「ああ、だりぃ………」
時刻は朝の7時半。登校途中だ。
いつもの道を通りながら、俺は気だるげにそう言った。
「おはようございます!夕凪さん!」
すると、どこからか女の子の声が俺の名前を呼んだ。ヤベェ、二次元にハマり過ぎて遂に二次元娘の幻覚が………
しかしそれは違うようで、その声は俺のポケットの中から聞こえてくるようだ。
ポケットの中のスマホを取り出すと………
「律!?何でこんなとこに?」
「皆さんとの情報共有を円滑にする為に、全員の携帯に私の端末をダウンロードしてみました。モバイル律とお呼び下さい!」
お、おう……お前は大概何でもアリだな………
ん?発狂しないのか?ばっか、いつもあんなんじゃねぇよ。あの時は、人間と二次元娘が出会ったことに感動したんだよ。
「これからはこんな風に皆さんと話したいので、気軽に呼んで下さいね!」
「おう、何ならずっと居てくれ」
まぁ、律が可愛いことには変わりないのだがな!律マジ天使。
「それで、そんな溜め息ついてどうしたんですか?」
「ああ……学校ってなんで行かなくちゃいけないんだろうな……」
「義務教育だからです」
「マジレスしないで……」
「でも夕凪さんだって、皆さんと一緒だと楽しそうじゃないですか」
「……まぁ、そりゃな。それが無かったら、今頃引きこもりになってたかもな」
「それなら、学校に行く意味あったじゃないですか」
「………そうだな」
なんか、寝不足で思わず呟いただけなのに、深い話になってしまった……
本当の原因は鷹岡だ。さっきの返しは……まぁ、全国の学生諸君の言葉を代弁したまでだ。
今日の4時間目に体育の授業がある。おそらく、鷹岡が受け持つことになるだろう。
流石に中学生相手だ。よっぽどイカれてなきゃ危険はないはずだが……
「そうだ。律、ハッキングとかできるか?」
「できますよ。国家機密レベルでも、おそらくは」
うそん、有能過ぎる。てか国家機密て重犯罪レベルなんじゃ……
「まぁいいや……律、一つ頼まれてくれないか?」
「はい、なんでしょう?」
まぁ、念には念を押した方がいいだろう。
「鷹岡について、調べてほしいんだ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
3時間目の授業が終わり、皆はそれぞれ体育の準備をしている。
「あれ?夕凪君着替えないの?」
「ん?ああ、ちょっと体調悪くてな。もう先生には言ってある」
「そうなんだ。お大事にね」
「おう」
あまり確証のない話なので、話すことは無かった。先生にも報告済みだ。これで俺が休んでいても、問題ないだろう。
「………渚」
「ん?何?」
「……気をつけておいた方がいいぞ」
「……えーと……何が?」
「いや……いいんだ、忘れてくれ」
「う、うん」
そう言って、皆についていった。
……本当に、何もなければいいんだがな……
「夕凪さん、さっき頼まれたデータですが……」
「ああ、出来たのか?」
「はい。夕凪さんが学校に着く頃には」
うそん、有能過ぎる。てか、こんな簡単にハッキングされるとか日本政府大丈夫かよ……
「そ、それで、どうだったんだ?」
「今、ファイルをそちらに送ります」
律がそう言うと、俺のポケットの中のスマホが震えた。
送られたファイルを開き、中を見てみる。中には、防衛省で働く人達の実績記録が載っていた。
俺はその中から、鷹岡の名前を探す………あった。これで、鷹岡の過去の記録が調べられる。
現在は防衛省の特務部に所属している。どうやら、教官として優れているらしく、その能力はかなり高いようだ。なるほど、これなら烏間先生の補佐として殺せんせー暗殺のサポートをする役に選ばれるわけだ。
やはり、俺の思い過ごしだったのか。そう思いながら、念のために添付されていた画像ファイルを開く。
そこには、四人の訓練兵らしき人達と鷹岡が笑って写っている。どうやら、鷹岡が育てた軍人らしい。俺は何気なく次の画像を開く。
「………!!、これは……」
そこには、背中が鞭のようなもので打たれた傷だらけで、手を後ろで縛られたさっきの四人の姿があった。そこには一緒に、鷹岡が変わらず笑顔で写っていた。
こんなに傷だらけなのに、何も変わらず。
俺は急いで、窓の外を見た。そこでは、前原が渡されたのであろうプリントを持って抗議していた。ここからだと声は聞こえないが、大方鷹岡が無茶な訓練をやらせようとしたのだろう。
そして次の瞬間………
「んなッ!!?」
鷹岡が、前原の腹に向かって膝蹴りを食らわせたのだ。
ヤバい、アイツをあのままにして置いたら、間違いなく無茶苦茶にされる。アイツは、暴力とかそういうのを平気でやれる、そういう人種だ。
俺は急いで教室を飛び出し、廊下を走って制服のままで外に出た。
外では鷹岡が、今度は神崎さんに寄って、何やら脅しているようだった。そして………思いっきりビンタをしたのだった。
華奢な体は吹っ飛び、地面に倒れた。
「っ、アイツ!!」
俺は急いで、皆の元に駆け寄った。
「大丈夫か?神崎さん、前原も……」
「夕凪……君、大丈夫……」
「お……おう、へーきだ……」
