ガールズ&パンツァー 狂せいだー   作:ハナのTV

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VS文科省 

様子を見て、このお題でお話を書きます。


リスペクト!

文科省、それは日本において教育関係の政策を担う重要な機関である。だが、今この機関はある重大な問題に直面していた。

 

「何故こんなことに……」

 

ブラインドを締め切り、暗い部屋の中でお偉い役人たちは視線を長テーブルへと落とし、自分たちの置かれた状況に頭を悩ませていた。その問題とは単純な話、“信頼”である。

 

二度にわたる大洗廃校騒動は彼らの信頼を大いに失墜させた。口約束の反故、強引な廃校に加えてありえない期間短縮、それに伴う大洗女子学園生徒並びにその保護者、関係者の引っ越し、学業への影響、就職斡旋に関する脅迫まがいの言動などあげれば、キリがないが特に大学選抜戦が致命傷となってしまったのだ。

 

選抜戦における文科省の露骨なマネは戦車道界隈だけでなく、一般においても非難の対象となった。8両対30両の私刑まがいの殲滅戦を行おうとしたことなどがそうだ。数で負けている上にM26パーシングを主力とした選抜チームに対し、性能がまちまちな大洗の戦いを見て、誰が大洗チームが勝つと言えるだろうか。

 

カチューシャとノンナで背比べ対決をするようなものだ。真に戦をするなら、沙織とアリサで非モテ対決をするぐらいには対等でなくてはならないというのに、だ。

 

あえて弁明するなら、大洗は一応全国大会優勝校であること、西住流の才女が指揮官だったこと、世界大会が殲滅戦基準である、と言うことで苦しいながらもいい訳できたかもしれない。だが、問題はカールだった。

 

カールは本来オープントップで装填は人力によるもので、四号戦車を改造した砲弾運びと21名近い人員があって初めて運用できる。だが、文科省はレギュレーションに合わせる為に屋根をつけ、自動装てんに改造したのだ。1945年までの技術でこの巨大な砲の自動装てんはあり得ないもので、ルールを守る為にルールを破ったトンチンカンな車両となったのだ。

 

こんな車体を使うクソッタレ野郎は大洗を叩きつぶすために用意した日本の文科省ぐらいなもので、非難轟々。バッシングに次ぐバッシング、ネットは炎上、遠い地のドイツの女子高生までもがTVで「恥知らずの卑怯者」「みほをいじめるな」と評する始末で海外のメディアはこぞって「流石は日本の誇るお役人様で、自ら失態を演じて人事異動を楽にしていらっしゃる」。「カールはかっこよかった」等、お褒めの言葉を惜しみなく発信した。

 

こんな事なら10式戦車だかM1エイブラムスだかにテキトーな第二次大戦時の戦車の外装を被せるべきだったと彼らは散々後悔したが、後の祭り。信頼は消えた。

 

それ以来、文科省の役人や関係者が学園艦に赴くと、「カールが来た」や「えんがちょ」と言われ、誰もが白い目で見るようになり、「無能」「お役所様」「七三分け」などと皮肉と最大の侮蔑を込めて呼ばれるまでになったのだ。

 

少し前まではJKにソフトタッチまでは許されたはずのに。

 

「こんな……! どうして…! こんな理不尽な事が!」

 

ぐにゃりと視界が歪む。関わった者が一人、また一人と辞職に追い込まれ、そこから逃れようと責任を擦り付け合っても状況は変わらず、勝ち組人生のレールを突如として爆破された役人の皆様は脱線し谷底へと真っ逆さまに落ちていくのだ、

 

そんな虫の息な彼らが騒いでも、怒っても、事態は好転する訳がなかった。せっかく解体業者から“山吹色のお菓子”や札束の詰め合わせをたくさん受け取ったり、渡したりして入札も終えた後でこの事態。誰もが大洗、特にチビのツインテールを恨み、特に特に西住流を呪った。

 

彼らの栄光の出世ロードが狂ったのは間違いなく、あの二人であると叫び合った。言葉に表現できない罵倒の言葉を腹いっぱいに怒鳴り散らし、過去の栄光に縋り付く彼らを角谷杏が見れば、指さして笑うことだろう。「ざまあ、見ろ」と。

