ガールズ&パンツァー 狂せいだー   作:ハナのTV

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遅れて申し訳ありません。これからボチボチ書いていきますのでお待ちください。


番外② ヘイトフル7

「本当に最悪な日っていうのを経験したことある?」

 

少女が一人問う。瞳には暗い陰惨とした輝きが宿り、口元には不気味な笑み。両手を組んで周囲の同年代の少女たちに、まず自身の問いをぶつけ、言葉を紡いでいく。

 

「ご存じないかもしれないけど、時に人の笑顔って言うのはね、最も残酷になるときがある。それはまるで、脆いガラスに投げつけられる石みたいに。どこにでもありふれていて、それでいて酷く“傷つける”」

 

その場にいた何名かは理解しえなかったが、それは一つの真実だった。その言葉に共感を覚えるのが二人、銀髪の少女と、黒髪の長身の少女が表にはださないものの、共感を覚えた。何故なら、その笑顔が、大好きなあの人の笑顔が他人に向けられていることこそが、此処の三人の唯一の共通点であったからだ。

 

「それはどんな人の笑顔ですか?」

「それはね……」

 

長身の少女が訊いた。すると、持論を述べたソバカスの少女がスッと、指をさした。その場にいる皆がその先を見た。

 

人々が盛り上がる、此処とは正反対の明るい場所……サンダース校の学園祭は盛況で、ニミッツ級空母を連想させる学園艦上のカーニバルはどこもかしくも若い男女の熱狂で溢れていた。それこそ、熱々のホットドッグを作る鉄板よりもだ。そしてアリサの指さした方向にはオープンカフェに椅子に座りながら、意中の彼が彼女と思わしき女の子のコーラを飲んで、いわゆる間接キッスをして女の子が赤らめるなんて微笑ましい光景があった。

 

「嫌ァア! アタシのタカシィィ!」

 

人生最高の日を過ごす子もいれば、人生最悪の日を迎える子だっている。そうして世界は回るのだ。だから、泣きじゃくってテーブルに拳を叩きつける乙女だっているわけだ。恋は戦争と同じ、負けたものが罪であり、敗者はいつだって惨めだ。

 

自分にそんな事が起こるわけない――そう思っていたアリサにとって、今日の自分の姿はあまりにも哀れで滑稽だった。目の前で甘いワンシーンを見せつけられた“自分”なんて特に。さすがの皮肉屋のエリカも気の毒過ぎて笑えやしなかった程だった。そばかすのチャーミングな彼女、アリサは他校の戦車道の面子が周りにいようとおかまいなく、喚き散らしていた。

 

「なんで! その子と一緒なのよぉ! 普通そこは私のはずでしょ! なのに、何で私は此処にいるのよぉ!」

「何だか凄いことになってますね」

「薫子、あの殿方がどうかしたのですの? アリサは振られたのですの? 告ってもいないのに?」

「気にしなくていいんですよ。ホラ、フランクフルトあげますから」

 

一人の乙女の遠吠えを聞こうとまるで気が付かないローズヒップに余計な事を言わせないために薫子はその口をフランクフルトで栓をした。企み通り、ローズヒップは喜んで、フランクフルトに夢中になってくれた。一生懸命長いフランクフルトを頬張るローズヒップをよそに彼女は同じテーブルに座る秋山優花里に振り返った。

 

「あの」

「は はい! 何でしょうか?」

 

声が若干裏返る彼女に薫子は今まで会ったことのないタイプであったため、少し驚いた。

 

「秋山さんも、その、偵察に来たのですか?」

「いえ、その。 実は趣味で来ただけでして……今年はサンダースで滅多に見られない車両が出ると聞いていたので、あっ、その車両と言うのがですね、M6重戦車と言って、50両程度しか生産されなかったんですけど、何と12台しかないA1型がこのサンダースにあって今回はそれを見にきてですね!……あっ」

 

突然の饒舌っぷりに薫子はたじろいだ。その様子を見て優花里も気づいたのか、しゅん、と項垂れて、小さく「すみません、つい」と謝った。

「好きな事となると、つい」

「いえいえ、そんな事。 何か飲み物はいかがですか? せっかくですからもっとお話を」

「えっ 悪いですよぉ」

 

