ガールズ&パンツァー 狂せいだー   作:ハナのTV

7 / 34
番外? 戦車道の七人

破裂音が三発響く。ニミッツ級空母によく似た艦体を持つサンダース大付属の上で花火が撃ちあがり、巨大な校内は大勢の人でごった返しになって盛況を極めていた。校庭や市街地では出店がズラリと並び、小麦と油、肉の良い香りがそこかしこから漂う。

 

赤いスカートにグレーのジャケットの制服を着る女子高生たちがフランクフルトにハンバーガー、果てはコーラ揚げやバター揚げ、そして勿論、冷たいコーラを忘れずに買って出店を回る

 

華やかで活発な彼女らのおしゃべりに混ざって、所々から様々な音楽があふれていた。フリージャズにポップミュージック、ロック。種類を上げていけばキリがない。若者から大人まで音楽を楽しみ、催しを見て回り学園艦そのものが巨大な一つのアミューズメントパークの様相を見せている。まさにフェスティバル、カーニバルだ。そう、これはサンダースの学園祭なのだ。

 

アメリカンなサイズの艦でこそなせる業。物量とごり押しが板についたアメ公の社会よろしく巨大で混沌としていた。だが、だからこそ明るく派手である。その艦で一区画他の場所と比べて多少静かな場所があった。

 

そこはサンダースが誇る巨大ハンガー。かつて米国が大量生産したⅯ4シャーマン中戦車がズラリ、と大量に並べられ、濃緑色のメタルボディを暗く光らせている。特筆すべきスペックを有する訳ではないが、兵器として一種の完成形であるM4中戦車が一か所にまとめられる様はまさに壮観であり、アメリカのモータリゼーションと大量生産の威容を見せていた。

 

だが、一ついつもと違う点があった。75mm砲搭載型や76mm砲搭載型、17ポンド砲搭載のファイアフライなど全ての車両達は戦車道に使われているせいで普段は土汚れや塗装ハゲが見られる事が多いがその日は違って、小ぎれいに磨かれていた。

 

何故磨かれているか、と問えば答えは簡単であった。一台の鋳造ボディのM4A1の前にまだ幼げな女子の集団と一般の客たちが集まっており、車両の横で髪を左右で縛ったそばかすの少女 アリサが戦車の説明を行っていた。

 

「これがM4中戦車A1型になります。我がサンダース高の主力で75mm砲を搭載型となります。ご存じの方も多いと思いますが大戦中にM4シャーマンは5万両ほど生産されていて、本車もそのバリエーションの一つとなります」

 

にこやかに説明すると観客たちは「おお」と感嘆の声を上げた。特に女子たち、とりわけ彼女たちの多くは中学生であり、初めて見る戦車に夢中のようであった。大洗の活躍もあって戦車道は再熱した結果彼女たちのように戦車に乗りたがる子が増えて来たのだ。それでなくとも戦車と言う鋼鉄の塊に魅了されるのは無理もない話だが。

 

ともあれ、アリサが観客たちの悪くない反応を見て安心していると観客たちの中から手が上がったのを見つけた。

 

「質問いいでしょうか?」

「どうぞ」

 

後ろの方にいる為顔が見えなかったが上品そうな声で突飛な質問が来ないだろうと踏んでアリサは安心していた。

 

「速度はどの程度の物でしょうか?」

「そうですね、バリエーションや移動状況にもよりますが最大で時速38km程でしょうか。中戦車としては平均的な物ですね」

「意外と遅いのですね」

「ノロマですわねぇ」

 

アリサは一瞬頭の上に?マークがあがった。妙に引っかかる言い方だな、とは思ったがこのままM4シャーマンに悪い印象を持ってもらうのも癪なので、隣の車両に移って回答を続けた。

 

「しかし、このA2型は中々の物ですよ。これはジェネラル・モータースのディーゼルエンジンを使用した物で最高速度は時速48kmと侮れないものがあります」

「ほほう 50km弱……」

 

じゅるり、と舌なめずりの音が聞こえた気がしてアリサは怪訝な表情をした。今の音は一体何なのか、まったく見当がつかなかったためである。

 

