短編集 深夜の真剣文字書き60分一本勝負   作:霧子のエビの天ぷら

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パンドラな引き出し

 この家には、いる。

 

 この家の中には何かがいる。何かはわからないが、きっと私の常識を軽々と打ち破ってくるものだろう。

 

 私の住む家の中には引き出しがいくつもある。その殆どは何の変哲もないただも引き出しだ。入居時にも中身は空っぽだった。今となっては私の服や思い出の品を入れている。

 

 だが1つだけ。たった1つだけおかしな引き出しがある。鬼門があるとされてきた北東の位置に存在する机。明らかに以前の入居者の私物だったその机の引き出しには、白い上に赤い文字で封印、だとか悪霊退散、だとか、露骨に何かを封印するようなお札がベタベタと貼り付けられていてなんとも気持ちが悪い。(引越しの際に撤去できないかと聞いたが業者にさえ断られた。なんなんだこれは)

 

 そんな奇妙なものと同居する生活を続けて5年が経過した。ふとした思いつき、いや、子供がよくやる小さなイタズラのつもりだった。

 

 

 あのお札、剥がしてみよう、と。

 

 

 慎重に、慎重にお札に触れる。念のために防災ヘルメットと小さいナイフを手元に置くといった、普段適当な生活態度と自己評価している私にしてはかつてないほど用意周到だった。

 

 そっと触れる。金属特有のひんやりとした冷たさが指を伝わる。心臓が高鳴り、手に汗がじんわりと浮かんできた。

 

 少しずつ、少しずつお札をはがす。べリベリと音を立てて徐々に金属を顕にしていくお札。中には一体、何が入っているのだろうか。もしかしたら、何も入っていないのかもしれない。

 

 大量に貼られているお札を1枚、また1枚と剥がし慎重に床に置いた。

 

 約10分後、すべてのお札を剥がし終えた。貼られていたお札はおよそ30枚。いくら何でもおかしい枚数だ。これを貼り付けたやつは相当なビビリか狂人に違いない。

 

 すべての蓋が解除され、ゆっくりと大きな口を開く引き出し。

 

 

 その中身を見た瞬間、私は強い吐き気に襲われると同時にポケットに忍ばせてあった携帯電話を取り出した。即座に110。こんなものが隠されていようとは、そりゃあ事故物件扱いもしたくもなる。

 

 事故物件、というのは間違いか。ここは今この瞬間から、事件現場になったのだから。

 

 「もしもし、警察ですか?事件です。はい、鑑識さんと……たぶん1課の刑事さんを呼んだほうがいいと思いまして。……はい。骨を、見つけました」

 

 吐き気を抑え、丁寧に折りたたまれた人骨を見ながら電話をする。傍から見てはこの光景は異常だろうと思いつつ。

 

 

 

 

 「すいません、○○県警捜査1課の者です」

 「あ、どうぞ」

 「詳しいお話をお聞きしたいのですが……」

 「……近くにカフェがあります。そこのマスターとは顔が利きますからしばらく貸切にしてもらいましょう」

 「わかりました」

 

 

 

 「それでは、詳しいお話をお聞かせ下さい。まずはあなたの名前と年齢から」

 「───です。年齢は28、一応○○大学で教授をしています」

 「28で、教授ですか」

 「ええ。たまたまポストが空いていたものですから」

 「なるほど。ではあれを発見した時の様子を……」

 「引越ししてから5年立ちましてね。入居した時からあったアレの中身が気になったもので開けてみようと思ったのですよ」

 「なんでまた、5年後?」

 「幽霊出るかなと期待していたのですがなかなか出会わないし業者にも以前断られてまして」

 「……その業者の名前を教えていただきますか?」

 「ああ、はい。────という名前です。パンフレットが私の家にありますので電話番号はそちらを……」

 

 「……なるほどなるほど。では今日のところはこの編で。あ、コーヒー代ですが……」

 「私がお支払いするので大丈夫ですよ。経費削減に微力ながら協力させていただきたい」

 「そうですか?ではお言葉に甘えるとしましょう」

 

 

 

 

 

 この後、まさかあんな大事件に発展するなんて。この時私は全く想像していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





お題:引き出しに潜むもの
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