ガールズ&パンツァー 狂せいだー   作:ハナのTV

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ネタが思いつかばないので、番外編です。
弱冠の百合あり。


番外 Golden age ③

居酒屋「ダスティルドン」。――大学学園艦で最もポピュラーな居酒屋チェーン店である。価格は安く、量は多め。各学園艦からやって来る生徒に対応するためにワインからウォッカ、日本酒と他種多様な飲み放題コース付きの人気店である。

 

そんな「ダスティルドン7号店」の奥の小上がりの席では14人の男女が集まっていた。テーブルを挟んで座布団に座り、左右に男子と女子で分かれている。テーブルにはお通しの大根おろしと鶏ガラスープがあり、手元にはビールやカクテルなどが入ったグラスが握られている。

 

いわゆる合コンである。

 

「こんなことしなきゃいけないわけ?」

「仕方ないでしょ。沙織達がドタキャンしちゃった訳だし」

 

女子側の隅の席でエリカとアリサが耳打ちし合う。エリカは白いプラチナブロンドの髪を揺らし、項垂れた。元は沙織や優希らが企画した合コンらしかったのだが、二日前に風邪でダウンし、しかもそれが広がって参加者が全員倒れたのが原因だった。

 

そこで、沙織と繋がりがあったアリサが頼まれ、ちょうど良く七人そろっているシェアハウス「パッシェンデール」の住人に召集をかけたと言う訳だ。

 

幸いにして、住人の外見的なレベルは高い。しかも、そのバリエーションはドイツのアニマルシリーズ並に豊富なのだ。

 

「私! 合コンなんて初めてですよ!」

「私もですよ。秋山さん。お見合いならたくさんありましたけど」

「薫子はお嬢様ですから、当然なのですわ」

「アンタは違うんすか?」

「とーぜん私もですわ!」

「同志ローズヒップ、サワーがこぼれますよ」

 

高貴なブルネットの髪を持つクォーター美人薫子。元気ハツラツ、笑顔がひまわりのように眩しいローズヒップ。キツめだが均整の取れたボディとプラチナブロンドの黒森峰の元女王エリカ。陶磁のように白い肌に黒髪、最もグラマラスなノンナ。短いツインテールにソバカスがチャーミングなアリサ。触りたくなる癖っ毛を持ち、ワクワクしている姿が可愛らしい、意外なプローポションも持つ優花理。気さくなムードを持ち、健康的な肌と片側だけを三つ編みにしたイタリアンなアンツイオ美人、ぺパロニ。

 

個性だけなら、恐らく並のチームよりも濃い連中が勢ぞろいしているのだ。そんな彼女等を前に男性陣はと言うと、各々が企て、この後のプランを考えていた。

 

(いいか、まず酒に酔わせるんだ。そうすれば、後はどうとでもできる)

(俺はあの背の高い巨乳がいいな)

(あのモジャ毛の子にする。俺好みにしてやるさ)

(お嬢様もいい)

 

ヒソヒソと各々が誰が誰を持って帰るかを告げては、頭の中にこの後のおピンクな妄想に浮かばせ、ウヘヘとイヤらしい笑みを浮かべていた。そのために、スピリタスなどの強力なアルコールが入ったカプセルをポケットに忍ばせ、機会を伺っているのだ。

 

何せ、滅多にない戦車道の乙女との合コン。しかも相手はほとんど男性と過ごしたことのない極上品である。彼らは一様に思った。コレは鴨だ。しかもネギにコンロ、鍋まで背負ったカモだ。

 

「とりあえず、乾杯しよっか」

「了解っす!」

 

リーダー格がそう言って、ぺパロニが賛同し、乾杯の音頭を取った。グラスがぶつかって、一杯目を飲む。さあ、攻略開始だ。男達は狼になったつもりで、女子への接近を試みようとしていた。

 

 

 

「さあ、今回も始まりました。戦車道乙女の居酒屋プロレスのお時間です! 実況は私、西絹代!」

「解説と言えば、聖グロリアーナの頭脳であるこの私……ダージリンでお送りいたしますわ」

 

