再び戦いが始まる。
今度は俺が先手だった。さっきより数段速いスピードで近づき、ストレートを放つ。鷹岡はそれを腕でガードした。 鷹岡はそこから殴ろうとするが、体を低くして躱した。
そこからはさっきよりも激しい攻防が始まった。
さっきまでのような戦法はやめ、攻撃できるときには思いっきり攻撃を入れる。とにかく、目の前のクソ野郎を潰す事だけに集中する。
「まだまだ効かねぇなぁ!オラァ!!さっさと潰してみろォ!!」
だが、俺の攻撃を何度も受けても、まだまだ鷹岡から余裕が消えない。
さらに鷹岡が殴りかかる。それを、ステップや体を捻らせることで避けていく。
そして、鷹岡が俺の顔面を狙ってストレートを放った。それを、体を低くして躱す。丁度懐に入ることができたのだ。
……チャンス!!
そう思い、俺は右手を引いた。
さっきよりも重い攻撃を、さっきよりも正確に鳩尾にねじ込む。
決まった!!、そう思った。しかし……
「ガハッ!!?」
鷹岡が懐に入った俺に、膝蹴りを入れたのだ。俺は腹を抑えてうずくまり、鷹岡はそこに、思いっきり拳を下ろした。
さっきよりも数倍痛い攻撃だった。
「ゲボッ……く……そッ!……」
「これで分かったか?住んでる世界が違うんだ、勝てるわけが無いだろう」
全くその通りだが、それでも認めたく無かった。せめて、両親や二人のことを馬鹿にしたぶんだけでも、殴ってやらないと気が済まない。
「……諦められるわけ………ねぇだろッ!!」
俺は、力を振り絞って叫んだ。
それを聞いた鷹岡は、呆れた顔をして、何故かE組の皆がいるところへ向かった。
「悪い子だなぁ、オマエは本当に。そんなオマエに、父ちゃんは罰を与えるぞ」
何をするつもりだ?あの異常者のすることが、何もかも怖い。
「罰って言っても、オマエを殴るんじゃあない。オマエ自身を殴っても、どうせいつまでも反抗してくるだろうからなぁ」
そう言った鷹岡は、ある生徒に近づく。それは………不破だった。
その行動に、途轍もない危機感に襲われた。
「だから、オマエの大切な人間を痛めつける。そうすりゃ嫌でも言うこと聞くだろう。クラスの人間関係なんて知らないが………」
そう言った鷹岡は、不破の胸倉を掴んで持ち上げたのだった。
「オマエとコイツ、昨日仲良さそうだったじゃねぇか」
「!?………やめ……ろッ!」
女子の華奢な体が、簡単に持ち上がった。不破は、苦しそうに顔をしかめている。
「いいか?今からコイツが傷つくのはオマエのせいだ。オマエが逆らうから、こうせざるを得ないんだよ」
俺の……せい?不破が殴られるのは、俺のせい?
俺は、さっきまでの自分をぶん殴りたくなった。両親のため二人のためと言いながら、結局は自分の欲を満たしたいだけじゃないか。
それで、今生きてるかけがえのない人が傷ついたなんて言ったら、それこそ自分が許せない。
だが、全てはこのクソ野郎が来たからだ。コイツが全部壊そうとしている。今、この瞬間も。
「どうだぁ?自分のせいで、大切なお友達が傷つくのは……あれ?もしかして、オマエらってその先進んでるんじゃないかぁ?ハハッ、こりゃ傑作だ」
鷹岡がムカつくことを言っていても、今はどうでもいい。
すると、不破が掴まれながらこっちを見た。その顔は苦しみで辛そうだったが、一瞬俺を見て微笑んでくれた。
大丈夫だ。と伝えたいのか。本当に、ここの人達は優しい。こんな俺に対してだってそうだった。
だから、守らなくちゃならないと思った。
「……………せよ……」
「ああ?」
腕に力を入れて、体を無理矢理持ち上げる。
「俺の大切な人達から、その汚ねぇ手を離せって言ってんだよおぉぉぉぉお!!!!」
俺は、全ての力を込めて足を踏み切った。さっきよりも、ずっと、ずっと速いスピードが出た。
その全スピードを乗せた蹴りを、鷹岡に放つ。さすがに効いたようで、鷹岡は吹っ飛びはしなかったが、大きく仰け反った。その反動で、不破を放したのだった。
落ちる不破を受け止め、ゆっくり座らせる。まだ苦しいようで、不破は咳き込んでいた。
「大丈夫か?」
「ケホッ…コホッ……大丈夫。ゴメンね……気をつけろって、言ってくれてたのに……」
「んなこと気にすんなよ。俺こそ、こんな事になってゴメンな……」
とにかく、大丈夫なようだ。守れて良かった、そう思えた。
「このクソガキが……」
すると、背後からそんな声が聞こえた。振り向くと、鷹岡が近づいてくる。
「今のは効いたぜ?そんな沢山反抗して、そんなに殴られたいのか?ああ?」
そう言って、鷹岡が殴りかかってきた。今度こそヤバい、そう思った。しかし……
「それ以上……生徒達に手荒くするな。暴れたいなら俺が相手を務めてやる」
烏間先生が、鷹岡の腕を掴んだのだ。
………かっけェ!!
