ガールズ&パンツァー 狂せいだー   作:ハナのTV

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今回はパロディ多めです


meet Rose hip !2

人間は競争が好きである。これは業績や成績の話ではなく、単純なかけっこという話である。小さいころ、特に男子では足の速い者こそがクラスで尊敬を集められる事が出来た。足の速い者がクラスを制すると言っても過言ではない。大人になっても、人はかけっこが好きで、お馬さんやお舟が競争するのに一喜一憂し、オリンピックでも徒競走やリレーは立派な競技として存在している。

 

人間は走ることが好きなのだ。

 

「ホラ、薫子! 行きますわよ! お早く!」

「ま、待ってください」

 

薫子のクルセイダーの車長として配属された“ローズヒップ”は本当に走ることが好きな子であった。どこだろうと駆け足で廊下で上級生と衝突事故を起こさないものか、と薫子はハラハラしながら後を追っていた。

 

それにローズヒップの体力は底なしなのか。実はガソリンで動くサイボーク少女ではないかと疑うレベルでお嬢様の薫子にはついて行くのがやっとであった。向かう先は戦車ハンガーであるが、薫子はひいひいとクルセイダーにたどり着いた時には疲れ切って砲塔の上でへたり込んでしまった。

 

「疲れたんですの? 毎晩、ちゃんと寝ないとダメですわよ?」

 

貴女のせいだ、と薫子は言えなかった。戦車と共に数週間、薫子はこの赤毛の少女が恐怖の権化となりつつあった。恐れを知らない彼女に付き合わされることがどれ程のものか、彼女は段々と理解して来たのだ。

 

まず車両性能差をものともしない。象とアリのような性能差だろうと彼女は「突撃」を命じる。五対一で流石に後退するだろうと思ったら、やっぱり攻撃する。アールグレイのお遊びでチャレンジャー2と相手させても、クルセイダーで突撃をかます。お局様の上級生の面目を潰さないように皆が配慮していたところをガン無視してぶっ潰す。

 

知波単学園と聖グロリアーナを間違えて受験したのかと思わん程の負けん気の強さに薫子は毎日灰になって帰路につくのが日課となっていた。

 

極めつけはダージリンとアールグレイに市販のペットボトルに紅茶を差し出す。作戦会議中にクルセイダーにジェットエンジンを積もうと進言する、カチューシャを小学生と呼ぶ、とにかく、ありとあらゆる局面で暴走するのだ。

 

「今日は貴方がローズヒップ車の砲手ね」

「これ、私の手紙をお父様の元に送ってください」

「バカ! 自分で渡しなさい!」

 

横目で見ると自分と同学年の子が涙と共に抱き合っていた。ローズヒップ車の砲手はくじ引きで決められる事になり、クルセイダー隊の一年生は毎週ロシアンルーレットをやらされている。

 

見事当選した者にはもれなく千羽鶴と白パンと無花果のタルトを差し上げられ、当選者は親友に“万が一”のための手紙を渡すのが通例となった。更にハンガーにポツンと置かれたホワイトボードを見れば、数々の励ましの言葉の上から大きく「どうせ皆英国面堕ち」と大きく塗りつぶされていた。

 

「何であんな事書いた?! 言え!」

「もうおしまいですわ。 皆赤毛の悪魔に駆逐されるのですのよ! 貴女も! そこの貴方も! 私も!」

「諦めるな!」

「何か泣けますわね。友情ですわ」

 

違う貴女のせいだよ、とはやっぱり言えなかった。薫子は仕方なく、クルセイダーの車内に入り、操縦席に座る。そしてため息を吐いた。正直、彼女はこの操縦席が好きではなかった。クルセイダーの操縦席は変速レバーが座席に非常に近く、操縦手が座るとこれを太ももで挟み込むような姿勢を取らなくてはならず、操縦するには足を広げなくてはならない。早い話が“がに股”になるのだ。

 

もし、ここに何らかのカメラ的な物を仕込めば、それこそスカートを履く戦車道乙女の白か、黒か、あるいは紫色の桃源郷をお目にかかれるかもしれない。下種な話は置いておくとして華の女子高生、聖グロリアーナ女学院のお嬢様にとってコレは相当恥ずかしく、故にクルセイダーの操縦手は不人気なのだった。

 

