始まりは一体なんだったのか。
その疑問に答えられるものは、現時点では誰一人としていなかった。
『侵略者』それが西暦2000年、世紀末の地球に突然現れた化け物たちの総称である。
後に様々な分類がされ、様々な対策が講じられることとなるそれに対して、人類はあまりに無力であった。
まず手始めに、当時人類の先端を行っていた大国、アメリカの軍隊が壊滅した。国民の四割は死亡し、残りのほとんども国外への脱出を余儀なくされた。この頃になると、核を使用し侵略者を排除するという計画に現実が帯びてきていた。これは侵略者の耐久力を考えるに、非常に現実的な計画だった。問題点は侵略者と共に人類の未来も灰に消えるということだ。
しかし、北アメリカ大陸のほとんどが侵略者の手に落ちる頃に、人類にある変化が起きた。
特異性人類の誕生――つまり、超人の誕生である。
初めて現れた超人の名は『ウェルディン・リンデマン』。ドイツ人であった。
リンデマンはドイツ軍に従軍する普通の青年であった。彼は世界に無数にあった侵略者たちとの戦いの前線で、たった一度の人生を虫のような顔をした侵略者のあごで終わらせようとしていた。神に祈り、父親の顔を思い浮かべた時、とっさに侵略者からの攻撃を防ごうと、顔の前に出していたリンデマンの右の掌から、轟音と共に雷が放たれる。雷の熱が彼を襲った侵略者と、その後ろに打ち捨てられていた戦車の残骸をさらに破壊していたまさにその瞬間、リンデマンは自らのすぐ近くを仲間の無線機の電波が飛んでいることに気が付いた。
この戦い――のちにリンデマンの戦いと呼ばれる戦い――において、リンデマンは約3000の侵略者を電光と共に葬り去った。
その二日後、今度はフィリピンで火を噴く男が。二週間後には、中国で触れるだけで傷をいやすことのできる女が現れた。
そしてその三年後、人類は反撃の狼煙を上げたのだ。
決して楽な戦いではなかった。それでも、人類は成し遂げる。リンデマンの戦いから二十八年後、人類は侵略者に奪われた陸地の内、五割を奪還することに成功したのだ。
しかし、再び人類の前に大きな壁が出現する。
海に蠢く侵略者『深海棲艦』の存在である。
海での活動を主にする彼らは、既存の兵器が通用しないという侵略者の特徴を有しているのはもちろんとして、高い機動力、広い攻撃射程、さらに中には高い知能を持つ者もいた。
いくら歴戦の超人であっても、彼らの庭たる海の上では下手に動くことができなかった。さらに、海での活動に適した超人自体も絶対量がかなり少なかった。
完全なる海戦の不利。それに加え、空から飛行機を飛ばし、海を越えようとすれば海面から狙い撃ちにされた。それを掻い潜ることのできる僅かな戦力では、侵略者最大の勢力圏となってしまった北アメリカ大陸を奪還することは敵わなかった。
この状況を打破したのは、日本に現れた一人の超人である。
彼女の名は『秋宮 優香』。他人に霊を憑依させる能力を持っていた。彼女にとって、魂という概念は重力のように身近で当たり前のように感じられた。
秋宮はその力を使い、死者と話すことで情報を得る役目を担っていた。
島国である自国が海戦で勝利できぬがゆえに、滅ぶ寸前であることを憂いた彼女は、自らにしかできないある方法を思いついた。
憑依する霊と生きている人間との融合。それにより、人工的に超人を生み出すことで日本を救おうとしたのだ。
魂との距離が極端に短い秋宮は、それが可能だということを理解していた。無論それは本来の秋宮の能力を超えたところにあり、容易なことではなかったが。
しかし彼女はやった。
憑依する対象を魂がまだ無垢な赤ん坊に限定し、適性があるものにのみ憑依するように仕向けることで、魂が壊れてしまう事を避けた。また、複雑な人間の魂ではなく、単純な物の魂を使用することによって成功率を上げた。その時、人間の代わりに使われた魂というのが、かつて秋宮の祖国のために戦った艦船である。
十四年後、日本は海戦専門の超人部隊を結成し、そして、勝った。
その日までに人類が海戦で勝利したことがなかったわけではない。しかし、やはりこの時初めて、人類は侵略者との海戦に勝利したのだと言えよう。
全世界がこの知らせに熱狂した。その中には秋宮 優香は含まれてない。自らの能力の酷使による衰弱死。それが彼女の最後だ。
秋宮の能力により生まれた超人たちは、艦船の魂と融合したことと、秋宮の性別に由来したのか、女しか無まれないことから、『艦娘』と呼ばれるようになった。