「すまないな、もっと早く止めるべきだと思ったのだが………」
そう言いながら、烏間先生は殺せんせーを見やる。そうか、殺せんせーが止めてくれたのか。
「本当に危なくなるなら止めましたが……鷹岡先生に否定されたまま、君は諦めなかったでしょう。鷹岡先生を自分自身で否定するまでは」
全くその通りだ。端からみたらただ見殺しにしているようだが、途中で止められていたら、俺はやりきれなくなっていただろう。
「ですが、もう君は休んでいなさい。皆さんも聞きたいことはあるでしょうが、もう君はボロボロなはずです」
言われて思い出した。さっきまでボコボコにされていたんだ。
「やべ……なんか急に眠くなってきた………」
「え?ちょっ……!?」
そのまま、不破の体に倒れ込んでしまった。今は、これでいいや。
あとは、皆に任せることにしよう。
俺は、襲いかかる睡魔に身を任せたのだった。
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「私は夕凪君を保健室に連れて行きます」
そう言って、殺せんせーは夕凪君を抱き抱えた。夕凪君のために、マッハで飛んで行きはしなかった。
「全く、これは暴力じゃない。教育なんだ」
そう言って、鷹岡先生は烏間先生の手を振り払った。
「俺の教えに反対だというなら、ここは1つ教師として対決しないか?お前らも俺を認めないんだろう?
そこでだ、烏間………」
そう言って、鷹岡先生は対殺せんせーナイフを取り出した。
「お前が育てたこいつらの中でイチオシの生徒を選べ。そいつが俺と戦い一度でもナイフを当てたら…………お前の教育は俺より優れていたと認めよう。その時はお前に訓練を全部任せて出てってやる!」
そう言って、胸を叩く。
この提案に、皆が顔を輝かせる。杉野や木村君はやる気になっているようだ。
「ただし、もちろん俺が勝てばその後、一切口出しはさせない。…………あぁ、それと言い忘れていたが使うナイフは勿論………」
そう言って出したものは………本物!?
「殺す相手が俺なんだ使う刃物は本物じゃ無くちゃなぁ」
鷹岡先生はそう言うと、ナイフを生徒達の足元に投げ刺した。
本物と聞いて、皆からは戸惑っていた。てっきり対殺せんせー用のナイフを使うものだと思っていた。
「よせ!!彼等は人間を殺す訓練も用意もしていない!!本物を持っても体がすくんで刺せやしないぞ!」
「もしかしたら、さっきの奴だったら喜んで刺しに来たかもなぁ。しかし今はくたばってる…………安心しな。寸止めでも当たったことにしてやるよ。俺は素手だしこれ以上無いハンデだろ?」
鷹岡先生は、余裕の声でそう言う。きっと、素手対ナイフでも絶対勝つ自信があるのだろう。それは、皆もさっきの戦いを見てわかったことだった。
「さぁ、烏間!早く1人選べ!!嫌なら無条件で俺に服従だ!!生徒を見捨てるか生け贄として差し出すか……どっちみち酷い教師だなお前は!!」
鷹岡先生はそう言い、笑った。
その姿を見て、皆鷹岡先生に恐怖していたのだった。
烏間先生は悩んでいた。それはそうだ。中学生に本物のナイフを持たせて戦わせるなんて、正気の沙汰じゃない。
しかし決心したのか、烏間先生は歩き始めた。そして近づいた生徒は……
「渚君、やる気はあるか?」
……なんで……僕なんだ……?
