会議は踊る   作:Pubの親父

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”漁業権”
”漁船の定義”
”軍艦の定義”

それらの狭間で揺れ動く艦娘の運命

其の一。

法廷という名の劇が、幕を開ける。




軍事法廷・其の一(海上警備行動)

1962年8月22日・北海道余市町・海上自衛軍余市警備府内

「もう我慢になりません!」

会議室内に怒号が木霊した。北海道農林水産部の幹部が発したものだった。

「内地の各鎮守府に、秋刀魚漁の指示が出ていることは知っています。其の連絡は東京の農林水産省を通じてこちらにも来ています。ただ、その際の条件は、道東での水産関係者保護もあり、本土から200マイル以内の経済水域内での操業はしないとのことでした。ですが!現地の漁協に入った連絡では、200マイル以内に多数の艦娘が侵入し、漁獲を行っているとのことです!海軍は何をしているのですか?!我々との約束など紙切れに過ぎないとでもいうのですか?!」

確かにこの幹部の言っていることはよく分かる。哨戒中の海軍P-3C哨戒機にも、沿岸警備隊ファルコン900にもくっきりと艦娘の姿が写っている写真を撮影して帰ってきている。

「すでに本省には連絡済みです。」

新見政二参謀副長が静かに答えた。

「で、解決策はいつ実行されて、結果はいつ出るのですか?」

静かに言葉をつないだ農林水産部長に、私は声が出なかった。

「本省からの連絡では、すでに横須賀・呉・舞鶴・佐世保の各鎮守府には通達済みとのことです。また、大湊に関しては直接ここにいる新見君が出向いて連絡しました。更に、当方も発見した艦娘に関してはその都度、国防省に連絡しております。ですが・・・」

「西浦さん、あなたまで約束を破る気ですか?東京の連中は信用していませんが、あなたは信用している。それは裏切らないでほしい。」

その後、新規に開設した各支局向けのレトルト食品工場を恵庭に設置する話や、指定農場の拡大、緑の革命のさらなる推進などの話をして、彼らは札幌に引き上げていった。

私は彼らを司令部庁舎の玄関まで見送ると、会議に出席していた新見参謀副長と、私の部屋に戻りながら話を始めた。

「まずいよ、道庁は激怒している。」

「ええ、かなりまずいことになりました。」

「う~ん。漁業法違反か沿岸警備隊法、警察官職務執行法でパクられるかどうか、法務部と警備救難部に検討させるか・・・」

「漁業法はともかく、沿岸警備隊法や警察官職務執行法はまずいですね。それでは軍隊と警察の全面対決になってします。前者を中心に検討させましょう。」

「そうしてくれ。」

そう言って、私こと西浦進は自分の執務室に戻った。一介の基地司令官に過ぎないのだが、実質は海軍と沿岸警備隊双方の司令官を兼任するという、現行の我が国での海洋における武力を有する最高権力者になってしまった。当然、仕事は膨大であり、総務部と作戦管理室に仕事を振ってはいるのだが・・・

 

「閣下、お疲れ様です。」

そういって、副官のベルナップ級巡洋艦娘“ベルナップ”がコーヒーを出してくれた。

「ああ、本当に疲れたよ。」

艦娘6名を中心に秘書官室を設けて、書類の作成やチェックを振っているだけ、まだましか。そう思い直し、私は書類の山と格闘を始めた。

 

1961年10月13日・根室沖160マイル

「あきつしまさん!ヘリテレの映像が出ます。」

私の装備している端末に、搭載しているEC725からの映像が映った。

「あいつら、なめていますね。こっちが気付かないと思っているのでしょうか?」

傍らで今回一緒のチームを組んでいる、つるぎ級巡視船娘“つるぎ”が怒りをあらわにして言った。

「今回で7度目ですよ?経済水域内での操業は。」

同じく怒りをあらわにしているのは、びざん級巡視船娘“あかぎ”“あまぎ”。

「まぁまぁ、私たちが怒りを示してもしょうがないでしょう。結局はこの案件、政治マターなのだから。」

そういって2人を宥めつつ皮肉を言っているのは、あそ級巡視船娘“はくさん”

じっとヘリテレの映像とレーダーを見つめているのは、ひだ級巡視船娘“あかいし”

今回の根室沖での哨戒活動は私たちが担当している。

今はその待機所を兼ねている私こと、しきしま級巡視船“あきつしま”の中にあるOIC室で各種データを見ながら状況の推移を見守っている。

 

