ガールズ&パンツァー 狂せいだー   作:ハナのTV

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この話は番外編を読んでおくとより楽しめると思います。

また、この話はガルパンをよりラノベ風に書いた作品であり、おふざけです。

本作品のパラレルワールドだと思っていただきたいです。


番外 Golden age

?年後

 

人が生きていくには何が必要か。哲学の様な答えを期待されているのか、と思うが回答は非常に簡単である。食い物と服、雨露凌げる家、とりあえずこれだけあれば、生きることが出来る。

 

無論、人間は幸福を追求する生き物なのでより理想的な環境を求める訳だが、理想的な家を探すのは現代社会においては結構な難題である。何せ、便利で広ければ高く、安ければ何かと不利益が目立つのだ。

 

「何とかならないんですか?」

「この予算だと……難しいねぇ。もう少し早ければ、他の学生さんの前に用意できた部屋があったんだけど……」

 

そんな苦労をこじんまりとした事務所、「マーケットガーデン不動産屋」と言う看板が掲げられた場所で、逸見エリカは味わっていた。推薦で受かった大学に進むのは何の問題もなかったのだが、引っ越しをする時期が遅くなってしまい、いい部屋を取られていたのだ。

 

エリカは頭を抱えて後悔した。来年の黒森峰の為にと、時間のほとんどを引き継ぎ作業と出来る限りの練習、後輩の指導と忙しくしている内にすっかり引っ越す作業をするのを忘れてしまい、この有様。

 

母をカンカンに怒らせ、姉に大笑いされたのでアッパーカットでKOさせてからと言うもの、探せど探せどお部屋のカタログは売り切れの四文字で埋まっている。このままでは家族の物笑いの種だ。こんなことなら、赤星や直下にもう少し頼るべきだったと思っても後の祭り。

 

どうしようか、と思っていた時不動産屋の親父が口を開いた。

 

「逸見さん。シェアルームってできるかい?」

「シェアルーム? 誰かと部屋を共有するって事ですか?」

「うん。ちょうど空きがあったのを見つけたんだ。しかも同じ大学の戦車道の特待生らしいから気が合うんじゃないの?

 

気が進まない。誰かと居住空間を一緒にするなど性に合わない、エリカは自分の性格の難を自覚していたし、そのせいで何かと他人と衝突して来た。しかし、自由には金が要ると言うように、金のないエリカに選択の自由はない。

 

「……分かりました。ではそこで……」

「はい、決まりだね。じゃ、早速サインを。ああ、あと印鑑ね。それから、戦車用のガレージも一応あるから……」

 

そこからは異常に速く決まっていった。それはもう、砲弾のようにスムーズに。しかし、エリカはこの時、疑問に思うべきだと述懐した。考えても見れば、親父に乗せられたのだ。そう、そんな簡単に手続きが進むわけない。

 

つまるところ、はめられたのだ。

 

 

 

 

 

雀が鳴き、そよ風で木々が揺れる。学園艦の上に建てられたシェアハウスには波の音が心地よく聞こえ、カーテンを開ければ太陽が朝の挨拶をしてくれる。エリカは寝ぼけたまま、ノロノロと洗面台へと行き、顔を洗う。

 

『――大学ラジオ。貴方の朝のお友達。宇津木優季がお送りしまぁす。今日の最初の曲はぁ、ペンネーム 戦車道は乙女の誇りであります さんから黒い戦争です。大昔のロックを朝からなんて大・胆 ですね。それではどうぞ~』

 

リビングの方からは朝のラジオが流れる。甘ったるい声の人気DJに耳を傾けつつ、エリカはジーンズにタンクトップのラフスタイルに着替えてソファに座る。

 

「どうぞ」

「ありがと」

 

テーブルにコーヒーが置かれた。エリカの好み通りのブラックの濃い目のソレは高い豆で挽いただけあって、香りも味も極上である。テーブルに置いてある新聞に目を通して、朝を過ごす。黒森峰時代から変わらぬ朝の習慣。植物のように穏やかな朝。

 

清々しい気分だ。エリカは歌すら歌いたくなるほど、落ち着いていた。

 

「おはようございますわ! 朝から元気にご挨拶! 聖グロからの韋駄天ローズヒップただいま起床ですわ!」

「おはようございます! おお、リクエストした曲が流れているであります!」

 