僕よりも強い人は沢山いるのに、磯貝君や前原君、杉野じゃなくて、なんで僕なんだろう。
「選ばなくてはならないなら恐らく君だが、返事の前に俺の考えを聞いて欲しい」
そう言うと、烏間先生は僕ら全員に向き合った。
「地球を救う暗殺任務を依頼した側として俺は君達とはプロ同士だと思っている。プロとして君達に払うべき最低限の報酬は、当たり前の中学生活を保証することだと思っている」
そう言って、また僕に向き直る。その目は、とても真っ直ぐに僕を見ていた。
「だから、このナイフは無理に受け取る必要はない。そのときは俺が鷹岡に頼んで報酬を維持してもらうように努力しよう」
僕はこの人の目が好きだ。こんなに真っ直ぐ目を見て話してくれる人は、家族にもいない。
正直、なんで僕なのかは分からない。けど、この人のナイフなら信頼できる。それに、神崎さんや前原君、夕凪君のこと、せめて一発返さなきゃ気が済まない。
『俺の大切な人達から、その汚ねぇ手を離せって言ってんだよおぉぉぉぉお!!!!』
ふと、夕凪君の言葉が思い出される。
夕凪君は、"大切な人達"って言った。"大切な人"じゃなくて。それを聞いた時、なんだか嬉しくなった。
夕凪君は、僕達が、このクラスが、本当に好きで、大切なんだ。そう思えた。だからこそ、あんなボロボロになってまで戦えたんだ。
僕も、このクラスが好きだ。とても居心地が良くて、楽しくて、可笑しくて、暖かくて……
だから、僕もそれを守る為に戦おう。
「やります」
僕はナイフを受け取り、鷹岡先生と向き合う。
「オマエの目も曇ったなァ烏間、よりによってそんなチビを選ぶとは」
うっ、返す言葉がない……しょうがないじゃないか身長伸びないんだもん。
僕は鷹岡先生の言葉を聞きながら、さっき烏間先生に言われたことを思い出した。
『いいか、鷹岡にとってこれは"戦闘"だ。見せしめの為に、自分の強さを見せつけてくるだろう。対して、君は"暗殺"だ。ただ一回、当てればいい。そこに君の勝機がある』
僕は今、本物のナイフを握っている。
「さぁ、来い!!」
烏間先生は、先手は譲ってくれると言っていた。どう動けばいいか少し悩んだが、さっきのアドバイスを思い出した。
そうだ、闘って勝たなくていい。
殺せば 勝ちなんだ
だから僕は、笑って、普通に歩いて近づいた。通学路を歩くみたいに。そうしたら、鷹岡先生に当たった。
近づけたので、思いっきりナイフを振るう。ここでようやく、鷹岡先生は気づいたみたいだ。自分が殺されかけていることに。
ギョッとして体勢を崩した鷹岡先生を、後ろに引っ張ったら転んだ。
仕留めに行く。背後から、確実に。
「捕まえた」
よかった、上手く行った。
周りを見ると、皆驚いていた。そりゃそうだろう。自分自身が一番驚いている。
「そこまで!!勝負ありですよね?烏間先生」
そう言って、殺せんせーはナイフを取り上げた。
「全く、本物のナイフを持たせるなんて正気の沙汰ではありません」
そう言って、殺せんせーはナイフをボリボリと食べた。美味しいの?それ。
皆集まって来て歓声を上げた。揉みくちゃにされていると、背後に憤慨した様子の鷹岡先生がいた。
「このガキ……父親も同然の俺に刃向かって、まぐれで勝ったのがそんなに嬉しいか?もう1回だ!!今度は絶対油断しねぇ!心も体も全部残らずへし折ってやる!」
ルールを決めたのは鷹岡先生なんだけどな……
僕はゆっくりと振り返り、冷静に口を開いた。
「……確かに次やったら絶対に僕が負けます………でもはっきりしたのは鷹岡先生、僕らの"担任"は殺せんせーで僕らの"教官"は烏間先生です。これは絶対に譲れません」
そうでなきゃ、この楽しい暗殺教室じゃなくなってしまう。
だから、次もはっきりと言った。
「父親を押し付ける鷹岡先生より、プロに徹する烏間先生の方が僕は温かく感じます。本気で僕らを強くしたのは感謝します。でもごめんなさい…………出ていって下さい」
そう言って礼をした。
「黙っ……て聞いてりゃ……ガキの分際で……大人になんて口を…………」
すると、ぷるぷると震えながら鷹岡先生はそう言った。そして、襲いかかって来たのだ。
しかし、烏間先生が顎に肘打ちを決め、鷹岡先生を地面に倒していた。
………カッコイイ!!