「夢のようですわね!」

「どっこい! これが……私の現実! 逃れようのない現実……!」

 

歓喜に溢れるローズヒップと悲しみに暮れる薫子の差を後から入って来た同級生は目にして涙を禁じ得なかった。天国と地獄とはこの事か、砲塔と車両側でキレイに分かれていた。

吉田家のご令嬢が股を開いて、クルセイダーの運転をするなど悲劇以外に例えようが無い。

 

事実薫子は何もかも呪いたかった。現実とこんなレイアウトにしやがった英国の技術者を心底恨んだ。英国面と言えば、何でも許されると思ったら大間違いだ。ややこしいエンジンに意味わからんリミッターなんてつけやがって……薫子は拳を壁に打ち付けてしくしく泣いた。

 

「何泣いてるんですの?」

「がんばれ~自分。負けんな~。ちーからーのかーぎり生きてや~」

「あ! 私そのお歌知ってますわ! 私もお歌いに……」

「そっとしておいて下さい」

 

砲手の子が涙を呑んでローズヒップを止めた。ローズヒップは小首をかしげて、とりあえず納得したが。操縦席から聞こえる湿っぽい声はとどまることを知らない。

 

「ちなみに今日は何をするんですか?」

「今日は模擬戦でサンダースとドッカンドッカンやりますわよ! 何でも、向うに鼻の長いイギリス戦車がいるってダージリン様仰ってましたわ!」

「シャーマン主体のサンダースって事は……ファイアフライ?」

「砲手がスゲーらしくて1000m狙撃も余裕らしいですわ! これは是非挑みに行きませんと!」

「OH MY GOSH!」

 

砲手と薫子が同時に叫んだ。 本日の苦行のメニュー、シャーマンの76mm無間地獄を前菜とし、メインディッシュに17ポンド砲、デザートにアールグレイ様とダージリン様の愉悦締めと決定した瞬間だった。

装甲の薄いクルセイダーに対ティーガー用の17ポンド砲などオーバーキルもいい所だ。

 

「相手が優しくて17ポンド砲を撃つのを控えてくれる事ないでしょうか?」

「この前、CV33に二発当てたそうですわよ」

「鬼! 悪魔! ダメリカ! デカ乳! そんな事して何が楽しいんだ!?」

 

砲手は大泣きして、未来に絶望しかないことを嘆いた。仮にその砲手に訊けば、ガムを噛みながら「当たったら嬉しいだろ」と至極真面目に答えるだろう。だが、薫子たちにとってはそんな事知ったことではない。

 

唯一つの真実、死ぬような目に会うことは絶対なのだ。死なない戦車道は時として無間地獄になり得るのだと理解した時には遅かった。今の彼女達の目は光を失い、死人同然になっていた。例えるなら、虎と接敵した米軍戦車兵、ベルリン防衛戦時のドイツ兵、この一年後に戦車道を強制させられる西住みほ、あるいはグレたソド子と同じような目をしていた。

 

『ローズヒップ』

「はい! ダージリン様」

『いいニュースと悪いニュースがあるのだけれど、どちらから先に聞きたいかしら?』

 

そんな時、こんな地獄に叩き落としてくれた尊敬すべき淑女、ダージリンから通信が入って来た。薫子と砲手はすがるような思いで、吉報を待った。

 

「どちらでも構いませんわ!」

『では悪いニュースから。相手の隊長は中々の名将よ。優勢火力ドクトリンが好きだそうから孤立しないように。それからクルセイダー隊で動ける車両が現在貴女とバニラしかいないわ』

 

優勢火力ドクトリンとは単純に1対10でボコボコに潰すと言う戦法の事だ。一台の火力で勝てないなら、その十倍ぶつけよう、と言うアメリカの物量合戦戦法である。薫子と砲手は考えた。つまり、最悪性能でシャーマンに負けているこのクルセイダーにシャーマンを何台ぶつけるつもりなのだろうか? 互いに顔を見合って車長を見たが、よく意味が分かっていないご様子であった。

 

「それでいいニュースって?」

『貴方に敵の後背を突く役割を与えるわ』

「いやっほう!」

 

苦行メニューに書き加えなくてはならなくなった。特攻戦車ローズヒップ、楽しければ何でもやってのける命知らず。不可能を可能にし、巨大な戦略をぶっつぶす私達特攻野郎クルセイダーズ。重戦車だろうと突っ込んでやる、でも17ポンドは勘弁な、と薫子は妄想の世界へと駆けこもうとしたが、ローズヒップが両肩を掴んで揺らして喜びを共有しようとしてきたので、ソレも叶わなかった。

