Fate/The rule of might 作:じゃくさい
それでは、どうぞ。
遠坂凛は頭を抱えていた。いわく、衛宮士郎は聖杯戦争について全く知識がない、
しかし、引き当てたのは最優のサーヴァントであるセイバー。
「とりあえず、教会に行きましょう。あそこに行けば、
いろいろ教えてもらえると思うから。」
「ああ、わかった。ありがとう、遠坂。」
このまま何もわからない状態の士郎を倒すのは自分のプライドに反するために、凛は
士郎を聖杯戦争の監督役がいる教会に連れていくことにした。
士郎、凛、霊体化した殺生丸、士郎が魔術師として不完全のためか霊体化できず、
ポンチョを着る形となったセイバーは夜の冬木を歩き、教会前に到着する。
「ファントム、セイバーとここで待っていてちょうだい。」
「……」
自身のサーヴァントの無言を凛は肯定と受け止め、士郎とともに教会内へ
入っていった。そこで、おもむろにセイバーが口を開いた。
「……何故、何故あの時、私を吹き飛ばすにとどまったのですか。あの瞬間、
あなたが剣を振りぬいていれば私は切り捨てられていたはず。いや、事実あなたは私
を切り捨てようとしていた。どうして、剣を抜くことをやめたのですか。」
自分の疑問を隣に立つ殺生丸に投げ掛けた。
「…………」
「ファントム!答えてください。何故ですか。まさか、私が女だから情けを
かけたとでもいうつもりですか?だとしたら騎士として、許しがたい侮辱だ。」
騎士としての誇りを侮辱されたと思ったセイバーは、激昂して殺生丸に詰め寄る。
「……騎士、か。ならば一層解せないな。」
「解せ、ない?どういう意味ですか。」
やっと口をきいたと思った殺生丸の発した言葉の不明瞭さにセイバーの
いらだちは募っていく。
「……貴様は一体、何に謝っていたんだ?」
「ッッ…………!」
殺生丸の質問にセイバーは絶句した。ブリテンの王アーサー王として一国を担っていた
自分が聖杯にかける願いは祖国の救済、自分が治めた国の王の選定のやり直し。非力な
自分が王になってしまったがために、悲運をたどったすべての人々への贖罪。
ゆえに、自分が倒れる時、真っ先に浮かんできたのは自分と同じ時代を生きた
ブリテンの人々に対する謝罪。それを目の前のサーヴァントは見抜いたというのか。
「……言いたくなければ、別に良い。」
「……」
あまりの驚きに年相応の顔を見せた目の前の少女に、
殺生丸は月を見ながら語り掛けた。
「……お前に、護るものは、あるか。」
悲壮を背負った少女に、殺生丸は在りし日の父が、自分にかけたものと
同じ問いを投げる。
「護る、もの……」
セイバーは自問する。ブリテン?いや、違うあれは自分が護るものではない。
正しく選定された王によって守られてこそのもの。ならば、私が護るべきものは……
「おまたせ、ファントム、セイバー。さ、帰りましょう。」
セイバーが殺生丸に問いを投げかけられてからすぐに、凛たちが教会から出てきた。
「衛宮君。ここからは敵同士よ。今までは情けで行動を共にしてきたけどこれからは
そういうわけにはいかないから覚悟しなさいよ。」
「ああ、わかってるよ。遠坂。ありがとう。」
セイバーは先ほどまで自分と話していた殺生丸を見つめる。
先ほどの質問の意味は一体何だったのか。だが、セイバー
の思考は少女の声と獣じみた殺気によって中断される。
「こんばんは。おにいちゃん。」
人間離れした白い肌に、白い髪。妖精のような印象を抱かせる少女の後ろには唸り声を
あげる狂戦士の姿。
「私はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。」