「俺の身内が迷惑をかけてすまなかった。後のことは心配するな。上司を銃で脅してでも、俺一人で教官を務められるよう交渉する」
それを聞いた皆の顔が明るくなった。
しかし、鷹岡先生がまだ反発している。すると突如、理事長がやって来たのだった。
「経営者として様子を見にきました。新人の先生の手腕に興味があったのでね」
そう言って、鷹岡先生に近づいた。
マズい、E組の成績を落とすために鷹岡先生を残させるかも………
「でもね、あなたの授業はつまらなかった。教育に恐怖は必要です。しかし、暴力でしかそれを与えられないなら……その教師は三流以下だ」
そう言って、理事長は何か紙に書き始めた。そしてそれを丸めると、鷹岡先生の口の中に入れた。
「解雇通知です。以後、あなたはここで教えることは出来ない。ここの教師の任命権は防衛省にはない。全て、私の支配下だという事をお忘れなく」
そう言って、理事長は去っていった。
クビにされた鷹岡先生は、悔しさのあまり解雇通知を食べだし、そのまま去っていった。美味しいの?それ。
「鷹岡……クビ……」
「てことは……今まで通り、烏間先生が」
木村君と千葉君がそう言うと、皆はそれぞれ歓声を上げた。
この場所が守れた。そう思うと、僕も嬉しくなってくる。いつの間にか、エンドのE組がこんなに暖かい所になっていた。
だけど、まだやる事がある。
「殺せんせー」
「はい、なんでしょう?」
「夕凪君のことについて、鷹岡先生が言ってたことって、本当なの?」
それが聞こえたのか、皆が一斉にこちらを向く。皆、少し気まずそうだ。
「……はい、本当です」
「僕も、夕凪君の過去のこと、知りたいんだ」
そう言って、真っ直ぐ殺せんせーを見た。
「………理由を、教えて下さい」
「夕凪君、E組に入ってからずっと、僕らとの間に壁を作ってた。それから少し経ってその壁が無くなったから、きっと夕凪君の中の何かが解決したんだと思ってた」
ちゃんと、目を見て話した。烏間先生がそうするように、僕も想いを伝える為に。
「でも違った。夕凪君は、過去の事を自力で解決するように、努力してきたんだ。そのおかげで僕らとも仲良くなったけど、本当の意味で仲間ってものになるなら、僕は夕凪君の過去を知ってそれを受け止めたい。夕凪君一人じゃなくて、皆でそれを背負いたい」
皆も集まって真剣な顔つきになる。その顔を見るに、皆賛成してくれるようだ。
「夕凪君は、おそらくこの関係が壊れるのが怖くて、ずっと黙ってたんでしょう。その覚悟はありますか?」
「半端な気持ちで聞いていいものじゃないってことは分かる………でも、夕凪君がもう一歩進んでくれるなら、僕はそれを受け止める。その覚悟はある」
「……そうだな、クラスの為に、皆の為にあんなに戦える奴なんだ。俺らも、夕凪の過去を一緒に背負いたい」
「そうだね、辛いときは皆で助け合わなくちゃ」
杉野と茅野もそう言ってくれた。
「分かりました。夕凪君が良いと言うなら、クラス全員がその気持ちなら、私は何も言いません………ですが、今は休ませてあげましょう。6時間目まで終わる頃には、きっと目覚めています」
うげっ、そういえばまだ午前だった……これから授業なのか……
周りでは、そうだったー!と頭を抱える人もいた。なんか、凄い疲れた後の授業ってやる気しないよね。
「さぁ、お昼の後は授業、その後は小テストです!」
殺せんせーの気合いの入った声と、えぇ〜!?という皆の声が、E組の山に響きわたったのだった。
いよっしゃあ!!鷹岡撃破!!
次からは過去編入ります。