アメリカと言えば何だろうか、この問いには様々な答えが用意できる。ある人は物量だと言う、資源と工業力で他の追随を許さない、驚異的な生産力である、と。その答えは然りだがここではNOだ。では、巨大なハンバーガーとコーラだろうか? それとも、何でも自由と言えるお国柄か? それらも然り。だがサンダース校のケイたちの目の前で見られる答えは違う。
馬にまたがり、回転式拳銃を振り回すカウボーイ、m1ガーランドやトンプソン短機関銃を片手に談笑する米陸軍の勇ましい行進、美声と踊り、甘いマスクの水兵たちが踊る華麗なミュージカル。パーテイドレスに包んだ美女とタキシードの男が魅せるロマンス、群がるゾンビ。
耳が幸せな、砲声と空を飛ぶレシプロ機のエンジン音、見事なオーケストラとタップダンスのリズミカルなサウンド。あちらこちらに張られた映画の宣伝のポスター。
そう、アメリカと言えば、エンターテインメントの王様、映画である。一般公開されたサンダース高の誇る映画部の巨大スタジオはまさに圧巻の一言だった。高校生とは思えないレベルの演技と高価な設備に連れてこられた七人は感嘆の声を上げるばかり。
「どう? ウチの映画部のスタジオよ。ローマ騎兵からシチリアマフィアまでいるのよ」
「流石、お金持ちッス!」
「カエサル殿が見たら喜びそうですね!」
優花里の前をローマ人のトガを纏った学生を歩き、手を振ったので優花里とぺパロニが大喜びで手を振る。大型の倉庫の様なスタジオから撮影が終わったのか、ドイツ兵とイギリス兵が一緒に出て来る。かと思えば、インターセプターとGTRなどの名車が出て来たのを見てローズヒップと薫子が飛びつく勢いで車に駆け寄った。
「V8ですわ! 薫子! V8!」
「は、はしたないですよ! ローズヒップ! い、いくらV8だからといって……V8!」
「はしゃぎまくりじゃない」
ぼそりとエリカが突っ込み、改めてケイの方へと向き直った。彼女の顔は不機嫌そうで、眉尻が微妙に上がっていた。
「それで、いい加減何でこんな所に連れて来たか、教えてもらえませんか?」
「ちょっと」
不遜な態度を取るエリカに対してアリサが割って入った。
「何よ、その口の利き方。黒森峰では礼儀は無いわけ? ゲルマン魂って。無作法に突っ込むってことなの?」
「一々噛みつかないでよ。此処まで説明も無しに来てんだから、聞いて当たり前でしょうが」
「まあまあ」
ケイはにらみ合う二人を両腕で抱いて引き寄せた。あまりに唐突でエリカは目を一瞬丸くした。抗議しようとしたが、ケイの豊かな胸に顔を押し付けられて口を塞がれる形となり、ジタバタ足掻くぐらいしかできなかった。
「ちゃんと説明するって、だからアレを見てくれない?」
二人がどうにかケイの指さす方を見ると、そこにはズラリと並んだ戦車の列があった。国籍は様々で、三号突撃砲にシャーマン各種、クロムウェルや四号戦車、エレファントにT34-85。果てはドイツ軍のハーフトラックに大戦後の戦車まで揃っていた。
「ハァ!? 何でこんなに?!」
「ヒャッホウ! 最高の眺めだぜぇ!」
壮観な眺めにエリカが大きく声を上げ、優花里がパンツァ―ハイの絶好調のまま叫んだ。優花里はともかく、エリカの驚きは無理もなかった。過去のサンダースの試合でこれらの戦車が使用されたことはなかった。さらに戦車の傍らでは男子と女子が一緒に整備しているところを見て、コレら全てが撮影用の戦車であることを理解したための叫びであった。
ジープ程度ならまだしも、三突やT34と言った戦車道の試合で一級品の戦力となるまさに最高の無駄遣いである。
「驚いた? コレ全部ウチの映画部の戦車なんだよ~。カーボンもついてて、砲撃させれば実際と変わらない映像が取れるのよ!」
「凄いです! これだけあれば、クルスクの戦車戦だって撮れますよ!」
