ガールズ&パンツァー 狂せいだー   作:ハナのTV

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長くなって申し訳ありません。
この作品を初めて見た方は今回の話を読む場合、番外の④からみることをお勧めいたします。

そうするとある程度状況が分かりやすくなると思われます。


番外⑥ 突撃!ドリームチームと張り子の虎!

鉄と油で臭い車内。たった五人で操る鉄の騎兵はやはり、狭い。三人乗りの砲塔で、車長席に立ち、キューボラから身を乗り出すエリカは優れた視力を持つ両目でこれから向かう戦場を見ていた。

 

薄い青色の瞳で捉えたのは黒煙と燃え盛る炎のオレンジ色と生い茂る草木の緑だ。時折聞こえる砲声と爆発の音は物騒ではあるが聞き慣れた音色でむしろ彼女にとっては戦場音楽とも言える程親しみ深い。

 

そう、自分がSS戦車兵の黒い装束を着ていようと、黒森峰のパンツァ―ジャケットと変わらない。この戦車道の戦場は彼女の日常の一部であり、ありふれたものなのだ。だが、一つ異なっている事情がエリカにはあった。

 

「全く、なんて様よ」

 

鳴りやまない砲撃音からローズヒップたちがまだ交戦していることを知り、軽戦車一台に翻弄されているであろう、革命軍をそう一言で片づけてキリッと引き締めた顔で戦場を見た後、彼女は車内へと入った。だが、実のところ彼女は車内に入りたくなかった。何故ならば、ひとたび車内に入ればそこには、彼女が決して経験したことのない異空間が待っているからだ。

 

「嵐も雪も 何かある~。炎熱酷寒 乗り越えて~」

『革命軍……野郎の戦車……クラーラ……オール、マスト、ダーイ』

「おお! すっげえ! 重戦車スゲエ! ギア固いな! オイ! 」

「いや、違うのよナオミ。決してアンタに不満を持ったからノンナを乗せてるわけじゃなくてね……だからアンタの射撃の腕は一番よ? でもね、今は状況がさ」

 

下手なドイツ語で歌うSS戦車兵の優花理。真っ白なウェディングドレスでブツブツと囁き続けて照準器を覗きこむノンナ。操縦席ではしゃぎ、時折エンジンを吹かしたりしだすコック姿のぺパロニ。チームメイトに弁明を繰り返しているサンダースのパンツァ―ジャケット姿のアリサ。

 

「何てザマよ……!」

 

これが私の戦車道の一つだと思うとエリカは頭を抱えて落ち込んだ。SSは許そう、サンダースだって正規の物だ。何も文句はない。だが、コック姿とウェディングドレスとはなんだ? 古今東西、どこを探したってそんな格好で戦車に乗る奴はいないぞ! とエリカは叫んでやりたかったが、これ以外に人員がない以上、言った所で無駄であった。

 

「何でアンタ達そんな格好なのよ! 真面目にやる奴はいないの?!」

『クラーラ、マストダイ』

「驀進するは我等が戦車~」

「違うってば、信じてよナオミ。砲手最強はアンタだって」

「人の話を聞けぇ! あと下手なドイツ語で歌うの止めなさい!それと惚気も! 腹立つゥ!」

 

車内を叩くが、聞くものはほぼゼロ。優花理がシュンとして歌うのを止めてしまったのに罪悪感を覚える以外に特に反応なんて砲塔内には皆無だった。

 

「いや、そりゃ無理だろ」

 

すると操縦席の方からぺパロニから返事があった。

 

「何でよ?」

「気楽にいこーぜ。お祭りなんだし」

「祭りじゃないわよ!」

「アンツイオじゃ、真面目にやるのは姐さんと戦車道か、料理か食べる時か、ピクニックぐれーなもんだって。それに――」

『クラーラ、特に特にマストダーイ』

「上のノンナを見りゃわかんだろ」

 

ぺパロニが砲手の方に人差指を向ける。エリカはチラッとそちらを見やるが、真っ白なドレスに反して真黒なオーラをまき散らしている彼女に本能的な恐怖を感じ取ってしまい、すぐに視線をずらした。

 

「な?」

「何でこの子、こんな格好なのよ……」

 

