海の少女隊   作:パス太郎

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不知火の疑問

「なぁ、不知火お前って年いくつなんだ?」

「15です」

「うそぉ!?」

 

 始まりはそんな他愛のない会話だった。

 不知火の答えに朝霜は大音量で驚いた。それでも起きない初雪はさすがというかなんというか。

 

「……不知火は老けて見えますか?」

「い、いや! ちがうぞ! ほら、不知火って落ち着いてるし、強いし、眼光も鋭いし……それにあたいらって、見た目からじゃ年齢わかんないじゃんかよ!」

「むう……確かにそうですね」

 

 不知火の頭には軍学校のどう見ても幼女にしか見えない教官の姿が浮かんでいた。確か彼女は現在最高齢の艦娘だった筈だ。

 

 艦娘はかなり早熟で、さらに一定の年齢に達すると見た目の成長が止まる。成長が止まる年齢には個人差があるものの、駆逐艦なら14歳までに、戦艦なら20前後までにとある程度パターンがあるようだ。もちろん例外はいる。故に艦娘の年齢は一見しただけでは非常に分かり辛いのだ。

 

 不知火は12歳の時に止まっている。普通ならば14か15くらいの年齢の見た目なので年相応と言った所だと不知火は思っていた。

 

「では、朝霜はいくつなのですか?」

「あたいは17だよ。見た目は10歳くらいの時に止まっちまってるけどなー」

「ほかの皆さんはどれくらいなのでしょうか?」

「さあなー。初雪はあたいと同い年だっていってたけどよ。でもあたいより一年はやく従軍してるし、先輩後輩じゃ年わかんねーんだもんな」

 

 うーん、と二人で唸る。話題に上がり、割と興味もある。そんな内容を疑問のままにしておくという選択肢は、この二人にはなかった。

 

「聞きに行くか! 直接」

「そうですね」

 

 意気揚々と二人は部屋を出た。初雪はまだ寝ている。

 

 *

 

 部屋を出た二人が最初に出会ったのは夕張だった。不知火は彼女の背中に声をかける。

 

「安奈さん」

「ん、どうしたの?」

「大したことではないのですが――」

「――安奈って年いくつなんだ?」

「19だけど……急にどうしたの?」

「ただの興味です」

「あたいたちっていくつか分かり辛いだろ?」

「たしかにね。…ああ、それなら確か木曾は―――」

 

 夕張の言葉を朝霜と不知火は手で制した。夕張が何事かときょとんとした表情をする。

 

「せっかく、部屋から出たんだ。どうせだったらみんなに直接聞く」

「不知火も同意見です」

「そう、じゃあ頑張って。……確か、うちの部屋で龍驤たちが麻雀してたはずよ」

「情報提供感謝します」

 

 夕張は二人の後姿を見送り、クスっと笑った。

 

 *

 

 用心すべきは誰か。

 鎮守府最強の山城? 違う。彼女は海の上なら強いが卓の上では二流もいいとこだ。

 では、冷静たる戦闘狂足柄? 違う。この回の彼女は明らかに降りている。

 

 では誰か? 決まっている。目の前に座る化け物だ。賭け狂い伊58。

 

 オーラス二本場、親龍驤。当たりは萬子の四と六。現在一位。

 

 龍驤はつばを飲み込んだ。伊58の待ちはわかっている。東だ。すでに三枚場に出たそれを自分か足柄が引けば、確実に奴が上がることはない。

 

 龍驤のツモ。索子の八。はずれだ。

 足柄のツモ。怖がることはない。彼女が下手をうつことはない。萬子の五が捨てられた。

 

 伊58のツモ。心臓が跳ねる。口が渇く。奴はほんの一瞬牌を見ると、捨てた。北だ。

 いつの間にか止まっていた息が吐き出される。だがまだ安心はできない。

 

 山城のツモ。リーチをかけている彼女だが、はっきり言って辺りを引けるとは思えない。案の定眉が歪んだ。だが、引いたのが東ならばまずい。東来るな。東来るな。東来るな。

 

 筒子の四。

 

 いける! あの伊58を倒せる。自分も奴もツモはあと一回。自分が当たりか東を引けばいい。実質当たりは三枚だ。足柄が引いても捨てはしないだろう。

 

 龍驤のツモ。引いたのは、白。

 

 くそ! こいつは山城の当たりだ! ……だがちょうどいい。萬子の五を捨てる。これで自分の聴牌は崩れた。流れれば終わる! そして、順位は逆転しない!

