Fate/The rule of might 作:じゃくさい
遠坂凛は前を歩く男、衛宮士郎に気づかれないように後をつけていた。魔術は秘匿され
なければならないという魔術師の間における暗黙の了解によって、
彼は数刻前にランサーによって心臓を穿たれて絶命した。
彼が今家路につけているのは、ひとえに殺生丸の宝具である
天生牙によって彼を迎えに来た冥界の使いが斬られたからに他ならないのだ。
だが、ここで問題となってくるのが先ほどの暗黙の了解だ。彼、衛宮士郎が生きている
というのは近いうちにランサーにばれる。いや、もうすでにばれているかもしれない。
天生牙が一人の人間を冥界から呼び戻すことができるのは一度きり。そうすれば今度
こそ衛宮士郎はランサーに殺されてこの世からいなくなってしまう。
それを凛は良しとしなかった。
再びランサーに襲われてもすぐに対応できるようにこうして後をつけることに
なったのである。ほどなくして、士郎は立派な屋敷の敷地内へと入っていった。どうや
らここが彼の自宅らしい。
「……来たか。」
唐突に殺生丸が口を開くと同時にガラスが割れるような音が鳴り響いた。
「え!?来たって、ランサーが来たの!?なら早くいかなきゃ、今度こそ死ぬわよ!」
いつまでも動こうとしない殺生丸を凛は急かすように声をかける。
「……血と鉄のにおい、戦場のにおい、か。」
「え?」
「さしずめ、新しいサーヴァントが召喚されたか。」
殺生丸が告げる事実に凛は驚愕する。
「衛宮君が、マスターの残り一人……」
気になった凛は屋敷の中へと駆け込んだ。そこで目に飛び込んできたのはランサーと向
かいあう金髪の鎧を着た女性だった。
「あん?お前はさっきの嬢ちゃんか。つーことは、ファントムも一緒か。こいつは
ちょっとよくねぇな。」
凛に気づいたランサーは金髪の女性に向かい合いながらも落ち着いて状況を分析していた。
「おっと。噂をすれば、ね。」
凛の後ろから殺生丸が悠然と歩み、凛の少し前に立った。
「ここにいてもいいことなさそうだな。俺はずらからせてもらうぜ。」
不利と判断したランサーは撤退を選択し、踵を返して屋敷の外へと向かう。
「逃げるのか!」
金髪の女性は自分との勝負を投げ出そうとするランサーに怒鳴りつける。
「追ってもいいぜ。だが、その時は決死の覚悟で挑んで来い。」
尋常ならざる殺気をこの場に残しランサーは夜の闇に紛れて消えた。しばし立ち尽く
していた金髪の女性は殺生丸をにらみつけた。どうやら標的をランサーから殺生丸に変
えたらしい。静謐な闘気を纏い、まるで武器を持っているかのような構えをしている。
息をすることすらはばかられる緊迫した空気の中、不意に先ほど壊れたのであろう、
屋敷のガラス戸の破片が、地面に落ちた。
「ふっ……!!」
両者が動いたのは同時だった。殺生丸の刀と金髪の女性の持つナニカがすさまじい速さ
で打ち合わされる。女性はその華奢な体からは想像のつかない強烈な踏み込みで、地面
を割り砕き、殺生丸のバランスを崩し、その隙をついて疾風のような連撃を叩き込んで
いく。だが、それしきで押し切られる殺生丸ではない。猛威を振るう剣戟を片腕一本で
いなしていき、膂力で女性の見えない武器を押しとどめ、残ったもう一方、左腕。
逆手で天生牙の柄を握り、抜刀。勢いのまま女性の脇腹を突き、吹き飛ばした。
「がはっ……!!」
痛烈な一撃にいまだ立ち上がることのできない女性のもとへ殺生丸がゆっくりと歩んで
いく。
「やめろっ!!」
殺生丸の前に士郎が両手を広げて立ちはだかった。
「……どけ。」
「どかない。どんな理由であれ、人を、ましてや女の子を傷つけるなんてことは
許せない。」
女性を守る形をとりつつ、士郎は殺生丸をにらみつける。
「士郎、下がってください。」
ダメージが回復したらしい女性が士郎の前に歩み出てくる。
「だめだ。これ以上女の子を戦わせるわけにはいかないんだ。」
「もういいわ。ファントム。」
呆れたようにため息をつきながら凛が殺生丸に声をかけた。
「遠坂!?」
非現実的な状況のなかで朝学校で話した知人の姿に士郎は瞠目する。
「ええ、こんばんは。衛宮君。そうね、少し話をしない?」
これまでの行動から聖杯戦争のことを士郎が全く理解できていないとみて
凛が話し合いを持ち掛けた。
「……ああ、そうだな。わかった。上がってくれ。」
突然の提案に少し困惑した様子だったが凛が何か知っているとふんだのか士郎も話し合
いを快諾し、自宅の中に凛を案内した。
唯一凛が誰なのかつかめない金髪の女性だけが少しおろおろしていた。
やっぱ小説って難しい、、、