが…
まぁ、そんなところも兵士達から彼女が慕われる要因なのかもしれない。
「さて、そんじゃ準備だ。取り掛かろう」
そう言って達海は全員に今回立てた戦術、ゲーゲンプレスについて共有と内容を共有し、それについての準備に取り掛かることにした。
まずは、その戦術について兵士達が従うようにしておかなければならない。
各自、将は自分の配下にいる達海が振り分けた兵士達に戦術を指揮できるように戦術の復習をすぐさま行った。
もちろん、達海もその将達が話し合い中に分からなかった部分や戦術の動きについてもしっかりと説明する。
その後は戦車の準備だ。
街から集めた馬車を戦闘用の戦車に改造。
「馬戦車か…随分、古典的だけどね」
「いやしかし、馬車をこんな風にするとは思いもつかなかった」
「まぁ、馬車ならスピードが出るし、数人乗れて騎兵の節約にもなるからね」
「なるほど」
こうして、馬騰達は着実に達海の戦術を完成させる為の下準備をしていく。
もはや後には引けない。馬騰は達海が告げた戦術と共に心中する覚悟と腹を括った。
達海が教えてくれた戦術、ゲーゲンプレス。
しかし、このゲーゲンプレスにも弱点がある。それは、馬超が奇襲に失敗した場合だ。
その瞬間、プレッシングに行くタイミングが遅れる恐れが生じ。馬休、趙雲との連携が崩れてしまう。
だが、達海は命運を馬超に託した。それは、彼女が自分を頼ってきたからだ。
勝たせて欲しいと。だから勝ち方だけを達海は教える。
後はその勝利を馬超達の力でもぎ取るだけだ。
馬騰軍の攻守逆転。反撃の日はすぐそこまで迫っていた。