どんな結果になるのかは、
8月30日・余市警備府大講堂
「裁判長入廷。」
担当職員の声に、そこのいた全員が立ち上がります。ドアが開いて、三人の背広姿の男性が入ってきました。
「青葉、大丈夫?」
妹の“衣笠”が心配そうに私を見ます。
私、舞鶴鎮守府所属青葉型重巡洋艦娘“青葉”はなぜここにいるのでしょうか?理由は分かります。隊内報“青葉通信”の作成者として、きちんと取材してあらぬ誤解が艦娘に広がらないようにとのことなのでしょう。
それは数日前の話です。
舞鶴鎮守府でいつものように業務をしていた私は、急に司令官に呼び出されました。
「“青葉”、急きょ余市に飛んでくれ。一航戦が拿捕された。」
「拿捕!?」
そんなことはないでしょう。軍艦が拿捕されるなんてそんなことはありえないはずです。公船を拿捕する権利はどこにもないはずです。
「“青葉”、貴官は確か法律には詳しかったな。余市もかなり強硬に法を適用させているようだ。取材名目で何とか押し通すから、状況を探ってきてほしい。隊内報の掲載も許可するし、どんな内容でも今回は大目に見る。急いでほしい。」
そう言われて、私は急きょ自室に戻って準備をします。
「“青葉”?また“青葉通信”のことで司令官に怒られたの?」
いつも私のやらかした時に一緒に怒られてくれる妹の“衣笠”が心配そうに私に声をかけました。
「一航戦が北海道沖で拿捕された。それで、取材名目で情報を探れとの司令官の指示だよ。」
その言葉を聞いて、“衣笠”の姿が消えました。それにかまってはいられません。準備をしないと敦賀港から出る客船に乗り遅れてしまいます。しばらくして、“衣笠”が戻ってきました。
「“青葉”、敵地に乗り込むのでしょう?司令官の許可は取ったから、私も行くわ。」
それを聞いて、私は驚きました。
「“衣笠”、行くのは敵地じゃないよ?」
「今回は敵地だよ。それに、状況によってはあなたが話す話を聞ける相手が必要でしょう?」
そういって彼女もまた、旅立つ準備をし始めました。
8月29日・小樽港
フェリーターミナルに船が接岸しました。艦娘である私たちが客船に乗るのも変な気がしますが、作戦行動時以外は普通の人として行動しないといけません。とかく、余市警備府に置いて規律は重視されます。
建物の中に入ると出迎えの人や手続きをする人などで混雑しています。余市までどうやって行こうか思案している私たちの肩を誰かが叩きました。
「よ!お二人さん、いらっしゃい。」
それは、こじま級巡視船娘“みうら”さんときぬがさ級巡視艇娘“きぬがさ”さんです。この二人は前回私たちが
「こっちに来るって聞いたので、迎えに来ました。きっと足を準備していないだろうと思って、
駐車場には確かに、車が止まっていました。
「この車は誰のですか?」
「これ?私の。」
“みうら”さんは颯爽と運転席に乗り込んで、車のエンジンをかけました。
「早く乗って。行くよ。」
“こじま”さんが運転する車は快適に走り、そのまま余市司令部の本庁舎に滑り込みました。入り口に一人の艦娘が待っているのが見えました。
「お帰りなさい。」
そういって出迎えてくれたのは、米キッド級駆逐艦娘“スコット”さん。私と“衣笠”がまだ鋼鉄の艦だった時代、サボ島沖海戦での敵将の名前を持つ艦娘です。前回の訪問時、彼女が私のホストシップを務めてくれた縁があって、今でも交流しています。
「大丈夫?急な指示で忙しかったんじゃないの?とりあえず、部屋と必要な備品は置いてあるから、好きに使ってちょうだい。カフェテリアパスとアヴァンティパス、それに・・・presspass これがあれば、だれにでも取材できるようにしてある。裁判長も、検察官も、弁護人も。」
そういって彼女は私たちに三枚ずつカードを渡しました。
「あと、アテンドは私と彼女がします。お~い!“キャラハン”」
“衣笠”のホストシップだった、米キッド級駆逐艦娘“キャラハン”さんが小走りでこっちに向かってきます。
「お久しぶりです!こんな事態にならないときに来てほしかったのに・・・まぁ、良いわ。時間は結構ありそうだからまた一緒に飲みましょうね!“キヌガサ”、今度こそ決着を付けましょう!」
「“キャラハン”、望むところよ!」
“衣笠”と“キャラハン”さんは以前の来航時になんでもビールの飲み比べをしたらしく、結果は互角でした。そのことを記事にしたせいで、あとで死ぬほど追いかけられましたが、記事は好評でしたよ。