項垂れるエリカを全く気にせずにノンナはひたすら殺意を呟いていた。ぺパロニの言葉は正論であるが、正論ではなかった。ノンナは真面目に戦車道をするのではなく、ただプラウダの学園艦で今頃カチューシャの可愛い、とっても可愛いところを独占していることで嫉妬し、憎み、人食い魔となっているのだ。

 

『カチューシャは私だけのカチューシャ……無論、子守歌もボルシチを作るのも、私だけ。だが、あのロシア人はその掟を破った。裏切りには制裁を……第一歩目は戦車の確保、二歩目は砲を預かり、三歩目は一切合財に122mm砲を……四歩目は……』

「なんて言ってるのよ……」

「知らない方がいいですね」

 

エリカの疑問に優花理が答え、エリカはそれ以上は聞かないことにした。

 

「ナオミってば! ちゃんと話を聞いてよ! 浮気とかじゃないから! って先から何の話をしているの?! 私!」

「コッチの台詞よ!」

 

砲手と痴話げんかしているアリサに突っ込むが、彼女はエリカに向かって口元に人差指を立てて、黙ってろとジェスチャーするだけ。

 

ダメだ、緊張感の欠片もない――エリカは黒森峰とは違いすぎる環境に頭をかきむしった。いくら即席の組み合わせとは言え、面子が濃すぎるし、不真面目だ。いや、確かに殺意むき出しの真面目そうなのはいるが、それはそれでいいのか? 何だかいい気がしてきた、そもそも私は隊長を馬鹿にされたから来たからおあいこ? 誰か、教えて! 私はどうしたらいいの――!

 

そんな時、エリカの頭に何故か、西住まほではなく、みほが頭をよぎって、彼女の混乱はさらに進んだ。

 

「何でアンタが出てくんのよ!」

「急にどうしたのよ?」

 

たまらなくなって、砲塔からエリカは飛び出るようにしてキューボラから身を乗り出した。すると、音の大きさから戦場が近づいていることに気付き、顔を引き締めた。

 

「停車!」

 

少し遅れて、彼女たちの車体は停止した。ちょうど稜線の一歩手前で止まったことを確認してエリカは首に下げていた双眼鏡を覗いて、戦場を伺った。視界に映るのはバラバラに散らばった戦車の中央で縦横無尽に駆け回るM22ローカスト。その操縦技術と度胸、そして勘の良さに舌を巻きつつ、敵車両を偵察する。

 

「やたらと重戦車が多いわね……KV-1にIS-1、あれはM6に……四号やら、ハッ 大したメンツね」

 

エリカは皮肉そうに戦車を褒めた。あれだけの戦力が正規の戦車道履修者に渡されれば、タンカスロンと偵察以外では活躍が厳しい空挺戦車など一ひねりだろうことが彼女には容易に想像できた。

 

だが、双眼鏡にチラリと見えた車両が気になった。エリカの目に見えたのは車体の一部だった。パーシングに見えたが、砲塔に何故か黒十字が見え、妙な胸騒ぎを覚えたがそれだけでは判断しきれなかった。

 

「砲手、この距離ならどう?」

「距離1700m程。いけます。確実に食えます。しかし、全車を確実に貫通させるのなら距離が少々遠いかもしれません」

「装填手、装填にはどれ程時間がかかる?」

「ハイ! 砲弾が取り出しにくくはあるものの、6秒内には完了させます!」

 

よし、とエリカは思った。装填時間なら愛車のティーガーⅡよりかは早い。それに砲手は腕に関しては問題ないうえに、この砲の経験が豊富なはずだ。難点は戦車ごとの個体差、発射時の膨張などの“砲の癖”がどの程度なのかと言う点だけだ。

 

通信手にしても、経験に問題はない。操縦手は天才肌なのか、何も問題なく動かしている。あとは自分だけだ、とエリカは深呼吸する。

 

「通信手! 味方戦車に連絡! あと、敵にもね」

「敵にも? 相手に堂々と布告する訳?」

「敵の目をコチラに引きつけるわ。この距離ならコッチの物だし、相手の車両はバラバラ。突撃してきても足並みが揃わないから遠慮することないわ」

「イエス、マム!」

「操縦手! 稜線の上へ! 精々派手に見せてやりなさい!」

「Si!」

 

