僕らは今、タコみたいな先生の授業を受けている。
僕らは暗殺者、先生は標的、
この奇妙な関係とクラスにも、だんだん慣れてきた。
そして僕は、4月から入ってきた新しいクラスメートのことが気になった。
夕凪颯君、先生と同じ時期に入ってきた生徒。
今は授業を聞かずに小説を読んでいる。
先生は初めは注意していたが、言いくるめられたり色々言われて、傷ついたのか注意しづらくなっていた。
・・・先生は思いの外豆腐メンタルのようだ・・・
夕凪君がクラスの人と仲良く会話しているのを見たことない。
無愛想な訳ではなく、話せば会話してくれるし、必要なら向こうから話しかけてくる。
ただ、会話していても短く切り上げられてしまう。
昼休みや帰りには、一番に教室を出て行ってしまう。
夕凪君は、僕らとの間に、明確な壁を隔てていた。
4時間目の授業が終わると、やはり夕凪君はビニール袋を掴んで教室を出て行った。僕も昼食の支度をしていると、
「渚、ちょっと来いよ。」
「俺達とあのタコ殺す計画立てようぜ。」
寺坂君達が話しかけてきた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
やっぱ山は良いねえ〜
インドア派な俺だが、自然は嫌いじゃない。
施設にいた頃は毎日山にいたなあ、
あいつらと一緒に遊んで・・・
脳裏にあいつらの顔が思い浮かぶ。
5歳からずっと遊んできたあいつらの顔、
その顔はどんどん大人びていき、最終的には・・・
・・・止めよう、今は昼飯だ。
そう思い、森に入ろうとしたとき、ふと校舎から出てくる生徒が目に映った。
・・・あれは渚か、それと、あれは寺坂、村松、吉田か・・・
なんだか物騒な雰囲気だが、腹も減ったので、俺はいつもの河原を目指すことにした。
5時間目の授業が始まった。
5時間目は国語だ。やる気が出ない。
元々どの授業もサボっているが、教科の好き嫌いはある。
社会や理科なら聞かれたら答えるくらいはするが、国語や数学は断固としてやらん。
古文とかなんだよ。あんなものは我が国の言葉ではない。
今日は短歌を作る授業のようだ。
「お題に沿って短歌を作ってみましょう。
ラスト7文字を"触手なりけり"で締めて下さい。」
なんだよ"触手なりけり"って・・・
平安時代の宮廷に触手が生えていたらカオス以外の何物でもないだろう。
「出来た者から今日は帰ってよし!」
・・・なん・・・だと・・・・
くそっ、授業なんて受けたくないのに、終わらなければ昨日入れたソシャゲのレベリングが出来ない・・・
俺は大人しく課題をすることにした。
タコがしてやったみたいな顔をしてやがる。殺してやりたい・・・
「先生しつもーん。」
「・・?何ですか茅野さん。」
「今更だけどさあ、先生の名前なんて言うの?」
「名前ですか。名乗るような名前はありませんねぇ。
なんなら皆さんでつけて下さい。
今は課題に集中ですよ。」
「はーい。」
名前かあ、そういえばなかったな。
タコで良いんじゃね?俺そう呼んでるし。
ガタッ
そんなことを考えていると、渚が立ち上がった。
もう出来たのかよ!と一瞬思ったが、渚がナイフを隠し持っていることに気づいた。
・・・やる気か?ただナイフ振るだけじゃ敵わないぞ?
ビュッ!!
渚がナイフを振るが、受け止められてしまう。
「・・言ったでしょう。もっと工夫をしま・・・!」
その直後
バァァァン!!!!
・・! 何が起きた!?
いきなり爆発して対先生弾が飛び散った、あの威力は火薬を使ってあるな・・・
タコが黒焦げになっている。
殺せたかもしれないが、今はそれより・・・
「ッしゃあ!やったぜ!!」
「・・寺坂、てめぇらがやったのか?」
「何だよ夕凪、怖い顔して、あのタコ殺せたんだぜ!」
「馬鹿野朗!!渚を何だと思ってんだ!あれじゃあただじゃ済まねぇことぐらい分かるだろ!!」
「うるせえよ!!タコ殺せたんだから万々歳だろうがよ!!それに死ぬような威力じゃねーよ!!」
「っっ!だからって・・」
「なぁに、百億で治療費ぐらい払ってやらァ・・・!」
寺坂が驚いているので見てみると、渚が変な膜に覆われていた。
「実は先生、月に一度ほど脱皮をします。」
声がした天井を見ると、先生が張り付いていて・・・
・・・その顔は、真っ黒だった。
「寺坂、吉田、村松、首謀者は君らだな。」
そう言って、先生は一瞬で教室を出ていき、すぐに戻ってきた。
その手には、全員分あるだろう家の表札を抱えていた。
「・・次また今のような方法で暗殺に来たら、君たち以外には何をするか分かりませんよ。」
「なっ何なんだよ!」
寺坂が叫び出した。目には涙を溜めている。
まあ、こんなの恐怖以外の何物でもないだろう。
「迷惑なんだよぉ!!
迷惑な奴に迷惑な殺し方して何が悪いんだよぉ!!」
「迷惑?とんでもない。君たちのアイデア自体はすごく良かった。」
先生はいきなり顔を丸に変えた。本当どうなってんだ?
「特に渚君、君の体運びは百点です。
ただし、寺坂君達は渚君を、渚君は自分を大切にしなかった。
そんな生徒に暗殺する資格はありません。」
今度はバツに変えた。何でもアリだよな。
「人に胸を張れる暗殺をしましょう。
君たち全員それができる有能な暗殺者だ。」
暗殺対象にしてもらった暗殺の授業。
妙なものだが、悪いものじゃなかったな。
「・・さて問題です渚君。
先生は三月に地球を爆破します。
それが嫌なら君達はどうしますか?」
そう言われた渚は、さっきまでより良い顔で答えた。
「・・その前に、先生を殺します。」
「ならば殺ってみなさい。
殺せた者から今日は帰ってよし!!」
・・・は?何いってんのこのタコ?
「殺せない先生・・・あ、名前。
"殺せんせー"は?」
茅野によってこのタコには殺せんせーという名前がついた。
この奇妙な教室は、明日も、当分変わらないんだろう。
・・・帰れねぇ・・・
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ヌルフフフ・・・皆さんよく書けてますねぇ。」
殺せんせーは今生徒たちの短歌を採点している。
結局あの後殺すことなどできず、課題の短歌は回収して皆帰ったのだった。
「神崎さんは上手く書けてますねぇ、流石です。
奥田さんはもっと頑張りましょう・・
・・・これは?」
そこには・・・・
"クソ野朗 ゲームの時間が なくなった
下衆な犯人は 触手なりけり"
「・・・彼は相変わらずですねぇ・・
国語力も残念ですし・・・」
そう言って殺せんせーは颯の短歌をマッハで採点した。
「しかし、今日は彼の本当の部分を見れた気がしますねぇ・・・
少し調べて見ますか・・・」
そう言って殺せんせーはパソコンをいじり始める。
「変われると良いですねぇ・・・」