会議は踊る   作:Pubの親父

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茶番劇も、劇であろうと幕は下りる。

ただ、だれが一番面白く感じたかは、人それぞれ。


軍事法廷・其の六(矛盾)

9月7日・余市警備府内法廷

「裁判長入廷!」

担当官の声がしました。すると、かつらに法服をきた大川裁判長が入廷していました、すでに、検察官も弁護団も入廷しています。

「では、始めさせていただきます。今回、主文を読むのは最後にさせていただきます。」

「被告人、艦娘“赤城”。貴官は第一航空戦隊旗艦として作戦実行に際して全責任があります。つまり、軍人としての上官指示の徹底が貴官の任務になります。本案件では、貴官が司令部の命令の違法性を認識する機会は多くあったと言わざるを得ません。また、その機会を、意図的であったにせよなかったにせよ、自己の行動で結果として潰したことは断じなければいけません、“艦娘加賀”も同様のことを指定しなければなりません。彼女は旗艦の補佐役という立場にありながら、その職責を怠っていました。それは、同様の罪を犯したと同義です。」

「また、沿岸警備隊への発砲に関しては、いかなる状況であれ公的機関、それがどこ国であれ、ですが、公的機関への攻撃は許されません。さらに、その教育があったにしろなかったにしろ、同胞を先制攻撃で叩くというのは戦闘行動を仕掛けることであり、その段階で撃沈されても問題はありません。」

「漁業法違反ですが、我が国の領海であれ経済水域であれ、漁業の許可を得ているのは都道府県知事の許可を得た漁協のみであり、いかなる理由があろうともそれを違反することは犯罪行為であります。仮に、その指示が鎮守府司令部から出ていたとしても、その指示は違法であり、何ら効力を有するものではありません。効力を有しない指示を下すことは、指揮命令違反のみならず、軍隊組織における抗命罪の可能性すらあり得ると言わざるを得ません。いわば、反乱罪に該当すると言えるでしょう。命令に従うことは軍人・軍属の義務であり責任でありますが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

「よって、本法廷は、漁業法違反の罪では、被告人を営倉入り2週間とします。また、この刑の執行猶予を3か月とします。また、組織としての海軍幕僚監部および連合艦隊司令部、呉鎮守府に対して、漁業法違反における罰金200万円及び地元への経済損失の補てんを指示いたします。」

「また、沿岸警備隊に対する攻撃に対して、第四駆逐隊には無罪。航空母艦娘“赤城”および“加賀”を不名誉除隊処分といたします。いかなる身体的状態であれ、思考であれ、先に述べたように味方を攻撃することは軍隊、いえ、()()()()()()()()においても犯罪であり、その処分は重いものにならざるを得ません。」

法廷内を、沈黙が支配しています。“赤城”さんも“加賀”さんも卒倒しそうです。弁護団席では“ずいかく”さんが今にも泣きそうな表情を浮かべていますし、その“ずいかく”さんの手を“ずいほう”さんが優しく握っています。検察官席は・・・

“こじま”さんも“宗谷”さんも不敵な笑みを浮かべています。なんだかその様子を見ていて、“青葉”は腹が立ってきました。そりゃわかりますよ。殺したいほど憎んでいる相手が()()に叩き落とされようとしているのですから・・・それでも、笑うことはないでしょう。

「ただし、本法廷はその罪を宣告する権利は有しておりますが、()()()()()()()()()()は有しておりません。よって、呉鎮守府の義務と責任において当宣告を実施されるよう希望いたします。被告人は明日、新千歳空港からの専用機で呉に戻ることとします。以上、本法廷を閉廷いたします。」

裁判長の木槌が振り下ろされ、独特の音がした。この直後、「はぁ?!」という声が法廷内に木霊した。弁護団は唖然としているし、被告人は呆然自失。で、検察官側は“ほっとした”というか“やれやれ”といった安堵の笑みが零れています。

「そ、そうだ、“紳士”、“紳士”?」

今さっきまで“青葉”の横にいた紳士がいつの間にかに消えていました・・・

 