「この映像を見る限り、今回の違反操業者は空母“赤城”“加賀”の第一航空戦隊に、第四駆逐隊“嵐”“萩風”“舞風”“野分”の計6隻ですね。」

「あの食欲ババァ、今回も出てきやがったか・・・」

“はくさん”の冷静な画像分析の報告に、怒りを露わにしているのは、赤城の名を引き継いで4代目になる“あかぎ”。

「根室漁協のおっちゃんに嫌味を言われっぱなしでもう耐えられません。警察官として失格です・・・」

確かに。我慢の限界にきている。あいつら、取った魚を結構な勢いでその場で食べて、さらに漁獲していやがる。おかげで漁業関係者は例年に比べて不漁だ、これでは何のために深海棲艦から解放されたのか分からない。と言っているよ・・・

これにはさすがの釧路にいる護衛艦の“じんつう”もがっかり来ていたな・・・

私も、自分の母に当たる“秋津洲”が出てきたときには正直がっかりしたし、“みずほ”が担当した際に母親たる“瑞穂”を発見し、その場で停船命令を出して、立ち入り検査をしたくなったと言っていたな。海自艦も同じみたいで、“じんつう”“あぶくま”“せんだい”も自分の母を違法操業で発見した際には問答無用でSSMをぶち込んでやりたくなったと言って、釧路の居酒屋で絡み酒をしていた・・・

多かれ少なかれ、思うことは同じか。

 

「あきつしまさん!司令部から連絡です。」

「何々・・・おう!ようやくうっぷんを晴らせるぞ。司令部からの指示だ。違法操業中の第一航空戦隊を漁業法違反で逮捕せよ!」

「来ましたね!やってしまいましょう!」

連絡が来た、と知らせてくれた“はくさん”が興奮したような表情で声を上げた。

「諸君、待ちに待った行動だ。行くぞ!」

 

余市司令部庁舎内・司令官執務室

「閣下、本当によろしかったのですか?」

「警救部長、賽は投げられたのだよ。我々の抗議を無視し続けた呉鎮守府に一撃を加えてやれ。彼らが思いもつかない方法でね。」

私は西浦司令官の指示に対して笑顔で敬礼をした。

これまでに確認されている形態は、基本的に第一・二・五航空戦隊を基軸とする空母2隻に駆逐艦4隻の計6隻としたもの。時たま空母抜きで巡洋艦を加えた6隻での編成。すべての映像を航行軌跡のデータは保管している。この6隻編成で「経済水域内」で操業している。本来であれば「経済水域内」での操業が認められていないのだが・・・

そもそも軍艦って、漁業が認められるのか?あいつら漁業権を持っていないだろう。

「警救部長、法務部長と軍法裁判の準備を進めてくれ。検察官はだれにするか任せる。強烈なやつを頼みたい。あと、弁護人にはいいやつを付けてやってほしい。裁判には無論介入しない。」

「分かりました。法務部長と協議します。」

 

根室沖160マイル

「“あかぎ”“あまぎ”、駆逐艦主砲の射程圏内に入ります。」

OIC担当妖精さんが報告をする。

「周辺海域に他の船舶は?」

「釧路に向かっている“インディペンデンス”群がいます。空母“インディペンデンス”タイコンデロガ級巡洋艦“バンカーヒル”“プリンストン”アーレイ・バーグ級“ミッチャー”“ハルゼー”それにペリー級“フレッチャー”。更に内地第五戦隊の妙高型重巡洋艦“妙高”“那智”“足柄”“羽黒”、それに陽炎型駆逐艦“初風”綾波型駆逐艦“曙”の計12隻。それだけです。深海棲艦の姿は確認できません。潜水艦に関する情報もありません。」

「インディ群、反転します。こちらに向かいます。」

OIC担当妖精さんの声が慌ただしい。

「ピューマ2に海上警備隊を乗せて。万が一停船しない場合は甲板を摘んだ馬鹿でかい船に着陸させて停船させます。」

「抵抗が予想されますが・・・」

「こちらは漁業法違反で停船命令を出しています。抵抗する場合は警察官職務執行法違反・沿岸警備隊法違反を根拠に即刻逮捕します。抵抗はこれを排除します。司令部に連絡。海上警備行動を具申。」

「そこまでしますか。分かりました。司令部に連絡。現在、“あかぎ””あまぎ“の停船命令に艦船は従わず。なおも警告・停船命令を出しています。艦船はなおも航行中。軍艦であるため、抵抗の可能性もあり。海上警備行動の発令を要請。」

 