骨太のロックミュージックとやかましい二人がバタバタと起きてくるまでは。秋山優花理とローズヒップの声はまるで朝の鶏のようで、このシェアハウス「パッシェンデール」の朝の儀式となっている。

 

「よお、おはようっす。朝は何にする?」

「私カプチーノお願いします」

「勿論、お紅茶ですわ!」

「まっかせな!」

 

厨房からぺパロニが現れて、テーブルに朝ご飯を並べて行く。メニューは固めのパンにヌッテラというチョコクリームを塗ったものに、自家製のタルト一切れ。それにエスプレッソか紅茶か。そして、特製のオムレツを一皿加えて完成。

 

ナイフでオムレツを切れば、中からトマトやパプリカと鮮やかな具が盛りだくさんで焼き具合も最高にジューシー。エリカは憮然とした顔で口に運び、コーヒーを一口。実に美味い、一流のシェフも顔負けである。

 

「ああもう、朝からうるさい曲をリクエストして……一体何なのよ?」

 

振り返れば、エナジードリンクの匂いがキツイ、苦労役アリサがスウェット姿でヒドイくまを目元に浮かべ、だるそうに体を食卓へと動かす。死にかけの熊の様な鈍重な動きで皿のパンを齧っていく。

 

「また、レポートですか?」

「そうよ。頭の固い学務課に高速徹甲弾を注文するのに、性能評価が要るって言うのよ? こちとら講義だってあるってのに、全く。てか薫子、アンタ顔が絆創膏だらけよ」

「ええ、悪魔がまた私に囁いてきて……」

 

絆創膏がペタペタ張られたお嬢様が答え、アリサが苦笑い。

 

「なあ、秋山。見ろよ、コレ。こないだドゥーチェのところ言って戦車の写真撮って来たんだけどさ」

「おお! これは四号突撃砲! 三号突撃砲の代替え品ながらも、ラングよりも優れた操縦性をもつドイツの突撃砲! シュルツェンがまたイカしますね!」

「それにコレコレ」

「A7V! 角ばったボディがまたカッコいいですね! A7Vといえば、ドイツ初の戦車で、乗員18名で、生産数が極めて少なくレアなんですよぉ!流石はアンチョビ殿です!」

 

戦車談議が白熱して――

 

「薫子! 今日こそはレオポンを抜かしますわよ!」

「分かってます。GT-Rで王者の風を吹かせましょう アリサさん、あとで注文したパーツの方をよろしくお願いします」

「アタシを調達屋みたいにして、全く」

 

レースの用意をして――

 

「V6! V6! V6! エビバディセイ! V6!」

「ぶ、V6!」

「ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!」

「ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!」

 

実に、実ににぎやかな、にぎやかすぎる朝だ――エリカはコーヒーを最後の一滴まで飲み干して、勢いよく立った。

 

「何よコレぇ!? え?! 何なの?! 私の大学生活何でこんな事になってんの?! あの時の黒歴史メンバーとか、神様どうして、私の人生から安らぎを奪うの?! ホントに! マジで!」

 

得られたはずの穏やかな日々ではない。いつぞや、学園艦で盛り上がってしまったメンバーとまさかのルームシェア。しかも、気付けば此処で一年も過ごしてしまったではないか。

 

「楽しくないですか?」

「シャラップ!」

 

優花理の問いに叫び、

 

「なんだオムレツ不味かったか?」

「それは美味い!」

 

ぺパロニのオムレツの味に感動し、

 

「まほさんの所じゃあないからですの? それとも……」

「まさか西住殿と?!」

「ツンデレですか?」

「黙らっしゃい!」

 

憧れの隊長と一緒に居られないことを嘆き、

 

「まさか、アンタそっちの趣味なの?」

「そんなわけないでしょ! アンタはいい加減タカシにコクってきなさい! いつまで片思いなのよ!」

「できたら苦労しないわよ! アイツの周りに女の子何人いると思ってんのよ!」

「知るかバカ!」

 

八つ当たりして憎しみの連鎖。何故だ、どうしてこうなった。かつてのエリカの未来図はもっと穏やかだったはず。しかし現実は違う。朝昼晩のぺパロニの食事つき、大学まで徒歩八分。ただし、ガレージのGT-Rが夜な夜な聖グロ韋駄天コンビが爆走しにエンジンを吹かし、日替わりに訪れる優花理の元に表れる友人たちの熱いオタトークに惚気。週末はアリサの愚痴大会からの通算389回の米独口撃大戦。