同日夜・余市警備府内

真っ暗にした執務室で、私は一人、黒鬚(ブラック・ニッカ)を飲んでいる。勿論、ショットグラスにストレートで。コンコン、とノックが聞こえた。

「来ると思っていましたよ。開いていますよ。“こじま”さん。」

「失礼します。」

そういって入った彼女は明かりをつけようとした。

「いや、それはやめよう。今日は月明かりがよくてね。その下で飲むのもまたよいものだ。そうだな・・・リューイチ・サカモトの“Merry Christmas Mr.Lawrence”でも聴くか・・・」

そういって私はその曲をかけると、彼女をソファに案内し、私もグラスを持って腰かけた。無論、そこにも酒の準備はしてある。

「飲むでしょう?()()()()()()()()()()。いや、t()h()e() ()p()a()r()t()y()()s() ()o()v()e()r()かな?」

「ええ、いただきます。しかし、あまりよろしくない劇でしたね。」

「途中から酷くなった。」

そういって私は彼女に、ウィスキー・ウィズ・ソーダを作って、グラスを差出した。

「お疲れ様。乾杯。」

「乾杯。」

そう言って私たちはグラスを鳴らした。

「いくつか聞きたいけどね、どの段階でわかった?()()()()()()()()()()()()()()って。」

「ある夜からです。あまりに寝むれないので、少しこの考えていたら何のことはない、あまりにも簡単なことに気付いたのです。もともと漁業法の案件だけで立件し、罰金刑のみで済まそうとしたシナリオに、()()()()()()という強烈なスパイスが加わった。でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だと。」

彼女は苦笑いをし、私も同じしぐさで返す。静かに、“Merry Christmas Mr.Lawrence”が流れている。

「まぁね。結局、“現実”と“本音”と“建前”が全く違うのが今回の良い例だろうね。“建て前”は、無論一航戦も四駆も有罪だよ、どちらも。まぁ、四駆が有罪かどうかは判断が難しいが、旧日本軍の体質からして激戦地に送られて名誉の戦死、もしくは体よく使い潰される、かな。実質的な死刑だよ。島流しですらない。」

「2・26の再現ですか・・・旧日本海軍らしいやり方だ。山本長官機撃墜事件の際もそう処理しましたね。」

「まあ、そうなる。」

そういって私はウィスキーを口に含む。

「“本音”ベースも近いかな?貴官が法廷で()()したようにね。あれは良かったよ。オスカー(米アカデミー賞)は無理でも日本アカデミー賞ぐらいならとれるのじゃないか?」

「まさか。でも、なかなか楽しかったですよ。自分の本音をぶちまけて、しかも面と向かって、「貴官らなんか大嫌いだ。ぶっ殺してやる」と大声で怒鳴ったのですから。」

「で、“現実”だ。みんな甘いよね。現実に今、深海棲艦とドンパチ(戦争)しているのだよ?手札は多いに越したことはないし、対抗装置があまりないから手放すわけにもいかない。それぐらい分かれよ・・・」

そういって、私は苦笑します。“こじま”も苦笑しています。

「それに気づいた時に、“宗谷”と大笑いしましたよ。なんて茶番だ、これは酷いって。さっきの話じゃないですけど、このシナリオ(台本)を書いた人にはラズベリー賞か木いちご賞を渡しますよ。」

私は頭をかいてごまかした。そんな様子を見て、“こじま”は笑っている。

私は立ち上がって曲を変えた。そうだな・・・パヴァロッティの“誰も寝てはならぬ”にしようか。そう思って、レコード盤を静かに置いた。

「てなわけでだ、エンディング(結末)に変更はない。ただ、強烈なある方向のベクトルがかかった以上、それを修正する「力学」が必要になる。」

「だから私は法廷、いえ、劇場でぶちまけました。まぁ、本気で呪い殺したいところはやまやまですが、私もそれなりに「政治」に翻弄された一生を艦の時代に送りましたからね。その辺の事情はうちの中では分かるつもりです。」

「あとは“ニッツェ”ぐらいかな?“氷川丸”を今回市ヶ谷(国防省)に送り込んだのは失敗だったかもね・・・」

そういって二人は苦笑する。

 