 

きっと干し芋を齧りながらVサインをして見せつけるだろう。もしかしたら、アンコウ踊りでさらに煽るかもしれない。とにもかくにも、女子高生に負けた大人達の威厳は木端微塵になったのだ。

 

「こんな事になったのは誰のせいだ!」

 

誰かがもう一度問う。その答えは皆決まって西住流か角谷杏なのだが、ここである一つの学校の名前が呟かれた

 

「聖グロリアーナ……」

 

その時、喜劇が始まった

 

そう、こんな事になった要因。それは全国の戦車道チームを呼びかけた、あの学校に彼らの矛先は向けられた。

 

 

 

 

 

 

「ただいまですわー!」

「ただいま帰りました」

 

聖グロリアーナの韋駄天コンビが戦車道クラブの扉を開けた。二人は校章がでかでかと張り付けられたサンダース高の学園祭限定パーカーを制服の上から羽織り、ローズヒップはともかくとして、薫子も同じ格好をしているのにクラブの面々は多少驚いた。

 

「アラ、珍しい格好じゃないか」

「荒運転してたら、制服がちょっと汚れてしまって」

「サンダースは楽しかったですわ! M22ローカストでソレはもう! ドッカン! ドッカンでしたわ!」

「それは何よりだな」

 

二人の元にルクリリが赴き、他愛のない会話をする。クラブのいつもの光景の一つだったが、普段通りのルクリリに対して薫子は冷汗をかき、ローズヒップは首を小さく傾げていた。

 

「ところでルクリリさん?」

「何?」

「何ですの? その恰好、カッコいいですわ!」

「と言うか……」

 

薫子は一拍置いてクラブの面々も含めて言った。

 

「何してんですか?!」

 

薫子の前に広がるのはちょっとおかしな光景であった。テーブルや椅子をひっくり返し、積み上げられた土嚢袋と一緒にバリケードの一部とされている。土嚢の上にはブレン軽機関銃やルイス機関銃が置かれて、クラブのお嬢様達の美しいお手には武骨なエンフィールド小銃やL85、エンフィールドリボルバー、果ては古風なマスケットライフルにレコードなど様々な銃器や凶器が握られていた。

 

目の前のルクリリなどは洗面器の様な形のヘルメットを被り、L1A1小銃を握っている。華やかで慎ましい、紅茶の園は消えうせて、戦争の最前線と化していた。だが、一体何の戦争なのかはローズヒップはともかく、薫子も分からなかった。

 

「決まってるだろ、戦争だ」

「分かりませんよ! 全く!」

「貴女達がいない間に色々あってな、件の人物が来てもいいように備えているんだ」

「来たらどうするんですの?」

「勿論」

 

その場にいる全員が初弾を薬室へと送り込み、先頭のルクリリがニコリとアルカイックスマイルを浮かべる。

 

「英国のお嬢様なら当然、淑女のお迎えをする お、も、て、な、し」

「もう、ルクリリさんったら全くワッケわかんねーだから、ですわ」

「そう褒めるな。ローズヒップ」

 

おもてなし、別名正当防衛とも言う聖グロにあるまじきメリケン式の作法に薫子は絶句し、いっそ清々しくも感じた。一方でローズヒップはヘルメットを人差指でクルクル回して遊んで聞いていなかった。

 

「状況がWTF(Whats the f○ck)過ぎて、まるで分かりません」

「分かりやすく言うとな、役人だ」

 

ルクリリたちはローズヒップたちに状況を話しだした。そも、こんな状況になったのはローズヒップたちがサンダースで暴走、ではなく偵察を行っている間に聖グロリアーナ女子学院学園艦に文科省のあん畜生共がやって来たのだ。

 

日本の戦車道に関わる者なら誰もが知っているメガネの七三こそいなかったが、役人には貴賎なし、と言うか野蛮人はどこまでも野蛮人である。彼らは査定と言う名の侵略、もしくはいちゃもんを始めだしたのだ。

 

