ガールズ&パンツァー 狂せいだー   作:ハナのTV

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ローズヒップ 私が愛した戦車2

さて、今度は黒森峰側。エリカは苛立ちの頂点にいた。まずは、あたふたして前に進むのが遅い自車三号戦車J型に対してだ。だが、練度不足の一年達とあってはコレには目を瞑ろう。

 

一斉砲撃して一発も当たらないのにも寛大な心でいよう。自分だって最初は当たらなかったじゃぁないか、と心を落ち着かせた。

 

『ああ、履帯が外れた!』

『砲弾が重くて次弾装填できません!』

『ここどこ?』

 

レギュラー陣が一人もいなくてグダグダな軍団にだってエリカは黙った。迷子? 地図読めないのか? とか。 装填不可能? 鍛え直してやろうか? とか。あの三号戦車がいくら勘の良い馬鹿だと言うことを引いても、ダメダメな一年への喝をエリカは喉奥で押しとどめた。

 

だが、我慢できないことがエリカにはあった。このキツイ制服である。ワンサイズ小さくて胸元が苦しい。仕方ないからボタンを開けている訳だが、こうなったことが到底我慢できそうにない。

 

そう、眼前でダンスしている三号の中の奴ら。奴らのせいだ。

 

座学の後、自室に戻って一息を挟むつもりだった。着替えをクローゼットから取り出し、三日前に調達した良い豆を煎ったコーヒーを飲んでホッと一息。そんなささやかで穏やかなひと時を過ごすつもりだった。

 

そう、植物のように、である。

 

ふとクローゼットの奥にある物が目に入った。エリカはそれを手に持って眺めた。ソレはエリカにとって複雑な気分にさせるモノであった。何故今頃になって出て来たのか理解できないでいた。

 

時に憎らしく、懐かしい――そんなノスタルジックな感傷に浸っていたのに

 

『隙あり! スパイチョップ! ですわ!』

 

脳天に叩きこまれたチョップによって、エリカは気を失った。そして、気が付けばジャケットは引っぺがされているし、『三号頂きですわ』とナめた置手紙があるわ、ついでと言わんばかりにコーヒーも飲み干されている。

 

替えのジャケットはクリーニングに出していて無い。これから戦車に乗るのに制服は着て

行けない。

 

エリカは冷静に、聡明な頭で思考した。この状況を打破し、“あの”聞き覚えのあるおバカにあらん限りの復讐を叩きこむにはどうすべきか。

 

そう言う訳で彼女は、ソレを取った。

 

かつて此処で一年共に過ごし、今でもぽわぽわ、甘っちょろいことを言っている元副隊長の忘れ物のジャケットを仕方なく着て復讐することにしたのだ

 

タグの裏側に西住みほの名が入ったジャケットを羽織ったのだ。

 

「なんで! 私がこんな変態っぽい事しなきゃいけないのよぉ! 」

「いきなりなんです?!」

 

回想を終えて、今再びエリカは感情を爆発させた。車内を蹴り回し、ヒステリー気味に喚くさまに乗員の一年生たちは怯えた。

 

一年前の物だからキツイ。しかも持ち主の体格が小柄だったせいか、余計にキツイ。もっと言うとこんな事してる自分の精神が“とても”キツイ。

 

――だから、この原因を! この怒りを! ぶつけるのだ! あのバカ共に!

 

エリカは彼女らをぶっ殺すと心に決めた。故に行動に移した。

 

「前進! このいざこざに片をつけるわよ!」

「この火砲の中をですか?!」

「向うに出来て、コッチが出来ない訳ないでしょ! 普段三号乗り回しているなら貴女達だって出来るわ!」

「そもそもこの乱稚気おこしたの先輩じゃ……」

「お黙り!」

 

エリカは早く終わらせるべく前進を命じた。後輩たちの不安な顔に活を入れた。これしきで火砲の嵐なんて言わない。味方の今の練度では当たりっこない。この際どうせなら直接対決に持ちこむことにした。

 

「でも弾薬持ってないんですよ!」

「そうです! 此処は補給に!」

「駄目よ」

 

一年生たちはそう口々に反論したが、エリカは一瞥し、その提案をはねのけた。

 

「それは奴も同じ。後続に任せようにも、今私達が逃したら誰がアイツらの居場所を伝えるの? ここは直接シメに行くわ。ラムアタックしてでもぶっつぶす。それが出来るのは黒森峰の中じゃこの三号が最適よ。いい? 偵察と機動力! こいつの真価は此処で発揮されるわ! 怖気づかないでよね! panzer vor!」

「キツキツなのにカッコいい」

「早く行きなさい!」

 

その檄に一年生はなにか心を震わせるものを感じ、各自に仕事に取り掛かった。そして、三号戦車は今までとは比べ物にならない程に整然と、敵車両に前進をし、加速した。

 

エリカの指示の下、砲の中を突っ切り、草原を走り往くさまは駿馬と見まごうばかり。ダークイエローの車体が泥にまみれ煤に汚れる中、キューボラから半身さらけ出すエリカはローズヒップ車を睨み付け、ニヤリと笑う。

 

「操縦手! 真っ直ぐよ!」

「ラムアタックですね!」

「そう! ぶちのめす!」

 

起動輪の回転速度が上昇し、唸りを上げたエリカ車が遂にローズヒップ車を捉えた。二車の間で火花が散り、互いの車長が顔を見合った。

 

片方は不敵に笑い、もう一方は悲鳴を上げた。

 

「久しぶりね」

 

そこには地獄からの使者のような顔をしたエリカがいた。

 

片手にワルサーを握りしめながら、こめかみをヒクつかせる姿は修羅そのもの。二人はあらん限りの声で悲鳴を上げた。

 

