ガールズ&パンツァー 狂せいだー   作:ハナのTV

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番外⑦ 戦車道は一生の思い出 

それは本当に奇妙な外見の戦車だった。車体と砲塔の前面、履帯はT-34-85だが、それ以外はティーガーⅠを模している。つい数刻前なら遠目からならティーガーⅠに見えた戦車も最後の攻撃で外側の鉄板が外れてしまい、その本来の姿を晒しだしてしまっているのだ。

 

だが、よく見れば最初からソレがティーガーⅠではないと分かることができた。

 

「つまり、アタシ達が乗っているのってティーガーⅠじゃねえの? T-34-85? マジか」

「そうですよ、気付かなかったんですか?」

「あんまり、重戦車なんか見ねーしな」

 

ぺパロニは少しがっかりしていた。あの重戦車に乗れたとばかり思っていたから、後でアンチョビに自慢しようと胸を躍らせていたのだった。

 

「でも、よく分かるな」

「簡単ですよ」

 

ぺパロニはすぐに見分けられたと言う優花理を素直に褒めた。優花理は胸を反らし、得意げに、楽しそうにその理由を語った。

 

まず、車幅。中戦車のT-34はテイーガーより一回り小さい。次に砲塔の位置がT-34は前の方に配置されているので、パッと見はレオポンさんチームのポルシェテイーガーと錯覚してしまうのだ。そして最大のポイントは履帯。転輪の数や機動輪の形を見れば、一発で見分けがつくと言う訳だ。

 

映画においてテイーガーを使うのはコストや生産数の少なさから、非常に骨が折れるため、こうしてT-34を改造して撮影することがある。サンダース映画部も手に入れることができなかったため、こんな戦車を作ったのだ。

 

『もっと強いのはないんですか?!』

『サンダースの癖にケチな事するんじゃないわよ!』

 

と、エリカと優花理が映画部の女子に文句を言ったのはこのためである。

 

戦車マニアの優花理にとって、この改造T-34はいくらでも見て来たからこそ、一瞬で見分けがつくことができたのだ。当然、黒森峰で実際にテイーガーと接して来たエリカにとってもそれは同じ。逆にT-34-85を乗り回していたノンナも同様で、故に彼女はすぐに砲手に名乗りを上げたのである。

 

「ん? でも、その割にアリサとか通信機に慣れていたよな?」

「当然よ。アメリカ製ですもの」

 

アリサは通信機を指で小突いて自慢する。ソ連はかつてアメリカから資源や機器を輸入することは珍しくなかったため、無線機や照準器が外国産であることも少なくない。そう言った意味である意味でT-34-85であったことは幸運であった。この即席の面子でも簡単に動きやすい要素が多かったからだ。

 

「ティ―ガー乗ってみたかったな~」

「同志はお気に召しませんか?」

「いや、楽しかった。てか、アンタ急に晴れたな」

「少しスッキリしましたので。『でもクラーラはマストダーイ』」

 

それでも尚、残る邪気に四人は苦笑いする。一体何にそこまで憎悪を持っているのか、それを四人に図ることは出来なかった。だが、ノンナの怒りも最もと言えるかもしれない。

大切な、それも最愛の者を奪われれば、誰だって怒るものである。たとえ、それが身長127cmの豆粒ドチビだとしても、たとえソレが紙装甲の駆逐戦車だとしても。その時、T-34-85を突然の衝撃が襲った。

 

「何?!」

 

すぐさま戦闘配置につき、エリカがコマンドキューボラから外を覗くと、そこにはオリーブドラブの車体のヘルキャットが方向から陽炎を上げていた。

 

「ヘルキャット?! 今までどこに……」

『アアアア! 忘れてましたわ! いましたわ! 薫子! ヘルキャット! 子猫ちゃんが! 早く戦車を動かして!』

 

通信機から大音量でローズヒップの声が流れてアリサは一瞬悶絶した。その後のローカスト内のドタバタもレシーバーから駄々漏れであった。

 

『薫子! 薫子! 何をなさってますの?! お早く!』

『動きません、動きませんよ! ローカストも撃破されて……これじゃ唯のスクラップです!』

『なら、外から押せばよろしいでしょう!?』

『畜生! 根性!』

 