居酒屋「ダスティルドン7号店」に設置されたマジックミラーの向うでは撮影スタッフと実況と解説の二人が席に座って、合コンの様相を見ていた。スーツ姿の二人は合コン開始20分前から座っており、これぞ大学戦車道乙女にのみ配信されている「実況!戦車道乙女の居酒屋プロレス」のネット番組であり、二人はその看板娘となっているのだ。

 

「さて、今日も紅茶片手のダージリンさん。始まりましたね。今回で396回目となりますが!」

「ええ、相も変らぬ居酒屋プロレスのテンプレとも言える展開ですわね」

「そうですね! ヤ○目ナンパ道と言うべきでしょうか。開始から30分でかなりのお酒を飲んでいる様ですね!」

 

二人の視線の先、マジックミラーの向う側ではビールジョッキを飲み干すエリカやアリサの姿が見え、空になったジョッキは二人だけでも6本になろうとしていた。

 

「かなりのハイペースに見えますが」

「男どもが煽るのもありますが、基本的に二人の様な真面目タイプはこういった席でヤケ酒のようになりますわ。バッカスも酒に溺れると言うことを知らないのね」

「“ばっかす“?」

「バッカスとはローマ神話の……」

「おお! ここで動きがありましたよ!」

 

ダージリンが知識を披露しようとしたが、西が現場の動きを見て、遮ってしまった。そして現場では、ローズヒップがキャッチャーを持ち上げて、飲もうとしており盛り上がっていた。

 

「聖グロリアーナにあるまじき行為ですね! いやあ、あれでお嬢様とは考えにくいです!」

「アレでもクルセイダー隊の指揮官でしたから」

「それにしても、豪快すぎる飲みっぷり。緩急つけて……今飲み終わりました!」

 

キャッチャーをテーブルに叩きつけ、勝利のVサインをするローズヒップに皆が拍手を送る。女子グループは大なり小なり顔を赤くして、大喜びしている中、男子の方は少し様相が違った。

 

「おや、男性陣はあまり酔っていないようですが!」

「テンプレ通りの戦法“飲んだ振り”ですわね。サワーではなく、水やソフトドリンクで代用しているのでしょう」

「本番に備えて、ですね! 汚い! 流石男児汚い! もう装填完了と言った所ですね!」

「貴女はもう少し、言葉に慎みを覚えなさい」

「すいません、つい!」

 

西がビシッと敬礼し、謝罪をするがこのパターンも最早お約束になっている。どうせ直ることは無いだろうとダージリンも呆れ顔で対応する。395回やって一度も直ったことがないのだ。

 

「所で、ダージリンさん。彼らが何故性懲りもなく、合コンをするのか教えていただけますか」

「いいですわよ」

 

ダージリンは最初に黒縁のメガネをかけ、次に机の下からボードを取り出して、西とカメラに見せる。示されたのはアッサム調べの円グラフであり、題名は「男の発想サイクル」であった。そして、その円グラフの7割はピンク色になっている。

 

「コチラが男性の発想サイクル。端的に言えば、いつも何を考えているか、というグラフになりますわ」

「ははあ、7割ぴんく色ですね。コレは四六時中桃色な想像をしていると言うことでしょうか」

 

ええ、とダージリンは肯定し、紅茶を一口。

 

「男性と言うのは大体生活しているほとんどの時間を妄想で過ごしていますわ。特にあの手の自分をイケていると考える殿方はその傾向が強いと言えますわね」

「と言うことはえっちな事ばかり考えていると言うことですね。一日の10時間以上は妄想しているというわけでありますね」

「ええ、まるで……お猿さんな訳ですのね」

 

ダージリンがそう表現し、キリッと顔を引き締める。その結論が正しいか否かはさておき、西絹代は「成程、流石ですね。いやあ、勉強になったなあ」と納得し、メモを取り出した。

 

「ですから、あの手合いはモンキーモデルという俗称があることを覚えておきましょう」

「はい! おっと、またしても現場で動きがあったようですね」

 

西が気付いて、カメラが再び会場サイドへと移された。テーブルに店員が料理を運んだ直後らしかったが、店員は届けるなり脱兎のごとく逃げかえっていった。そして、カメラが会場を捉えた時、そこには地獄が広がっていた。