「“スコット”さん。司令官にあいさつに行きたいのですが・・・」
私の言葉に、2人の顔が強張ります。
「本件に関しては、中将への挨拶は不要です。それが、中将の指示ですので、ご了承ください。」
これは何かありそうだ、と私は思いました。
「ここに、本法廷の開廷を宣言する。」
裁判長役の大川法務部長の開廷宣言があった。はてさて、
「まず氏名・所属を確認します。被告人は、自分の氏名と所属部隊名を申告してください。」
「呉鎮守府所属、第一航空戦隊航空母艦娘“赤城”」
「同じく航空母艦娘“加賀”」
「呉鎮守府所属、第四駆逐隊駆逐艦娘“野分”」
「同じく駆逐艦娘“舞風”」
「同じく駆逐艦娘“嵐”」
「同じく駆逐艦娘“萩風”」
「では起訴内容の確認を行います。被告人は去る8月23日、北海道根室沖で沿岸漁協並びに北海道知事の許可なく違法に操業しておりました。度重なる本行為を立ち入り検査するべく接近した沿岸警備隊に向け抵抗及び攻撃を加えております。ここに、余市警備府監察官室は6名を漁業法違反並びに漁業主権法違反、反乱罪により起訴いたします。」
そうきたか。漁業法違反は解かってはいたが、あの銃撃を「反乱罪」として起訴したか・・・確かに管轄が違うから、「抗命罪」は無理だと思ってはいたけれども。
私、こんごう級護衛艦娘“みょうこう”は傍聴席から“こじま”さんの読み上げを聞きつつそう思っていた。
初日の日程は、検察官による起訴状の読み上げと内容確認で終わった。明日からは検察官と弁護人よる被告人質問になる。
「ふぅ・・・いくら法律を少しかじったといっても、今回の件は少々難しいです。」
「そうね・・・私もそう思うわ。」
私のつぶやきに“衣笠”が反応します。
その時です。隣から声がしました。
「私でよければ、ご協力しますよ。」
それは、“みょうこう”さんの声だった。私と第五戦隊の妙高型重巡洋艦娘“妙高”さんとはそれほど親しくはない。それに、まじめな感じの“妙高”さんといつも取材で対象を追っかけまわして“古鷹”や“吹雪”に追い掛け回されている私からすると、少々苦手で・・・
ほんの一年前まで、“青葉”を追い掛け回している艦娘の中に、“熊野”がいました。ですが、彼女は不慮の事故で沈んだと聞いています。深海棲艦ならともかく、事故で沈むなんて・・・
「はい。よろしくお願いします。」
私の返事よりも先に“衣笠”は返事をしてしまった・・・
「それで決まりですね。では、“青葉”さん、行きましょうか?」
あれ?“青葉”は彼女に自己紹介したでしょうか?
「行くって、どこにですか?」
「関係者が集まっているところにですよ。」
しばらく歩いて、私たちは別の建物に案内された。そこはログハウスのような外観で、看板にはこう書かれていた。“AVANTI”と・・・
「いらっしゃいませ。」
ベルの挨拶が聞こえる。
「やぁ、ベル。いつものを三人分、いや、赤星を三本と適当におつまみをください。あと、紳士が来たら教えてください。」
私はベルにそうオーダーをする。
「紳士はもう少し時間がかかるかもしれないわね。分かったわ、先に飲み物を出しときましょう。テーブル席を使って。まだ時間も早いからそんなに混んでないし、ゆっくり話ができるでしょう。」
そういわれて、私たちはテーブル席に腰を落ち着かせた。
「ちょっと“みょうこう”!アテンドの私たちをほっとくってどういうことよ。」
息を切らせて、“スコット”さんと“キャラハン”さんが駆け込んできました。
「すみません・・・忘れていました・・・」
「忘れていましたって・・・ベル!こいつのツケでバド10本頂戴!」
笑いながら注文をする“スコット”さんたちも加わって、話を始めます。
「まずは自己紹介を。私、こんごう級護衛艦娘“みょうこう”です。今回、司令部からの指示で“青葉”“衣笠”両名の取材のサポートをさせていただきます。今回は法廷が部隊になりますので、その経験を持つ
「さすがに
「すみません。その“こじま”さんという方はどういう方なのですか?」
「・・・ああ、知らないのも当然ね。彼女は
“鳳翔”さんみたいなものでしょうか?確か、“熊野”が沈んだ事故の際に“瑞鶴”さんも“瑞鳳”さんも沈んだと聞いています。それを聞いた“鳳翔”さんの落胆ぶりはそれは激しく、「また私が生き残ってしまった。」と言ってしばらく籠ってしまったそうです。それを必死に“赤城”さんと“加賀”さんが慰めていたのですが・・・
今回の件、“鳳翔”さんはどう考えているのでしょうか?