今度は二人の気合の入った雄たけび声が聞こえて来た。聖グロのお嬢様二人はきっと車内で必死になって車体を押していることだろうことがアリサたちには想像できた。

 

「無意味よ! やめなさいってば!」

「私このやり取り、どこかで見たことがあります」

「知らないわよ! ぺパロニ! 移動よ!」

「いや、それが動かねーわ。なんか履帯に巻き込んだんじゃないか?」

「シャイセ! ノンナ!」

「砲塔が回りません。どうやら整備不良のようです」

 

二発目が飛んできて、ローレンスの乗るM47に命中する。どうも、リロードがすこぶる遅く、しかも射撃がド下手くそのようだった。その下手さはある意味伝説的で、距離にして40mあるかないかの距離を静止目標を相手に外す、という大洗のカメさんチームも真っ青な射撃精度であった。

 

『降伏しろ! そうすれば、助けてやってもいいぞ!』

「はずれ~」

 

四発目が明後日の方向へ飛んで行くのを見て、ぺパロニが煽る。

 

『動け! 動け! 動けぇ! ヘルキャットの連中めが! ぶっ殺してやる!』

『こんなことならエリカの策に乗らなければよかったですわ~! この私がヘルキャットを前に時速0kmなんて! これでは、冷えたお紅茶! 格言もないダージリン様ですわ!』

「どんな例えよ!」

「愛する者を奪われたのです。この気持ち察せませんか? エリーシャ」 「知るか!」

「戦車を奪われたら、そうなるでしょ! 逸見殿!」 「お前も乗るな!」

「ていうかパスタ食わねーか?」 「一日五分でいいから真面目になって!」

 

刻一刻と過呼吸になっていくエリカは胸を抑えて怒涛のツッコミを披露していく。狭い車内で酸欠になって来たのか、段々と自分がどうして此処にいるのかすら忘れて来た彼女は

早い所ケリを着けてほしくなった。いっそ、撃破されればいい、とすら思うほどに。

 

「アンタも苦労の星の元に生まれたのね……」

「もう突っ込むの疲れたわ……」

 

エリカの苦労を見てホロリ、と涙するアリサの握る通信機から声が聞こえた。

 

『アリサ、聞こえる?』

「ナオミ?」

『待たせたな』

 

そのナオミの得意げな声を聞き、アリサは頭を抱えるエリカを押しのけてキューボラのハッチを開いて外を覗き見た。

 

『降伏しろ~!』

 

調子に乗っているヘルキャットの男どもの後ろにはズラ~とならぶM4シャーマンの横隊が並んでいるではないか。その数、20両。ヘルキャットは全く気付いていないが20両全てがたった一台に向かって砲を向けている最中であった。

 

『撃ち方よーい!』

 

ケイの号令が下されようとするとき、ローカストから悲鳴の様な声が上がった。

 

『ダメ! ダメですわ! 撃っちゃいけないですわ! ヘルキャット、逃げて! 避けてくださいまし!』

『80kmが! 私の、私達の80kmが!』

「アンタのじゃないわよ!」

『映画のしめは派手にしなきゃね! Open Fire!』

 

だが、ケイはノリノリで叫んでしまい、ローズヒップたちの叫びも砲声にかき消されてしまった。装甲が厚くても30mmもないヘルキャットの胴体目がけて、76mm砲や17ポンド砲、次いで30口径の機関銃も加えられて、ヘルキャットが爆炎と土埃で視界から消えた。

 

『Cease fire! 撃ち方やめ! やめてくださいまし! 私の子猫ちゃんが!』

 

だが、サンダースのアメ公チームが止めることはない。むしろ、コンバットハイで加熱していく一方。中にはロックすら歌いだす乗り手が出る始末。もう一斉射加えだし、曳光弾がまるでSF映画のレーザー銃のように雨あられと注がれ、さらに砲弾が薄い装甲に向かって飛んで行き、ヘルキャットをこの世から消す勢いであった。

 