 

「さあ、今日も明日もクルセイダー! リミッター外してドンドン6ポンド砲をぶち込みますわよ!」

 

砲手と薫子は震えながら手を取りあった。願うは自らの生存と安寧。もはや名誉も誇りも要らない。ただ一つ、彼女に怯えない砂糖菓子のように甘い眠りを欲した。つまるところ、彼女達の願いは一つだ。

 

神様助けて。

 

しかし、結局のところシャーマン8台VSクルセイダー2台の壮烈な戦いになったのは神様の気まぐれか、あるいはチャーチルで紅茶を飲んでる“あの二人“の企みによるものか、答えは出なかったと言う。

 

 

 

 

 

 

その日、クルセイダーに乗る一人の不幸な少女がいた。昨年から続いていると言うロシアンルーレットに敗北し、狂気と恐怖の支配するクルセイダー、ローズヒップ車に砲手として乗車した彼女はひたすら祈っていた。

 

「エンジンが動きませんわ!」

「こんな時に!」

 

ルクリリ、ニルギリのクロムウェルとマチルダⅡの連合チームとコメットとクルセイダーのチームに分かれた実験的な試合に参加したが、戦闘中に離脱したローズヒップ車がエンジントラブルを起こし、ハンガーで必死に修復作業を行っていた。

 

「お願い……動かないで!」

 

砲手はひたすらにそれだけを祈っていた。薫子とローズヒップのコンビは悪夢であった。普段は淑女らしい薫子は豹変し、急にV12とひたすらに叫び、ローズヒップと同調して奇襲をかけるまではまだ良かったが、そこからは四方から聞こえる砲声と砲塔や車体を掠める砲弾の音と訳の分からない混沌に叩き込まれ、車内に響き渡る薫子の悲鳴とも歓喜とも取れる叫び、ローズヒップのテンション爆超の笑い声で心底恐ろしくて仕方なかった。

 

「動け! 動けってんだよ!」

 

エンジンをかけようとし、かからない事に薫子は丁寧な口調をかなぐり捨てて、ガンガンとクルセイダーを蹴る。怖くて車外へ出ようとすればローズヒップが後部のハッチを開いてエンジンをペシペシと叩いている。

 

「おふざけも大概にしなさい! 貴女は戦うために生まれたのでしてよ! さあ! 今すぐ起き上がりなさい! 私と一緒に走りなさい!」

 

エンジン、戦車に語り掛け動かそうとする彼女等に砲手はガチガチと歯を噛みあわせた。ここで動かなくなれば、少なくとも彼女が当番の時期は出撃しないで済む。もう、あんな特攻を味合わなくて済むことを砲手は願っていた。

 

そして砲手は、もしこのままクルセイダーが動かなければ自分をこんな所に叩き込んだ級友たちに仕返しをすることを心に決めていた。あの最後の言葉「私の為にイケ」と言った級友たちに殺人メシマズパイをぶつけて真っ黒に染めてやる、と復讐を誓った。

 

彼女はメンバーは兄弟、級友は家族。そう言ったことは全て嘘だったと気付くのに半日遅かったのだ。そして、もう一つ奴らを甘く見ている事にも気づいていなかった。

 

「動けぇ!」

 

ローズヒップと薫子の声が重なった時、クルセイダーが眠りから目を覚ましてしまった。大きく排煙をまき散らし、エンジンが唸りを上げて自らの覚醒を声高に叫んだ。それはまるで、彼女達の魂に呼応するように。それはまるで、砲手を嘲笑うかのように。

 

「イエイ! 動きましたわ! 薫子ぉ!」

「貴女の叫びが気に入ったに違いないですね!」

「クルセイダー女王陛下ですわ!」

 

はしゃぐ二人を交互に見て砲手は十字を切った。

 

 

如何なる時でも優雅であれ――聖グロリアーナ女学院。

 




I don't want no German tank!
I just want my Crusader! の精神でこの作品は成り立っています。

まだまだ戦車や軍事に関してはにわかもいい所ですが、ネタにしつつ頑張っていきたいですね。

感想お待ちしてます。





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