おっさんと過ごす特別な日々   作:ももんじゃ

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エイプリルフールとおっさん
おじいさんとおばあさんとおっさん


おはようございます。 今日は良い天気ですね。昨日の天気予報では雨が降ると言っていたはずですが、その割には気持ちの良いほどに晴れたものです。

 

 

え?こんな朝っぱらから何をしに来たかって?そうですね、あなたにはまだわからないかもしれませんが、私みたいな老人にとっての楽しみなんて、こうして散歩をするくらいしかないのです。

 

特に今日みたいに早くから目が覚めてしまった時に、こうしてこの公園まで歩いてきて、そこのベンチでひと休みするのが常のことです。

 

あぁ、すいません。べつにあなたが座っているところを譲ってほしいわけではなかったのですが。あぁ、ありがとうございます。

 

やはり、年をとるにつれ、私の体にも衰えが来るものです。だからここまで歩いて来るだけでもとんと疲れてしまって、本当、助かります。

 

 

…他に趣味はなかったのかって?

 

そうですね、退職するまでは仕事が趣味のような節がありまして、その仕事がなくなってしまった今では、残された長い余生、暇を持て余しながら過ごすだけです。

 

周りに住んでいる人も見知った顔ばかりで、偶に貴方のような初めて会う方と話すのがささやかな楽しみ、といったところでしょうか。

 

ところで、貴方はどうしてこんなところへ?

 

はぁ、私と同じで、散歩をしていたらここに着いた、と。

 

そう聞いてしまうと、何だか親近感が湧いてきますね。私と貴方が、何も示し合わすことなくこうしてこの場で出会ったこと。無駄に年をとってしまうと、こうしたたわいもない偶然にも、運命じみたものを感じてしまいます。

 

 

……いえいえ。私はそんな口説こうという気はありませんよ。家にもちゃんと妻がいますし、それ以前に私は男性を相手に恋愛ができるような人ではないですよ。あぁ、貴方もですか。それは何より。

 

 

妻ですか?妻は本当によくできた人です。毎日仕事三昧だった私をずっと支えてくれました。子育てだって、ほとんど任せっきりだったことにも文句一つ言いませんでしたし。

 

子供が自立してからはね、私も家事を少し手伝おうとしたんです。妻の負担を今からでも減らそうと思いまして。そうしましたら、家事というものはここまで大変なのかと思い知らされました。いや、本当に大変ですよ。

 

炊事、洗濯、掃除…これを毎日こなしている妻は本当に強い人だと、真に思いました。

 

 

ちなみに貴方は結婚されているんですか?あぁ、していないと。それじゃあ一人暮らしですか。

 

はあ、ならば家事は全て貴方自身で?ほぉ…これは素晴らしい。この御時世、家事ができる男性なんて少ないでしょう。

 

……周りに結構いるんですか。なるほど。という事は家事ができない私の方がダメだという話ですね。

 

あぁいえいえ、そんな否定なさらずとも、自分でも分かってますから、お気になさらず。

 

 

 

……おっとすいません。妻からメールが来たようです。朝ごはんができそうだから帰ってこい、とのことです。

 

…これですか?これは私が良く家を出て散歩をするもんだから、息子が持たせてくれたんです。といっても、メールも電話も妻としかしませんがね。

 

……メールアドレスを交換したいって?…はぁ。この前学生と交換してから、仲良くなった人とは交換することにしている、と。

 

構いませんよ。どうせ妻としか使っておりませんでしたから、かえってその方が楽しみが増えるというものです。

 

ただ、アドレスの交換、というものが私には不得手でして、もし良ければ代わりにしてもらいたいのですが…あぁ、ありがとうございます。

 

それでは、妻を待たせてはいけませんので、次はメールでお話ししましょう。それでは。

 

 

 

 

 

 

 

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おう、見ない顔だな。こんなところで何してんだ?

 

 

はあ?散歩?…つまんねぇことしてんな。まあワシもそのつまんねぇ散歩の途中なんだが。

 

…なにボサッと座ってんだ。そこはワシの座る場所だ。どけどけ。…ったく、近頃の奴らはワシら老人に対する労わりってもんが足りんわ。

 

はぁ?さっき会わなかったかって?バカ言っちゃいけねえ。

 

俺はお前みたいなおっさんは初めて見た。つまり初対面だ。ただお前が一度俺を見たことがあるってんなら……少し心当たりがある。

 

なんでもこの街には俺のそっくりさんが住んでいるらしい。見た目も、声も、ワシと全く変わらん。唯一違うといえば…奴の方がバカみたいに丁寧らしいってことか。

 

 

…ああそうだ。俺はそいつに会ったことがないんだ。俺としては是非一度会ってみたいね。そしたら言ってやるんだ。俺の顔してヘコヘコしてんじゃねぇ!ってよ。

 

……妻はいるのかって?いるよ。どうしようも無い婆さんが一人。

 

あいつときたら、俺がバリバリ働いてヘトヘトになって帰ってきても子供の相手しかしねぇの。はぁ?今はもう働いてねぇよ。定年だよ。て、い、ね、ん。

 