「で、これが?」
「そう、コレ!私も偶に女優として出るんだけどね、少し前にしつこくオファーされちゃって……」
目をランランと輝かせる優花里を尻目にエリカがケイに尋ねると、ケイは大きく胸を反らして頷いた。
「実は、今日の学園祭で映画部と戦車道の皆で組んで、演目をする予定だったんだけどね、向うの連絡にミスがあって、ちょうどパレードの予定と重なって、出れる子がいなくてさぁ~。だから、ね? お願い! 代わりに出てくれない?」
「あの、ですね! 戦車道は……!」
「Take it easy! 固いこと言わないでよぉエリカ! 貴女とノンナ、オッドボールだけでも居てくれると大助かりなの! ソレに、ホラ! こうして運命的な出会いで集まったわけだしさ! 後でハンバーガーでも何でもおごっちゃうから!」
何かと思えば、イベントの乗員の代わりをしてもらおうと言う話で、エリカは反感を覚えたが人をグイグイと引っ張る、ある意味大雑把なケイに圧されてしまっていた。それでも、エリカが反論しようとしたが、彼女に伸し掛かるように戦車道の乙女たちが殺到してきて、下敷きにされた。
「ケイ殿! 自分は是非参加させてほしいです!」
「ありがとう! オッドボール!」
「ハイハイ! ヘルキャットは?! ヘルキャットは使わせてもらえないのですの?!」
「勿論OK!」
「マジですの?!」
「聖グロばかりズルいぞ! アタシにもデカい大砲のついた奴お願いするッス!」
「好きに言っちゃって、用意するから!」
聖グロコンビは高速戦車に乗れると知ってその場でワルツを踊りだし、優花里とぺパロニは喜びを分かち合うためにケイに思い切り抱き付いた。歓喜一色の彼女等とうって変わって、無残にも下敷きにされたエリカはぜえぜえと息を吐いてよろよろ立ち上がろうとする。
「大丈夫?」
すると、アリサが手を差し出してくれたのでエリカは迷ったが素直に手を取って立ち上がって苦笑を浮かべたアリサに自分の疑問をぶつけた。
「アンタの所っていつも、こんな感じなの?」
「大体ね。ケイ隊長良くも悪くもアメリカンだから。でも悪くないわよ」
「楽しそうで何よりね」
皮肉とも感心とも取れる言葉にアリサは曖昧な笑みを浮かべた。
「で、やらないの?」
少し挑発的な物言いだったが楽しそうなケイ御一行を見て、視線をずらしながら、ぶっきらぼうに言った。
「……ま、偶にはお戯れだって必要かもね」
「何ソレ?」
「別にいいでしょ! 参加するって言ってるんだから!」
ムキになって反論するエリカにアリサはニヤニヤと笑う。何か弱みを握られた気がしたエリカだったが、墓穴を掘らない為にこの場は黙っておくことにした。
「で、演目はなんでありますか?!」
そんな素直になれない二人も加わって、優花里がケイに訊いた。一人の戦車ファンとして様々な映画や映像作品に触れて来た彼女にとって自分の乗る戦車がカメラに撮られると思うと楽しみで仕方ないようだった。勿論、ぺパロニやローズヒップもそうであったが、彼女等の場合は普段乗れない車両に乗れることに重きを置いていた。
ケイはサムズアップして優花里に答えた。
「オッドボール、ダメよ! 答えは来てもらってからよ! じゃ、アリサ オッドボール達を2番スタジオの大道具製作場に連れて行って、ついでにノンナも見つけたらそっちに送るわ! 聖グロのレディ―達は私が案内するから」
「分かりました」
「それじゃ、二人ともFollow me! ムーブ! ムーブ!」
「Yeah!」
薫子とローズヒップはお嬢様であることを忘れて、アメリカ風に応えて見せた。それを見たエリカとアリサは彼女等が本当に聖グロリアーナから来たのか、と疑った。もしかしたら、二人は速度の為に英国面のダークサイドを脱し、今度はヤンキーに転属するのかもしれないなとも思った。