余市司令部庁舎内・警備救難部状況管理室

「部長!現場より海上警備行動の要請が来ました!」

余市警備府警備救難部内にあるoperation roomの中はその言葉で緊張が走った。海上警備行動、それは沿岸警備隊が対処できない犯罪行為が発生した場合に、海軍が対応する行動のことを指す。今回の場合、あらかじめその基準も、対処行動の素案も決めていた。無論、軍事行動になるために総理以下、永田町(官邸)霞が関(運輸省)市ヶ谷(国防省)も了解は得ている。極秘のうちにことを運び、それが表面化した際にはすでに結果が出ている。これが物事の運び方だよ。

 

設置されている大型モニターには、“あきつしま”のヘリが撮影した映像がリアルタイムで入ってきているし、船舶の動きも可視化されている。確かに、対象艦船に停戦の気配はない。

「司令官および作戦部に連絡。現地より要請!海上警備行動の発令を具申。」

「分かりました。」

心なしか残念そうな、ほっとしたようなスタッフの一人が部下にその指示を伝えるようにさせた。私は彼に声をかけた。

「不満かね?」

「いえ、ただ自分たちの手で彼女たちを逮捕したかったです。」

「私も同じだよ。ただ、この事案は内地海軍の艦船が出ている以上、我々に対処不能の状況が発生することを考えねばならない。それに、巡洋艦クラスであれば対処可能だが、戦艦や空母が出ていている以上、艦砲射撃や空爆を覚悟せねばならない。無論そんな事案はないとは思うが、こちらはピストルなのに相手は機関銃、それも12.7ミリだと考えると・・・」

「分かります。我々の装甲はそれであれば紙屑同然ですから。まぁ、海上警備行動と言っても、警察比例の原則に従って、とりあえずは空母艦載機の護衛だけですから。」

 

根室沖200マイル

「インディ姐さん、司令部より連絡です。」

その指示は無論私のCICにも入っていた。“プリンストン”が私にあえて言ってきたのは、今回随伴している大湊の妙高たちに知らせる意味だろう。

今回私たちは偶然その場に居合わせた。大湊鎮守府と我々(余市警備府)は初期こそ関係は良くなかったが、担当水域が隣接していることから仲はすぐに良くなり、今回の海軍連合艦隊からの“秋刀魚をあつめるのです”という奇怪な指令に対しても、大湊の分はこちらで調達して渡してある。適正価格で道東の漁業者から買い取ったものだ。

その漁業者との密接な関係を破壊しかねない内地艦娘の行動には、私達合同任務部隊(Combined Task Force)つまり、CTF所属の艦娘も不満に思っていた。

 

あの漂着後、私達各国艦娘がしばらくの間、余市警備府所属に決まった際に一番問題になったのはその呼び方である。つまり、USS(合衆国海軍)やらHMS(イギリス海軍)をそのまま使うのか?それとも、海上自衛軍(Japan Maritime Defense Force)とするのかどうか?

流石にJMDFの使用は私達のみならず、海上自衛隊艦娘からも反対意見があり見送られ、合同任務部隊、CTFとすることにした。

 

今回の任務は、その大湊所属の第五戦隊の対空対処能力向上と水上戦闘能力向上の訓練である。さすがに私固有の艦載機は使わなかったが、大戦直後から朝鮮戦争ぐらいまでの艦載機を搭載した。また、グループの水上戦闘艦艇もSSMは使用しないで、艦砲のみの使用に限定している。

「妙高、赤城はいったいなぜ停船しないのかしら?沿岸警備隊が違法操業で停船命令を出しているのに。」

“バンカーヒル”から今起こっていることを知らされて、第五戦隊の面々は顔を真っ青にしている。

私達CTF艦娘は各海洋に関する法教育を叩き込まれる。まぁ、私が叩き込まれたのは合衆国の海洋法であり、日本のものとは違う。其の為、漂着後から余市警備府開所までの期間に新しく学びなおした。

「漁協に所属していない船舶が勝手に漁業をすることは漁業法に違反しているわ。それに、沿岸警備隊の停船命令に従わないなんて、何を考えているのかしら?立派な犯罪よ。」

そういうと私は自分の甲板から、F8Fを12機発艦させた。

「何をするのだ?」

那智が怪訝そうな顔で私に問いかけた。

「簡単な話よ。司令部から指示が来たわ。第一航空戦隊を漁業法違反と確認。軍艦である以上、対処不可能の可能性あり。対処準備をせよ。それだけよ。」

 

根室沖160マイル

現在の時刻は1400。まだ日が出ている。これはつまり、“赤城”“加賀”が追跡を振り切るために艦載機を発艦させる可能性があることを意味している。初めての状況に混乱した空母が何をするか想像がつかない。こちらの停船命令に従ってくれると良いのだが・・・

「第一航空戦隊、なおも指示に従いません。“あかぎ”“あまぎ”駆逐艦主砲の射程圏内に入り警告を続行中。」

「空母甲板に艦載機の姿依然無し。」

「インディペンデンス、艦載機を発艦。艦隊上空で待機。レーダーでも確認。」

依然として航行する艦船がヘリテレで映し出される。警告を発した当初からその進行方向、速度に変化はない。聞こえているのだろうか?