自分の悪い癖を股出してしまったと後悔した優花里であったが、とうの薫子はローズヒップとは違うベクトルの魅力を発見して目をルンルンと輝かせていた。伊達にローズヒップのような人間と付き合いがあるが故か、この手の変わった人に目がないのかもしれない。

 

「そんな事気にしなくたって……」

「Jesus Christ! 何であの子となのよぉ!」

 

アリサの悲痛な叫びをバックに冷ややかな声で皮肉を言う少女が一人。足を組んでメロンソーダを飲む黒森峰から来た狂犬、逸見エリカであった。

 

「まっ……全く、戦車道に携わりながら、恋だとか戦車が好きだとか、貴女達本当に戦車道やる気あるのかしら? これだから邪道は」

「さっき隊長がどうのって言ってませんでした?」

「なっ、何の話よ? 関係ないでしょ」

「別に」

 

自分らしさを演じようとするエリカにノンナが疑問をなげかけ、クスリと小さく笑った。ノンナはエリカが何気に小さく皮肉を言ったことに気付き、揺さぶったのだ。

 

「ただ、いつものアナタにしては声が小さいと思いまして」

「アンタとそんな付き合いないわよ。知った風に言わないでよ。大体、邪道を邪道って言って何が悪いのよ」

「そうですか。てっきり、気をつかっているのかと思いまして」

「ハァ?! そんな事ないわよ! そんな、あの子みたいに甘っちょろい事!」

 

エリカが反論する度に、ノンナはますます愉快になっていった。この素直になれない感じがノンナにとっての“あの人”にどことなく似ていた気がしてきたからかもしれない。余裕の笑みを浮かべながら、ぎゃんぎゃん吠えるエリカを観察していたが、その時、携帯電話が鳴ったため、アイスティー片手にエリカを愛でることを止め、一言言ってその場を去ってしまった。

 

その背中にエリカは思いつくばかりに罵詈雑言を浴びせたがノンナはフッとほほ笑むばかりで奥歯を噛みしめていると、

 

「……西住殿と西住殿のお姉さん」

「何ですって?」

 

エリカにぼそりと優花里が反論した。

 

「なんだかんだ言って逸見殿も西住殿に名前で呼ばれているじゃないですか?」

「だ、だから何よ? 私は隊長を尊敬してるのであって、みほについては」

「みほ? 元副隊長ではなくてですか?」

「ああ、うるさいわね! 」

「タカシぃ!」

「アンタもうるさい!」

 

さっきまでの皮肉な笑みを浮かべていたエリカは無く、彼女は赤面しながら、優花里の言葉を必死に否定していた。痛いところを突かれてキャンキャン吠え、いまひとつ格好のつかない彼女を見て薫子は彼女にポンコツさを垣間見た気がして胸がキュンとした。

 

「何よぉ! アンタだって騙されてここに来たくせに! 私と同じよ、同じ! 振られてやって来た哀れなジャガイモ女じゃない! フリフリな服着てさ!」

「それを言うんじゃないわよ! 思い出したら、また涙でてくるじゃない!」

「まあまあ」

 

またしても米独口撃合戦が開始されようとした時、二人にスッと一品の料理が置かれた。それは半熟の卵が乗っかった鉄板ナポリタンであった。熱々で湯気が立っていて、送り届けた主ぺパロニに視線が注がれた。

 

「美味いパスタでも食って落ち着けよ」

「お客さん、店で勝手に食べ物を出さないで」

「気にすんなって。パスタに貴賤はないっす」

 

カフェの店員の制止も聞かずに彼女にしてはエラく難しい言葉を言ってパスタを二人に差し上げた。涙目の二人はぺパロニの真意を理解できなかったが、ぺパロニは慈愛に満ちた聖母の如く顔で言ってのけた。

 

「辛い思いでは忘れるにかぎるっすよ。思い出は苦痛のみなもと。忘れた方が幸せかもっすよ」

「慰められた……バカに」

「何か深い感じして、ムカつく」

「“歌に生き、恋に生き、パスタに生きる”っす」

「アンタ本当にアンツィオよね?」

 