 

 足柄のツモ。再び安全牌である西。

 

 そして、伊58。海底。

 

 すべてがスローになる。ゆっくりゆっくりと、最後のツモが手に触れる。

 東来るな。東来るな。東来るな。東来るな。東来るな。東来るな。東来るな。東来るな。東来るな。東来るな。東来るな。来るな。来るな。来るな。来るな。来るな。

 減速が究極に達し完全に停止した。のではなく本当に伊58は止まっていた。まだ牌は誰も見ていない。

 

「ど、どうしたんや。はよ引きぃ」

「……龍驤。真の勝利とはなんでちか?」

「は?」

「……………真の勝利とは、最後の勝利でち。それまで積み重ねられた幾千の勝利はただの過程に過ぎない」

「な、なにが言いたいんや! ゴーヤ!」

「わからない? 本当にわからない?」

「はよう引けぇ!」

「……海底ツモが、海底ヅモこそが勝者の――」

 

 牌が引かれた。伊58はそれを見ない。

 

「――役でち。……もっとも」

 

 牌が倒される。彼女がツモしたのは『東』。ただ一枚の当たり…!

 

「今の私には関係ないでちね」

 

『国士無双』

 

「役満でち」

 

 オーラス…! 海底…! 最後の最後に、伊58逆転…! 3位→1位

 

「あ、ああ」

 

 龍驤…! 敗北…! 王座、陥落…! 遠いあまりに遠い、伊58との差…!

 

「ああああああああああああ!」

 

 龍驤叫ぶ…! 遠吠え…! まさに負け犬の遠吠え…!そこに…!

 

「失礼します」

「なんや、今ええとこやったのに」

 

 不知火と朝霜が部屋に入ってきた。龍驤は叫ぶのをやめる。心なしか先ほどよりも鼻が丸い気がする。

 

「すみません。何かお邪魔してしまいましたか」

「ええて、ええて。ちょっと遊んでただけや」

「龍驤いま誰勝ってんだー?」

「ゴーヤやゴーヤ、ほんま勝てへんで」

「勝てないからって、変な演技を入れるのはどうかと思うわ」

「龍驤はいいじゃない。私はずっと4位よ。不幸だわ……」

「ふふふ、私に勝とうなんざ10年早いでち」

 

 不知火と朝霜の登場で一気に騒がしくなった部屋。二人は目的の質問を始める。

 

「……なるほどねぇ。確かに私も年は知らない人の方が多いわね。あ、私は23よ。それで――」

「――私も23」

 

 足柄の言葉を引き継ぐように山城が答える。

 

「うちは21や」

「私は22でち」

「へー、龍驤って年下だったんだ――」

 

 そのまま年齢トークが始まる。不知火と朝霜は次なる目標に向かって部屋を出た。

 

 *

 

「年齢…ですか」

「はい。お二人はいくつですか?」

 

 不知火と朝霜は訓練場で発見した瑞穂と鳥海に話を聞いていた。二人とも出撃から帰った後だというのに、かなり気合を入れて、訓練している。

 

 初めに答えたのは鳥海だった。

 

「私は18よ」

「瑞穂は20歳です」

「え、鳥海年上だったのかよ!」

「それどういう意味よ~」

「べつにぃ~」

 

 朝霜と鳥海が言い合いを始めた隣で、不知火と瑞穂はまったりと会話を続ける。

 

「ところで、木曾か武蔵さんがどこにいるかはご存知ですか?」

「えーと、武蔵さんはわかりませんが、木曾さんなら工廠に向かっていました」

「情報提供感謝します」

「はい。どうもです」

「行きますよ、朝霜」

「おう」

「ちょっと、朝霜! まだ話は」

 

 ぴゅーと二人はその場から逃げてしまう。その素早さに鳥海は唖然とし、瑞穂は変わらず微笑んでいた。

 

 工廠に着いた二人は座り込み何やら話している木曾と夕張を発見する。さっそく近づいたところで、木曾が二人に気が付いた。

 

「おう、来たか」

 

 すでに夕張から聞かされていたのだろう。木曾はそう言った。妙にいい表情をしている二人の手元には、何やら怪しげな鉄製品があった。

 

「待ってたぞ」

 

 不知火には木曾の言葉が非常に不吉なものに思えた。しかし、あと少しで当初の目的が果たせるのだ。あきらめるという選択肢はない。

 

「木――」

「――まあ待て」

 

 言葉は遮られた。猛烈にいやな予感がする。

 

「こいつを試してみてくれないか?」

「……お二人のどちらかがすでに使ってみたのですか?」

「いやこれは駆逐艦用に……というよりはお前ように作ったんだ」

「不知火用ですか?」

 