俺の問いに、二人は切れ切れの声で答えた。やはり、まだ痛むようだった。
「やめろ!鷹岡!!」
「ちゃんと手加減してるさ、烏間。大事な俺の家族だ。当然だろ?」
烏間先生の怒鳴り声に、鷹岡はさも当たり前だと言うように答えた。
「手加減してるからって、こんなやり方が許されると思ってんのか?ふざけんなよてめぇ!」
「ん?お前は体調不良じゃなかったのか?仮病とはダメだなぁ。お仕置きしなきゃ……なっ!!」
そう言って、鷹岡が殴りかかってきた。それを俺は紙一重で避け、鷹岡の腹に膝蹴りを入れた。
無理な体勢からの攻撃だったが、予想してなかったのか、少し退け反らせるくらいは出来た。
「……反射神経は良いようだな……だが、俺はお前の父親だ。逆らっちゃいけないんだよ。だからおとなしく……」
「うるせェよ!!ごたごた言ってねぇでかかってこい!」
こうして、二人の戦闘は始まった。
先手は鷹岡、放った中段蹴りを、俺はステップを使って躱す。その後、二発パンチが飛んで来たが、それも体を捻らせて躱した。
「中々すばしこいな……だが、逃げてるばかりじゃあ俺は倒せないぜ?」
「うるせェ肉ダルマ」
俺の挑発にイラっときたのか、少し攻撃に力が入った。まともに食らったらひとたまりもないだろうが、逆に隙を大きくすることもできた。
鷹岡は積極的に殴りにくる。体格の割に速くて厄介だが、見切れないほどじゃない。
鷹岡がストレートを放った後、蹴りを放ってきた。俺は斜め前にステップして、躱しつつ接近した。
「はあぁぁッ!!」
叫びながら、拳を鳩尾に叩き込む。
俺は、別にケンカが強いわけじゃない。訓練のおかげである程度の筋力はあるが、腐っても精鋭軍人のコイツには歯が立たないだろう。
だから、躱す。躱すことに専念して、ベストのタイミングで急所に攻撃を叩き込む。これで、かなりのダメージを与えられるだろう。そう思っていた。しかし………
「おいおい、手加減してるのか?」
嘘だろ!?微動だにしねぇのかよ!
そのまま鷹岡は、腕を思いっきり振って俺を飛ばした。
「ガハッ!!?」
「柔い拳だな。さっきまでの威勢はどうしたんだ?ああ?」
確かに急所を捉えたはずだ。なのに、全くダメージを受けてない。
思ったよりずっと、実力の差がそこにはあった。
「はぁ、家族亡くして不良化か。哀しいやつだなオマエは」
そう言われた瞬間、呼吸が止まりそうになった。
「……何……言って……」
「知ってるぜ?オマエの両親、オマエが5歳のときに殺されたんだってなぁ」
心底楽しそうに言う鷹岡に、とてつもない殺意が湧く。
「オマエらの情報は全部調べた。オマエみたいなやつがいた時の為になぁ。他のやつに目ぼしい情報は無かったが、オマエの過去にはわんさかあったぜ」
鷹岡はそう続ける。倒れたまま、周りを見渡す。皆初耳だったから、驚きと戸惑いの目で俺を見ていた。
怖い、そう思った。この関係が、このまま崩れてしまいそうで、怖い。だから俺は、ずっと皆に隠していたんだ。
「両親死んでからは、よく分からん孤児院入れられ、小6の時にこんどは友達が2人死んでる。死神か疫病神なんじゃないのかオマエ」
鷹岡に言い返したいのに、体が悲鳴を上げる。それが、どうしようもなく悔しい。
「それでショックで中1から不良化した……くだらないなぁ。そんなに友達死んじゃったのが辛かったのかなぁ。どうせそいつらも孤児じゃないか。いわば消耗品だ。生きててもロクな人生歩みはしなかったよ」
………なんだと?
今、コイツは何て言った?二人に……朋樹と此衣に、何て言った?
「そんな奴らのことをいつまでもひきずってないで、現実を見たらどうだ?」
俺の中でコイツが確定した。最底辺のクズ野郎だ。生かしておくのも許せないレベル。
俺はその瞬間、周りが全く見えなくなった。すべてが目の前の敵に集中する。
「俺の訓練についてこれれば、一年で屈強な兵士になれる。クラス全員がそうなれれば、超生物だって殺せるだろう」
もしかしたら、この挑発も鷹岡の作戦かもしれない。怒り狂う俺を完膚なきまでに倒して、見せしめにするためなのかもしれない。
「だからそんなやつらのこと、忘れちまえ。ひきずっていても良いことなんてない」
だけど、手のひらの上だったとしても、どうでも良いと思った。
俺はただ、コイツが憎い。
「俺についてきて、一緒に100億取れば、一生遊ん「黙れよ」……は?」
だから、コイツをぶっ潰す。それだけの話だ。
「さっさとその腐った口閉じろォォ!!ぶっ殺すぞォ!!!!」
俺はそう叫んで立つ。さっきまでの痛みが嘘みたいに動けた。
体内でアドレナリンが生成される。コイツをぶっ潰せるだけの力が湧いてきた気がした。
両親の死を笑ったコイツが憎い。
二人の親友を侮辱したコイツが憎い。
俺の大切な物を奪おうとするコイツが……憎い!!
「おうおう怖いねぇ、まだ反抗するつもりなのか。悪い子だ」
憎しみが、俺に力を与えた。
俺は思いっきり踏み込んで、鷹岡に殴りかかった。
中々ウザい感じに書いてみましたがどうでしょう?
今見て下さっている方、これからも見て頂けると嬉しいです。これからもよろしくお願いします!
……ああ、早く鷹岡ぶっ潰したい。