そして―――――
*
「諸君。いいかね? 六十年だ」
壇上に立った壮年の男はきっちりとした軍服に身を包んでいる。その皮膚は奇妙な薄紫色だ。これはこの男が毒を体内に取り込むことで、その血清やさらなる毒を生み出すことのできる超人であるからだ。
男はただの少しも身動きを取らず、目下に気を付けをしている若者たちを見つめて、言った。
「われわれ人間の反撃が開始してから――つまりはリンデマンの戦いから、今年で六十年だ。そして、この日本軍超人学校が卒業式を行うのは八回目だ。……私が前線に放り込まれた頃、日本はもはや消滅一歩手前だった。来る日も来る日も奴らと戦い。殺し殺して殺し続けた。そして、それ以上に同志が死んでいった。日本の国土は地獄と化し、国民は皆弾丸であった。――しかし、今はどうだ! 君たちは学び! 鍛え! 堪えぬいた! それも戦場でではない。ここに奴らはいない! 奴らはもうこの場所でふんぞり返り、我々人類を食らうことなどはできはせんのだ! 君たちは、奴らの支配に抵抗する革命家ではない。君たちは薄汚い侵略者どもを屠る戦士なのだ! 人々を守る騎士なのだ! 洗練され、統率された兵士なのだ! 奴らの息の根を止める最後の一撃なのだ! 君たちが、ここで手に入れたすべてを使い、人類に平和を、日本に栄光をもたらすことを切に願う!」
『全員敬礼!』
すべての若者が一切の乱れなく敬礼をした。中には人間離れした容姿の者もちらほらいる。これがまさしく現人類である。
総勢206人の超人。戦う術を学んだ精鋭。
うち17名が艦娘である。
*
埼玉鎮守府では、今日も艦娘たちによる演習が行われた。過去この辺りには海は存在しなかったらしいが、この戦争以前に保有していた日本の国土は首都東京を含め、およそ六分の一が
所属する艦娘は11名だったが、今日12名になる予定である。到着はあと二時間後を予定している。
12名。それは二つの艦隊を作れる最低数である。一艦隊六名というのは人が集まるところを重点的に襲うという侵略者共通の特性を考慮し、大海原で敵に囲まれ過ぎないようにするための人数だ。六人より少なくても出撃したりすることはできるが、艦隊とは呼ばれない。現在二つの艦隊を一つの鎮守府で作れるのは、ここを含め三つだけである。
書類を見つめながら、この鎮守府に所属している兵士
第一エリートは嫌いなんだ。むかつくから。
この男は情けないくらい小物でやられ役チックな思考回路を持っていた。だがしかし、こうしてコネなしの若輩者でありながら割と重要な書類を任せられる程度には優秀だったし、この鎮守府にいる艦娘たちとも比較的友好関係を保っている。小物さなど押しつぶすくらいの能力はあるのだ。
「ふぁああ~」
大きなあくびと共に仙崎は思いっきり体を伸ばす。その瞬間に扉が開いた。
「……ずいぶんと暇そうじゃないか」
「お前がタイミングが悪かっただけだよ。仕事はしっかりしてる」
「まぁ、そうだろうな。お前に仕事をさぼるだけの度胸はない」
「失礼な。真面目なんだよ俺は」
入ってきたのは木曾。この鎮守府に所属する艦娘の一人であり、おそらくは仙崎にとって最も気安い相手である。へそが出るようにアレンジされた水夫の格好をしている女性で、緑がかった黒髪に整った顔立ち(もっとも艦娘は皆美形だが)、すらりと伸びる手足はいかにも健康的だ。しかし最も目に入るのは右目を覆う眼帯だ。彼女が生まれた時にはすでにほとんど視力がなく、完全に失明したのは従軍後らしい。仙崎は詳しい経緯は知らないが、片目がなくとも彼女は十分に強いことは知っていた。
仙崎は最後の書類を確認した。これでこの仕事は終わりだ。この後のごたごたを考慮して、提出の方は夜でいいと言われている。
木曾はきっと何かに自分を誘いたくてここに来たのだ。それも任せられた仕事が終わる、ちょうどそのタイミングで。こういった嗅覚はある種彼女の才能であった。
「で、なんのようだ?」
「昼飯食いに行こうぜ!」
「…………………………ああ、そういうことか」
そういえば、二日前にポーカーで負けた時、奢る約束をしていた気がする。その時は豪勢な晩飯を奢ってもらうと言っていたはずだ。この時間ではそう高いものを奢らせることはできないだろう。
しかし、木曾は今奢れと、そう顔で主張している。大方、演習のせいで一緒に昼食を食べる相手がいなかったのだろう。彼女は一人で食事をとることを極端に嫌がる。