二人は真夏のヒマワリのように明るく笑うぺパロニに感謝しつつも、煮え切れない想いを口にする。思いもよらない人物から、とくにアホの子のひと言は時に最も的確な言葉であることがあるというが、まさにその通りであった。悔しみと悲しみ、感謝が混じった複雑な思いのまま、ナポリタンを食する。

 

「というか、アンタは何しに来たのよ?」

「パスタの出張販売っすよ。ウチはあんまり金ねーから、P40の修理費稼がなきゃならねーんだよ。タンカスロンで稼げなくてさぁ……姐さんも今どこかで稼いでいる最中だし、てか、どこ行ったんだろ姐さん」

 

エリカの疑問にぺパロニはアンツィオの台所事情を話した。その途中で幾人かは、“姐さん”にさっき呼ばれていなかったか、と。だが、そこで美味しいパスタと何か豊富そうな恋愛経験の話をみすみす逃す手はないと考え、エリカとアリサはとりあえず黙っていることにした。

 

だが、考えても見ればアリサはともかくエリカに関してはいささか疑問が残る。そもそも彼女の場合は恋愛ではなく信仰とか憧れではないのか。そして彼女は一体、姉か妹のどっちにご執心なのか。そもそも、それはアブノーマルの危ない奴ではないのか。ドイツ的にアウトではないのか、と様々な疑問が見られる。だが、ソレも戦車道である。好きな人が同性だろうと乱れなく進むのはまさしく“西住流”の極意そのものである以上、“同じ戦車道”を進む人間として優花里は気を遣うことにした。

 

「恋愛相談なら武部殿とお話ししますか?」

「机上演習のみの子はお断りよ! それに大洗の手、特にアンタとみほの手は借りないわ! 西住流にかけて!」

 

だがエリカの意地が優花里の助けを許さなかった。たとえ、ぺパロニからは助言をいただくとしても大洗の手は借りないと宣言した。特に四号の乗組員、とりわけみほの傍にいる彼女だけには借りたくなかった。

 

「ダージリン様もびっくりな二枚舌ですわ! ダブルスタンダードですわ!」

「何気に厳しいですね、ローズヒップ殿」

「違うんです。ただバ……“真っ直ぐ”なだけでなんです」

 

エリカの言動をオホホと笑い、ローズヒップが素直な感想を述べたのを薫子がフォローする。

 

「我が聖グロリアーナに限ってそのような事はありません。例え、ダージリン様がケチで変人でノリが良くて、不整地で14km/hのトロマなチャーチルに乗る紅茶フリークスだとしても、それはありません」

「戦車に罪はありません! ダージリンさんはイイとして、チャーチルの悪口は許しませんよ!」

 

焦って、つい口が滑った薫子に対し優花里はチャーチルをかばう。そして、誰もダージリンをかばうことはない。なぜならば、ダージリンだからだ。

 

「ダージリン様はクルセイダーをあまり使ってくれないのですよ? 酷い話ですよね? 私に30kmも出ない歩兵戦車で満足しろと言うのですよ? 分かりますか? この気持ち」

「ですがチャーチルに罪はありません! 歩兵戦車として、ティ―ガーにも匹敵する装甲を持った戦車は紛れもなく……」

「うるさいオッドボール! 少しは静かにしなさい!」

「シャイセ! 聞き逃したじゃない!」

「ちょっと黙って貰えますか?! 今薫子殿にチャーチルの素晴らしさをですね!」

「いい加減、パスタ伸びるんで早く食べてくんないすかね?」

 

オープンカフェで、サンダース校の学園祭で戦車道履修者達は火花を散らしだした。恋愛、戦車、速度狂、パスタ。様々な意志と譲れない、そして噛み合わない想いがぶつかり合ったのだ。本来なら彼女たちを抑えるべく隊長クラスの人間がいつもいるのだが、今はいない。そして周囲の生徒達にソレを代わるのは無理な話だった。

 