「A2型はやりますね」

「でも、まだまだクルセイダーには敵いませんわ。所詮はクリステイーでもない量産型ですわ」

 

ひそひそと話す声が彼女の地獄耳に届いた。盗聴していなくとも彼女の耳は良いようである。アリサはその会話に対し、『クルセイダーなんて信頼性の低い、M4にとってかわられた英国面がなんだって?』というセリフが浮かんだが余計なトラブルは起こすべきではないとして自分を抑えることにした。

 

一つ咳払いをして次の戦車の解説に移ることにした。何よりも大事なのは落ち着きで、来年入ってくれるかもしれない子達も居る手前冷静な行動が求められるからだ。次の車両はサンダースで最も攻撃力の高いファイアフライだった。その長い砲身に中学生たちは大はしゃぎしていた。75mmや76mm砲と比べて長砲身のファイアフライの17ポンド砲は素人目から見ても迫力満点であった。

 

「こちらがサンダース主力のファイアフライM4中戦車。北アフリカで遭遇したドイツのティ―ガー重戦車に対抗するために英国生まれの17ポンド砲を搭載し、高速徹甲弾を使用すれば多くの重戦車を貫通可能な攻撃力を誇りつつ、シャーマンの優秀な足回りを持つアがサンダースの目玉ともいえる戦車と言えるでしょう」

 

ファイアフライ、M4中戦車最高傑作とも言われる車両なだけあって観客たちの反応は前よりも大きかった。かつてはドイツ軍戦車エースミハエル・ヴィットマンを撃破した車種であり、大戦後のレバノンでも活躍したのだ。アリサも従来のM4も含めて、この車両に対しては並々ならぬ思いがある。

 

「質問いい?」

 

少し胸を反らし、鼻を高くしていると、またしても手が上がった。今度は気が強そうな声で何故かはわからないがムッとした。

 

「なんでしょう?」

「ファイアフライの主砲は命中精度が悪いのではなかったかしら? それにM4シャーマンの車体では防御力に不安があるんじゃない?」

 

アリサは一瞬目を険しくした。質問主の言うことももっともだからだ。シャーマンは優秀だがいくらなんでも17ポンド砲は大きく、当時のAPDS弾は遠距離に向かなかった。ともあれば接近しなくてはならないが、装甲は砲塔全面で76mm、車体前面で50mmほどで決して防御力では秀でていないのだ。そして、そのことを嫌味っぽく言うあたりにさらにムッと来た。

 

だが、アリサはこの手の手合いの者をよく知っていた。ドイツ軍戦車に勝てないシャーマンを非力だとか、失敗兵器と罵る類の者だ。ならば、盛大にかつやんわりと皮肉ってやろうと思い口を開いた。

 

「博識ですね。ですが、それは砲手にもよります。何より、本車の利点は優秀な足回りと火力の両立、コストパフォーマンスであり、例えば、ドイツ戦車の様な”貧弱な足回り”ではありませんので安定した運用が可能です。戦車道は火力と装甲だけでは語れない所もありますから」

 

と反論してやると向うは少し黙ってくれたようでアリサも精製した気分になったが、またしても盗聴器じみた耳が反応した。

 

「何よ、がばがばな17ポンド砲の癖して。次会ったらアハトアハトでボコボコにしてやるんだから……どうして隊長は私を此処に――」

 

小声だがぶつぶつと聞こえたセリフにアリサはまたしても違和感を覚えた。隊長、とは何のことか。変な中二病でも患っているのか。よく見ると質問したであろう主の頭は色素の薄い銀髪であった。どこかで見た気がしたが中二病の火力主義者、ドイツ戦車至上主義者と思い、説明を切り上げようとしたところで、手が上がった。

 

またかよ、と思った。

 

「質問よろしいでしょうか?!」

「ん? どうぞ」

 

今度はワクワクした声で、おかしなことに妙な既視感を覚えた。こんな声で質問が飛んできた場面が確かどこかにあったぞ、と。

 

「はい、僭越ながら! M4シャーマンの主砲には水平安定用のジャイロが存在したと思うですけど! ああ! 史実ではあまり頑丈な物ではなかったという話は有名ですがサンダース高ではIBM社が制作したジャイロを取り付けていると聞きましたが本当なのでしょうか? あ! あとA6についても聞きたいんですけど! A6と言えばフォード社のエンジン関係で!」

