短編集 深夜の真剣文字書き60分一本勝負 作:霧子のエビの天ぷら
『人類は今その数を着々と減らし続けている。そして、およそ6508年後にはその数は0になる』
フラーチェン予測というやつだ。今からおよそ3300年前にロシア出身の人類学者、グレゴール=フラーチェンによって提唱された、人類史終幕までのカウントダウンである。
提唱された当時世界中が騒然となった。当然だろう、自分たちが、自分たちの祖先が長くにわたって築き上げてきた歴史、文明があと6500年とちょっとで終焉を迎えててしまうというのだから。
世界中の人類学者がこれを否定しにかかった。だが、人類学者にはこの予想を覆すことは無かった。
誰からともなく言い始めてしまったのだ。
「全部、6500年ぐらいの未来にはわかるよね」
まったくもって愚かな回答だと思う。あの頃の今、つまり現在から見ておよそ3300年前の人類にはまったくもって興味がなかったテーマだろうが、実際に3300年経過していよいよ折り返しになった人類たちはそうはいかない。
あと半分で全てが灰燼に帰すというのだから。
「どーおもうよ我が学友さんよ」
「どうもこうもねー。なるようになる」
「お前ずっとそればっかだな……嫌いか?この話題」
「好きか嫌いかでいうと嫌いの部類だな。好きではない」
俺は大学の講義を片耳で聞きつつ、同じようにやる気がなさそうな横顔をしている学友との会話に勤しんでいた。
俺はこのフラーチェン予測が嫌いだ。何が好きで自分たちの種の滅亡へのカウントダウンをせねばならん。これを考えたグレゴール=フラーチェンとかいう学者は何かヤクをキメていたかアル中でアタマがやられていたんだろう。かわいそうに。
「よくまあ3300年も同じ話題ができるよな。どうせあと3200年ぐらいすりゃわかるのに」
「正確には今の段階であと3159年と4ヶ月だ。今の段階であの予測が計算で出されてから3341年8ヶ月経ってるよ」
「なんでお前そんなに正確なんだよ」
「論文発表が3342年6ヶ月前、その後の週刊誌のインタビュー記事で計算式構築に3年、論文にまとめるのに1年2ヶ月かかったって言ってるからそこから演算すればすぐだよ」
「お前サラッとすげえこと言うな」
「何が?」
「週刊誌調べたこと。ロシア語だろ?よく読めたなと思って」
「いや、あの記事はロシアじゃねえ。サウジアラビアの出版社の記事だったから全部アラビア語だった」
「お前アラビア語読めんの!?」
「パターンつかめば楽だぞ」
それができる人間はそうはいないぞ我が学友よ。
「人類学ってやっぱおもしれーな。パターンがなかなか組めねえ」
「組める方が異常だっつの……俺授業変えようかな」
「えー、なんでさ。面白いぜ」
「お前からすりゃな。俺の立場から言わせてもらうとこんな授業を永遠と繰り返されるのは地獄だ」
「おいおい……そこまで言うか」
「……お前この授業のシラバス見てみろ」
「──?………わお」
「な?」
「こりゃキツイ」
そこに書かれている内容をざっくりと言おう。
『1~15コマ目:フラーチェン予測について』
以上である。馬鹿じゃないのかこの教授。
「なるほどな、たしかにお前さんには辛そうだ。俺も4コマ目からは寝るかもしれん」
「だろ?さすが我が学友。わかってるじゃないか」
「おいそこ!!講義に集中しろ!!」
「怒られちまった」
こうして俺は、俺達人間は終へのカウントダウンを刻み続ける。目に見えた結末に向かった。
お題:最期の人類
注意:この小説に出てくるフラーチェン予測というものは作者が作った嘘です。実際にあったとしてもそれを作者は知りません。当然ながら、グレゴール=フラーチェンというロシア人人類学者が実在したかどうかは不明です。