しかも最近じゃあ俺に病院に行けって五月蝿いのなんの。

 

俺は何処も悪いところは無いって言ってるのによ。悪いところがあったらこうして元気に歩く事も出来ねえはずだろうが。

 

…ったく、そんなどうしようも無い婆さんだが、ガキが出て行ってからとんと元気が無くなってな。しょうがねぇから、暇つぶしにでも家事を手伝ってやろうとしたんだ。

 

そしたら横からごちゃごちゃと指示を出しやがってさ。そこは強火じゃなくて弱火だ、とかその食器はこの棚へしまえ、だとか、風呂掃除にその洗剤は使うな、だとか。

 

良いじゃねぇか、俺の好きにやったところで、結果的には飯は作れるし食器は片付くし風呂は綺麗になるだろうが。

 

 

 

あぁ、言ってるそばから婆さんからメールが来たよ。昼ご飯ができそうだから帰って来い、だと。

 

そんなもん出来てから呼べば良いじゃねぇか。なんで出来そう、の時点で呼ぶんだよ。

 

 

あぁ、これか?これは俺がいっつもウロチョロしてるから持っとけってガキに言われたんだ。って言っても、そのガキは全く俺に連絡してこないがな。やるとしても婆さんだけだ。

 

 

…はあ?メル友になりたい?なんでお前が?

 

はあ、仲良くなった奴とは交換することにしてるってか。いつワシがお前と仲良くなったんだか。

 

…なに?俺のそっくりさんとも交換した?それなら話は別だ。お前と交換したら、そのそっくりさんとの連絡先、教えろよ。ほら、さっさとしな。

 

 

……すでに同じものが登録されてる?それは俺がお前と交換したことがあるってことか?バカ言え。

 

さっき言っただろうが。お前とワシは初対面だ。それこそ交換なんてしたことねぇよ。お前の携帯どっかおかしいんじゃねえか?

 

まあ、今日は運が悪かったってことで、携帯の調子が良い時にまた来いや。そんじゃあな。

 

 

 

 

 

 

 

 

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こんにちは。今日はとても良い天気でしたね。天気予報を聞いていたら、明日も晴れると言っていました。私としても嬉しい限りです。ほら、晴れの日だと洗濯物がよく乾くでしょう。

 

そういえばあなた、ここでは見ない人だけど、何か用事でもお有りで?

 

 

あぁ、散歩ですか。良い趣味をお持ちですね。

 

実はうちの主人もよく散歩に行くんですよ。朝と昼、毎日きっちり二回ずつです。

 

だけど少し心配していまして、あの人、ボケてしまったのか朝と昼では別人みたくなるんです。

 

朝方は凄く優しくしてくれるのだけど、昼になると途端に乱暴になってしまって……あぁ、暴力なんかしませんよ、あの人は。ただ言葉が雑になって朝の優しさは何処へやら、といった形です。

 

私は病院に行くよう何度も言っているんですが、聞き入れてくれたことがありません。

 

散歩だって、あの人は毎日一回しか行っていないと思っているんです。だけど周りの人は覚えているから、あんた今日は二回も散歩かい、なんて声をかけるわけです。

 

当然主人は一回しか行ってないと思っている訳ですから、そこで口論になる事もしばしばありました。

 

だから私、主人に伝えることにしたんです。

 

この街にはあなたのそっくりさんがいて、朝になるとその人は散歩に出かけるんだ、と。

 

そうしたら主人は納得したみたいで、そこからは大人しくなりました。

 

 

え?朝と昼、どっちの主人が好きかって?決まってるじゃないですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの人のことは、いつだって愛していますよ。

 

 

子供が産まれてからはその子たちのお世話で精一杯だったのだけれど、今はみんな自立して、家を出て行きました。

 

みんな出ていった時、やりきったという達成感よりは、もう家にあの子達はいないのか、という喪失感の方が大きかったんです。

 

そうしたらうちの主人、わたしが寂しそうにしているのを見て、家事の手助けを始めてくれたんです。

 

手つきなんか危なっかしくってね、口出ししないではおけないんですよ。でも此処はこうすると良いよ、って言うと決まって主人はムスッとするんです。ええ、朝でも、昼でも。

 

そういうのを見てたらね、昔のことを思い出しちゃって、本当、婆さんは恋をしないなんてまるっきり嘘だったんですね。

 

 

あぁ、すいません、主人からのメールです。あら珍しい。出かけてから随分経つけど迎えに行こうか?だって。夕方にこんな事を言うなんて、本当に珍しいんですよ。

 

あぁ、はい。夕方の主人は基本的には昼のままなんですが、稀に朝の時に戻るんです。どういう仕組みか分かりませんが。

 

 

…え?メル友になりたいって?

 

変な事を言う人もいるものですね。こんな婆さんとメル友になって何の得があるのだか。

 

仲良くなった人とはアドレスを交換するようにしている、と。なるほどね。それじゃあ、交換しようかしら。

 

…終わったかしら?言っておくけれど、口説こうなんて馬鹿なことはしないようにね。わたしは主人一筋なんだから。フフッ、それじゃあ、またいつか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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