「しかし、あの演技は強烈だったよ。あれで、“赤城”の反乱はどこかに吹っ飛んでしまったからな。又別の方向にベクトルが振り切れてしまった。」

「だから“鳳翔”さんにも演技を頼んだ、ですか。」

「そういうことだ。貴官が主演女優賞なら、“鳳翔”さんは助演女優賞かな?“ずいかく”は新人賞だろう。さすがに名女優相手に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃあ勝負にならない。役者には役者を、だよ。」

 

前日夜・札幌市内・ホテルグランド札幌

「今の空気はほとんど6名を血祭りに上げる方向に進んでいるね。まぁ、台本(シナリオ)の製作者の一人が言う話じゃないが、この空気はまずいね、いや、警備府(余市)じゃないのだ。周囲が、だよ。」

「周囲、ですか?」

レストランで“鳳翔”さんと食事をしながら話をする。いつもそうだが、こういう席の食事ほど不味く、そして魅力を感じるものはない。()()()()だが。

「道庁に霞が関の一派といった方がいいかもしれないね。不名誉除隊はともかく、責任の所在を追求し続けるだろう。場合によっては、今後の作戦に支障が出るかもしれない。もっとも、私にとってはそんなことは関係ないし、今までが今までだから自業自得。そう割り切るのも簡単なのだが・・・ね。」

「深海棲艦という脅威を忘れて組織防衛に走る。いえ、権限なり予算なり何かしらの確保のために足を引っ張る存在がある、ということですか?」

「ご名答。さすが元市ヶ谷(国防省)勤務だけのことはあるね。」

そういって私はワインを口に入れる。

「だから、「お願いですからこれで勘弁してください。」と情に訴えるわけだ。貴官、「岸壁の母」って曲、知っている?」

「いいえ。」

「ああ、そうか。あの歌が有名になったのは貴官が艦として解体された後だったね。シベリア抑留から帰ってくる息子を舞鶴港の岸壁でずっと待っている母親の歌だよ。その曲は実在の人をモデルにしている。曲が有名になったので、シベリア抑留者の早期帰還への国民運動が盛り上がった。」

「つまり、私にそれをやれと。」

“鳳翔”さんの目が本気になる。そう、海の上で敵を狩るような目だ。それこそ(舞台演出家)の求めているものだ。

「そう。不詳の娘が皆さんにご迷惑をおかけしました。この罪、育ての親である私が死んでお詫びいたします。と言って、自刃する。もっとも、道具は映画撮影用の小道具だし、見た目は真剣だがね。」

「つまり、“こじま”さんに対抗して演技をしろ、と。」

「そういうこと。どこもかしこもみな納得。“すべての空母の母”が自ら腹切って詫びます、それが実際、いや実際には拙いか。未遂で、それが伝わったら浪花節が大好きな国民性だ。コロッと態度を変えるさ。」

食事は不味い。だが、こういう話をしているときの食事は美味に思う。

 

「なるほど、あそこで私がタックルしなかったらどうなっていたのですか?」

「きちんと用意していたさ。血糊をね。それに、艦娘が普通の刃物で傷つくわけないでしょうに。」

「あ・・・」

“こじま”の唖然とする顔を見るのはなかなかないことだ。

「まぁ、あそこで貴官が何かするとは思っていたよ。貴官だって、巡視船艇を育ててきたのだ。“鳳翔”さんの気持ちは痛いほど理解できるのじゃないか?」

「分かるからあそこでタックルしたのです。そして叫んだのですよ。“あんたがここで死んでどうする。死ぬのだったらこいつら何とかしろ”とね。まぁ、そんなことを聞いたら臭かったですかね?」

「いや、“鳳翔”さんが自刃しようとしたことも、貴官があそこで2回ぶちまけたことも彼女たちにはショックだったと思うよ。それに、考えるきっかけになったのではないかね?」

そういって、彼女の飲み干したグラスに同じものを作り、渡す。私にも同じものを。

 

「“こじま”さんや、貴官も船から“人間”になったわけだが、どうかね?」

「どうかねって言われましても・・・」

「まぁな。何とも言えんだろう。こういえばいいかな?船の時と、“人間”の時と何が違うかね?」

「・・・()()()()()ですか?」

「なるほど。貴官は私が考えていたのと同じことを言ったよ。軍艦はもちろん道具だ。鋏やパソコンと変わらない。でも“艦娘”は違う。“人間”だ。何が違うか、それは()()()()()じゃないかな?」