同時刻・札幌市内・ホテルグランド札幌
函館港に着いた私は、“きそ”さんの案内で「函館港業務管理センター」に入りました。そこの応接室にはすでに背広姿の男性が二人、私、鳳翔型軽空母“鳳翔”のことを待っていました。
「初めまして。私、余市警備府総務部の西と申します。」
「西のアシスタントをしております、原田と申します。」
「鳳翔型軽空母艦娘“鳳翔”と申します。」
「どうぞおかけください。“きそ”さん、すみませんが冷たいお茶をください。“鳳翔”さんもどうぞ」
そういうと、“きそ”さんはそれを取りに向かいました。
「今回は
そういって、2人は頭を下げました。
「本件、正直に申し上げて処理に困っております。呉の顔を立てると
「そこでです。呉の事情にお強く、かつ各地の鎮守府に影響力をお持ちの“鳳翔”さんに何とか
そして、私はこのホテルのレストランである紳士を待っています。
「味は・・・合格ですね。」
料理を少し戴きながら、札幌の夜景を眺めます。
「お連れ様がお越しになりました。」
ウェイターの人に続き、スタイルの決まった紳士が来ました。
「お久しぶりです。井野川提督。」
「久しぶりだね、“鳳翔”さん。」
井野川成美提督。あの戦争の時代、海軍省の次官や大学校の校長でした。呉にいた私も、ちょくちょく大学校の校長だった当時の提督の姿を見かけたものです。
「たまに“鳳翔”さんのうわさを聞いてね。一度会いたいと思っていたのだよ。こういう形では会いたくなかったが・・・」
そういって提督は静かにワイングラスに口を付けました。
「で、今回の件は一航戦の件だね?」
「ええ、提督のお力添えを、と思いまして・・・」
「“鳳翔”さん、まず私が言わなければならないのは、私はあくまで「札幌にある北部方面統合総監部の海軍代表」であって、「余市警備府」という実働部隊への指揮権は存在しないのだよ。より正確に言えば、私だけの独断で指揮はできない。総監以下司令部の指示ならばできるのだが、その命令を本件で下すには恐ろしく時間がかかり、説得には時間がかかる。何より、納得させるだけの材料がない。」
私はその言葉に黙りこくってしまいました。ただ黙って、食事を食べます。
「“鳳翔”さん、現代国家における軍隊の存在意義ってなんだと思う?」
「陛下の軍隊、ではないですよね。」
「“鳳翔”さん、それは大日本帝国陸海軍の話であって、日本国の話ではない。少なくとも
「本件の審理に入るまでに、まず共通認識を取る必要があることがあります。それは「艦娘・船娘」なるものは何ぞや?ということであります。」
おいおい、そこから話が始まるのかよ・・・正直、“青葉”はそう思います。
「“みょうこう”さん、そこから話をする必要があるのでしょうか?」
「“青葉”さん、私が思うにまずその定義づけをして罪状を明らかにするのじゃないかしら?」
「艦娘・船娘に関しては。これまで諸所の学説が存在します。現在まで分かっている点を挙げるとしたら次の通りになります。まず、私たちは排泄を行い、生理現象を生じさせていることから「哺乳類生物」であることが分かります。更に、互いの意思疎通と言語によって行うことから、社会学上の「人間」であることが分かります。さて、では艤装なるものはなんでしょうか?普通の人はそのようなものはありませんし、操作することができません。そのことを考慮すると、私たちは「その能力を持っている人間」ということになります。ただ、通常艤装を操作することはできませんし、洋上でなければ展開することができません。そのことを考慮しますと、「普通の人とほんの少しの差しかない人間」となり、それは国籍が違う、などとそれほど違いはありません。」
そう一気に言って、“こじま”さんはグラスの水を飲みました。
「さて、そのような軍艦の艤装が扱える、軍人・軍属としての艦娘は洋上でどのような扱いになるでしょうか?国際法上、「軍艦」と同義であると言えるでしょう。いわば、「公船」であります。つまり、「公船」が我が国の経済水域内で操業をしておりました。」
少し法廷内がざわつき始めました。
「さて、漁業に関してはどうでしょうか?漁業に関しては、都道府県知事が許可をした漁協にのみ与えられているのが「漁業権」であります。そこに加盟できるのは、「漁業を生業とする個人事業主」などであります。つまり、軍艦の艦娘である被告人には漁協に加盟する権利をそもそも有しておらず、加盟していないために漁業をする権利を有してはおりません。つまり、これまでしてきたあの海域での操業は全くの違法行為であります。」