「わかった。どこがいい?」
「おやっさんのとこだ」
「了解」
おやっさんというのは鎮守府内で店を出している一般人の一人のことである。妙に品ぞろえのいい飲み屋で、値段も安価。店主も気持ちの良い性格をしているので、人気の店である。
二人は演習の音を聞きながら外に出る。以前のように人類は生きることに困窮はしていない。少なくとも戦前の娯楽のいくつかが、再びよみがえる程度には復興していた。それでも兵たちはいつ死んでもおかしくないという状況は変わらない。海の英雄と呼ばれる艦娘たちでさえも、死ぬときは死ぬ。ゆえに戦うのだ。そんな
店主の声と共に二人が店に入ると、すでに先客がいた。知ってる顔だ。2mをゆうに超える体躯に、オーダーメイドの巨大な軍服に包まれた恐ろしいほど強靭な筋肉、頭には一本の毛髪すらない。この鎮守府に所属している兵士の一人、
山田は二人に気が付くと、恐ろしく低いが明るい声色で言った。
「おお、お二人さん。ちょうどいいところに」
「ゲッ!」
「逃さんぞ仙崎」
「離せ、木曾! どうせめんどくさいこと言われるんだ!」
「めんどくさくても上官命令だぞ。お前だけ」
山田の階級は兵長である。木曾たち艦娘はその希少性などから曹長相当の地位にあり、仙崎は一等兵である。命令されてしまえば、拒否権はない。
木曾につかまれ、観念した仙崎は話を聞く体勢になった。
「で、なんですか?」
「今日新しい艦娘が来るのは知っているだろう? それがここに直接来るんじゃなく、一度役所に寄るらしくってな。だから――」
「――迎えに行けと」
言葉の続きを言ったのは木曾だ。山田は「そうだ」と肯定した。仙崎はものすごい表情を浮かべる。山田はそんな顔を見て苦笑した。
「頼むよ。お前は艦娘たちとも仲いいだろ? それに同じ艦娘の先輩が迎えに行った方が何かとな……。何より俺じゃあ印象がな」
「……わかりましたよ」
「俺も了解だ」
山田の容姿は、はっきり言ってしまえば恐ろしい。大きさもさることながら、人相が特に凶悪だった。擬態した侵略者と言われれば信じてしまうかもしれない。そんな男が新人を迎えに行くのはまずい。十分に納得できる理由だった。それに何よりも、命令すればいいのにそれをしないこの温和な上司の頼み事は、断りづらかった。
「おお! そうか! じゃあ頼んだ! あと、さっき連絡があってな、あと三十分後に迎えに来てほしいとのことだ」
「は?」
三十分。ここから役所までは片道二十分ちょっとだ。食事をとる時間はない。
「提督からできるだけ迅速にと言われているのでな。頼んだぞ!」
くたばれ筋肉ハゲ。叫びたかったが、やめた。
*
「不幸だわ……」
部屋の中で、色白の女性がそうつぶやいた。その姿は何とも儚げで、男が見れば一瞬息が止まってしまうだろう。しかし、そんな姿を見るのは、同じ部屋で雑誌をめくっていたもう一人の女性だけ。彼女は雑誌から視線を上げることなく、その言葉に反応した。
「また突然ね。いったいどうしたっていうの、
「今日来る新人のことよ。きっとすぐに旗(艦隊のリーダーの俗称)になって、私のことをダメな先輩と罵るんだわ……はぁ」
海咲と呼ばれた女性はそう言ってさらに項垂れた。もう一方の女性はそんなこと気にせず、雑誌を読み続ける。
彼女たちは埼玉鎮守府に所属する艦娘である。艦娘としての名前は山城と足柄。項垂れている方が山城である。
二分ほど沈黙を保った後、足柄が口を開いた。
「心配性ねぇ。あなたは戦艦山城でしょ。心配しなくても、戦場を知らないペーペーになんて負けないわよ。……それに確か新人の子は駆逐艦って話よ」
「駆逐艦は怖いわよ。ジャイアントキリングが得意技だもの。……遥、あなたは心配してないの?」
「心配なんかしてないわ。私がやることはどんな奴相手でも変わらない。戦って、勝利する。よ。……まったくなんな調子じゃ愛しのお姉様に笑われるわよ?」
山城は足柄の言葉に、部屋に飾ってある写真を手に取った。中に入っているのは彼女の姉妹艦にあたる女性、扶桑の写真だ。
扶桑は最初期の艦娘であり、今や日本軍の伝説となった『夜の女王』、『大海の侍』などが所属していた部隊の一員で、『東の大木』と渾名されるほどに、強く頼れる存在であった。しかし、彼女は六年前に味方を逃すためにたった一人で殿を務め、戦死した。山城が軍に入隊する前年のことである。