プロリーグのために少しでも予算をと言うことで、半ば私立校じみた学校だが、流石に学園艦ともなると、システムの運用やら予算に文科省の愚民共が関わってくるため、彼らはそれを利用し、あらゆる事で文句をつけて来た。

 

曰く、テニスコートが広すぎる。曰く、紅茶や調度品に金をかけすぎている。あるいは、今週中に無駄にされたジャガイモのg量をデータ化しろ。寄宿舎は今の半分にするべきだ、お嬢様だからと言って、贅沢につかるのは品位に欠ける、など。この学園艦そのものが気に食わないご様子で二段バスの高さにも口を尖らすものだから、学園艦のお貴族様のフラストレーションはたまる一方であった。

 

「あとは砂糖漬けのマンゴーは健康に悪いから、メニューから消すようにとも言ってたかしら?」

「違いますわ。新鮮なフルーツは風邪の元だと」

「挙句は戦車道のOB・OG会に直談判しに来たんだぞ。オレンジペコさんが紅茶を淹れている最中に、だ」

「私のマンゴーなくなったんですか!?」

「ペコさんのおっ紅茶の最中に?!」

「そっちかよ」

 

どこかズレた二人の反応にルクリリが力なくツッコんだ。だが、紅茶に関しては分からないでもない彼女だった。英国は茶と戦争の紳士な国、故に聖グロではお茶の邪魔をする者は例外なく、粛清の対象である。ちょうどイギリス本国がアイルランド人と相いれないように。

 

もしくは、ルクリリと大洗バレー部が永遠に敵であるのと同じだ。

 

そして、此処聖グロリアーナで最高の茶を淹れることができるオレンジペコの茶の最中に査察の手を突っ込むとは宣戦布告に近い、と言えるのだ。本来なら履帯で轢き潰してミートパイにしてやりたいところなのだ。

 

だが、それでも耐えているのは彼女等がレディであるからなのだ。

 

「大体、抵抗するなら戦車を使えば」

「薫子、分かってないな。戦車を汚したらいけないだろ?」

「自分の手は汚してでもですわね?!」

「その通りさ。レディだからな」

 

この通り、戦車を汚すことより、自らの手で役人のはらわたを引き裂き、手を汚すことを辞さない生粋の、純然たるレディな戦車道の乙女なのだ。

 

「こんな時にダージリン様は一体どこに……」

 

メンバーの一人がため息交じりに疑問を述べた。

 

「紳士服店に行ったのでは?」

「違いますよ。保険屋のおじさまとお茶をしているのでしょう?」

「え? 私は王立騎士団とか、聞きましたわよ?」

「マットレスを買いに行ったのですよ」

 

だが、誰も知らない。あの変人の居場所を誰一人として正確につかめていなかった。顔を互いに見合っても、皆怪訝そうな顔をするばかり。彼女等はこの時、ここで頼れるダージリン様がいれば、と考えた。実際、あの二枚舌で訳の分からん格言と妙な迫力と最高の淑女としての品格で押せば、役人ごときの下賤な輩は簡単に撃退できるに違いない、というのが彼女等全員の思いであった。

 

同時に「また、ややこしくしないだろうか」などと言った不安もよぎったが、とにもかくにも隊長がいてこその戦車道、ダージリンがいてこその聖グロリアーナ戦車道クラブなのだ。

 

「で、どこにいるんですの?」

「私は対ドイツ人用の殺人ジョーク取りに行ったって聞いたぞ」

「何が何やら」

「でも、どれもやってそうなのがダージリン様だよな」

「それも、そうですが……貴女本当にダージリン様を慕ってるんですか?」

 

この場をとりあえず仕切っているルクリリからの回答も期待した分、落胆も大きい物となった。その内、魔法学校に転校でもしたのではないか、とすら思ってしまう彼女だった。

 

「気にすることでもありませんわー。言うだけ言ったら、きっと帰るに違いありませんわー」

 

戦車道用の手榴弾でお手玉しながらローズヒップが薫子とルクリリに言った。ルクリリはローズヒップの慣れ切った雰囲気を感じ取って「ほう」と感心した。

 