「そうきたか・・・予想はしていたけれども。」
“みょうこう”さんは納得していますが、“青葉”は納得していません。あれは命令だったのです。
「また、その違法行為に対して沿岸警備隊が事情聴取をするのは任務として適正であり、それに対して攻撃を加えたのは当然違法行為であります。また、軍規に照らした場合は味方である沿岸警備隊に対して明確な敵対意思を持って攻撃したことから戦闘行動、反乱行為を行ったものであると断定できます。よって、検察側としては被告人を漁業法違反ならびに軍法における反乱罪が妥当であると思われます。」
「これはどういうことなのでしょうか?」
AVANTIで“青葉”は“みょうこう”さんに質問します。よくこの根拠が分かりません・・・」
「つまりですね、この国での漁業をする権利、つまり漁業権は「漁協」にのみ与えられています。その漁協は各都道府県知事の認可を受ける必要がありますし、その資格はその地域に住んで約3~4か月の操業実績が年間で必要です。つまり、秋刀魚の時期だからと言ってわずか1~2か月操業するというのであれば資格はないのです。また、個人事業主、つまり民間船である必要があります。軍艦や公船は操業する権利はないのです。もし操業を主張するのであれば、軍艦としての権利を放棄する必要があります。」
そこまで“みょうこう”さんは一気に言って、グラスのバドを呷った。自分の払いになるので、一気にいく。“スコット”さんも“キャラハン”さんも少し驚いている。
「軍艦や公船は特別な権利を与えられています。たとえば、本当は沿岸警備隊の臨検を受ける必要はないのです。」
「え・・・?」
「軍艦なり公船はその国の所有物であるので、領土と見なされます。つまり、とある国の領海内にある場合は別ですが、公海上に存在する場合は沿岸警備隊など無視できます。ただし今回の場合、同じ国の機関でありかつ、「漁業」を行っていたとするならば話は違ってきます。」
「・・・」
“青葉”は黙ってしまいます。この問題は、非常に複雑なようです・・・
「お、やってるねぇ!」
“青葉”のテーブルに一人の男性が割り込んできました。
「お疲れ様です、紳士」
「全く、疲れたよ・・・」
そういって紳士はバドの瓶を一気に空けました。
「どこかの誰かが無茶を遣ったせいで、さっきまで
「いい、この人は司令官にクリソツの“紳士”さんよ。」
“スコット”さんが紳士さんにきこえるように教えてくれました。
「まぁ、明日その司令官に確認はとるけれどもほぼほぼ僕が言ったことと違ってはいないからな。何でも聞いてほしい。」
「では紳士さん、今回の件、ここの司令官はどう考えているのでしょうか?」
「そうだねぇ・・・厄介ごとを抱え込んだと思っているのじゃないだろうか?」
厄介ごと?
「呉が厄介ごとを遣ったがためにせっかく
「紳士、そこまで言っていいのですか?」
なぜか“みょうこう”さんが心配そうに紳士を見る。
「ここまで来たらぶちまけるしかないだろう。“青葉”君、貴官は確か舞鶴所属だったよね。舞鶴にもGF司令部からあの奇怪な指令は来ているかと思うが、それを実行することはなかったでしょう?それはなんでだと思う?」
「分かりません・・・」
確かに司令官からその指令の話は聞いていますが、「何もしなくていい」との指示でしたので、具体的には何もしていません。
「それはね、
「え・・・」
「でだね、市ヶ谷経由で他の関係諸機関にもこのアイディアを売り込んだんだけど、きっぱり拒絶。いや、無視と言ってもいいかな?そんなこんなでこっちも積極的にはそれから売り込まなかったらしい。で、今回のこの状態。関係諸機関から慌てて連絡があったようだけど、きっぱりこういったみたいだよ。“君たちには関係ない”」
「“君たちには関係ない”と強い調子で言ってやったわよ。」
東京から戻ってきた広報部の“氷川丸”さんがカウンターで飲んでいます。だいぶお疲れのようですね・・・
「“ベル”、この仕事はあんたら
「まぁまぁ、しょうがないでしょう。
「だからって、民間人を巻き込むのはどうなのよ?」
世界はだいぶ荒れているようです。
たぶん、のちにこれは消えますわ。
で、改訂版投稿。