 不知火は少し驚いて、改めて木曾達が作ったものを見た。

 見れば見るほど珍妙な、些かごつすぎる砲台である。

 

 持ってみるとやはりというか重い。不知火が使っている物よりもかなり重い。

 木曾の顔が意見を求めている。

 

「些か重いですね」

「そうか…そうだよな。ちょっと撃ってみてくれないか?」

「……とりあえず、試してみます」

「おう!」

 

 不知火は木曾と共に試し打ちの為に外に出る。

 

 数分後、朝霜は確かに小さくない爆発音を聞いた。

 

 *

 

「……で、なんだったんですかあれは?」

「俺と安奈が作ったもんで……コンセプトは戦艦並の火力だ……だが、少し無理があったようだな」

「……仮に正常に撃てたとしても、あの重量だと行動に遅れが出ると思うのですが」

「そこはまだ試作品だからな。もちろん改善はするさ」

 

 二人は煤だらけになって帰ってきた。それを迎えた朝霜の思うことは『ああやっぱり』だ。

 夕張が二人にタオルを渡す。

 不知火はタオルで顔を拭きながら、木曾に質問する。

 

「なぜ、不知火用の兵装の開発など?」

「…あの喧…訓練の時よ」

「山城さんとのですか?」

「そうだ。お前に戦艦並の火力があればまた違ったんじゃねえかって思ってな。……まあ、主な理由は戦力増強だ。簡単な話、山城並が六人いれば大抵何とかなる」

「確かにそうですね」

 

 不知火が納得したところで、木曾が改めて不知火に向き合った。

 

「で、俺にききてぇことがあるんだろ?」

 

 その言葉で不知火は満を持して質問をする。

 

「………………」

 

 不知火は満を持して質問を、

 

「………………………」

 

 満を持して質問を、

 

「……………………………」

 

 質問を、

 

「…………………………………………?」

「いやなんで、忘れてんだよ! あたいら木曾の年聞きに来たんだろ!」

「ああ」

「ああ、じゃねぇ!」

 

 朝霜がギャーギャーと騒ぐのを、苦笑しながら木曾は眺める。

 

 数分後、二人は工廠を後にする。

 

 木曾は19歳。あとは一人。

 

 *

 

 不知火と朝霜は廊下を歩いていた。不知火が今日聞いた年齢を書いた紙を持って歩き、朝霜がそれを覗き込んでいる。

 

「こうして見ると、割とみんなばらけてんだなー」

「そうですね。下は15上は23。でも――」

「ああそうだなー。あとはじゅうろ……わっぷ!」

「む」

 

 前を見ていなかったため、不知火と朝霜曲がり角で武蔵とぶつかった。その拍子に不知火は紙を落としてしまう。

 武蔵はそれを拾いながら、

 

「前を見て歩かねば危ないぞ。……なんだこれは」

「すみません。それはうちの鎮守府の艦娘の年齢表です」

「ほう……なかなか面白いな。うちはかなり年がばらけてるな」

 

 不知火は武蔵から紙を受けとる。

 

「はい。ですが、あと16歳がいれば15から23まですべて――」

「――私が16だ」

「―――はい?」

 

 不知火が思わず聞き返す。武蔵は変わらず、はっきり言った。

 

「私は16歳だ。もっとも、成長は一昨年止まったがな」

 

 不知火は武蔵を見る。というより、彼女の胸部を見る。そして、自分と朝霜を見た。

 

 改めて、もう一度記しておこう。

 

 艦娘はかなり早熟である。故に艦娘の年齢は一見しただけでは分かり辛いのだ。

 

 




・今回について
年齢の話兼艦娘の休みの過ごし方の話。武蔵の描写がなかったのは彼女が基本書類に追われている為。

・不知火について
感情の起伏に乏しく、天然はいているが、ナイスバディ(死語)にあこがれる気持ちはある。鎮守府最年少だが、彼女より若くして従軍している艦娘は割といる。

・朝霜について
かなり幼い姿で見た目が固定されてしまった17歳。小さい体を割と気に入っている為、武蔵の年齢を聞いてもショックを受けなかった。

・木曾について
休みの時は兵装の開発や訓練をしている。その主な目的は艦娘全体のレベルアップ。ちゃんと休息をとることもしている。

・夕張について
木曾のアイディアを実現させる手助けをしている。しかし、たまに趣味全開で暴走することも。

・工厰について
明石がいなくても使えます。

・兵装について
艦娘は兵装に触れ、念じることで兵装を変えることができる。ただし、相性が合わないと出来ない。

・武蔵について
今回の落ち。彼女もまだまだ新人である。

・伊58について
潜水艦だから海底ツモというのがやりたかっただけ。

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