「“あかいし”“はくさん”“つるぎ”現場到着。“あかぎ”“あまぎ”の応援に入ります。」

私は各種モニターを見ながら考え続ける。

相手は私たちを沿岸警備隊と知っているのだろうか?そもそも停船命令が聞こえているのだろうか?私たちを馬鹿にして無視しているのだろうか?

感情を捨てて考える。幾分が経過しただろうか?

「各船に、平文で連絡。なお警告に従わない場合は、警告射撃を実施。繰り返します。警告に従わない場合は警告射撃を実施。」

 

根室沖130マイル

其の指示に、私は一瞬驚いたものに、現場に到着してそれ相応の状況になっていることを確認した。すでに先行している“あかぎ”“あまぎ”は艦隊の両側面で停船命令を出している。だが・・・

「これは警告を無視しているのだろうか?」

警告は拡声器を用いて日本語で行っている。距離は駆逐艦の主砲どころか搭載機銃の射程圏に入りそうな500m以内から。もしあれが日本艦娘にそっくりの他国の艦娘であるとか、深海棲艦であるのであれば・・いや、深海棲艦なら攻撃してくるか。

つまり、単に無視しているだけか、日本語が通じないせいであろう。

「“あかぎ”“あまぎ”に指示。艦隊正面の海域に向けて警告射撃を実施。我々もこれに参加する。」

私、現場指揮官のあそ級巡視船娘“あかいし”の指示に2人も従い、最大速力で先行する2人に追いつくべく行動を開始した。

 

「機関砲準備!警告射撃、開始!」

私と双子の妹である“あまぎ”の2人は第一航空戦隊正面の海域に向けて警告射撃を実施した。これまで、何回も拡声器で警告していたのだが、一向に聞く耳を持たない。こちらはいつ12.7センチ砲で吹き飛ばされるのかヒヤヒヤなのに・・・

警告射撃に反応したのか、これまでずっと正面を見ていた護衛の駆逐艦がこっちを見た。

これはチャンスと、私は再度拡声器で警告をする。

「こちらは沿岸警備隊です!あなた方は漁業法違反の容疑がかかっています。ただちに停船してこちらの指示に従ってください!」

ただ、なおも停船する気配はない。私の20ミリ機関砲では豆鉄砲にしかならないか・・・

 

その時、明らかに大火力の機関砲の水しぶきが艦隊前面に上がった。

「こちらは沿岸警備隊です!停船命令に従ってください!」

それは、“あかいし”の40ミリ機関砲のものだった。

「なおも停船しない場合は、船体に向けての警告射撃を実施します!」

上空では“あきつしま”から発進したEC725が旋回し、同じように拡声器で停船命令を発していた。通常の無線でも停船を呼びかけている。

「“あかぎ”“あまぎ”、停船命令に従わない場合は最接近して、警告弾を投げて!」

「私たちに死ねっていうのですか!?相手は軍艦ですよ!」

「最接近したら主砲は撃てない。機関砲の勝負だったらFCSのある私たちが有利よ!大丈夫、私が反対側に回って援護します。こっちは、来た!“あきつしま”がするわ!」

「分かりました!」

正直、軍艦に最接近して警告弾を投擲なんて自殺行為だと思う。ただ、私は警察官だ。いくら相手が軍艦の艦娘だといっても犯罪者は犯罪者。対応するわ。

 

射撃管制装置がない以上、死角をついて接近することは可能、そう“あきつしま”の指示を受けて私は円陣形を組んで航行している艦隊に接近した。

「こちらは沿岸警備隊です!停船命令に従ってください!」

やはり反応はない。そこで私は護衛に右舷の護衛にあたっている駆逐艦めがけて警告弾を投げた。

「きゃあ!」

その駆逐艦が少し悲鳴を上げた。先頭と後衛の駆逐艦が大丈夫か?と聞いている。

「こちらは沿岸警備隊です!あなた方は漁業法違反の容疑がかかっています!至急停船命令に従ってください!」

「こちらは海軍第一航空戦隊です!こちらは呉鎮守府の作戦指示で行動しています!沿岸警備隊の指示を受け入れる理由はありません!」

「平時であれ有事であれ、漁業を行う場合には許可を得ねばなりません!あなた方はその許可を得ずに操業しています!漁業法違反の容疑がかかっていますので、至急停船してください!」