山城は常日頃から彼女を目指し、努力を続けている。それでも止まってしまいそうな時はこの写真が背中を押してくれた。そして今日も。
「……ええそうね。これじゃあ、扶桑姉さまに笑われてしまうわ。ありがとう遥」
「どういたしまして」
背中を押すのは、写真だけではない。
「でも……」
「まだ何か心配事?」
「一体どんな人かしら。新人は」
足柄は少し考えてから、言った。
「とにかく面白い奴だといいわ」
*
少女が両親からもらった名前は
そんなことを考えていると、目の前に車が止まった。おそらくはこれが自分の迎えの車だろう。
中からは一人の少女が出てきた。美しい顔立ちに、少し変わった格好。すぐに彼女が自分と同じ艦娘であることを悟る。艦娘は自らの能力で生み出した服を着ることで、防御力を高めることができる。しかし、基本的に一つのデザインしか生み出すことができない為、しばしばこうした奇抜な格好をするしかなくなるのだ。自分の服が比較的普通でよかったと、目の前の少女や同級生をみるとつくづく思う。
次に車から出てきたのは男性だ。年は大体二十歳前後に思える。急いできたのか服が少し乱れていたが、すぐに直して、気を付けの体勢をとった。
「お前が橋邊 愛美、不知火か?」
「はい」
「俺は
「不知火でお願いします」
「わかった、不知火。こいつは仙崎一等兵だ」
艦娘同士の独特な自己紹介を済ませると、木曾は隣の男性を指差した。
「よろしくお願いいたします!」
「よろしくお願いします。……不知火は新兵ですし、年下です。ですので、敬語は使わなくてもいいですよ」
「!」仙崎は少し驚いて、目を見開いた。そして、少しだけ上機嫌そうに、「……意外だな」
「俺はてっきり軍学校出のエリートさんはみんないけ好かないのかと思ってたよ」
「……はっきり言いますね」
「そういう性格なんだ、そいつは」
木曾がそう言って、仙崎も否定しなかった。そのやり取りには気心の知れた親友という雰囲気が感じられた。不知火が思っていたより、鎮守府の上下関係は緩いのかもしれない。もしくはこの二人が特別なのかもしれない。
「改めて、俺は仙崎 連太郎。鎮守府での仕事は主に雑用と警備。よろしく」
明らかに先ほどよりも生き生きしている。もしかしなくても、彼の素の性格だろう。
「よし、乗れ不知火。続きは車の中で話そう」
そう言って、仙崎は車に乗り込んだ。
不知火が乗車しようとした時、木曾がぼそっと「どうやら、仙崎はお前が気に入ったみたいだ」と教えてくれた。ずいぶんと愉快そうな笑顔を浮かべながら。
どうやら敬語をやめさせたことがよほど仙崎の琴線に触れたらしい。不知火としてはただ単純に年上に畏まられるのがむず痒かっただけなのだが、喜んでくれたのならそれはよかった。
不知火が車に乗り込むとすぐにエンジンがかかり、進みだした。
・設定について
艦これの世界を敵性の人外との全面戦争にしたかった結果できたよく分からん妙に殺伐とした世界。陸の敵はすでにほとんどいない。深海棲艦とか以外にも海の敵はいるが、大体よわい。
・侵略者について
正体不明。イメージとしては地球防衛軍とかの敵。それ以外にもSANを削られそうなやつらを想定している。
・艦娘について
この作品で一番重い設定を持たされている人たち。裏設定ばっかりある。
・埼玉鎮守府について
アニメとかの鎮守府よりも幾分か質素。しかし、街に近いのでこの世界ではいい設備がそろっている方。侵略者のやばさを見せるためだけに東京が消滅したため、埼玉にある。
・不知火について
取りあえず主人公。ほとんど出てないけど主人公。真面目で基本年功序列。
・木曾について
主人公その二。かっこいい。この小説を考えてた時から主人公だったが、なぜか不知火に第一主人公をとられる。解せぬ。
・仙崎について
主人公ではない。最初は狂言回しだったけどそれですらもなくなった。今後の活躍は未定。
・山城について
埼玉鎮守府における重要人物。メンタル面が課題。主人公でもないのにこの小説の構想時一番最初に出ることが決まっていた。
・扶桑について
この世界で山城がゲームの通りお姉さま大好きっ子になるためどうしたらよいかを考えた結果、英雄の一人になった。すでに死亡したため、山城的に決して越えられない人物になった。
・足柄について
かわいい。好き。
・作者について
ぶっちゃけここと設定を考えるのが一番楽しい。