ローズヒップと薫子、ケイの三人が肩を組んでリパブリック賛歌を合唱し、ヘルキャットがいると言う場所へと向かっていく。段々と小さくなっていく背中をアリサが何となく追っていると、ケイの背中をこっそりと覗き見る存在に気付いた。
目を凝らしてみると、髪を金に染めたのか、わからないが後ろ姿はスマートな男で、何やらただならぬ雰囲気を感じた。
「横浜 西口 駅前に~♪」
「ソレ違くない?」
何かが違うリパブリック賛歌を歌うローズヒップと薫子が気になってしまい、頭の隅へと追いやってしまった。
△
メガホンを持った男子が指示を出し、カメラマンや照明係があせくせ動き回る中、ケイに連れられた薫子とローズヒップは三回目のループとなるブリティッシュグレネーディアを歌いながら、目的のM18ヘルキャット駆逐戦車が待つ倉庫へとお手をつないで、小躍りしながら入っていった。
「楽しみなの?」
「モチロンですわ!」
ケイが問うと、ローズヒップがすかさず答えた。ローズヒップの目は輝きに満ちていて、興奮のためか頬が少し桃色に染まっていた。相方の薫子は焦点の定まらない目でヘルキャットの速度を想像し、幸せに蕩けた顔になったがハッと気づいてお嬢様らしく振る舞おうとする。
その二人にケイは大きく笑った。聖グロと言えば、彼女にとって例のノーブルシスターズの様な少し固いイメージがあったのだが、案外ローズヒップや薫子を見ると、きっとダージリンも扱いには四苦八苦しているだろうな、と思って笑ってしまった。
「ヘルキャットと言えば、時速80kmの高速戦車! クルセイダーのような気品さがちょっぴり足りないのが玉に瑕ですけど! 速いことは何よりも素晴らしいですわ!」
「80kmの振動ってどんな感じでしょうね? 私、大いに……コホン、ちょっぴり楽しみです」
また、同じ戦車道を進む者として戦車を大好き、と大きな声でハッキリ言う子がケイは大好きだったからだ。戦車道は試合であって戦争ではない、だからこそ性能や信頼性だけではなく、戦車が好きだから戦えるし、それがフェアでエキサイティングな戦車道と言う訳だ。
「いいね、いいね~! 戦車道らしくて、凄いイイわ貴女達!」
「褒めても何もでませんわ!」
「光栄です!」
「と言う訳で……」
ヘルキャットのいる映画部専用のハンガーの前に三人は立った。ケイが二人に振り返って、ニコリと笑う。聖グロリアーナの二人はお宝を前にした冒険家のようにウキウキしていた。
ハンガーの扉が徐々に開かれていくと、そこにはヘルキャットの姿が見えて来た。
M4シャーマンのずんぐりとした見かけとは違う小さくてシャープなデザインの車体。長く伸びた76mm砲が自己主張し、オリーブドラブ一色の駆逐戦車が完全に三人の前に現れた。しかも、驚くべきことがあった。まるで薫子とローズヒップを待っていたかのように、400馬力の空冷星型ガソリンエンジンが起動して、排煙を出して動いていたのだ。
「……What?」
ケイはさっきまでの笑みを消して、驚いていた。確かに戦車道のメンバーは連れてくると彼女は映画部の連中に言ってあった。だが、しかし今日連れてくると言ったのであって、今日のいつ、どんな子を連れてくるかなんて伝えたこともないし、そもそも“動かせる人間がいないから、戦車道の方に乗員を要請する”のだ。
つまり、ここでヘルキャットがこんなタイミングでエンジンを吹かして、しかも徐々に前進するはずなんてないのだ。
「ののの?」
ローズヒップと薫子も此処まで来てようやく気付いた。何で自分たちが乗ってもいない戦車が勝手に動いているのか。次の瞬間、エンジンが豪快に吹かされ、急加速を始めたヘルキャットが前進して来たのを三人は大慌てで横に飛んだ。
「ホワイ?!」