「何よ、あのサーヴァント。単純な能力値だけならセイバー以上じゃない!」
イリヤの後ろに控えるサーヴァントのバカげたパラメータに凛は絶句する。
規格外のサーヴァントを前にしても動じない二人はそれぞれのマスターの前に立った。
「あら、私のバーサーカーとやりあうつもり?」
余裕の表れか、イリヤは前に出たセイバーと殺生丸を嘲笑するような言葉をかける。
「ふっ。人形の小娘を戦争に参加させるなど魔術師というのは、
つくづく無粋な種族だな。」
殺生丸が返した言葉にイリヤが浮かべていた笑みが拭い去られた。
「生意気なサーヴァントね。いいわ。やっちゃえ、バーサーカー。」
白い顔に怒りで朱が差した状態でイリヤは自らのサーヴァントに命を下す。
「下がれ。貴様がいると闘いの邪魔だ。」
殺生丸は隣に立つセイバーに言い放つ。異議を唱えようとしたセイバーだが、連携が
浅い状態での二人がかりは危険だと判断し、引き下がった。
それに、あの問いを投げた者の闘いを、目に焼き付けたいという思いもあった。
「ォォォォッ…………!!」
獣のような咆哮をあげ、バーサーカーが殺生丸に突進する。
「……うるさい。」
バーサーカーが振り下ろす巨大な岩剣を殺生丸は刀を抜いて受け止める。
すさまじい勢いの衝突に突風が生じ、殺生丸の足場の地面が大きくへこむ。
「はあっ……!!」
バーサーカーの一撃を受け止めた殺生丸は無理やり押し返し、巨体を吹き飛ばす。
そのまま距離を詰めて斬撃を繰り出していく。
「すごい。あれだけの巨体となればさらにバーサーカーなら繰り出される一撃の重さは
計り知れない。なのに、ファントムはまともに打ち合っている。」
繰り広げられる戦闘のすさまじさにセイバーも称賛を送る。
「ォォッ……!!」
いつまでも拉致のあかない剣戟にしびれを切らしたのかバーサーカーが大きく
真上に岩剣を振りかぶる。そして、それを見逃す殺生丸ではない。大ぶりの一撃を
紙一重でかわし、地面に食い込んだ岩剣をさらに食い込ませるかのように踏みこみ
バーサーカーの攻撃の手を封じ、一閃。
「とった!!」
凛も確信するほどの完璧な所作。これで殺生丸の一撃が入ると思った矢先、
バーサーカーは、自らの得物を手放す。そのまま上体をそらして殺生丸の一閃を回避、
両手を地面につき、軸にして巨体を回転させ、強烈な蹴りを繰り出す。
「ちっ……!」
舌打ち一つ。後方に宙返りしつつ殺生丸は蹴りを回避、もう一度仕切り直しとなる。
「うますぎるッ!本当にバーサーカーなの!?」
バーサーカーらしくない技ありの回避を見せつけられた形となった凛は驚くしかない。
「ォォォォッ!!」
先ほどの攻防で殺生丸を強敵と認めたのか、さっきよりもバーサーカーの攻撃が苛烈に
なる。暴雨のように縦横無尽にたたきつけられる岩剣にさしもの殺生丸も
防戦一方となった。
腕力にものを言わせて迫りくる岩剣を刀で受け、いなし、かわしていく。
「おい、遠坂、セイバー、加勢したほうがいいんじゃないか!?」
心配した士郎が凛とセイバーに声をかける。
「しかし、あれほどの闘いの中に割って入るのは私はともかく凛は危険だ。それに、
ファントムならおそらく大丈夫でしょう。」
「大丈夫って……」
「私もセイバーに同意だわ。あいつならきっと大丈夫。」
凛、セイバーの期待に応える形となったか、
「はぁ!!」
気合一閃。バーサーカーの猛攻を押しとどめ、刀を振りぬいてバーサーカー
を下がらせた。
「なかなかやるじゃない、そのサーヴァント。でも、もういいわ。終わらせなさい、
バーサーカー。」
イリヤの声を聴き、バーサーカーの体が赤化、魔力が増大する。