「シャラップ! オッドボール!」

 

アリサはつい声を荒げて言ってしまった。その声の主は間違いなく、奴だった。四号の装填手秋山優花里。学園祭とは言え、前回にこりずに“また”この学園に乗り込んでくるとはいい度胸だ。アリサは案内役と言う役目をつい忘れ、集団をかき分けて行った。

 

そこには大きなバックパックを背負い少年の様な出で立ちの優花里に白いワンピースで清楚に振る舞っている逸見エリカ、サンダース高限定のパーカーを制服の上から来たローズヒップと薫子と知っている面子ばかりが勢ぞろいしていた。

 

「さっきから変だと思ってみれば、何? うちにスパイが勢ぞろいな訳なの? それとも私が見ている光景が幻か、何かの訳?」

「別にスパイしに来たわけではありませんわ。ただ見に行けと言われただけですわ!」

 

人それをスパイと言う。薫子が慌てて口を塞ごうとしたが遅かった。

 

「隊長に言われてやって来ただけよ。 数に頼るサンダースなんて眼中にもないわ 邪道だもの」

 

エリカはフッと皮肉そうに笑って応えた。カチンと怒りのスイッチが入ったアリサは毒蛇も舌を巻くほどの毒を吐くことに決めた。

 

「何? 黒森峰さんは皮肉言う暇ある訳? 早く帰って大切な虎さんの整備でもして来たらどう? 今ごろ、きっと地面にめり込むか、転輪が取れたりしてるでしょうよ。おんぶにだっこのドイツの重戦車なんでしょ?」

「 物量のみで、紙装甲でガバガバ砲のくせに言うじゃない」

「西住隊長~今すぐ行きますう~?だって」

「タカシ~ って誰の事よ?」

「まるで西部戦線のようです」

 

お互い笑顔で周囲の人間そっちのけで罵倒大会を始めだす。大会では今一だったが悪口においては天下一品の二人だ。まさに優花里の言う通りに西部戦線であった。米独罵倒大戦、ここに開幕。その頃、例の二人はと言うと。

 

「ヘルキャットがあるんですの?! あのヘルキャットが! マジですの?!」

「時速80km! どこに?! それを早く教えなさい!」

 

聖グロの韋駄天コンビは喧嘩に見向きもせずにM4A2から興味の対象をヘルキャットに移していた。サンダースに一台しかない高速戦車に首ったけでケンカなんて知らん顔であった。

 

「何だかヒジョーに混沌な状況になりつつあります!」

 

優花里はおろおろとしているだけである。ここにきてコミュ障の弊害が出てしまったのだ。

 

「何よ? アンタにタカシの何がわかるのよ。 アイツいっつもあの子と一緒で。コッチの気持ちにも気づいてくれないのよ。 朴念仁なのよ」

「そのくらい何よ。 うちの隊長と来たら、 みほの事ばかりで。 いっつも、いっっつも、みほみほって。 みほもみほで私を無視するし」

 

コチラはこちらでヒートアップして想い人への不満を暴露していた。実を言う所エリカとアリサは似たような理由で此処に来ていた。アリサは想い人であるタカシと一緒に学園祭を回ろうとしたが、いざ出会うと赤面して何も言えなくなり結局目論見は失敗。やけになってケイの頼みごとに付き合うことになったのだ。真に度胸も無い女子であった。

 

一方でエリカは敬愛すべき西住隊長に「エリカ、頼みたいことがある」と言われてロクに説明も聞かないまま、二つ返事で答えてしまったのだ。目を輝かせてルンルン気分で来てみればサンダースの見学。こちらはチョロい女子だ。しかも、嫌味ばかり言う割にみほについて言及する辺り面倒な性格である。

 

つまり振られてやって来たのだ。

 

そんな事をしている内に、二人とも似たような悩みをもつせいか、罵っている内にお互いに泣き出してしまった。

 

「タカシぃ……なんで、あの子と一緒に回ってるのよぉ  何で気付いてくれないのよぉ」

「隊長ぉ。みほだけじゃなく、こっちにも構ってくださいい」

 