 

男二人の間にノンナが座っており、ワインを瓶でラッパ飲みしている。女の子がそれもノンナ程の美女がいれば普通は喜ぶだろうが二人の顔は死人のように真っ白であった。

 

「そ、その」

「同志。何を恐れているのですか? 私は聞いているだけです。カチューシャとクラーラのどこが似ているのかと聞いているだけです」

「……その、申し訳」

「謝罪を求めているとでも?」

 

ノンナはクルミの殻を左手で握りつぶし、中身を無造作に口に放り込んだ。二人はビクリと肩を震わせた。

 

「いいですか? 今割ったのは左手。利き手ではないのですよ? さて、クルミがなくなってしまいましたね。次は何を割りましょうか? それとも、貴方が口を割ってくれますか?」

 

破砕されたクルミの殻がパラパラと皿に落ちていく。まるでウッドチッパーに巻き込まれたように細かく砕かれた殻を見て、男達が自分達の未来を想像した。次は自分がああなると。喉が渇き、汗が止まらない。眼球を忙しく動かし、仲間に助けを求めようとしても無駄であった。

 

「おや、コレは何が起こったのでしょうか」

「地雷を踏んだのね」

「地雷とは?!」

「恐らくカチューシャの姉はクラーラ、のようなことを口走ったのでしょう。まあ、確かに似て……」

 

すると、マジックミラーにフォークが投げられ、突き刺さった。ダージリンの顔面から15cmの所でミラーがフォークを受け止め、衝撃でうねった。

 

「似てないわね」

「え、ダージリンさん今何を言おうと? もう一度言っていただけ」

「実況に集中なさい」

 

ダージリンは手の震えを紅茶のタンニンで抑えつけ、西が「了解!」と答える。聞こえないはずの声をどのように聞いたかは疑問に思った西だったが、ダージリンが何も言わないので、とりあえず後に訊くことにした。

 

さて、現場はと言うと皿に乗ったピザを前にぺパロニが固まっていた。

 

「なんすかコレ」

「ピザだよ。いやあ、ぺパロニちゃん好きでしょ? だからさピザを持って」

 

男の一人が馴れ馴れしく手を肩から胸にかけて滑らせようとした時、ぺパロニの手が彼の手を掴み、握った。その握力は80kgを超え、男の手がミシミシと音を立てた。

 

「オイ、言ってみろコレは何だ?」

「や、やめ」

「テメエ! コレをピザと言ったか! ピザと言ったんだな! パイナップルを乗っけやがったな。Vaffanculoが。お前、アレか? ピザ出しとけばアンツイオとやれるとか思ってる口か?」

「そ、そんな事は」

「アタシの目を見て言ってみろ」

 

アンツイオ怒りのマフィア化。キレたぺパロニの頭脳はここぞとばかり覚醒し、男の真意すらも見通した。どすの利いた声を浴びせかける彼女の目は猛禽類と同じであり、ハワイアンピザを出されたぺパロニは男の指の間にナイフを突き立てた。

 

「来ましたぁ! アンツイオ名物“落とし前”だぁ! 毎度ながら流石の“まふぃあ“っぷりを見せつけてくれます!」

「ええ、声のトーンが完全にファミリーの物でしたね。これは詫びをいれなければ即“血の掟”発動でサヨナラですわ。ちなみに私も聞いたことがありましてよ」

「“また”何かをやらかしたのでしょうか!?」

「貴女程ではないわ」

 

ダージリンは思い出してブルッと肩を震わせた。

 

アンチョビのカプレーゼをチーズとトマトを別々に、しかも酢をかけて食した時ダージリンは初めて恐怖したと言う。アンツイオでは食に関するジョークは一切受け付けない、と言うより、殺されると言うのが戦車道界隈では常識である。

 

「しかし、相変わらず酷い酔いっぷりです。戦車道は乙女の嗜みとは一体何なのでしょうか?」

「『飲みすぎの盃には呪いがかかっているのだ』お酒は節度を以て楽しみましょう」

「誰の言葉ですか?」

「シェークスピ……」

「ああ、見てください! 聖グロのあの様を!」

 