見かけこそ可愛らしい女子高生でも、エキセントリックな言動を繰り返す戦車道の女の子。パンツァ―ハイに盗聴魔、狂犬、スピードジャンキーに似非お嬢様にアンツィオの混合部隊に頼まれたって誰が行くものか。

 

「というか、ヘルキャットは使わせてくれないんですの?! 私、その為に此処に赴いたのですのよ! いい加減ヘルキャットをお出しになりなさい! このヤロ!」

「知ったこっちゃないわよ! 聖グロはお茶してなさい!」

「いいから、静かにしなさいっての!」

「いや、チャーチルはですね!」

「チャーチルとか!」

「パスタを食え!」

 

いがみ合いはエスカレートしていく。そこは火薬庫と形容して言い。あの、ほんの一押しで爆発する危険な場。信管むき出しの不発弾と言ってもいい。まとめ役がおらず、誰もが自分の欲と信念に忠実であるがためのカオス。これも、戦車道に身を沈めた乙女の姿の一端なのだろうか。それとも様々な愛とやらに身を焦がしているからか。

 

テーブルをひっくり返し、ドリンクが入ったプラスチックの容器が宙を舞う。さんさんと輝く太陽の下で六人は決闘を行うガンマンのようにお互いを睨み合った。

 

「ヘイ! ストップ!」

 

一触即発のその時、快活な女の子の声が六人の耳に届いた。六人が視線を向けた時、彼女らは一斉にその姿に身体を固めた。

 

戦車道の乙女を止めるには戦車道の乙女。六人の乙女の前に表れたのは白いカウボーイハットに茶のブーツ。ホットパンツとガンベルトのセクシーでへそを出した色気溢れる保安官ではなく、サンダース校のリーダー、ケイであった。

 

「何の用ですか?」

 

エリカが尋ねるとケイはニヤリと笑って答えた。

 

「学園祭で騒ぐなら、アタシと来ない? Come on!  Ladies!」

 

それが事の始まりだったかもしれない。格納庫で出会い、何もすることがなく、仕方なく喫茶店で駄弁っていた彼女等を一つの部隊として、一日だけのドリームチームにしてしまったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣く子も凍えるロシア……ではなく、サンダース校より、いささか涼しいプラウダ高校のある一室で小学生のような背の子とその姉のような女性がテーブルをはさんで座っていて、

テーブルには紅茶とジャムの入った小瓶に小さなトーストが二枚乗っている皿が二つあった。ジャムの種類は豊富で、生粋のロシア人のクラーラが微笑ましく見る中で身長127cmのカチューシャがトーストを手に取って赤いジャムを一生けん命に塗っていた。

 

「カチューシャ様、今日は好きなだけジャムを塗ってくださいね」

「当然よ! ノンナが居ない分、塗って塗って宝石みたいにするんだから!」

「ハイ、美味しく食べてくださいね」

 

カチューシャは目を輝かせ、ルビーの様な光沢放つジャムトーストを食べる。小さな口で頬張り、口元にパン屑とジャムをつけても、気にせずに。ジャムの甘さと香ばしい焼き立てのパンの香りに満面の笑みを浮かべていた。

 

『小さくて可愛いです。カチューシャ様』

「日本語で話しなさいよ!」

 

クラーラはカチューシャの抗議を聞きつつも、携帯でパシャリと写真を取った。

 

「ちょっとクラーラ! 食事中に携帯なんて仕舞いなさいよ!」

『気にしないでください。 ちょっと写真を送るだけですから』

「さっきまでの日本語はどこ行ったのよ!」

 

ぷんすか、怒るカチューシャにニコニコとほほ笑むクラーラはその写真をメールで送った。今、この笑顔を手にしているかを誰かと言うことを教え、彼女がどんな顔をするのか、楽しみにしていた。

 

「今日の私のカチューシャ様」と文章を添えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと、見つけたよ! 私の戦車道!」不肖!秋山優花里の西住みほ                    語録 より抜粋。

 

 

 




久々なので、色々と違和感があるかもしれません。
なお、アンツイオのナポリタンについて、のっかている卵が半熟なのか、肩や気なのか、誰かご存じなかたはいますか?

作中でおかしな描写や感想ありましたら、お待ちしております。

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