短編集 深夜の真剣文字書き60分一本勝負   作:霧子のエビの天ぷら

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おしゃべりなボクとしゃべれないキミ

 「じゃあどうするの?」

 ボクは隣にいる女の子に声をかける。

 その言葉を受けその女の子はペンを持ち、スラスラとなめらかにきれいで読みやすい字を小さいホワイトボードに書き記していく。

『どうしよっかな』

『まだ悩んでるんだよね』

『というか悩んでなかったら君に相談してないよ』

 それもそうだな、と思いつつ解決策を考える。

 考え始めて20秒後ぐらいのことだ、トントンと肩を叩かれた。

『逆に聞くけどさ、君ならどうするのさ』

 「え?ボクがお前の状況にいたらってこと?」

 コクコクと頷く。まるで小動物だ。

 「うーん、ちょっと考えるかな……案は出ているんだけどね」

 ボクたちは今は高校3年生。1学期の終業式が終わり、あとは担任教師からの、夏休みの間もサボらずに勉強しろよ、という面白みの欠片もない話を聞くだけだ。

 ボクはもう既に両親の家業である喫茶店を継ぐことに決めているため、宿題は留年しない程度に、勉強はテストで欠点を取らない程度にやれば良い。

 しかし、この隣の女子、ボクの幼なじみの彼女は別だった。進路をどうするか、まだ決めていないのである。

 それもそうだ、彼女は元々放送部でアナウンサー志望。全国の朗読コンテストで最優秀賞を取り、その才能を買われて将来は地元のテレビ局に入社することが決まっていた。俗に言うスカウトというヤツである。

 

 それでも思い通りに行かないのが人生というヤツである。彼女は去年の全国大会で連覇し、東京から帰ってくる途中で事故に巻き込まれ、脳の一部分を損傷してしまったのだ。懸命な治療により奇跡的に学校に普通に登校できるまでに回復したのだが、その事故の代償として彼女は声を失ってしまったのだ。

 結果、彼女は高校3年生になった時に将来の進む先を失い、どうすべきか悩んでいたのだ。

 

 「お前のアナウンサーになりたいっていう昔からの夢、それをまだ捨てたくないって言う気持ちは俺にもあるだろうし、お前ほどの学力があれば推薦も取れるだろうから進学というのもあり。だが、それは社会の中で自分は喋れないという障がいを持ちながら生きていますということにもなるし、それが原因で苛められかねないのもまた事実」

 長い、おしゃべりなボクの話を彼女はうなずきながら聞いてくれる。

 「……少なくとも、夏の間は悩むかもな。それでいて結論が出なかったら、とりあえず推薦勝ち取って大学に進学すると思う」

『やっぱり進学か~先生も同じこと言ってたよ……』

 「え、本当?ボクあの脳筋教師と思考回路同じなの?」

『細かくいうと違うところもあるけど大体は同じ』

 「マジか……」

『しょげることはないよ』

『それだけ君が私のことを考えて言ってくれたってことでしょ?』

 ニッコリと屈託のない笑みで笑う。あまりにもいい笑顔を浮かべるものだからついつい見蕩れてしまった。彼女に惚れる男が多いのもわかる気がする。

『どうしたの?』

 「い、いいいや!なんでもない!」

『怪しい……なにか隠してない?』

 「か、隠し事なんてするわけないだろ!?」

『それもそうだね』

『ごめん』

 「いや、謝る必要は……」

 

 その瞬間。ポツ、ポツ、と雨粒が窓ガラスにあたり始め、それからほんの15秒ほどでかなり大粒の雨が降ってきた。

 「あ、雨……」

『うわ』

『ほんとだ』

『どうしよう傘持ってきてない』

 「あー……そういえば今日天気予報じゃ降水確率10%だったな……でもこの規模だったらすぐに上がるだろ」

『だといいんだけどね』

 「もし雨が止まなかったらさ、家まで送ってやるよ」

『いいの?』

『ありがとう』

『優しいね』

 「気にすることはないさ。ボクがやりたいからやってるだけだからさ」

『それでもその優しさが嬉しいな』

 「照れるじゃんか……」

 「うーいそれじゃあ1学期最後のホームルームを始めるぞ~席につけ~」

 「おっと……それじゃあ、また終わったあとに」

『うん』

 

 

 「……とまあ注意事項はこんな感じかな?それ以外に気になったことがあったらどんどん聞いてきてくれ。夏休みの間でも相談はいつでも受け付けているぞ。それじゃあ委員長、号令頼む」

 「……はい。起立」

 1個前の男子生徒が、眠そうに号令をかける。それが終わったあと、生徒はぞろぞろと教室を出て、残ったのはボクと幼なじみの彼女だけになった。空からは先程に比べて小ぶりになったものの、相変わらず雨が降り注いでいた。

 「ボク達も帰ろう」

『うん』

 「おう、お疲れ様~お前らも何かあったら親の次ぐらいに先生を頼りにしてくれていいからな?」

 「そうならないように気をつけますよ」

『お疲れ様でした』

 

 廊下を歩き、エントランスホールにでる。相変わらずの雨だった。傘を開き、彼女をこちら側に引く寄せる。

 「じゃあ帰ろう」

 

 それからしばらくのことだ。重い空気を割くようにして口を開いたのはやはりボクだった。

 「あの話の続きなんだけどさ」

『なに?』

 「結局ボクはさ、お前が選んだ道を一番応援したいと思ってるんだ。身勝手かもしれないけど。どんな道を選んだにしても、ボクはそれを応援したいと思う。」

『わかった』

『ありがとう』

『夏休みの間時間あるから、しばらくは考えておくよ』

 雨がボクの肩を濡らす。

 幼なじみの彼女の肩に雨が当たらないように注意しながらも僕の家から40mほど離れた彼女の家にまで彼女を送り届けた。

『ありがとうね、もう大丈夫だから』

 ギッとアルミ製の塗装された門を押し開き、中に入っていく。

 「あの、さ」

 完全に分かれてしまう前に、ボクは彼女に声をかけた。降りしきる雨の中、軒下にある玄関のドアノブに手を伸ばして彼女が完全に見えなくなってしまう前に。

 

 声が届いたのだろう、彼女は小さめの傘を持って戻ってきた。

『どうしたの?』

 「いや、あのさ……もし、もしなんだけど」

 高鳴る心臓を抑え、言葉を紡ぐ。

 「もし夏の間考えて答えが出なかったらさ、ウチの喫茶店の従業員になってよ!父さんも母さんも事情は知ってるし、やりやすいと思うよ」

 きれいな瞳をぱちくりとさせた後、さらさらとホワイトボードに文字を書き、見せてきた。

『いいの?』

 「もちろんだよ」

『迷惑かけちゃうかもよ?』

 「問題ないよ」

『ありがとう』

『その優しさ、昔っから変わってないね』

『ホント、君らしいね』

 

 




お題:「じゃあどうするの?」で始まって「君らしいね」で終わる
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