姿を晒す。それは遠距離から狙撃を加える戦車にとって致命的な選択のように思える。だが、彼女はそもそも隠ぺいは大して効果が無いと判断していた。巨体を誇る車両の上、映画部の話を事前に聞いたところ、フィールドの草木は撮影に用いる為小さく十分に隠れられない。

 

更に映画用の戦車と言うことでマズルブレーキに細工がしており、演出用に派手にガスが噴出され、発砲炎があがるようになっていた。これらを考慮し、派手に暴れて敵の目を引きつけ、再度聖グロに突撃させることを考えたのだ。

 

万が一、接近されても逃げ足でもこの車両は優秀だ――エリカはそれを経験から学んでいた。

 

エリカは咽喉マイクを抑えて宣言した。

 

「本車は味方の支援に回り、あえて位置をさらすわ! 敵集団は練度が低く、突撃も足並みが揃わない。障害物のない平地ならいい猟場、味方車両を支援、遠距離の狙撃で一台ずつ減らして、軽戦車にもう一度突撃の機会を与える! 各員の奮戦に期待する!panzer vor!」

 

戦車はゆっくりと前進し、稜線を上っていき、上に到達した時点で停車。そして車体を敵集団に対して傾けた。砲塔がゆっくりと回転しだして、狙うべき相手を見定める。

 

「砲手! 初目標は車体後部を晒しているIS-1! 続いてローカストに接近中のKV-1!」  

「同志からですか」

 

アリサが敵に煽りを入れている間にエリカは射撃指示を出す。まずは開幕のご挨拶、敵の尻を蹴り上げようと言うのである。

 

「撃てぇ!」

「Огонь」

 

大口径の砲、それも高射砲由来の主砲が火を噴いた。マズルブレーキからは高温のガスが噴き出し、車体が大きく揺れた。空薬莢が車内に転がって、鐘の様な音色を響かせれば、敵戦車の撃破を教える福音となった。

 

初弾から命中。IS-1撃破を確認し、エリカは微笑んだがノンナは不満顔だった。

 

「照準器とズレる……少々癖が強い子ですね」

「装填完了!」

 

ノンナは砲の癖に苦言を漏らした。だが新しい砲弾をすぐさま優花理が装填されると、ズレの分をすぐさま修正し、KV-1の体に砲弾を叩きこんだ。

 

「敵戦車撃破。次は?」

「目標! 旋回中の四号! 続いてM6! アリサ! ローズヒップ車は?」

「後退完了してるわ! 現在敵集団から見て右手の丘の影に待機中!」

 

ノンナが射撃し、車体が再び揺れる。それをコマンドキューボラから覗くと四号から火の手があがって撃破。優花理が床下から弾薬を取り出して装填し、再び発射。だが、今度は前面装甲に阻まれた。多少ながら角度が付いていて耐えたようだ。

 

だが、今一度射撃をして貫通し、コレを撃破した。

 

『クラーラが三人、クラーラ四人』

「敵集団が突撃体勢に入ったわ! ノンナはコッチの指示の元で発砲! 優花理はもっとリロードを早く!」 

「……装填完了!」

 

ノンナは口元を歪ませて、砲を発射し続ける。エリカの指示の元、足の速い者、勇敢な者を素早く選択して狙撃する。心地の良い感覚だった。しかもIS-2の時より再装填が早い。装填手は四号の75mm砲の経験が主だと聞いていたが、すぐに対応できていた事に内心称賛していた。

 

だが、敵も、無抵抗な案山子ではない。残った敵車両の殆どがコチラに砲を向けて殺到しているのだ。飛来して来た砲弾が木々をなぎ倒し、エリカたちを屠ろうと躍起になっていた。

 

「エリカ! 撃たれまっくてんぞ! 後退しねーのか?!」

「まだよ! 走りながらの射撃なんてビビらなくていい! この距離で当たるもんですか!」

 

距離は1200m。全力疾走する戦車では精密な狙撃など望めない。対するコッチは狙撃が楽になる上に貫徹しやすくなる。そして、もう一つ。戦うのは“一両”だけじゃない。

 

「アリサ!」

「聖グロ! 今よ! 今よ! 今! 後方から突撃! 喰らい尽くしなさい!」

『合点承知の助でございますわ!』

 