ダージリンが言おうとした時に西が立ちあがって指さした。その方向には聖グロのスピードジャンキーコンビと優花理がいた。猿ぐつわを噛ませた男にお馬さんごっこさせて、背中の上でハンドルを握って大笑いしていた。

 

「はいよー! ハイよ~! おっそいですわ! この車! 時速3kmもデネーですわ!」

「動けってんだよ! 優花理さん! ガソリンを!」

「はいはい! 不肖秋山! 口にガソリンを突っ込ませていただきます! 突貫!」

「突貫!」

 

「突貫!?」と西も反応したが、周囲に押さえつけられた。そして、男の方は口にオレンジジュースをガロン単位で飲まされて悶えさせられ、尚且つ上に乗った二人がハンドル操作と称して耳を引っ張り、髪を引っ張り、ベルトで尻をはたくわで悪魔的状況に陥り、白目を剥いている。

 

「まさに世紀末! ニンゲン馬です! 聖グロともあろう方々が男に馬乗り! あっ! ギターを持ってきました! 火炎放射までしてます!」

「彼女達にはもう少し節度を持ってほしいですわね」

「秋山さんに至っては、何とドラムまで叩きだしました! いやもう、居酒屋に何でそんな物があるのかは分かりませんが凄い勢いです!」

「彼女もめでたくクリステイーを称えるようになりましたわ」

 

やがて、馬役の男が倒れると、三人は起こそうと耳元でドラムとギターと「V12」の叫び声の三重奏を奏でてひたすら馬車馬の如く走らせる。男は彼女達を狂っていると思ったが、もしかしたらついていけない彼の方が狂っているのかもしれない。

 

何故なら、戦車道の乙女とは鋼の肉体と精神を併せ持った淑女の総称であるのだから。

 

「タカシぃ! どこなの! アタシのタカシぃ!」

 

向かって来た三人の男をシバキ倒し、アリサが髪の毛を持ち上げて顔を確認し、これじゃないと分かると、投げ捨てる。畳の上で男2人がボコボコの死屍累々の屍を晒し、最後の一人を追い詰める

 

「こ、このアマ!」

 

男は生死をかけて、アリサにボデイブローを決めようとした。しかし、アリサが視界から消え、陽炎のように消えたかと思うと、懐に潜り込まれており、顎に衝撃が走った。

 

「ちがアウ! タカシじゃない! タカシぃはドぉコなの!」

 

アリサはアッパーで男を天井に突き刺し、その足でフラフラと店を出てしまった。

 

「決まったぁ!失恋アッパーです! ふにゃ○ン野郎を天へと舞いあげる必殺の一撃! 天空にはいかなかったが天井には届きました!」

「そもそも、タカシが実際に存在するかどうかは不明ですし、告ってもないからノーカンですわ」

「でも思いは彼に届かぬままです!」

「貴女、オブラートって知っていて?」

「知りません!」

 

西の潔い返答にダージリンはムスッとした顔で「そう」とだけ答えた。

 

「おっと、宴もたけなわですがお時間のようです」

「あらもう? 仕方ありませんわね。それでは皆さん、また来週」

「そう言えば、エリ……」

 

そこで番組は途切れた。

 

男達は心と財布を空にされて、呆然とする羽目になった。

 

 

主砲は再起不能になった。

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

朝日が窓から射し、エリカは目覚めた。ぼやっとした視界がクリアになっていき、天上を見上げた。

 

「アレ?」

 

自分がどこに居るのかエリカは分からなかった。半身を起こそうとすると、手のひらには柔らかい布団の感覚があった。よく見ると真っ白なシーツのベッドに寝ているのだと分かった。しかも、自分の格好が私服ではなく、可愛らしいパジャマであることに気付いた。そして、その隣にはある物があった。

 

「な、なんで」

 

思いつくばかりで最悪の場所に居ることをエリカは察した。包帯が巻かれ、目にあざがあるクマのぬいぐるみ、ボコがあった。おかしい、こんな物私の部屋にはない。こんな物がある部屋と言えば……

 

エリカは恐る恐る反対側を覗いた。

 

そこには……

 




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