旗艦であろう空母がようやく返答した。だが、こちらの指示を受け入れる様子はなさそうだ。

「指示に従わない場合は再度警告射撃を行います!停船してください!」

 

その時、私に向けて空母が矢を放つのが見えた。その空母は、私の指示に対して返答した空母だった・・・

 

反対側

「空母“赤城”より艦載機の発艦を確認!戦闘機烈風、“あかぎ”に対して機銃射撃を開始!」

「至急各船は駆逐艦主砲の射程圏外に退避!!」

私はヘリテレと状況指示のモニターを見ながら大声を張り上げた。

想定していたが、本当にやってくるとは思わなかった。

「“あきつしま”さん、まさか本当に艦載機を発進させてくるとは・・・」

OICの妖精さんも驚愕というか、唖然というか、声が出ないようだった。

「“あかぎ”と“あかいし”の損傷は!?」

「“あかぎ”はブリッジに被弾!ですが貫通した弾はありません。“あかいし”に損傷なし。全速力で退避中。」

「“あまぎ”“はくさん”“つるぎ”に損傷はありません。全速力で退避中。」

「現在の私の位置に集結してください。司令部に連絡。第一航空戦隊より艦載機発進。あかぎ負傷。」

 

余市警備府司令官執務室

「で、“赤城”から艦載機が発進したのは確かなのか!?」

「はい。現地の“あきつしま”より警救部の指揮所に緊急連絡がありました。ECのヘリテレでも確認しました。」

吉田栄三作戦管理室長の報告に、私は頭が痛くなった。

「室長、私は今、呉の連中を猛烈に呪ってやりたい心境なのだが・・・」

「私も同じです。数名の僧侶と神官に心当たりがありますので、護摩行でもお願いしますか?」

「酷い冗談だな、全く。」

私は吉田君の冗談に苦笑するしかなかった。

いくらこの状況を想定していたといっても、頭の体操と現実とでは意味合いが違う。

「市ヶ谷と官邸に伝えてくれ。現状を。」

「分かりました。」

 

同時刻・根室沖150マイル

私はリアルタイムで入ってくる情報に驚愕していた。停船命令の出ている軍艦が逃走し、挙句の果てに艦載機を発進させて攻撃なんて聞いたことがない。あるとしたら途上国でのクーデターとか内乱といったニュースでしかない。

「ねえ妙高。一体どんな教育を受けていたら平時に、警察官の指示に従わないで攻撃するなんてことになるのかしら?」

そういわざるを得ない。リアルタイムで入ってくる情報に彼女たちも接し、言葉がないようだった。顔もだんだん青くなっていくのがわかる。気の弱い羽黒に至っては今にも気を失いそうだ。

「赤城さんはそんな人じゃないのに・・・加賀さんもなんで赤城さんを止めないのよ!」

駆逐艦初風が怒鳴っている。

「インディ姐さん、損傷したのは巡視船“あかぎ”です。」

“ハルゼー”のその言葉に、その場にいた全員が凍りついた。

「つまり赤城は自分の孫に等しい存在を攻撃したってこと?」

足柄がぽつりと漏らした。

「まぁそうなりますね。“あかぎ”はブリッジ、つまり頭部に被弾。ただ、対深海棲艦対策ということも考えてブリッジと機関部の装甲は強固にしていますから貫通弾はないとのことです。軽微な損傷との連絡が入っています。」

「そうか・・・インディさん。この不始末は私たちに取らせてほしい。」

那智が意を決したように言葉を発した。

「そうね。羽黒、大湊の司令部あてに打電して。呉鎮守府所属空母赤城が錯乱した模様。これに対処するべく余市警備府所属艦とともに行動したく。以上!」

第五戦隊旗艦、妙高の指示が指示をした。その指示に従って、那智は自分の主砲をチェックし、足柄は機銃を、羽黒は通信をしている。初風・曙は自分の機関部を確認中。

「インディ姐さん、F8Fをもう12機発進させましょう。計24機なら、赤城の航空隊は抑え込める。ヘリテレでは加賀からは発進する兆候はない。」

“ミッチャー”の進言に、私は頷いた。

「最悪の場合もあります。各艦、ESSMの発射準備を。CIWSに電源を入れて。これより全速で現場に向かいます。」

 

国防省

「大臣!余市警備府は海上警備行動を発令しました。」

秘書官が執務室に駆け込んできた。私は、その言葉に愕然とするしかなかった。

「そうか・・・至急呉鎮守府に伝えてくれ。当分の間、第一航空戦隊は使えない、とな。」

そう指示すると、秘書官は下がった。困ったことになった。余市警備府の主張はよく分かるし、地元との兼ね合いからそうせざるを得ないのも分かる。しかし、軍艦を拿捕するとは・・・