 

夜はもっとカオスだ。時々、西住殿とドゥーチェがいないことでぺパロニと優花理が夜泣き。M24をスクラップにした日の夜は薫子が自分を自分で罵り、殴り出してホラー。ローズヒップは終始落ち着きがなく、ドタバタ。

 

「返せ! 私の穏やかな……植物のように静かな日常を返せ!」

「戦車道の乙女が穏やか……?」

「神妙な顔でリアクションするんじゃないわよ 秋山ぁ!」

 

寝る前にホットミルクにストレッチしてぐっすり熟睡し、小鳥のさえずり“だけ”に耳を傾けながら、コーヒーを味わう朝は消えた。いっそ、愛車のティーガーⅡでこのハウスを吹っ飛ばしたら、入学前に時間が逆戻りしてくれるのではないか、と妄想さえしたが、全ては失われた未来。

 

嘆こうが、手に入らない。ちょうど撃ちだされた徹甲弾が帰ってこないように。

 

「もういい! 私先行くから!」

「あ、エリカよぉ」

「何?!」

「晩飯何がいい?」

「ラグソースのジャガイモニョッキ!」

 

あいよー、とぺパロニ。エリカは速攻で着替えて、足早にガレージに行き、ドアを乱暴に開ける。ガレージ内はごちゃごちゃとしていて、カバーが掛けられたGT-Rにフィアット500、傘立てにつっこまれたパンツァ―ファウストの束、ジャガイモが詰まった木箱の山。大きな作業台には組み立て中の通信機が置かれ、机の横には野外用の大きな鍋。

 

「ああもう、邪魔くさいわね!」

 

悪態を吐き、優花理の私物のFlak 38対空砲を跨ぎ、愛車のBMW・R75へ。サイドカーにバックを放り投げ、エンジンを吹かせて発進――

 

「むぐ」

 

しようとしたが、サイドカーには先客がいた。でかい身体をちぢこませて入っていたブリザードなクールでドライなプラウダ娘、ノンナがいた。

 

「何でいるのよ!」

「ああ、すいません。つい、何だか此処が妙に落ち着きを得られると言いますか。どうも、エリ―シャはカチューシャによく似ているので、来てしまいまして……」

「あんなどチビと一緒に……!」

『もう一度言え。ジャガイモ野郎。今すぐ、貴女をぺリメニの具材にしてやりましょうか?』

「ごめんなさい!」

 

ロシア語で呟かれた一言にエリカは涙目で全面降伏。カチューシャ関連で落ち込んだ日には普段の撃破数が倍化するというノンナには彼女も勝てないのだ。最も、勝てる人間がいると言う訳でもないが。

 

「今度は何なのよ?」

「最近カチューシャの背が伸びてしまって……0.5mmも」

「誤差範囲!」

「もしカチューシャが私と同じ背丈になってしまったら……いや、それはそれで」

「お願い、もう帰って」

 

ノンナは渋々サイドカーから降りていった。エリカはやっと出発できると思い、ガレージからバイクを発進させた。

 

ああ、ようやくあの喧騒から抜け出せる。癒しは戦車の中と通学の時間のみ。植物のように穏やかな心を取り戻し、朝の爽やかな空気を肺に取り入れて、さあ快晴の空が眩しい、今日と言う一日に感謝しながら、大学へと向かおうとした時

 

「あれ? エリカさん。また朝に会っちゃったね」

 

一番苦手な奴(西住みほ)が向かいの玄関から出て来た。しかも照れて、天使のように微笑む小悪魔(エリカ視点)がやって来た。

 

「何でこうなるのよぉ!」

 

これは戦車道に生き、鋼の精神と身体、麗しき美貌を持ち合わせる逸見エリカの華麗なる大学生活。戦車に、青春、友情の人生の三種の神器がセットの人生の黄金期を突き進む少女の物語である。

 

 

 

 

「……良かった。時間ピッタリに会えて……」

「エッ」

 

もしかしたら、人生を彩る物がもう一つ――?

 

 

 

 

 




悪ふざけですので、続きません。

大学生エリカ主人公のラノベといったところです。


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