敵がコチラに血眼になっているところへ、軽戦車の突撃。完全に後ろを取ることに成功し、肌の薄い装甲に目がけて37mm砲が吠える。

 

「後ろから?!」

 

重戦車の群れに襲い掛かるローカストはハイエナの如く。履帯を切り、砲撃の邪魔をひたすらに繰り返す。時に屠りさえする軽戦車にまたしても革命軍は右往左往することとなった。

 

「旋回だ! 後ろの軽戦車を……!」

 

回頭しているパンターを見つけて二人の女子がほほ笑む。

 

『クラーラが11人……正気ですか?』

「情け無用よ! フォイア!」

 

ノンナは通算台12両目の獲物を捕らえて主砲を轟かせた。徹甲弾は敵車体側面を捕え、一撃で撃破した。

 

「これで後2両!」

「1両よ 聖グロコンビが一両撃破。後はパーシングが一台って……」

 

だが、アリサの声も続かなかった。突如エリカたちの車両に至近弾が飛び込んできて、大きく揺れたのだ。

 

「やるじゃない! ぺパロニ、後退させて!」

「ハイよ!」

「それにしてパーシングにしては随分強力じゃない……アリサ! そのパーシングの形状をローズヒップにもっと詳しく報告させて!」

「イエス、マム!」

「優花理!」

 

エリカは優花理の名を叫んだ。

 

「ハイ!」

「パーシングに砲を強化した物は?」

「第二次大戦中のモノでは考えにくいです! あれは戦争末期に開発されていますから! でも!」

 

炸裂音で一旦遮られたが優花理は話し続ける。

 

「パーシングの設計は後のパットンシリーズに移行しています! もしかして……」

「報告来たわよ! パーシングは誤認! 煙突の様なマズルブレーキに丸い砲塔、車体自体はパーシングによく似ているらしく、主砲は90mmと推定される!」

「パットンですよ! 間違いありません!」

「厄介な物を……! てか喜ぶな!」

 

目をキラキラさせる優花理にエリカは叫び、思考回路を回転させる。パットンと言えば戦後の米軍の代表的な戦車だ。装甲こそパーシングと変わらないものの、砲は90mm50口径で貫通力では逆立ちしたって勝てない。

 

確実に撃破するなら後方へ回り込むことだ。それを行うにはどうすればいいか。思いついた答えにエリカは微妙な表情を見せた。その策はあまりに邪道に思えた。

 

「アリサ! 聖グロに連絡! これから先は連絡を密にして」

「やるのね?」

「当り前よ! コケにされてたまるモノですか! ぺパロニ! アンタの操縦に期待させてもらうわよ。優花理、装填速度を早めて!ノンナ!お膳立てはコッチですべてやるわ。だから決めて!」

 

車長の言葉にそれぞれが意志を表明する。

 

「おうよ! 何でも言いな」

「了解であります!」

「楽しくなって来たじゃない」

「Понятно」

『どんとこいですわー!』

「よし……全く」

 

エリカはこれから行う作戦に自嘲気味に笑った。

 

「何てザマかしら」

 

 

 

 

 

 

戦闘開始から何時間たったことか、ローレンスは最早微笑みを辛うじて浮かべることができる状態であった。

 

あれだけいた戦車がたった二両に無双されて今やM47パットンのみ。彼の心は敗北でズタズタにされ、女の子より常に上であると言う自信をどうにか繋ぎ止めていた。敵が後退したから自分が強いとそう思いこませていた。実際のところソレは車両の性能差によるもので、彼の実力でも何でもないのだが、彼はそれを認める訳にいかなかった。

 

「よし、これで勝てる……勝てるんだ! 僕は勝つんだ! いつだって!」

 

笑うローレンスを覗いて他の男子たちもそう思いこむことにした。正直、自軍戦力が一両のみになった時点で後から来るサンダースに勝ち目がないのだが、彼らはパットンで無双すれば勝てる、その証拠にまたM22ローカストが走り去っていたではないか、と自己暗示のように言い聞かせてすらいた。

 

「おい、無線機を」

 

楽観主義が充満する車内でローレンスは無線機を取り、相手に交信を呼びかけた。

 