「つまり、私たちはもう使()()()()()ではない、ということですか?」

「そうだ。その人格形成に、艦の時代の艦長や指揮官の行動や性格が色濃く反映されていたとしても、人間である以上違いは出るし、そもそも違いがないとおかしい。違いがないとすればそれは()()()()()()()()とでもいっていい存在だよ。さすがにATフィールドやらビームサーベルやらポジトロンライフルやらなんやらは使えないと思うがね。」

私のジョークに彼女も苦笑する。さっきから苦笑ばかりしているが、まぁしょうがない。馬鹿笑いできる話ではないのだから。

「なるほど・・・」

「意思も、自我も、考えることもできるし、そもそも自分の意志で動けるし見て回れるのだよ。いろいろなものを。別に鍛錬を怠れ、とは言わないけどさ。なんだかねぇ・・・彼女たちを見ているとダブるのだよ。旧陸軍の人材育成システムに。」

「と、言いますと・・・」

「陸軍士官学校に入って出世できる高級軍人の多くが幼年学校から陸軍籍、外の世界(実社会)を知らなかった。思考が硬直化し、柔軟性を欠いた。どうだい?どことなく近いだろう?」

「なるほど・・・艦としての記憶が多分に引きずられるがあまり外の世界を知らなさすぎる。というわけですね。」

「そうそう。そもそも、漁業法違反の件。公的機関の船が3~4か月も操業できるかって。しかも、毎年、だよ。それはもう職務放棄だよ。それぐらい分かってほしいよね・・・馬鹿じゃないのだから。」

そういって私たちは苦笑する。

 

「なぁ、人ってのは何か物体を見たときに何かを連想する生き物だと思うのだよ。」

「そうですね・・・あの演説のことを言ったのでしょう?」

「そうそう。」

「確かに、“道具”である軍艦を叩いたのは可笑しいのかもしれません。ただ、通常の鋏や包丁と違って、軍艦というものは“国家の象徴”ですからね。昔の軍歌だか童謡にあるじゃないですか?“長門と赤城は国の宝“まさに”国家の象徴“なんですよ。”大和“や”武蔵“もそうかもしれませんけども。彼女たちには”国家の象徴“として憎まれる義務と責任、があるという考え方を分かってほしかった。押し付けるつもりはありませんが。」

「十分押し付けたよ。それに、その考え方はテロリストと同じだ。良かったよ・・・まだ、“ニュージャージー”が気付く前で。矛盾しているな、考えが。」

「“本音と建て前”ですよ。まぁ、恨んでいるのは事実ですが死ねばいいとはそこまでは考えはいません。口が滑りました。あの時。ただ、私はそう思って自爆攻撃を敢行するテロリストではありません。“道具としての空母・赤城”には何の責任もないのですけどね。本当は・・・」

「それが砲艦外交の負の側面だよ。彼女たちのあずかり知らぬところで責任が生まれ、そしてそれによって別のところでそれを清算させられるのさ。まぁ、可哀そうな側面はあるけどね。宿命なるものが存在するとするならば、まさにそれがそうだろう。」

「だから、“スターク”と“コール”を重宝しているのですか?」

「さっきの政治云々の話だけどね、その意味で言えば彼女たちもよく分かっている。あずかり知らぬところで責任を負わされて()()一歩手前だったのだから・・・」

 

翌日・新千歳空港

前日までの待遇と打って変わっています。(マーク)3台が横付けされました。そこから6名が下りてきました。

既にエンジンのかかったB727にはタラップが設置されています。

「心配かけたわね“青葉”」

“赤城”さんに抱きしめられました。

「今回の件、きちんと“青葉通信”に掲載しますよ。脚色もデフォルメもなく、ありのままに。」

「そうして頂戴。」

“加賀”さんが隣に来て言います。

「“加賀”さん、良いのですか?」

私が指差した方から車が来ます。あれは・・・4WD(ランドローバー)です。車が止まり、運転席から人が出てきました。

「間に合った!残務整理をしていたから間に合わないと思って高速飛ばしたんだから!」

“ずいかく”さんが駆け寄ってきます。

「五航戦、いえ“ずいかく”、ありがとう。」

「どうってことないわ。私には、協力してもらえる仲間がいるんだもの。」

そう言って私は“加賀”さんを抱きしめる。

「もうあなたは私の元から巣立ってしまった。でも忘れないでね、あなたを思っている人はたくさんいるのよ。」

これ以上“加賀”さんと話をしていると泣きそうになるので、私は彼女から離れた。

「“翔鶴”姉ぇと“葛城”にはうまく言ってください。話す時間がありませんでしたけれども、私はもう“瑞鶴”ではなく、“ずいかく”なのですから・・・」

「そうね。うまく言っておくわ。」

 

