これからもこのようなことがあると思いますが、見て下さると嬉しいです。
梅雨が明け、蒸し暑いある日の朝
「・・・やべ、寝過ごした」
時刻は11時。うん、朝ではないな。
とんでもなく遅れてしまった俺は、慌てて支度をする・・・わけでもなく、いつもの早さで着替えをして、家を出た。
思い出されるのは昨日の出来事、紫苑に言われた一言は、俺の心の奥底に突き刺さった。
二人の死は、俺の所為じゃない。だけど、俺がいなければ二人は今でも・・
・・とにかく、今は走って学校に向かう気力はなかった。このペースなら着くのは昼休み中だろう。殺せんせーには悪いが、午前の授業はサボらせてもらおう。
コンビニで買った昼飯を入れたビニール袋を掴み、俺は山の上の旧校舎を目指すのだった。
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教室のドアを開けると、皆で何か話しているようだった。
「どうしたん「夕凪君!!どうしたんですかこんな遅くに登校して!!」
殺せんせーが俺の手を掴んでブンブン振ってきた。やめろよもげちゃうだろ。
「ちょっと寝坊しちゃったんだよ」
「良かった、先生君が非行に走ってしまったのかと心配で心配で・・・」
「・・・悪かったな、殺せんせー」
「あれ?先生てっきり、『うるせぇチキンタコ!』って罵られるかと思いました。らしくないですねぇ、どうかしましたか?」
ひでぇ、俺そんな奴だと思われてたの?
「ちょっと、色々あってな・・・」
「そうですか・・・何かあったら先生に言って下さい」
「分かったよ・・・で、何やってたんだ?」
「そうでした、球技大会の話をしていたんです」
ああ、あれか。確かE組は野球部と対決するんだって。ホントここの奴E組虐めが好きなのな。
「それで作戦会議ってことか」
「E組で頼れんのは杉野だろうけど、何か勝つ秘策ねーの?」
前原は杉野に聞いたが杉野は俯きながら答えた。
「・・・無理だよ。最低でも3年間野球やってたあいつ等と、ほとんどが未経験の俺等。勝つどころか勝負にならねー」
自嘲気味に言う杉野。確か、うちの野球部は何度か賞を取っていたはずだ。それぐらいの強豪とど素人の俺達が戦ったって、結果は俺にだって分かる。
しかし、杉野は真剣な顔になり言う。
「だけどさ・・・殺せんせー。だけど勝ちたいんだ、善戦じゃなく勝ちたい!好きな野球で負けたくない野球部追い出されてE組に来て、むしろその思いが強くなった!皆とチームを組んで勝ちたい!!」
はっきり言う杉野の顔には、さっきの自嘲気味な感じは見られない。やる気に満ち溢れていた。
「まぁでも、無理かな・・・」
見ると、バットやらグローブやら野球盤やらいろんなものを持った顔が野球ボールの殺せんせーがいた。やりたかったんだな。
「最近の君達は目的意識をはっきり口にするようになりました。殺りたい、勝ちたい。どんな困難な目標に対しても揺るがずに。その心意気に応えて、殺監督が作戦とトレーニングを授けましょう!!」
おおー!と、男子達の声が上がる。
そんな雰囲気の中、俺だけ気持ちが上がらないでいた。
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5時間目は訓練だった。烏間先生が出張だったので、各自自主練となった。
多くの生徒がナイフを振るう中、俺は射撃場に向かった。何故かは分からないが、今日はナイフを上手く振れる自信がない。
射撃場には、千葉と速水がいた。射撃上位の二人は、今も集中して的を狙っている。
中距離用の的の前に着き、ハンドガンを構える。俺はどちらかというと、長距離からの狙撃よりも、中距離からの射撃の方が得意だ。動く的も中々当てる自信がある。速水と似たような感じだ。
前に千葉に教えてもらった構え方をする。そしてそのまま、引き金を引く。
「・・・あれ?」
俺の撃った弾は、的の端の方に当たった。おかしいな、いつもはもっと真ん中に当たるんだが・・・
そう思いながら、もう一度撃つ。
「・・・・あれ?」
今度は的にすら当たらなかった。
その後何度も撃ってみるが、ほとんどが的の中心から大きく外れていた。
最後に撃った弾が彼方へすっ飛んで行った。結果は酷いものだ。
「あれれー?おっかしいぞー??」
「下手すぎるでしょ!?」
某少年探偵の真似をして言った俺に、速水が叫ぶ。だって当たらないんだもん。
すると速水はため息を吐いていった。
「アンタ、この前の射撃テストじゃそんなに下手じゃなかったじゃない・・・なんかあったの?」
ハンドガンを下ろして言う彼女のストレートな言葉に、思わず苦笑する。
「まぁ、色々あってな。できればその話はあまりしたく無いんだが」
「・・ふぅん、まぁ無理に聞こうとなんてしないわよ」
「あれ?てっきり俺は『誰がアンタの話を聞きたいなんて言ったのよ!』とか言ってくるのかと・・・」
速水がツンデレじゃない・・だと?