「エラく、お前にしては建設的な発言だな」

「当然ですわ! そんなの兄嫁の子供と一緒ですのよ! ウンウン頷いて玩具あげれば、素直になりますのよ!」

 

ローズヒップの頭では役人=兄嫁のガキ(推定10歳以下)であるらしかった。

真理をついた言葉に感嘆の声を上げたが、この時ルクリリと薫子は頭の中で玩具を取り合うローズヒップの姿を何故か連想した。

 

「それより、喉乾きません?」

「お紅茶淹れてきますわー!」

 

ローズヒップが五つの手榴弾でお手玉しながら茶葉を取りに行こうと扉を開けた時、その向うの人影がルクリリたちには見えた。

 

「待ちたまえ、キミ」

 

ローズヒップの前に現れたのは髪を七三に分けた脂ぎったおデブだった。高級そうだが、聖グロ的にはお安いスーツをはち切れんばかりに着こなし、蒸気機関車のように「ぶふー」とか「しゅー」と呼吸を荒立てている男だった。

 

「聖グロリアーナの生徒と言うのは人にぶつかって挨拶するのが常識なのか……」

 

皮肉を言うついでにローズヒップの尻に手を伸ばそうとしたが、ローズヒップの走りは戦車でなくても止まらない。そんな聖グロの常識を知らない役人にローズヒップは全く気付くことなく、彼を弾き飛ばした。

 

圧倒的体格差にも拘らず吹っ飛ばしてしまい役人は壁にめり込んだ。ついでにローズヒップが持ってた戦車道ショップご用達、聖なる手榴弾とガモン手榴弾(夫婦喧嘩用)が倒れた役人の下に転がって、爆発した。

 

空気が大きく振動して、大きな音がルクリリたちの耳に届いた。彼女達は耳をとっさに防いで、ついでにガスマスクもつけた。

 

「どうだ?」

 

ルクリリがメンバーの一人に聞いた。

 

「見て来い、バニラ」

「えぇ……」

 

バニラと呼ばれたメンバーの一人が注意深く近づき、確認した。すると、そこには大量のマーマイトで真っ黒になった役人がいた。

 

メンバーが流石に哀悼の意ぐらいはしてやるか、と思ったがローズヒップが突然帰って来た。

 

「というか、戦車道のお時間ですわ!」

「わッ 本当だ!」

 

お嬢様全員が一斉に移動しだし、誰も彼を気にかけることなく踏んで行った。呻く役人にリスペクトの欠片もないまま放っておいて行ってしまった。

 

「お、覚えていろ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し出かけてくるわ。ペコ、アッサムしばらくの間お留守番をお願いね?」

「はあ、それは構いませんけど……」

「下賤な役人はどうするの? ダージリン」

 

アッサムのストレートないいようにダージリンは構うことなく、「そうね」と言い、少しだけ考えて答えた。

 

「任せても大丈夫でしょう。お馬鹿みたいに歩くのが能の彼ら程度、頭を悩ませることも無いわ」

「それも、そうですが……というか何しに行くんですか?」

 

アッサムとペコは気になっていた。ダージリンがどこへ何しに行くのか。噂がさらなる噂を生む。この英国面の暗黒卿が何を企んでいるのかは聖グロリアーナの女子の間でかなりの話題になっていたので二人も気になって仕方無かった。

 

「そうね? こんな言葉を――」

「また格言ですか?」

 

ダージリンの格言をアッサムとペコが遮ったがダージリンはめげずにコホン、と咳払いして言い放った。

 

「『力が主になるのなら、正義だって召使になる』ということよ。では、ごきげんよう」

「はい?」

 

それだけ言ってダージリンは二人の前から去っていった。そして彼女は二人が見えないところで一枚の手紙を取り出した。

 

それは招待状であり、全国の学園艦の主な人物が呼ばれている物で便りは大洗から来ていた。

 

 

 

 




最近、ネタが思いつかず迷走していますが楽しんでいただければ幸いです。

また今回のVS文科省ネタとは別に次回プラウダネタを行う予定で、個人的に一番好きな戦車を出そうと思っているので、ご了承ください。

感想いつでもお待ちしております。

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