全てが終わった時、ヘルキャットは醜く変わっていた。装甲は砲弾と機銃で穴ぼこにされて、まるでボコボコのジャガイモのようで、砲身と履帯は吹っ飛んでどこにも見当たらない。取れた転輪がコロコロと転がって、ヘルキャットにコツン、とぶつかると車体の突起物全てが崩れ落ちて、完璧なスクラップになった。

 

「戦車がオシャカになったぞ」

「フェアな戦車道って一体……」

『何でー? ダージリン曰く、恋は戦争って言ってたし、台数はフェアにしたよー?』

「と言うことはアリサ殿もいずれ……?」

「するか!」

 

偽ティーガーの中でわいわい騒ぐ彼女達とは違い、外は凄惨たる光景であった。何両もの戦車が黒煙を上げてその骸をさらけ出し、後からやって来たサンダース戦車道チームが今回の犯人達に投降を呼びかけている。まさに、戦場。それも全てが終わった焼野原だ。

 

ただ、いつまでも聖グロの二人が泣き叫んでいた。

 

尚、この計画に参加した男子諸君はもれなく戦車恐怖症となった。

 

 

サンダース学園艦の誇るメインストリート。歓声と紙吹雪、音楽隊の行進曲が演奏する中で戦車が長い縦列を組んで進む。シャーマンM4中戦車が勇ましく行進する中で、一台だけ、半分ティ―ガーで半分T-34-85のおかしな戦車が一番目立つ先頭を進む。

 

応急修理を完了したソ連の中戦車にはこの事件を解決した立役者が勢ぞろい、操縦手はサンダースのメンバーが担当し、進む戦車の上にタンクデザントして、観客の声援に応えていた。

 

「ヒドイ一日だったわ」

 

エリカがそう呟いた。来ていたSS戦車兵の服は黒いのでいいが、彼女の銀髪は黒いすすが付着していて、彼女の疲れを代弁していた。慣れない戦車に、濃すぎたメンバーに友軍、と黒森峰の規律がいかに厳格だったかを再認識した。

 

「ノリノリでしたよー! 逸見殿!」

「あのねぇ……」

 

しかし、そんなエリカに優花理は素直な言葉を贈る。

 

「かっこよかったです! さすがは黒森峰の副隊長でありますね! 慣れないT-34で……」

「……エリカでいいわ」

 

「え?」と 呆気に取られた優花理からフイとエリカは顔を背けた。頬の色を隠すためにエリカはソッポを向いたが、優花理が「はい! エリカ殿!」と元気よく言ったので、隠しきれなかった。その様子を他の5人が微笑ましく見ていた。

 

「何にやけてんのよ?!」

「べっつにぃ? 黒森峰の狂犬ちゃんも可愛い所有るんだな~って」

『可愛いですよ? エリ―シャ』

「日本語で話しなさいよ!」

 

アリサとノンナが悪戯っぽく笑う。エリカは頬を膨らまして拗ねるが、その雰囲気は柔らかく、温かなものだ。

 

「うう、ヘルキャットに乗りたかったですわ」

「隊長ならまた、乗せてくれるわよ」

「マジですの?!」

「なあ、アタシもいいか? アリサ」

「じ、自分も!」「私も!」

「戦車バカね、ホント」

 

ローズヒップもアリサの言葉にぱあ、と表情を明るくした。そして、その言葉に薫子、ぺパロニ、優花理が続く。アリサはこのメンバーでチームを組んだらどうなるのかを想像し、小さく笑った。

 

そんな時、T-34の隣に一台の戦車がやって来た。その車体はまるで自動車のような小ささで主砲は二門の機関銃のみという、イタリアの軽戦車CV-33であった。

 

「ぺパロニ! お前勝手に行って!」

「あ、姐さん」

 

小さな車体から薄緑の縦ロールのツインテールの少女、ドゥーチェことアンチョビが出てきてぺパロニが顔を近づけた。

 

「何やってんすか? お店は?」

「お前が言うな! それより怪我とかしてないだろうな?! 勝手に戦車に乗るのは止せ! 心配するだろう!」

「すんません!」

 

目尻に涙が見えたので、ぺパロニは頭を深々と下げて謝った。アンツィオではドゥーチェに心配されることほど罪な事はないのだ。皆大好きアンチョビ姐さんの涙に逆らうことは誰にも出来ないからだ。