「そんな……、でたらめよ!」
膨大な魔力量に凛が絶叫する。
「オォォォォ!!!」
バーサーカーは咆哮を挙げて岩剣を振り上げ、地面にたたきつけた。
すさまじい勢いの衝撃波が正面の殺生丸めがけて地面を隆起させ、岩石を巻き上げ
ながら迫っていく。食らえばいかなるサーヴァントといえどひとたまりもないだろう。
が、殺生丸はその場から動かない。
「まずいわ!ファントム、よけて!!」
「そうです、よけてください!!」
あまりの威力のすさまじさを目の当たりにした凛とセイバーは殺生丸へ叫ぶ。
「ふふふ……」
自分をバカにしたサーヴァントの死を確信し、イリヤは笑みをこぼした。
漸く、殺生丸が動きを見せた。しかし、そこによけようという気は見られない。
ただ、悠然と、刀を地面と水平に自分の目の前で掲げた。
バーサーカーが発した衝撃波が殺生丸に衝突する直前、刀から蒼い光が迸った。
「奥義、
一瞬、殺生丸の背後に美しい蒼い龍が現れた。
「何よ、それ……!」
勝利を確信していたイリヤの顔は驚愕に彩られた。
迫りくる衝撃波は、いくつもの閃く蒼き雷撃にぶつかり、押し負け、かき消される。
ただ、殺生丸のはなった一撃は、弟である犬夜叉が放つ奥義、爆流波を
真正面からねじ伏せるほどの威力。狂戦士の一閃を打ち消すだけにとどまらない。
その程度では、蒼き龍は止まらない。龍は目の前の敵に牙を、向けた。
ひと際大きな蒼き雷光が、バーサーカーを飲み込んだ。
「ウォォォォォォォ…………!!」
蒼い光柱が龍の形となって鳴き声を上げて空に消えていく。残ったのは、
龍に引き裂かれたかのように無残な姿となり絶命したバーサーカーだった。
「やったの……?」
だがしかし、凛の期待を裏切るように、狂戦士の体が時間を戻したように
再生されていく。
「そんな!?」
「……まだあがくか。」
さして動揺した様子もなく、殺生丸は再生を終えようとするバーサーカーのもとへ
歩んでいく。しかし、闘いは意外な形で幕を閉じる。
「いいわ。今日はここまでよ。いくわよ、バーサーカー。」
あれだけ好戦的であったイリヤが戦線の離脱を宣言したのだ。
「逃げるのか!」
セイバーが背中を見せたイリヤへ剣を向けた。
「そうよ。だって、楽しみは最後までとっておきたいじゃない。おにいちゃんの
セイバーは大したことなさそうだけど、凛のファントムはなかなか楽しめそう。
じゃあ、またね。」
あくまで余裕の姿勢を崩さずにイリヤは夜の闇に溶けて消えていった。
「何とか追い払ったような形になったけど、何なのよあの化け物は……」
ただでさえ強大な敵が不死身のような能力を見せたことに凛は落胆を隠せなかった。
「お疲れさまでした。ファントム。」
セイバーは戻ってきた殺生丸に声をかけた。
「ちょっと、ファントム!あんな大技持ってるなら最初に言いなさいよ!
見てるこっちの寿命が縮まったわよ!」
闘いが終わった安堵感からか凛は殺生丸に詰め寄った。
「騒ぐな。」
「な、なによ!こっちは心配してたっていうのに、このサーヴァントはっ……!」
あくまで冷静な殺生丸に対比して凛の怒りボルテージが高まっていく。
「お前ではない。天生牙だ。」
「え?」
凛が見ると殺生丸の天生牙がカタカタと震えていた。
「どういうことよ?刀が騒ぐって?」
「あの人形の小娘……存外、ただの人形ではないようだな。」
イリヤが消えていった方向を見つめながら殺生丸はつぶやいた。
一人で話を進めていく殺生丸に、凛もセイバーたちも頭をかしげるばかりだった。
殺生丸とバーサーカーの闘いは前からすごく書いてみたかったものなんですが
なかなかむずかしいですね……