三人一斉に叫ぶとまだ完全に空いてなかったハンガーの扉を強引に抜けたヘルキャットが暴走を開始しだし、スタジオは阿鼻叫喚となった。ドレスやブロップガンの入った小道具をキャタピラで踏みつぶし、何とも乱暴な運転で走り抜けて、映画部の敷地の外へと走り去ってしまったではないか。
「戦車泥だぁぁぁ!」
誰かがそう叫んで、ケイはすぐにお気楽な気分を脱ぎ捨てて、携帯電話ですぐに自分の仲間達に電話を入れた。自分が埃にまみれようが、自慢のハットがぺしゃんこになろうがこの際無視した。
「ナオミ! 聞こえる!? 大変よ! 戦車泥が……」
『ケイ? 戦車泥ってどこに?』
「映画スタジオ! ウチの戦車を……」
ツカツカと足早に倉庫から出て、状況を確認していると、さっきの倉庫の隣の倉庫が突然爆発した。否! 崩れだしたのだ。何事かと見てみると、今度は映画部のM22ローカスト軽戦車がバウンドして、出て来た。いつかタンカスロンの為に使っていた物を映画部に供与していた車両だ。
「whyyyyy!?」
本日二度目のサプライズにケイは腹の底から叫んだ。何が起こっているのか、一体この学園祭で何が起ころうとしているのか、全く見当もつかなかった。
『ケイ! ヘルキャットとローカストが出て来た! コイツ等か?!』
ナオミの交信に応えようとした時、聖グロの二人がいつの間にかいないことに気付いた。
『聞こえるか諸君!』
そして、聞き覚えのある声にケイは耳を傾けた。
△
『同志クラーラ……』
映画スタジオに他のメンバーが言っている間、ノンナはいつの間にかスカートの短いウエディングドレスの仮装をされていた。真っ白で美しい衣装に彼女の白い肌と長い艶のある黒髪が映えて、最高の組み合わせだったが、彼女の纏うオーラはどす黒かった。純白の姿を真黒に見間違えるほどに。
『クラーラァ……! いつか、この報いを受けさせてあげます……地獄の釜で焼かれるがいい、魔女め』
彼女の背後500m先に転がるひび割れたスマートフォンには彼女の敬愛するカチューシャの満面の笑み、しかも口元にジャムをつけたこれ以上ない姿が撮られた写真が写っていた。
一瞬の歓喜も束の間。余計な一文として加えられた文章を見た後、しばしクラーラと激論を交わし、自らの敗北を悟った彼女は白いドレス姿のままロシア語で呪詛の言葉を漏らし、百年の恋だって凍り付く絶対零度を周囲に振りまいていた。
「あ、あの」
「何ですか?」
心配して声を掛けた女子生徒が悲鳴を上げて逃げた。かのソビエトの書記長も裸足で逃げ出す眼光を宿したノンナはやり場のない怒りに身を焦がし、さまよい歩いていた。本来、この手の者を取り締まるべきサンダース高MP(風紀委員)達は一目散に逃げて、誰も手出しできなくなっていた。
しかし、その時神の助け舟か。何やら周囲がノンナ以外の事で騒がしくなってきて、彼女が何かが起こっていることに気付いた時、いたるところのスピーカーから声が漏れ出て来た。
『聞こえるかね? 諸君!』
ノンナはますます不機嫌になった。こんな時に大きな音で男の、しかもどこかいけ好かない感じがする声音は彼女の怒りの炎に薪木をくべてしまっていた。
『我々は真サンダース戦車部である! この学校の、いや、全ての戦車道に革命を起こす者である!』
その信じられないセリフすら、彼女をイラつかせる材料となっていた。そして、絶対零度に達する勢いの彼女を、ブリザードのノンナをジャストタイミングで探し当てた人物が一人。
「やあ」
カンテレの導きにブリザードはどこへ吹く?
NEXTダージリンの格言
「恋ってのは、それはもう、ため息と涙でできたものですよ」
シェイクスピア
次回は戦車戦も真面目半分ボケ多めで書いていこうと思います。
書きたいこと多すぎて文字数が増えてしまいましたが、ご了承を。
ルパン三世2015とアンツイオでコラボ出来たらな、っていうのが最近の思い付きですので、更新は不安定です。申し訳ありません。