 

「罰として、あとで中央広場でパスタを振る舞うんだぞ!」

「え?! でも!」

「夜の部のパーティーだ! 皆に美味しいパスタを作るんだぞ!」

「……ハイっす!」

 

それはぺパロニに対するバツであったが、同時に夜の学園祭を盛り上げること間違いなしのスペシャルイベントでもある。その言葉にタンクデザントしていた七人は歓声を上げ、ハイタッチをするなどして喜びを分かち合った。

 

戦車道は友達を作る――これは西住みほの言葉であり、事実その通りであった。学園も戦車もまるで違う乙女たちが一致団結し、試合後に仲良く談笑する。煤にまみれて汗をかいた彼女達が魅せる笑顔は爽やかで生き生きとしている。

 

戦車道は戦争ではない。だからフェアに行うし、皆で力を合わせることができる。戦った後のこの時間こそ、戦車道の全てなのだろう。そんな時、音楽隊が彼女達を見て、気を利かせ、楽曲を変えだした。リパブリック賛歌からパンツァーリートへと変えたのだ。

 

「パンツァ―リート?!」

「何で?!」

「エリカ! シング!」

 

突然のパンツァ―リートに驚いていると、いつの間にか近くに来ていたケイに歌え! と言われてエリカがオドオドしていると、優花理が歌いだしたので、渋々歌うことにした。

 

「もっと大きく! ラウダー!」

 

ケイがマイクを手渡し、つい、楽しくなって、その気になってしまったエリカはパンツァーリートをドイツ語で歌ってしまった。優花理とのデュエットで歌われるパンツァ―リートに観客たちは拍手を送る。

 

一番が終わると曲が変わり、今度はカチューシャが演奏されたのでノンナがその美声を披露した。勇ましさではなく、優しさを感じさせる歌は聞くもの全てを魅了する。

 

さらに即興メドレーはフニクリ・フニクラと続いてぺパロニが熱唱する。その歌唱力は目を見張るものがあり、隣でアンチョビが胸を反らして得意げな顔をしていた。

 

そして、次に流れたのはブリティッシュ・グレネーディアと思いきや、演奏されたのはティペラリーの歌。英語の歌と言うことあって、薫子、アリサ、ローズヒップが三人で一番を歌った。三人の歌声は可愛らしく、これまた武骨な軍歌が華やかな乙女の歌へと変身を見せた。

 

もっと驚いたのは繰り返しの部分に入った途端、サンダースチームも含めて全員が歌に参加し、戦車道の女子全員の大行進曲へとなった。

 

「 ティペラリーまでの道のりはひどく長い。けれど心はいつもそこに」

 

それはサンダース校開校以来、最高の盛り上げを見せた学園祭となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?年後のとある番組にて

 

 

『はい、以上がサンダース高で起こった事件なんですね~。いやあ、凄いですね~女子高生のパワーと言うか。何というか、とにかく伝説になったんですよね?』

『ええ。まあ、裏では映画部の戦車に使われる弾薬がごっそり無くなったとか、後でプラウダで内戦が起こったとか、スぺツナズが来たとの噂もありましたが、ともかく伝説ですね』

『で、この出来事がこの度映画になったということですね?』

『そうです! おかげさまで大ヒット! ロングラン! 4DXに爆音上映とうなぎ上りです! しかし、残念な事がありましてね』

『何です?』

『当時の、主役の七人となった方々をご招待したのですが、予定が合わなかったのですよ、せっかく、当時の映像をノンフィクションで……』

 

とあるおバカな番組を端を発したノンフィクション映画が公開中に何名かが枕に顔をうずめてバタバタしてたらしい……

 

理由はまったく分からないが。

 




嘘予告 プラウダ・シビルウォー 
カチューシャを巡り、ついに二人が激突! ぶつかり合うT-34! 空を飛ぶKV-2! 介入するロシアの精鋭スぺツナズ! そしてカンテレの音が鳴った時、カチューシャの明日はどっちだ?!

鋭意制作中!

それはさておき、これでとりあえず番外は終わりです。今後も更新を続ける予定ですので、少々お待ちください。

感想などお待ちしております。

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