「どうだい? これで僕達の勝ちだ。 どうかな、今なら無様に撃破されることもない、降伏するんだ。何、ちょっとお仕置きはするかもしれないけど、それだって慣れれば……」

『お断りよ』

 

帰って来たのはアリサの強い拒絶の言葉だった。

 

「強がるなよ……君だって、タカシに振られたばかりじゃないか。この僕が君を慰めたっていいんだよ?」

『ハッ! お生憎ね! 戦車の性能差で勝った気でいるおめでたい頭してるのね。勝てる勝負以外しない男なんて願い下げよ。それにね……』

 

アリサは深呼吸して一気にまくし立てた。

 

『良く訊け! ポンコツ野郎! アンタが何人尻と頭が軽い女を落としたかは知らないけど、私達を落とせるなんて思わないことね! 隊長にタッチした分だけ76mm砲弾で体中の穴に栓をして溶接してやるから覚悟なさい! アンタ達、覚悟なさい!』

 

その時、M47パットンの車体が揺れてローレンスは小さく悲鳴を上げた。だが、自分たちが倒せないことに再び気付くと再び増長し、キューボラから見えた二台の戦車を鼻で笑った。

 

「突撃だ!」

「い、いいのかよ?」

「いいから突っ込め! 所詮向うはポンコツしかいないんだ! 行け!」

 

ローレンスに見えたのはローカストと稜線を超えようとしているティ―ガー。そこへ90mm砲を撃ち込む。すると近くの地面に着弾するとティーガーからスモークが放たれ、二両とも煙の中に逃げ込んだのを見て高笑いした。

 

「ホラ! 見ろ! やっぱり逃げただろう! アイツらはそんな程度だ。恐れずに行け!」

 

パットンは急加速し稜線の斜面を速やかに上り、乗り越えた。車体が一度バウンドし、坂を下ろうとするとどこからか、砲撃が飛んできて、パットンの装甲上に火花を散らせた。

 

砲手はそちらに砲を向けようとしたが、ローレンスは気づいた。

 

「違う、そっちじゃない!」

 

反対方向へ回させるとそこには例のティ―ガーがコチラに砲を向けて突進してくるのが見えて、砲を回頭させようとした。

 

だが、無視されたローカストが黙っていなかった。何と自分の車体をパットンにぶつけたのだ。全速力で向かって来たローカストは撃破されたが衝撃で機動輪が歪んで動けなくなり、更にローカストが邪魔で砲塔の旋回が出来なくなった。

 

「ほ、砲塔が!」

「いいから撃て!」

 

ギリギリ射線に入っていたティーガーに発砲した。50口径90mm戦車砲M36が轟音と共に徹甲弾を撃ちだしたが、何とティーガーはその場で横に車体を傾けて滑るようにしてパットンの後ろへ回り込む姿勢を取り出したので、砲弾は車体前面と砲塔の装甲の一部を削り取っていったのみに終わった。

 

「馬鹿な! どうしてティーガーにあんな真似が!」

 

ローレンスが信じられない光景に絶叫する中、ティーガーは後ろに回り込んで、砲身をピタリとくっつけ、発砲。徹甲弾がパットンの尻を貫通し、撃破。米軍の名戦車は後部から大きなオレンジ色の火を上げて、金属の悲鳴のような音をあたりにまき散らし、沈黙した。

 

何もかもが信じられない事態だった。重戦車に何故あんな動きができるのか。そもそも、よく考えてみるとあの戦車は軽戦車並みの速度で走っていたことを思い出し、ローレンスはせめて抗議しようとハッチを開き、その敵を見た。

 

そこにまさにティ―ガーがあったが、変化があった。なんと、砲身先端のマズルブレーキがボロリと零れ落ちて、砲身の中から別の砲身がみえたのだ。さらに車体と砲塔前面の装甲が剥がれだし、その内側から傾斜装甲が顔を見せた。

 

「へ?」

 

そこにあったのはドイツの重戦車ティーガーⅠではなかった。

 

 

 

 

いたのはソ連を救った救世主にして名戦車、プラウダ高の主力。

 

 

T-34-85であった。

 




拙い伏線ですが楽しんでいただくと嬉しいです。


また戦闘描写など自身のない部分が多いので、なにか指摘や感想があれば、いつでもお待ちしております。

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