その様子を後ろから“青葉”は見ています。

「どうするの?“青葉”?またいつもみたいに脚色して書く?」

「いやぁ、今回は無理でしょう。さすがに。」

そういって手をひらひらさせながら、“衣笠”に返します。

「矛盾、か・・・」

「何それ?」

「いやね。昨日“りゅうきゅう”さんが“青葉”に言ったんだよね。この世界はなかんずく矛盾でできているのですよ。たとえて言えば・・・そうですね。サボ島沖海戦で本来貴官を狙ったはずが、庇った“古鷹”に着弾したのも矛盾ですよね。本来、あそこで死ぬのはあなただったのですから。今回もそうです。ちょっとした、そう、本当にほんのちょっとした矛盾が大きな矛盾を引き起こす、そうは思いませんか?ってね。」

そう“青葉”が言うと、“衣笠”は首をかしげます。

「よくわかんない・・・それはそうと“青葉”、あなたここにいる間にずいぶん賢くなったんじゃない?なんだか“賢者”みたいだよ。」

「ありがとう。さてと・・・こっちの出発は?」

「明日の夜に小樽発のフェリーを予約してもらいました。というわけで戻ったら“スコット”と“キャラハン”と飲み比べをしなきゃ!」

「明日二日酔いにならないでよ!」

 

6人がタラップを登っていく様子を見ながら、手を振って見送る私達。

「ねぇ、“赤城”さんにも“加賀”さんにもいつか会えるよね・・・こういう形じゃなくて。」

“ずいほう”が私に若干涙ぐみがなら言います。私はというと・・・()()()()()()()()

「いつかも何も、来月には大湊で合同訓練よ。」

「・・・は?」

「全く・・・なんて猿芝居なのよ!」

 

当日朝・余市警備府内

私、制海艦娘“ずいかく”は司令官室に呼び出されました。何かしたのでしょうか?昨日までの裁判では問題なかったと思いますが・・・

「“ずいかく”、入ります。」

「どうぞ。」

中将の声がして、私は室内に入りました。中将は立ち上がって、食率不動の私のところまで来て、持っていた書類を読み上げました。

「ずいかく級制海艦娘“ずいかく”および第101護衛隊の稚内支局配属の任を解き、余市警備府本庁への配属を任ず。」

「はい。辞令、拝命いたします。」

私はその辞令書を受け取りました。なるほど、稚内での訓練も終了、というわけですか。すると中将はもう一通の書類を読み上げました。

「来月、大湊で合同捜索・救難訓練を実施する。その指揮官を、つがる級巡視船娘“つがる”とし、補佐として“ずいかく”を任ず。尚、参加する中心は第一および第五航空戦隊とする、以上。」

「・・・?・・・はぁ!?つまり、呉は刑を執行しないんですか?」

「なに?そんなに執行してほしいの?深海棲艦と南の海でドンパチやってんだよ。みんな考えてよ。世の中はね、“本音”と“建て前”ってのがあんの。まだまだだぁね。ま、“孵化したばかりで尻に卵の欠片がついた鶴”じゃなくなったから、こっち(余市)でまぁ勉強しなさいな。」

何だろう・・・・“大人”になるってこういうことなのか、と思って私は司令官室を辞した。呉で“加賀”さんをライバル心をもって接し、切磋琢磨していた日々が懐かしいし、そんな日々が遠くなった気がする。

 