そう思い、私こと国防大臣天海武夫は市ヶ谷の国防省内大臣執務室から、復興しつつある東京の景色を眺めた。きっと西浦君の頭の中にあるのは戦前のゴーストップ事件であろう。西浦君はどちらかというと沿岸警備隊に理解を示す海軍内でも数少ない人間だからな。

「大臣、統合軍幕僚長です。」

卓上の電話が鳴った。

「私です。ああ、新見さん。海上警備行動を発令したよ。これで良かったのかね?」

 

根室沖

「ASWが上空管制中。F8F部隊24機、沿岸警備隊船隊上空に接近。」

「先行する第五戦隊。同船隊まであと10分です。」

「こちらは?」

「第五戦隊5マイル後方を予定通り航行中。SSM諸元(データ)入力完了。弾頭に炸薬装填無し。」

「F8Fと交戦、および第五戦隊への発砲があり次第、海上警備行動の段階を上げます。」

“ハルゼー”と“ミッチャー”が状況共有のために声を発する。

「ヘリテレ画像受信。空母“赤城”“加賀”及び第四駆逐隊はなおも航行中。沿岸警備隊船隊追跡及び警告を再開。」

「周辺海域に深海棲艦の姿は確認できず。」

“バンカーヒル”“プリンストン”は周辺海域を警戒している。これで深海棲艦の奇襲を受けたら元も子もない。

「“フレッチャー”、先行して沿岸警備隊船隊と合流。以降の指示は“あきつしま”に従ってください。」

「承知しました。“フレッチャー”、先行します。」

そう言うとフレッチャーはその速度を上げ、我が艦隊より離れていった。

「F8F編隊、烈風編隊と交戦!」

“バンカーヒル”が叫んだ。

 

「F8F編隊と烈風編隊が交戦を開始しました!」

なおも航行を続ける第一航空戦隊を追尾、警告射撃を行うために先行させた“あかいし”“はくさん”“つるぎ”から至急の連絡が入った。

「F8F編隊、警告射撃を実施。烈風編隊、これに反応して実弾射撃を実施。」

 

余市警備府・作戦管理室

「なんということだ・・・」

余市警備府の作戦管理室で状況を管理していた私ことアーレイ・バーグ級駆逐艦娘“ニッツェ”は状況を示すモニターを見ながら唖然としていた。

「まさか本当に反応して攻撃してくるなんて・・・」

「先行している沿岸警備隊船隊、警告射撃を再度実施。」

 

根室沖

「次の警告射撃は駆逐艦機関部を直接狙って問題ありません。」

私、“あきつしま”は決断を下しました。これまで何回も警告を行い、警告弾を投げ、前方水域への警告射撃を実施してきました。ですが、停船しません。それどころか艦載機を発進させてこちらを「攻撃」、巡視船娘“あかぎ”が被弾。損傷は軽微ですがこれ以上はできないでしょう。大湊の第五戦隊が接近中ですが、まだ時間がかかります。

「分かりました。最後尾の“舞風”機関部に向けて射撃を開始します。」

指揮官の“あかいし”から連絡が入りました。

 

FCS(射撃管制装置)が作動し、連動している40ミリ機関砲が“舞風”の機関部にロックされた。水上スキー方式で航行している彼女の足の部分にそれは当たる。無論、足そのものではなく、靴の部分に装着されているところだ。

「FCSロック。発射!」

40ミリ機関砲弾は正確に“舞風”の機関部に命中した。警救部内で駆逐艦とはいえ第二次大戦時の軍艦がモデルになっている以上、そう簡単に貫通することはないだろうと検討されており、実際、命中しても貫通はしなかった。

「こちらは沿岸警備隊!ただちに停船せよ!ただちに停船せよ!」

 

「分かりました。先頭の“嵐”の艦首部に向けて警告射撃を行います。」

私、“はくさん”が搭載している30ミリ機関砲のFCSを作動させて、“嵐”の艦首部に固定させた。

「発射!」

30ミリ機関砲弾は正確に“嵐”艦首部に命中した。無論、30ミリ機関砲弾では貫通することはない。ただ、警告にはなる。

「こちら沿岸警備隊!ただちに停船せよ!ただちに停船せよ!」

 

「姉さん!見えた!」

那智が叫んだ。私たちの目の前では衝撃の光景が広がっていた。“赤城”の烈風隊と“インディペンデンス”のF8Fベアキャット編隊が空中戦を、実弾を使った空中戦を繰り広げていて、海上では沿岸警備隊の巡視船が駆逐艦に警告射撃をしている。

