短編集 深夜の真剣文字書き60分一本勝負 作:霧子のエビの天ぷら
「ようこそ、シークタウンへ。歓迎いたしますよ、旅のお方」
「……どうも」
「良い時間をお過ごしくださいませ」
衛兵の言葉を背に、私はバイクに跨って再び走り出した。
シークタウン。どんな街なのだろうか。過ごしやすい街であれば良いのだが。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
街に入ってそのまま大通りをひた走る。時期はまだ春になる前なだけあって空気は冷たかった。
とりあえず近くにあった店に入ることにする。こういういきあたりばったりも旅の醍醐味ではあるが、ときおりある何の役にも立たない大ハズレでないことだけ祈りながら入る。
「いらっしゃーいませー」
独特な伸ばしをしながら気だるそうに飛んでくる声。おそらく店主なのだろう、奥にいた声の主に話しかける。
「ここ何売ってるの?ガラクタ置き場じゃないよね?」
「んー、まー、そうだな。人によったらガラクタかもしれんなぁ」
「言っている意味がよくわからないんだけど?」
「物は人によって価値が逆転することもよくあるんだよ。例えば……こいつ。この木彫りの人形、あんたどう
思う?」
「……不気味。呪われそう。買いたくないし、持ちたくない」
「だろうな。俺も深夜にこいつは見たかねえ」
面白い店主だなこいつ。
「──だが、俺には金塊を積んでも手に入れたい代物だ。こいつは遥か昔、この国がまだ建国初期の頃に世界的に有名な彫師が手がけた超一流の代物でね、その道のコレクターに売り渡したら2千万はくだらない。金塊に換算すると5kgとほぼ等価だ」
「そんなにするの!?」
「欲しいヤツには喉から手が出るほどってやつよ。だが、旅人には安く売り渡すのがうちの流儀だ。どうする?あんたがその気ならそうだな……金2gとトレードしてやるよ」
「……遠慮しとく」
「あーら残念。やっぱ見た目って大事なのかねえ……他に探し物は?」
「バイクの燃料と保存食。それと44口径リボルバーの弾丸、バタフライナイフ……旅において必需品になるやつを探してる」
「……うちにあるのは弾丸とナイフぐらいしかねえな」
「それちょうだい」
「ほいよ。これなら金0.5gか2450だな」
「金持ってないから3000で」
「はいよ」
「……ひとつ聞いてもいい?」
「なんだ?」
「……なんで旅人にここまで親切に?」
「わるいな、そいつはヒミツだ」
「え、なんで」
「それもヒミツ」
「……」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
その後、様々な場所を周り、様々な人に出会い、沢山の親切心を貰った。
しかし、どこに行っても、誰に聞いても、『なぜこの街の人間はここまで旅人に対して親切なのか』という疑問の答えを出すことはしなかった。皆口を揃えてこういったのだ。
──それはヒミツだ、と。
数日間の滞在を終え、必要な荷物をすべて揃えた後外に出る。その直後、怪しい身なりの老人に声をかけられた。
「もし、旅のお方でございますかな?」
「……そうだけど」
「いかがでしたかなこの街は」
「過ごしやすいかと言われれば普通って感じ。ただ、住民がみんな優しかった」
「ほっほっほ。それはそれは。楽しんでいただけたようで何よりです」
「……」
「──ですが、すっきりとは、されていないご様子」
「……!?」
「あなたも気になるでしょう?なぜあの街の住民は旅人にとても優しく、そしてなぜその理由を話さないのか……」
「……あなたは……」
「ほっほっほ。なに、他愛のないことです。あなたのような顔つきで街を出る旅人をさんざん見てきましたからな。年寄りの経験則から導き出した、推理でもなんでもありません」
「……教えてくれる?」
「もちろん。そのためにこの老いぼれはここにいるのですからな」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「あの街はちと特別でしてな。秘密主義都市、と言いましょうかの」
「秘密主義都市?」
「そう。住民全員に課せられた、絶対に重大な秘密を喋ってはいけないという絶対的なルール。それを課している都市が秘密主義都市というのですじゃ……」
「それが、理由が秘密だった理由……」
「そうですな。では2つめ。なぜ親切にするのか?」
「……」
「選別作業となりますな」
「……??」
「旅人に対して手厚くもてなし、新たな住民を引き込む。そのための選別作業、というよりも選抜試験、と言った方がよろしいですな」
「……なんで……そんな、こと……?」
「はて?何でしたかな?なにやら奇妙な噂を聞いたのですがな……まあ老いぼれの戯言として聞き流していただきたい」
「……」
その後、私は顔が青ざめたまま、あの街から立ち去った。
最後にさり際にあの老人が言った言葉が耳から離れない。
──なににせよ、この街に近づくのはやめた方が良い……死にたくなければ。
なんなんだよ、あの街は……
お題:秘密主義