「妖怪キツキツエリカですわ!」

「そんなに怒らせたいのか?!」

 

ローズヒップの一言で更に怒ったエリカはワルサーを撃ち込み、ローズヒップが車内にあったであろう色んなものを投げつける。

 

「制服取ったのはごめんなさいですわ!でも何でそんなキツキツ?!」

「お前の知った事じゃないわよお!」

「とってもセクシーですわ!」

「絶対殺すゥ!」

 

鎮圧用の9mm弾と空の化粧水やらコスメなどが二車の間を飛び交い、その間でも指示をして、二両の三号戦車はラフなレースを繰り広げた。

 

ベテランだが三号に不慣れな薫子と、三号には慣れているが経験不足な一年の操縦は伍しており、

どちらも決め手に欠けた。

 

「薫子!右!」

「難しいんですよ! これ! 何で変速レバーが股の間にないんですか!」

 

薫子が苦戦し、

 

「一年! もっとぶつけなさい!」

「怖いから無理です! でも何か楽しいですね!」

「いいから行け!」

 

一年が震える。思いもかけない千日手の状況に二人は歯噛みしていた。その時、一年が焦りで操縦をしくじった。互いの三号は激しく衝突し、引っかかって離れなくなった。互いにもつれ合って蛇行しだし、望まぬ方向へと加速してゆく。

 

「チャンス!」

「先輩!」

「あの人無茶するなぁ」

 

そう言ってエリカはローズヒップ車に飛びかかり、見事車内へとローズヒップごと入り込んだ。

 

「離してくださいまし! 妖怪キツキツエリカ~!」

「この! お前のせいで! こんな服を!」

「ちょっと! 後ろで暴れないでください!」

 

戦車内でローズヒップとエリカはキャットファイトを開始。余った袖でローズヒップがエリカをはたき、エリカがワルサーを所かまわず乱射し、車内は大混乱になった。発砲音が鳴るたびに車内を特殊カーボン弾が飛び、あちらこちらで跳ねまわる。

 

「がウ!」

 

ローズヒップがエリカの腕に噛みつき、エリカが腕を回して、振りほどこうとする。

 

「犬か! アンタそれでもグロリアーナのお嬢様なの!」

「ローズヒップは怪しいです!」

「回答ありがとう! ついでに止めてくれない!」

「楽しいからいやでーす!」

『せんぱーい! 戻って下さーい! キツキツエリカせんぱーい!』

 

噛みつくローズヒップ犬、一人エンジョイするジャンキー薫子。通信機から聞こえる後輩たちの涙交じりの訴え。ありとあらゆる困難がエリカに降りかかり、エリカの心の均衡は限界に達しようとしていた。

 

不幸が嵐の如く襲って来た。何が悲しくてバカに付き合わされて、こんなことしているのか――取っ組み合いの最中エリカは虚無を覚えた。

 

その時だった。エリカのジャケットがローズヒップの攻勢とエリカの激しい動きに耐えきれず、前ボタンが全て吹っ飛んだ。

 

二人は尻餅をついて離れる。

 

「あたた。どうして、小さなジャケットを着て……」

 

ローズヒップが何の気なしに掴んだジャケットを見た。そして、彼女は見てしまった。ジャケットのタグに書かれた達筆な持ち主の名前を。

 

「西住……みほ……? え……みほって」

 

ローズヒップは真顔になってエリカとジャケットの名前を交互に見た。エリカは声を失った。

 

沈黙。通信機の向うの一年も、吉田薫子も、あのローズヒップも一斉に黙った。エンジンの音だけが響き、誰も声を発さずに、その事実に押し黙った。

 

もしかしてエリカは――そんな疑問が二両の間で浮かんだ。

 

誤解だ――その言葉をエリカは発しようとしたが、恥ずかしさと神妙な顔つきでじっと見つめるローズヒップを前にして、それが出来なかった。

 

そしてエリカの何かがキレた。

 

エリカは腰に差していた束になった柄付き手榴弾を取り出し、口で紐を抜いた。

 

「え、エリカさん?」

「……こんな言葉を知っている?」

「おーい、エリカさん、いやエリカ様?」

 

ローズヒップが手を伸ばし止めようとするも、エリカは切ない笑顔を浮かんでローズヒップに言い放った。

 

「『人間の偉大さは恐怖に耐える誇り高き姿にある』ギリシャの歴史家プルタルコスの言葉よ」

 

エリカは不気味に笑った後、全ての手榴弾の紐を引き抜いた。爆発したら、今までのことがなかったことにできるかも、そんな淡い期待を抱いてエリカは全てをばら撒いた。

 

「あばよ! 聖グロ共ぉ!」

「お、お待ちに―!」

 

そして、三号車内で炸裂し、もつれ合った二台は盛大に転がってクラッシュ。黒煙を上げて白旗が間抜けな音と共に二両から上がった。キューボラが開かれ、もうもうと煙が吐きだされる中、目を回して出て来たエリカたちはその場で倒れ込み、やがて意識を失った。

 

この8時間後。この二両の乗員は罰として黒森峰の予備砲弾を磨くことが言いつけられるのだが、ショックのせいで何故こうなったのか分からないまま作業する事となった。

 

後、聖グロリアーナの二人は述懐したと言う。

 

『あの時しんどかったですけど、何でエリカさんが黒焦げ姿なのに安堵したような顔をしていたのか。ジャケットが吹き飛んだのに』

 

 

 

 

 

 

 

如何なる時でも優雅であれ――聖グロリアーナ女学院。

 

 

「三号って楽しい」

後に三号戦車のエースとなる、ある一年生達の言葉。

 

「車内にみほの名前が書かれたタグがあるんだが…」

車内点検で発見してしまった隊長のお言葉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




色々と雑になってしまいましたが、これからも色々と書いて行く予定です。

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