ぐすぐすと涙流して、共感を覚えたのか二人は抱きしめ合った。戦場では時に敵と涙を流しながら抱き合う時があるというが、コレがそうなのかもしれない。相手だって同じ、恋する乙女なのだと理解したのだろう。無論、彼女等がお互いの幸福を願うかどうかはべつとして。

 

「アンツィオ特製ナポリタンすっよー! 本日特別サンダース高出張中っすよ!」

 

そこへどこから来たのか、コック帽をつけ片サイドの髪を三つ編みにまとめた少女、ぺパロニがやって来た。バカが戦車ではなく屋台でこんな所にやって来たのだ。実にいいタイミングで。

 

「ああ! もう訳の分からない事になっています! こんな時に西住殿が居れば!」

 

優花里は周りをもう一度見直す。すると後ろに巨大な壁が現れた。優花里はさっきまで存在しなかったはずの壁に驚き尻餅をついた。何だと思って見上げてみると、それは壁ではなく人であった。長い黒髪に長身、ブリザードのように冷たい眼光を放つ目の女子、それはプラウダのノンナその人だった。

 

優花里は一瞬彼女を見て喜んだが、ソレもすぐに引っ込んだ。「ブリザードのノンナ」のあだ名同様に彼女はブリザードを纏っていた。ハッキリ言えば何か闇を抱えていた。

 

「あの?」

 

問いかけたがノンナはアリサとエリカの方を見るばかりで、心ここにあらずだ。

 

「悲しいですね。想う人が振り向いてくれないというのは」

「はい?」

「カチューシャの計らいでコチラに来ましたが、やはり堪えるものがありますね。今頃クラーラがカチューシャを独占、いやお相手をしていると思うと……同志を悪くは言いたくありませんが嫉妬してしまいますね」

 

ノンナはそのままロシア語で呟き始めた。明らかに呪詛の響きがあるソレは優花里を怯えさせた。シベリアの冷気を背筋に感じ、身体を震わせる。そして恐る恐るもう一度状況を確認した。

 

「これがヘルキャットですのね? 乗せてもらえませんの? ケチケチしないで乗せてくださいまし」

「早く乗せてください。でないと正式に抗議しますよ 80kmは私だけの物です」

 

遂に速さの為に英国面を捨てようと考える二人。

 

「カチューシャ……」

「タカシぃ」

「隊長ぉ」

 

めそめそと女々しく泣く米独ソ連合。

 

「あ、姐さん? 今ハンガーの中でパスタ売ってますけど? えっ 売り場はメインストリート? そうでしたっけ?」

 

もう放っておくしかないアンツィオ。

 

優花里は思った。これこそが修羅場。これこそが戦場であると。混沌と闇、欲が混ざり合って誰も手が付けられなくなる。こんな時に西住みほが居れば、と思うが頭を振って否定する。いつまでも西住殿に頼ってはいけない、この場は自分がツッコミ役に回ってこのカオスを収拾しなくては。そう奮い立ち、うつむいた顔を上げた時彼女の目に映った物は。

 

「おお! アレはM22ローカストではありませんか! すいませーん! その車両について詳しく――」

 

M22ローカスとの小さな車体が目に入った瞬間、覚悟とか決断を忘れてすっ飛んでしまうのであった。オタクの性である。

 

こうして二日にわたって行われた一風変わったエキビジョンマッチ、語れ語るほど各国のバカ、ではなく“純粋さ”が垣間見れるこの物語は始まった。

 

各校の7人の戦車乗りが集まった伝説。

 

そう、これはある意味で運命的な出会いを果たしたお祭りなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心

 

戦車道について、西住流より抜粋。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?年後のとある番組にて

 

 

「こんにちは。クイズ ”誰がバカだ”の時間です。今回はサンダース高の取材フィルムの中からあなた自身の目に、勘を働かせて、バァカを見つけてください。では皆さんご一緒に! バカァ見つけてくださぁい!」

 

※最初に戻る。

 

 

 

 

 




続かどうかは未定です。
ある意味で伝説世代な高校戦車道、ネタの提供です。
あと今回はあまりパロディ入れられなかったのでネタ成分少ないかもです。

戦車に関するご指摘や感想、どちらもお待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。