「姉さん!すぐに止めないと!」

「足柄!初風!すぐに一航戦に言って!すぐに停船させて!」

私、第五戦隊旗艦“妙高”は指示を出した。後方では私達が言っても停船しない場合には、飛行甲板めがけて“ハルゼー”と“ミッチャー”がSSMを発射、破壊する手はずになっている。何としても止めないと・・・

 

余市警備府内作戦管理室

「第五戦隊、現場到着。説得にかかります。」

「ハープーン発射準備完了。目標、“赤城”“加賀”飛行甲板。」

作戦指揮所ではマウスと叩く音、キーボードをたたく音そして各船と交信する音声しかしてない。いつものいろいろなところである話し声は全く聞こえない。

「部長、SSMの発射に関しては部長の指示をください。」

スタッフが私に告げた。

「分かった。“インディ”に連絡してくれ。」

 

余市警備府内司令官執務室

「中将、SSMの発射シークエンスに入りました。第五戦隊の説得に応じない場合、飛行甲板を破壊します。それでも停船しない場合、駆逐艦を攻撃、航行不能に追い込みます。」

副官の“ベルナップ”が報告した。

「うむ・・・なるべくそこまでは追い込みたくない。第五戦隊の説得に応じることを期待しよう。」

 

余市警備府警備救難部状況管理室

「部長!“あきつしま”より連絡。第一航空戦隊、速力なおも変わらず。重巡“足柄”駆逐艦“初風”、速力を上げて第一航空戦隊前面に出て航行を阻止する模様。」

「海軍“インディ”任務部隊、SSM発射準備完了。作戦部長の指示があり次第、発射。」

「海軍第31護衛隊“きりさめ”“あけぼの”、浦河沖より釧路港へ進路変更。第一航空戦隊が入港し次第。身柄を受け入れ、千歳まで護送します。YSはすでに釧路空港で待機。」

「部長!根室漁港より電話が入っています。」

部下の報告を聞いて、私は片手をあげて合図を送り、根室漁港からの電話を取った。相手は漁協長だった。

「大久保です。」

「遠藤です。内地の艦娘を逮捕しようとしているとか。付近で操業中のうちに所属している漁船より連絡がありました。対処いただき、ありがとうございました。」

「いえいえ。こちらこそ、その決断が遅れてしまいご迷惑をおかけしました。」

「何か不都合になるようなことはありませんか?釧路や羅臼などの道東の漁協を通じてお力になれればと思い、ご連絡いたしました。」

「お気づかいいただき、ありがとうございます。現状ではご心配戴くほどのものはありません。そうですね・・・強いていれば、旬なサケマスでもいただければと思います。」

私が笑いながら言うと、遠藤漁協長も電話先で爆笑したようだった。

「早速手配いたします。」

後日、司令部宛に大量の鮭・鱒が届き、警備府所属の者全員で美味しくいただいたのだった。

 

「“足柄”“初風”、第一航空戦隊前面に出ます!

「上空の烈風隊・F8F編隊、それぞれの母艦に戻ります。」

OIC妖精さんが情報を伝える。

その情報は、データリンクシステムで、対象艦に警告を発している船隊、そして後方で支援している艦隊に伝えられる。

「“はくさん”より連絡。重巡“妙高”“那智”、右舷より速力を上げて転舵を阻止するかまえ。」

「“あかいし”より入電。重巡“羽黒”駆逐艦“曙”、左舷より接近。転舵阻止の構えです。」「これで第一航空戦隊は、速力を上げて阻止を突破するか、停船せざるを得ないか・・・よし、本船も速力を上げて後方より接近します!」

 

余市警備府内作戦部作戦管理室

「第一航空戦隊、なおも速力を維持。もうすぐ、阻止線に入ります。“ハルゼー”“ミッチャー”SSM発射準備よし。」

どこかSSMの発射を期待しているような上づいた声の報告が上がってくる。

「まぁ落ち着け、そして待て。阻止線が破られたら発射しよう。」

実際には“ハルゼー”も“ミッチャー”も発射したくてうずうずしているだろうな。何せ“赤城”“加賀”を攻撃できるなんて、ミッドウェー以来になるのだ。そりゃ第二次大戦中の米海軍で活躍した海軍提督のを、しかもブル・ハルゼーは持病で入院していて、ミッドウェーの指揮をとれなかったのだからな・・・