「・・・なるほど。お姉ちゃん、大人になるって、大変だね。」

“ずいほう”ががっくりきた様子で手を振っている。その近くでは“すずや”と“くまの”が今生の別れのように大泣きしながら、ハンカチで目を抑えながらわんわん泣いて手を振っている。“あきづき”も“てるづき”もだ。この話をした後、5インチ砲か3インチ砲を司令官室に向けてぶっ放さないかどうか、心配になってきた・・・

 

同時刻・新千歳空港・ラウンジ

2人の男がラウンジのテーブルを挟んで向かい合って座っている。

「ここの珈琲さ、案外行けるんだよね。」

「そうかい?俺はあいにく紅茶派でね。そもそもあんな泥水を飲むやつの気がしれない。」

「そのコーヒー党がさ、目の前にいるんだよね。それはやめてよ。」

量販店で売っていそうなスーツを着た男が、爬虫類のような目をした仕立ての良いスーツを着た男に言った。

「それはすまなかったな。で、本題だ。後藤さん、今回の件での勝者は誰だと思う?」

「そうだねぇ・・・余市警備府は確実だし、札幌(道庁)もそうだね。地元も戦中の再来という悪夢はなくなりそうだし、霞が関(農水・運輸・通産)も勝者かな?市ヶ谷(国防省)の一人負けじゃないの?」

「それは違うんだな。確かに市ヶ谷は敗者かもしれないが、内局(軍政)幕僚監部(軍令)は負けてはいない。勝ってもいないかもしれないがな。」

「・・・なるほど。()()()()にすべてを押し付ける形で決着したから、だな。実戦部隊には大きな借りを作ることで、今後の指揮命令系統でだれが上位者か分からせると。」

「そういうことだよ、後藤さん。あの戦争での、連合艦隊司令部に引きずられた軍令部、その結果の真珠湾(pearlharbor)MI(midway)その轍は踏みたくはないさ。」

「うん?荒川さん、永田町(官邸)のポジションはどこにあるんだ?」

「そこだよ、問題は。ここでの最大の勝者は官邸、いや権力者(政治組織)なのさ。権力者にとって最大の悪夢は、武力をもった集団に強制的に覆されること(革命)だからな。」

そういって後藤はコーヒーを2つ注文し、カップに残った中身を飲み干した。

 

「なぁ、荒川さん。俺は常々思うのだが、艦娘の提督に関する愛情、いや異常なまでの執着心ってなんなのかね?あの執着心は、()()()()に向けられたものなのだろうか?それとも()()()()()()()()()()()自体に向けられたものなのだろうか?」

「どちらにしても、ある意味()()()()になるな。権力者にとっては悪夢だろうよ?ある日突然、国家体制の変革なり社会の不平等を是正する、という意識に目覚めた提督なり司令官が、首都への攻撃を指示するのは。何せ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()するだけである程度の目的は達成できるのだからな。」

「簡単に、2・26が再現できるわけか・・・」

 

同時刻・東京千代田区永田町・首相官邸

「そういうことだよ、岸田さん。鉄砲だけ持った兵隊と、46センチ砲やら攻撃機を操る艦娘とでは破壊力と影響力が桁違いすぎる。」

森繁総理が葉巻に火を付けながら私に言った。

「そうですね。権力者最大の苦悩ですね。番犬は必要だがその番犬が獰猛でも困る。獰猛すぎてこっちまで噛み付かれたら厄介なことになる。適度に綱をつけて引いて、躾が悪かったら躾けなおす。ということですか?」

私、森繁内閣外務大臣岸田信介は総理と真正面に座って言った。11月下旬の合衆国大統領(J・F・K)との首脳会談をテキサスでやって、総理は引退される。深海棲艦の侵攻から4年弱、大磯の別荘に籠もってしまったこの老人を挙国一致内閣の首班に据えた。本人も渋ったが、ようやくめどが付いたこの段階で、正式に引退することになった。

「他人の財産を土足で何も言わずに侵害するのは犯罪だよ?岸田君。より大きな犯罪に手を出す前に躾けないといけない。特に、獰猛な番犬には、ね。」

大いなる矛盾だな。権力者はその安全を保障する番犬(武力)が必要だが、獰猛すぎて手に負えなくなるのも困る。今回はその一例だし、出過ぎた番犬を躾けた、というところか・・・

 

 




これにて本編完結。

+1で「舞台裏」は作成する予定。
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