「なっ、何よ人が心配してあげてるのに!大体いつも本読んでニヤニヤしてるのに今日だけ落ち込んだ顔してるから気味悪いと思っただけよ!いつもは気持ち悪いけど!!」
「なっ、なんだよ気持ち悪いって!しょうがないだろ面白いんだから!読んだことない奴にんな事言われたくない!」
ぎゃあぎゃあわあわあ
それを見た千葉が、溜め息を吐いてライフル型エアガンを下ろす。どうやら集中力を削がれたらしい。
「どうせ女の子のアレなシーン見てニヤニヤしてんでしょ!この変態!」
「そ、そんなんやないわ!キャラの掛け合いで面白いとこがあったんだよ!勝手に決め付けるのは良くない!!」
話の方向は斜め上にすっ飛んでいた。
がるるるるるるる
お互い顔を睨み合う。
俺は歯を見せて睨んでくる可愛い顔を認識して、思わず・・・
「「・・・・プッ」」
吹き出してしまった。それは速水も同じようで、二人して声を上げて笑った。
「・・どうしたんだ?喧嘩してると思ったらいきなり笑いだして」
「だ、だって、歯剥き出しにして怒ってるんだもん・・フフッ・・小学生みたい・・ハハハッ」
「それはお互い様じゃねぇか・・・ハハハッ」
「どっちもどっちだよ」
そう言い、千葉も笑った。こうやって笑い合っていると、自然と嫌な事も忘れられる。
「あーあ、もう悩みとかどうでもよくなっちゃったな」
もちろん、この問題は俺にとって重要なことだ。紫苑とも決着をつけなければならなくなるだろう。でも、今このことで悩むのは野暮だ。そんな気がした。
「それならよかった」
「全く、早くいつもみたいに戻りなさいよね」
二人とも、俺の今朝からの様子を見て心配してくれていたようだ。もしかしたら、他の皆にも。
よし、いつもの夕凪颯に戻ろう。ラノベを読んでニヤニヤしてる俺に。やべ、自分で言うと悲しい。
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「試合終了!3対1で、トーナメント野球3年はA組が優勝です!!」
トーナメント大会が終わり、いよいよE組の出番だ。他のクラスの奴らも、俺達がボコされるのを今か今かと待っている。
「おい夕凪、アップくらいしとかないとヤバいぞ?」
「・・いや、今は休ませてぇ」
「お、おう・・・」
俺は杉野に対して、間の伸びた返事しか出来なかった。そんな俺は、ベンチで思いっきりぐだっている。
何故かというと、腰がヤバい。あと腕とか。俺は何故大事な試合前にこんな使えない物体になってしまったのか。それは、すべてあのタコの所為だ。
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「はあぁぁぁっ、疲れた〜っ」
殺せんせーのトレーニングが終わり、俺達は帰りの支度をしていた。
「殺せんせーって、体育だけ容赦ないよね」
「全くだよ、俺達はマッハで動けるわけじゃねぇっての・・・ん?」
ふと殺せんせーの方を見ると、自分で投げたボールを自分で取っていた。最初投げてた300kmくらいの球だ。一人キャッチボールですね分かります。
・・・なんだか、猛烈に嫌な予感がする。
なんか、分からんけど、とにかくここに居たらヤバい。
「渚、もう帰ろう。なんか嫌な予感がする」
「え?それってどういう・・」
「いいから早く・・・」
おもむろに鞄を掴み、渚を急かす。教室を出ようとドアを開けると・・・
「さあ夕凪君。特訓を始めましょう!」
ドアの外に、奴が立っていた。
・・・・・・・・・・・
「逃ぃげるんだよおぉぉぉお!!」
「ちょ、待ってください!!」
待てと言われて待つ奴がいるか馬鹿!