そう思って、私は通信を直接“ハルゼー”につないだ。

「私だ。ブル、間違っても先走ってSSMの発射はするなよ。」

「部長・・・いくらなんでもしませんよ。まさか、私が“ブル・ハルゼー”の執念を晴らすべく先走る、なんて考えていませんよね。」

「当たりだよ。」

そういって、私は笑った。

「そんなことしませんよ。」

向こうも笑っている。海軍部内に関する限り、空気は落ち着いて冗談が出るぐらいだ、

 

余市警備府内警備救難部状況管理室

「第一航空戦隊、“足柄”“初風”を確認した模様。」

「転舵の兆候なし、速力そのまま。」

オペレーターの報告はそのまま、ヘリテレの画像でも確認できた。

「“あきつしま”、対象艦隊に接近、威嚇射撃を開始。」

「“あかいし”“はくさん”、威嚇射撃を続行。“つるぎ”周辺を警戒中。」

 

根室沖

「“赤城”さん、“加賀”さん!足柄です!止まってください!」

足柄が説得を開始するのが見えた。だが・・・

私こと巡視船娘“あまぎ”はその光景を見ながら、果たして停船するのかどうか疑問を持たざるを得なかった。

これまで、何回か私と姉の“あかぎ”は艦隊に向かって停船勧告、警告弾投擲、威嚇射撃を行った。更には、“あかいし”さんと“はくさん”さんが、直接船体への警告射撃を行っている。それまでやっているのに 停船するだろうか・・・

すると、それまで並走していた“妙高”が速力を上げて“足柄”のところで停船した。」

「“赤城”さん、“加賀”さん。止まってください!沿岸警備隊の指示に従ってください。そうでないと・・・打ちます!」

そういって、彼女は20.3センチ連装砲を艦隊に向けた。

 

余市警備府内作戦管理室/状況管理室・根室沖

それは奇妙な静寂だった。私、“あきつしま”のOICでも、“インディペンデンス”のCICでも、警備府内庁舎内の両管理室も“妙高”の意を決した叫びに、静まり返った。

「さて、どう出るかな・・・」

上空を、“あきつしま”搭載のEC725ヘリがヘリテレで状況を撮影しながら飛んでいる。また、もう一機のEC725が甲板上で海上警備隊を乗せて待機している。万が一の場合は、飛行甲板をSSMで破壊後、降下させて艦橋を制圧する。

「第一航空戦隊、速度低下。停船します。」

落ち着いた空気でOIC 妖精が報告した。

「第一航空戦隊各艦、速力を落として停船します。」

現場で監視している“あかいし”から連絡が入った。

「了解。各船は停船し次第拘束。私が船形態になるので、乗船させてください。」

「こちら“インディペンデンス”。第一航空戦隊の停船を確認。貴船隊を支援します。」

「了解しました。本隊は乗船を確認後、釧路港へ向かいます。」

「では釧路で会いましょう。」

 

余市警備府内・司令官執務室

「それで、状況は終わったのかね?」

「はい。第一航空戦隊旗艦“赤城”“加賀”並びに第四駆逐隊“舞風”“萩風”“嵐”“野分”の計6人を拘束しました。現在、“あきつしま”船内に収容、釧路港に向かっております。また、海軍“インディペンデンス”任務群及び第五戦隊重巡“妙高”“那智”“足柄”“羽黒”駆逐艦“初風”“曙”も釧路港に入港予定です。」

警救部長が報告した。執務室に設置してある6人掛けのテーブルに、私こと西浦、警救部長、作戦部長、法務部長、法務部首席法務官、首席監察官の6名が座って資料を読んでいた。

「で、作戦部長。護送手順は?」

「釧路にYSを待機させています。また、証人及び警察官に当たる艦娘は別途、ファルコンを待機させています。」

「警救部長、それでいいですか?」

若干渋い顔をしている作戦部長に比べて、警救部長は満面の笑みを隠そうとしていない。それはそうだ。これまで海軍が圧倒的に優位だった状況を一気にひっくり返したのだ。霞が関(運輸省・農水省)の喜びに包まれていると聞いている。市ヶ谷(国防省)は・・・あまり考えないようにしよう。

「法務部長、軍法会議の手順は?」

「すでに開始しております。」

「到着し次第、監察官室が取り調べを行います。」

監察官室首席監察官の巡視船娘“こじま”が答えた。その言葉に法務部長は頷いた。

「首席法務官、弁護人の選定は?」

「進んでおります。資料はそこに。」

首席法務官が資料をすでに準備していることを報告した。確かにデスク上にあるたくさんの資料の中に、それはあった。

「ほう・・・この弁護人はなかなか面白いな。」

確かに、その弁護人に選定は面白かった。

 

 

 

 

 

 

 

 




まぁ、続くわけだがいつになるのか未定。

未完の大作、というものは好きなのだが。

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