俺は全力で逃げた。が、しかしあの怪物に勝てるわけもなく、俺は触手に絡め取られてしまった。
「離せ18禁!!」
「酷い呼び名ですねぇ・・・君にはもう一段階ステップアップしてもらいます」
「なんでだよ!十分出来てたしいいだろ!」
「君が練習すればスイングして当てる事ぐらい出来ます。さぁ、行きましょう!」
「いぃぃやぁぁだぁぁぁあ!!」
悲痛の叫びも虚しく、俺は触手に連行されたのだった。
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「その後は夜までバット振り続けて手とか腰とか痛くなるしてか夜まで学校いちゃダメだろ下校時間くらい守れよエセ教師てか千本ノックとか何だよアホアホの人だけだと思ってたよマジ死ぬよ脳までヌルヌルかよ……」ブツブツ
「お、おう、ちょっと休んでてくれ………」
呪詛を放ち続ける颯を置いておいて、杉野達は準備運動を続ける。
「そーいや殺監督は?指揮すんじゃなかったけ?」
「あそこだよ。烏間先生に目立つなって言われてるから……」
菅谷の問いに渚は指を指して答えていた。
そこには、無数のボールが転がっており、その中に殺せんせーが混ざっていた。
「遠近法でボールにまぎれてる。顔色とかでサインが出すんだって」
本当に何でもアリだな。こんな人いるのに遠近法もクソも無いはずなのに。
そんな中、殺せんせーの顔の色が3段階に変わっており渚がその意味を調べていた。
「えーと、青緑→紫→黄土色だから……殺す気で勝てってさ」
渚の言葉に皆は表情を緩ませていた。
「確かに俺等にはもっとデカイ目標がいるんだ。奴等程度に勝てなきゃ殺せんせーは殺せないな…………よっしゃ殺るか!!」
「「「「おう!!」」」」
磯貝が声をかけると、皆はそれに応え試合に向かった。
暗殺という目標が繋ぐ絆か、素晴らしい!この調子で頑張れ!
「おーい夕凪、試合始まるぞ?」
……行かなきゃダメですかね?
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「やだやだ、どアウェイで学校のスター相手に先頭打者かよ」
そうぼやくと、木村はバッターボックスに入り構えた。
審判の合図と同時に、進藤はど真中にストレートを投げ込んだ。ストライクだ。
しかし、木村はいちいちウザい荒木の実況も気にせず、殺監督の指示を見ていた。
(……りょーかい)
指示を理解した木村はヘルメットを弄る仕草をし、バットを構え直した。
進藤は同じようにストレートを投げるが……
「……何っ!?」
木村はバンドで、ボールをピッチャーとファーストの付近に転がした。内野では誰が捕るかで迷ってるなか、E組1の木村は素早く走り一塁に着いた。
「チッ、小賢しい……」
「気にすんな。いかにも素人の考える事だ。警戒しとけばバントなんてまずさせねぇ」
予想外の攻撃を受け、進藤は苛つくなか仲間がフォローに入っていた。
しかし、次のバッターの渚もバントをしており、今度は三塁線に強く当てて前に出てきたサードの脇を抜けていった。
ノーアウト1、2塁とE組有利な状況になってるなか観戦していた人達からはざわざわと落ち着かない状態になっている。そりゃそうだろう。E組がバンドとはいえ、あの進藤の球を打ち返しているのだから。
続く磯貝もバンドを打ち、これで満塁となった。そして続くのは……
「……杉野っ」
進藤が呟く。杉野は始めからバンドの構えを取る。その目は、確実に標的を射抜く、暗殺者の目だった。
弱くても……いや、弱いからこそ、俺達は勝つ。E組のやり方で。
杉野の振ったバットは見事ボールを捉えたのだった。
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「やったな、杉野」
「おう!」
くたばった状態でハイタッチを交わす。他の皆も歓声を上げていた。ひょっとしたらこのまま勝てるんじゃないか、皆の中でそんな考えが浮かんできた。
しかし……
「審判タイムを」
突如、審判にタイムを求めたのは……
「監督が倒れたので私が指揮をとりましょう」
………おいおい、一回表とか出てくるの早すぎるだろが完璧超人。
理事長の乱入によって、試合はまだまだ荒れるのだった。
なんか……速水さんのフラグが立ちそう……
あくまでヒロインは不破さんです。
スナイパーコンビとは仲が良い颯君です。